第292話 ザイランド王国は貧しいです。
ノエルは、新婚旅行に北の極地を希望しました。オーロラが見たかったようです。
(3月17日です。)
次の日、ゴロタ達は、ザイランド王国の首都、ミッド・ザイランド市の郊外に着陸した。深い雪を踏みしめて進んでも良いが、二人で、飛翔しながら城門前に行った。入城するためには、身分証明書や入国許可証が必要だが、ゴロタは、イフクロークから『四聖慈光大勲位日月大綬章』を取り出し、衛士の人に見せたら、最敬礼をして、入場させてくれた。衛士の方に、ゴロタ達が来たことを女王陛下には内緒にしてくれとお願いしたが、丁重に断られてしまった。内緒にしていて、ばれると処罰されるのは間違いないそうだ。
ノエルは、目立たないように普通のミニスカ姿になっている。その上に、白いミンクのロングコートを着て、帽子はチンチラの黒い帽子だ。ブーツは、馬革で、中に兎の毛が貼られている。そんなに重装備でなくても、ゴロタのシールドで温かくなるのに、雪の街中で、この格好がしたかったようだ。ノエルは、昔から着る者にはこだわりを持っていた。
ミッド・ザイランド市内を歩いてみたが、どうも活気がない。雪に覆われているだけではなく、街行く人たちも、寒そうにうなだれて歩いているのだ。商店も、雨戸が閉めている所が多い。
市内の中心、王城の真正面の最高級ホテルに入ってみる。ロビーはがらんとしている。この光景、以前、見たことがある。そう、旧ボラード市のヒルトンさんのホテルだ。そういえば、このホテルもドアマンがいなかった。
ホテルのスイートルームを頼んだ。大銀貨5枚だったが、2泊分の金貨1枚を前金で支払った。フロントに、どうしてこんなに客がいないのか聞いたら、ここ3年ばかり冷害が続き、国の経済が傾いているらしい。それで、景気が悪く、高級ホテルに泊まる客がいなくなったそうだ。ザイランド国は、他の国との交易があまりないので、自国の作物の収穫が悪いと、一気に不景気になるらしい。女王陛下も気の毒に、魔物のスタンピードが収まったら、今度は飢饉ですか。
部屋に案内される前に、レストランの方からシェフが出て来た。食材が大したものがないので、今日は外で食事をお願いできないかという事だった。食事代は、別会計なのだが、パンとスープでお金を取る訳にはいかないみたいだ。ゴロタは、厨房に行き、調理台の上に鹿肉1頭分を出してあげた。お腹周りのロースやバラ、もも肉などだ。
シェフは驚いていたが、物凄く喜んでくれた。鹿1頭分の代価を払おうとしたが、ゴロタの食べるものだからと代価は断った。また、残った食材は、自由に処分してくれるように頼んだ。
部屋は、最上階の5階で、窓からは王城の城門が見えた。30平方m位の部屋が二つ並んでおり、1つは寝室、もう1つはリビングになっている。お風呂は、金属製のバスタブで、水しか出なかった。それでも、水が出るだけましなのだろう。お風呂は食事の後に入ることにした。
食事は、普通に美味しかった。スパイスが少し足りない気がしたが、きっと品不足なのだろう。しかし、シェフの心づくしが感じられる温かい料理だった。食後、チップをはずんで、銀貨1枚を置いて行った。
夜、ノエルとたっぷり楽しんだ後、柔らかく温かいベッドでぐっすり眠った。翌朝、朝食をとっていると、虎人の将校と、人間の執事のような方が、ゴロタ達を訪ねて来た。ザイランド女王陛下が是非お会いしたいと伝えて来た。まだ、市内観光もしていないので、午後お伺いすると言った。
ホテルを出てから、市内をブラブラしてみた。武器屋を覗いたところ、変わった剣があった。真っすぐな両刃のショートソードだが、異様に重いのだ。切れ味は良さそうだった。しかし、剣の素材が分からなかった。ここはシルフに聞いてみることにした。
『コノケンハ タングステンコウデ デキテイマス。コウドハ9デス。オモサハ テツノ2,5バイデス。』
タングステンと言う鉱物は知らないが、かなり固そうなことは分かった。この鋼材は、グレーテル王国には無いので、かなり良い値段で取引されるだろう。
ゴロタは、剣を1振り、それとタングステン鋼を鏃にしている矢を100本買った。
次に宝石店を覗いてみる。目を引いたのは、エメラルドの指輪だ。大きい。その割に値段が安い。北の鉱山で取れるらしいのだが、買い手が無いので値崩れしているらしい。
ゴロタは、大きめの石の指輪を14個買った。1個、金貨2枚程度なので王都のティファサンの半値以下だ。全部で、大金貨2枚と金貨2枚だった。
昼食は、カニパスタとサーモンパスタにした。北の海の魚介類が旨いので有名らしい。
少しパスタが茹で過ぎの気がしたが、ノエルはちょうど良いと言っていた。その後、王城に向かうことにした。
王城では、直ぐに女王陛下の執務室に案内された。ノエルが、コートと帽子を執事に預けたが、あまりの軽さと毛並みの良さに吃驚されていた。
メアリー・コンダニア・ザイランド女王陛下とは久しぶりだったが、相変わらず綺麗な人だった。
