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第299話 シクリッド村は大変です。

シクリッド村は、超貧しいのでした。

(5月1日です。)

  シクリッド村は、森の中にあった。大きな楡の木が目標だとシェルに教わっていた。確かに、一本だけ大きな木がある。周囲の森の木からニョッキリ飛び出していた。


  付近には、着陸できるような広場がなかったので、村から50キロ程離れたところに着陸した。飛行船は、イフクロークに収納する。


  ゲートを開き、さっき見たシクリッド村の大きな楡の木の前に転移した。その木は村の中心だったみたいで、大きな家が樹上に作られていた。


  木の影に多くの気配を感じる。木の葉に上手く隠れているが、弓を構えている者が5人ほどいる。


  樹上から、声が聞こえてきた。


  「よそ者の人間、何をしに来た。」


  「私は、シズ。母は、シロン。この村の出身だった。」


  「シロンとな。この村を出て50年も経つ。そのシロンの娘か。うん?お前は、ハーフエルフか?」


  「はい、父はドワーフでダッシュと言います。」


  「何と、ドワーフとのハーフエルフじゃと。そんなことがあるのか。」


  声の主が、樹上から降りてきた。緑色の皮の服を着た老人だった。後ろから、若い者達が付いてきたが、エルフの年齢は見ただけでは分からない。樹上では、まだ何人かが矢をつがえてゴロタ達を狙っているのが気配で分かった。まあ、射たれたところで当たることなどありえないが。


  ゴロタは、取り敢えずのプレゼントとして、高級ワインを1箱プレゼントした。途端に、態度が変わった。老人は村長で名前をシンタというそうだ。


  シズが、シロンの縁者に会いたいと言ったら、村の北の外れの方にあるらしく、村の若い者に案内して貰った。その家は、樹上ではなく、普通に地面に建っていた。


  「シロッコさん、お客さんだよ。」


  一言、声をかけてくれて、案内の若い人は戻って行った。出てきたのは、まんまシズを大人にしたような女性だった。耳がシズよりもずっと長いことを除けば。


  「シロン、シロンなの。」



  「いいえ、私は、シロンの娘で、シズと言います。」


  「シロンは、いないの?」


  「母は、私が生まれた時に亡くなりました。」


  「そう・・・」


  シロッコさんは、暗い目をしたが、すぐに思い直したように、


  「そうよね。もう50年も会ってないんだもの。死んでいたって、おかしく無いわよね。」


  ゴロタ達は、シロッコさんの家、シロンさんの実家に入って行った。


  「何も無いけど、ゆっくりして。お茶っ葉が切れているの。白湯で良いかしら。」


  何も無いと言ったが、本当に何も無かった。椅子が1脚あるだけ。テーブルも小さいのが一つ、あるだけだった。小さなかまどには、古い鍋が一つ掛けているが、調理する道具も満足になさそうだった。


  ゴロタは、キャンプセットを出し、お茶のポットとティーカップを出した。シズがお茶を入れる。砂糖とレモンスライスも出しておいた。


  シロッコさんは、ゴロタを驚いたように見ていた。


  「あなたは、魔道士なの?」


  シズが説明した。シズと結婚して、今は新婚旅行中だということ。また、ゴロタがグレーテル王国の公爵閣下で、ヘンデル帝国にも領地を持っていることなどだ。


  さらに、イースト・フォレストランド大公国のシェルナブール姫の夫であることも言った。


  「えー!あの残念姫が結婚できたの?」


  そこですか?驚くのは。


  ゴロタが、静かに聞いた。


  「ところで大分お困りのようですが、大丈夫なのですか?」


  話を聞くと、夫つまりシズのお爺さんが死んで30年、森の恵みで何とか生きて来た。しかし、女の身では現金収入もなく、生活用品も、壊れて仕舞えばそれっきり、新しく買うこともできずにいる。服は、村の人たちの着古しを貰って何とかしているが、お茶など、もうずーっと飲んでいないそうだ。


  昔は、そんな事はなかったそうだ。未亡人になっても、村の世話役が皆から集めた互助費から生活の足しにといくらか、くれていたのだが、最近、森の動物が居なくなってしまい、狩による現金収入がなくなってしまった。それで、余裕がなくなった村人からの支援が途絶えてしまったそうだ。


  ゴロタは、今日の夕飯の準備をする。まず土魔法で、かまどを新しくする。それから大きな鍋と食材を出す。鴨のもも肉とネギ、椎茸、白菜、水菜それと豆腐だ。締めにうどんだ。全て和の国の食材で揃えたが、作り方レシピはシルフが教えてくれる。今日は鶏団子鍋だ。


  シロッコさんは、何もせずに座ってダッシュさんのことを聞いている。シズも、全く手伝う素振りも見せずにシロッコさんと話し込んでいる。似た者同士だ。血の繋がりを感じる。


  出来た。テーブルの上にセットする。ポン酢とごまダレも準備する。本当は、箸で食べるのだが、シロッコさんのためにフォークも準備する。


  皆で、楽しく食べていると、村長のシンタさんが訪ねてきた。心配で見に来たのだ。シロッコさんの家では、ロクに食事もできないのでは無いかと思ったらしい。


  シンタさんも招待した。鍋は、大勢で食べた方が美味しい。日本のお酒も出してあげた。


  シンタさんは、こんなにうまい料理と酒は初めてだと言って、ガンガン飲んでいる。突然、静かになったと思ったら、テーブルに突っ伏して寝ていた。あの、エルフって皆こうなんですか?


