第285話 シルフと言うパートナー
シルフは、スパコンです。AIです。でも、少し変わってます。
家に帰ったのは、夜だった。詩絵留さんの家で夕食まで食べたのだ。
自宅では、シルフが迎えてくれた。
『オカエリナサイ ゴロタサマ』
「ただいま、何かあった。」
『1600 ハチロウガタハカセガ キマシタ。ゴロタサマハ シエルサント ベッドノウエデ セイショクモギコウイ ヲ シテイマシタノデ ルスト イッテオキマシタ。』
セイショクモギコウイって、・・・生殖模擬行為ね。え、何で知っているの。あの時は、スカウターも外していたのに。
『ワタシハ ゴロタサマト シネンニヨリ リンクシテイマス。リンク タイショウハ ゴロタサマト ゴロウタサマ ノミデス。』
「それって、何処でも通じるの?」
『ゴロタサマガ ノゾマレレバ ジクウノカナタデモ カノウデス。』
ゴロタは、近くの公園へ転移した。
『シルフ 聞こえる?』
念話で話しかけた。
『ハイ、ナンデショウカ?』
『いや、呼んでみただけ。』
どうやら、シルフとのリンクは、電波などではなく時空間を超えて、直接、ゴロタの思念とリンクしているみたいだ。と言うことは、元の世界でもリンクできる可能性がある。
自宅に戻ったゴロタは、ぐっすりと眠った。母親のシルフの夢を見た。
次の日、学校では大騒ぎだった。ゴロタが、街1番の不良高校の番長を手玉に取ったと言うのだ。
ゴロタは、『番長』と言うものが何か知らなかったが、昨日のボスがそうなんだろうと思った。手玉に取るとは、どう言うことかも知らないが、まあ、手出しをさせなかったと言うなら、当たっている。
今日は、歴史のテストがある。ゴロタは、歴史と地理が苦手だった。論理性が欠略している。昔の人が、西暦何年に生まれたなど、どんなに考えたって分かる訳が無かった。
テストが、始まった。当然、スカウターは回収されたままだ。机の上の画面に問題が表示される。タッチペンで、正解を選択するのだ。
最初の問題でつまづいた。出題の事象を古いもの順に並べるのだ。見た事も聞いた事もないような言葉が出てくる。ゴロタは、ズルをする事にした。シルフに答えを教えてもらうのだ。
シルフは、『カンニングハユルサレマセン。』と注意されたが、全部教えてくれた。どうやら、シルフは犯罪行為に対しては、厳格に審査して情報提供を拒絶できるらしい。グレーゾーンは、警告・注意となるみたいだ。と言うことは、今回は、注意という事になる。
これからは、ちゃんと勉強します。シルフさん。あ、なんか喜んでいるみたいだ。
午後、1人で研究所に行った。研究所の入り口に立ったら、赤い光のリングが上から下まで下がっていき、ドアが開いた。スカウターの個人情報とスキャン情報が一致したのだろう。
今までは、博士と一緒だったから、何もせずに入れたが、今回は1人だったので認証が必要なのだ。ゴロタが入っていくと、博士が待っていてくれた。そばに、軍服を着た男性が3人いた。ゴロタを見ると、あまりの幼さに吃驚しているようだ。
用件は、首都奪回だ。現在は、放射能バリアで首都圏50キロ以内から魔物が出てこないように封じ込めているが、最近、バリアの威力が弱くなってきている。核攻撃で死滅したはずの魔物も再出現してきている。
衛星画像解析では、その数、約8000体、全てを殲滅するだけの攻撃をすれば、今後、永久に住めなくなる可能性がある。
通常攻撃では、殆どダメージを与えられないらしい。と言う事は、魔法シールドを張っているのか。
そこで、この前の富士演習場で見せた魔法攻撃、あれなら殲滅できるかも知れない。そこでは、試しに攻撃して欲しいとの事だった。
ただし、現場は高濃度放射能汚染地区だ。したがって、完全防護衣を着て、汚染対策車に乗って移動しての攻撃となるそうだ。
ゴロタは、放射能のことについて聞いた。どうやら同位体元素というものがあって、放射線を出しながら崩壊して行くとのことだった。その放射線が、人間の身体の組織を壊したり、おかしくするらしい。
試しに、隔離室に放射性物質を出してもらう。セシウム137というらしい。半減期30年の放射性物質らしい。これをバリウムというものに変えれば良いらしい。
ゴロタは、セシウム137をじっと見た。変な光が出ている。人間の目には見えないようだ。ゴロタは、光の素を全て消滅させた。消滅だ。存在しなくなったのだ。もう光は出なくなった。
博士達は、言葉を失った。科学の範疇を超えてしまっている。魔法とは、このように素晴らしいものかと。
博士達は、大きな勘違いをしている。ゴロタは、魔法を少しも使っていない。その証拠に、魔法センサーは全く反応しなかったのだが、誰もそのことには気が付かなかった。
ゴロタは、明日、東京浄化作戦に取り掛かることにした。核攻撃で荒れた大地は、どうするのかと聞くと、部隊で整地するが、50年は掛かるだろうとの事だった。
それから都市建設とは、気の長い話だ。ゴロタは、樹木の種を準備して貰いたいと言った。種類は問わない。ゴロタの合図で、それを上空から撒いてもらいたい。