ゴロタが、グレーテル王国とヘンデル帝国内で領地を広げていることは既に知られていた。その関係で、ぜひ交易をしたいそうだ。
交易品は、タングステン鋼と石炭それに北の魚介類だそうだ。価格は、グレーテル王国との流通価格の半値だ。タングステン鋼は1キロ大銅貨1枚半だそうだ。
しかし、その価格では、王国分の取り分は大した額にはならないだろう。宰相に、現在の王国の財政状況を確認したところ、大金貨2000枚以上の負債を抱えており、国家財政が破綻しているそうだ。それよりも、春からの食料備蓄が底を尽きそうで、このままでは大量の餓死者が出かねないそうだ。
ゴロタは、大金貨2000枚の債務保証をすることにした。今後、償還時期の来た国債や債権はゴロタが支払うことにした。勿論、利息は取るが、年1%の超低利だ。
また、今年秋の収穫までの食糧として、緊急援助小麦50万トンを約束した。この小麦は、そのうち返してくれればよいことにした。とりあえず、イフクロークに収納していた緊急援助用の小麦10万トンを王城内の中庭に積み上げる。1袋60キロの袋が170万袋だ。縦横300個ずつ並べて18段以上積み上げることになる。並べるだけで、4時間以上かかった。
あと、交易だが、どうしても大雪山脈が交易路の邪魔をしている。ゴロタは、大雪山脈に長大なトンネルを掘ることを考えている。夏場になったら、タイタン領内の土魔法使いを総動員してトンネル掘削を開始する。トンネルが開通したら、交通手段として全く新しい方法も考えている。鉄道だ。鉄道の作り方は、ある程度知識として持っている。あの異世界の日本の歴史の中に出て来た。要は、電気か蒸気を利用すれば良い。当面は、蒸気を利用するつもりだ。
今日は、女王陛下が夕食会に招待してくれた。ゴロタは、そのまま王城内の客間でノエルと時間が来るのを待っていた。客間にメイドさんが来て、ゴロタにお風呂の準備が出来たからと呼びに来た。以前のことがあるので、その手には載らない。ノエルと一緒でなければ嫌だと言ったら、『ノエル様と一緒でも構わない。』との事だった。仕方がないので、ノエルと一緒にメイドさんについて行くことにした。
浴室は、奥の女王専用エリアの奥にあった。ノエルと一緒に服を脱ぎ、浴室に入って行く。大きなお風呂だった。少し硫黄の匂いがしたので、温泉だろう。なぜ、こんな街中に温泉があるのか不思議だったが、まあ、あまり気にしないで、ゆっくり肩まで使っている。
案の定、女王陛下が入って来た。まったく身体を隠す気配がない。ナイスバディをこれ見よがしにゴロタに見せながら、お風呂に入って来る。ゴロタのそばに寄ってきて、ノエルと3人で楽しまないかと誘ってきた。ノエルは、顔が真っ赤だ。そんな変態プレイなど、いままで経験がないし、つい最近、処女を失ったばかりなのだ。そんな誘いに乗る訳が無い。ゴロタは、ノエルを小脇に抱えると、脱衣所まで空間転移し、自分とノエルの服を持ってホテルの部屋まで空間転移した。
相変わらずエッチな女王陛下だった。ノエルが、『3人でプレイすると言うのはどういう事をするのか?』と聞いてきた。ゴロタは、そんな経験がないので『分からない。』と答えたが、それに近い経験は、白薔薇会の皆や、天上界で経験があるので、それ以上は何も言わないことにした。そう言えば、シェル達とも一緒のベッドに入って、いろんなことをしていたが、最後までの経験はないので、あれは3人プレイとは言わないと思うゴロタだった。
きちんと、服を着てから、王城の客間に転移した。客間付きのメイドさんが吃驚していたが、まあ、そんなことも出来るだろうと思っていたようだ。メイドさんは、夕食会の時間になったら、呼びにまいりますと告げて客間から出て行った。
夕食会には、ザイランド女王陛下の他に、宰相のマロー閣下とムンガ元帥閣下が同席された。この国では、和人は珍しく、和の国のことについて色々聞かれていた。それから、大雪山脈に掘るトンネルの話になった。ザイランド王国側からも掘ることもできるが、それは、ゴロタ達が掘るトンネルとぶつかるのが難しいので、タイタン領側からのみ掘ることにした。
それから、ミッド・ザイランド市の郊外に駐機している飛行船の話になった。現在は、シールドが欠けられているので、近づけないが、是非、乗せて貰いたいと言ってきた。ゴロタは、今、新婚旅行中で、これからもっと北に進む予定であるが、帰りにまた寄るので、その時に、一緒にタイタン領まで飛行しようということになった。その際には、女王陛下も同行することになった。夕食会は、和やかに終了した。
王城を辞去する際、女王陛下が耳元で、今度は一人で来るようにと言ったが、絶対に独りでは来ないようにしようと誓ったゴロタだった。
北の大陸は、厳しい環境の中で、行きぬかなければなりません。鉱物を輸出して食糧を輸入する。そうするためには、交易をしなければならないのですが、北極海と大雪山脈が交易を阻んでしまいます。