  仕方がないので、村長を背負って、自宅まで送っていく。ゲートを使っているので、1歩跨ぐだけだ。


  村長の家の前に行ったら、村の若い衆が武装して集まっている。全部で20名位だが、半数以上は弓矢だ。残りもショートソードがほとんどだ。手には松明を持っている。事情を聞いたら、これから村の外周の警備だそうだ。得体の知れない魔物が徘徊している。今まで5人程喰われてしまったそうだ。


  ゴロタは、村長を奥さんに預けると、皆と一緒に魔物退治に行くことにした。ゴロタの装備は、ベルの剣だ。オロチの剣は、森の中では使いにくい。


  森の中に入っていく。皆は、松明を使っているが、ゴロタには必要ない。夜目が効くのだ。


  ゴロタには、魔物の位置が分かっている。左前方800m位の所だ。この気配には覚えがある。頭が鷲、身体はライオン、翼が生えている。グリフォンだ。


  グリフォンは、騎士団1個大隊以上でなければ太刀打ちできない。申し訳ないが、この人数と戦力では10分と持たないだろう。しかし、このグリフォンは狡猾だ。1度に1人しか餌食にしない。そうすれば、常に新鮮な餌を入手できるわけだ。


  「魔物がいる。左前方800m、グリフォンだ。」


  皆、驚いている。そんなに遠くの魔物を発見できたこともそうだが、その魔物がグリフォンだと言うことに恐怖以外の何も無い。皆、逃げ出そうとしている。


  「皆、逃げて。僕に任せて。」


  ゴロタは、ワザとベルの剣を赤く光らせる。若者達は、その剣を見てゴロタが只者ではないことを知った。


  取り敢えず、ゴロタを先頭にする。ゴロタはライティングを4つ程出して、周囲を明るくする。小動物や鳥達が、明るさに驚いて逃げていく。


  次に、魔物の方に向かって進み始める。皆、後からゾロゾロ付いてくる。邪魔な木の枝は、切り払っていくが、まるで葉っぱを切るようにスパスパ切れていく。


  皆は、ゴロタについて行くのに精一杯だった。ハアハア言いながら、魔物にいるポイントに到着した。


  いた。グリフォンの小型版だ。亜種だろう。大きさは5m位しかない。


  取り敢えず、思いっきり『威嚇』を掛けてみた。グリフォンは、飛び上がった。逃げようとする。ベルの剣から『斬撃』を放った。


  バシュン!


  グリフォンの翼が2枚とも切り離された。グリフォンは、決して翼の揚力で飛んでいるのではないが、翼がないと飛行の魔力が働かなくなるらしい。ドスンと落ちてしまう。


  弓矢部隊が、ここぞとばかりに、矢を射るが、全くダメージを与えられない。グリフォンは、こちらを向いて口を大きく開いた。


  不味い。やられる。そう思った瞬間、奇妙な咆哮を放って来た。音がしない。『蒼き盾』が、強く光って震えている。周りの樹木が、スパスパ切れて行く。


  何だ、あの咆哮は?


  『アレハ チョウオンパ ニンゲンニハキコエナイ キレアジ バツグン』


  ありがとう。いらん情報だが。


  このままでは、森がなくなってしまう。早く始末しなくては。


  後ろのエルフ達は、恐怖で青ざめている。あの咆哮をまともに喰らえば、良くて胴体切断、下手をするとエルフの輪切りが出来てしまう。


  ゴロタは、『ベルの剣』に『気』を込めた。赤く光る。グリフォンが、踵を返して逃げようとする。


    ズバーーーーン!!


  斬撃が、炎を纏ってグリフォンを襲う。火達磨になったグリフォンの身体から首が落ちた。


  本当は、心臓か脳味噌に火球を爆発するか氷結させて、無傷で仕留めたかったのだが、それでは、ゴロタが仕留めたことが皆には分からないので、派手目に殲滅したのだ。効果は、バツグンだった。皆は、狂喜してゴロタに感謝してくれた。グリフォンの魔石は、結構良い値段になるので、取り出して村長にプレゼントだ。死体は、焼け焦げて使い物にならないので、そのまま灰にしてしまった。


  村に帰ったら、祝宴だと言って来たが、満足な食材が無いらしい。ゴロタは、バーベキューセットを出して、本格バーベキューをご馳走してあげた。


  こんな上等の肉は初めてだと言って、喜んでくれた。当然である。和の国のマツザカ市のA5のブランド牛だ。この日、牛1頭分が彼らの胃袋に入った。

グリフォンレベルの魔物は、エルフ達にとっては、超強敵です。特に超音波攻撃は、防ぎようがありません。小型の亜種でこの強さです。

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