ゴロタの出した条件はそれだけだった。あ、それと中心部の上空に連れて行ってもらいたいと言った。
準備に、1週間欲しいと言われた。では、準備が整うまで、現地を浄化しているので、明日、現地上空まで連れて行って貰いたいと言った。
翌日の早朝、研究の前に行くと変な形の飛行機が止まっていた。『オスプレイⅡ』というらしい。翼が上を向いている。回転する羽根がない。
博士が、自衛隊の戦闘服と放射能防護服を着るように言ったが、暑いので遠慮した。武器も色々取り揃えてくれたが、ゴロタは、黒光する大型ナイフだけを手にした。
そのナイフを持って、気を込めると、赤く光り始めたが、破裂するような事はなかった。博士達は、もう驚く事はしなくなった。諦めたようだ。
30分後、目標地点上空に到着した。高度6000mだ。副官が、パラシュートを着けるように指示していたが、ゴロタは無視をして、そのまま降下口から飛び出した。
『メーデー、メーデー。グリースが転落して、落下、いや飛行してます。』
うん、別に普通だから。高度6000mは、いつもの飛行高度だ。あ、そういえば飛行船『タイタニック号』もう、出来たかな。
そんなことを考えなから飛行していた。蒼き盾が現れ、バチバチ光が出ている。浮遊している放射性物質にぶつかっているのだろう。ゴロタは、半径100m以内の放射性物質を消滅させて行く。ターマクの中で、素粒子に分解されて行く。
地上に降り立った。大きな魔物がいた。ヒュドラの亜種のようだ。首が100本くらいある。ゴロタは、もらったナイフを振った。再生を司る真ん中の首が、地面に落ち、胴体が縦に真っ二つになった。すぐイフクロークに入れた。
ゴロタは小走りに走りながら、東に向かう。放射性物質の消滅範囲を、半径500mにした。遠くの方まで点滅していた光が消えていく。
2時間半後、東の端まで来た。もう何匹、魔物を殲滅したのか分からない。
魔物の殲滅は明日にしよう。今日は、放射能除去をメインにする。上空100mを飛行しながら、可能な限り広い範囲で、放射性物質を消滅させて行く。
昼食も取らずに、夕方5時過ぎまで頑張った。もうどこを綺麗にしたのか分からなくなった。明日は、ちゃんとした地図を貰おう。
そう思ったら、頭の中に地図が浮かんだ。赤と黄色と緑に色分けされている。シルフが教えてくれた。
『クウカンセンリョウマップ ヒョウジカンリョウ。』
シルフは、本当に賢い。地図を見ると、まだまだだった。ゴロタは、一旦、研究所に戻ることにした。研究所の前で、体に付着した残留放射能を検査されたが、数値ゼロだった。本当に、『蒼き盾』は完璧だった。
博士達は、放射能除去能力に、自衛隊の将校達は魔物殲滅能力に驚いていた。
少し、お腹が空いたので、博士にレストランに連れて行って貰った。そこは、ステーキ屋さんで、最初にドーンと大きなステーキが出てくるので有名なステーキ屋さんだった。
本格熟成国産牛ステーキ500グラムを注文した。焼き方は、ミディアムにして貰った。とても美味しかった。
博士は、ゴロタの食欲にも驚いていた。博士が、東京には、もっと上等のステーキ屋さんもあったのだがと言ってくれた。
西のオーミ牛のことを聞いた。以前、和の国で食べたことがある。どうやら滋賀県の近江牛と同じらしい。
魔物により、ほぼ壊滅したらしい。この国には、どんだけ魔物が沸いているのだろうか。
次の日から、毎日、東京都の浄化作戦を実行した。夕食は、博士と自衛隊の将校さん達の奢りだった。
お寿司に天ぷら、フグに鰻と豪華な食事が続いたが、最後の方はラーメンだった。まあ、ラーメンも好きだから良いけど、労働の割にはセコい気がした。
全ての除染に10日間かかってしまった。マップ上では、オールグリーンだ。
後は、魔物討伐だ。詩絵留さん達3人の出番だ。3人は、富士演習場で貰った戦闘服を着ている。ブーツも『編み上げ』だ。
ノエルには、この前使ったワンドを持たせた。詩絵留には、アーチェリーだ。エーデルには、博物館の中から、レイピアを借りてきた。このレイピア、何か感じるものがあった。シエルには、気の込め方と、弓の誘導方法を教えた。30分位練習したら、カーブを描いた矢が爆発した。後は、無詠唱の『ファイアボール』だ。エーデルには、『斬撃』だ。エーデルも直ぐにコツを会得した。
魔物が一番多いエリアに転移する。多いと言っても、大した事はない。魔物達も危機感を覚えたのか、集結し始めている。
その様子は、シルフが提供するマップに赤い点として表示されている。
最初、ケルベロス亜種に遭遇した。首ではなく、胴体が二つに分かれている。
詩絵留さんの弓が、
ビュンビュン、ドガーン
エーデルのレイピアが
チュドーン、ドガーン
ノエルのファイアボールが、
ドガーン
可哀想に、ケルベロスは、跡形もなく灰になってしまった。このシーン、前に見た事があるのだが、思い出せない。
シルフがいれば、ゴロタの世界は、どんどん変わって行きます。




