第284話 中学3年生って
ゴロタは、中学3年生です。
月曜日、学校に行ってみると、皆の視線に違和感を感じた。一昨日の緊急避難が、ゴロタ達のせいだと、誰かが言いふらしているみたいだった。
ノエルが、口を尖らせている。言われなき中傷誹謗に怒っているのだ。しかし、一部本当のことだからしょうがない。そこに、あのバカ男子達がやってきた。
「おい、名無しの五郎太。何かやらかしたらしいな。皆の迷惑だから、学校に出てくるんじゃあねえ。」
ほぼ、チンピラである。どうもゴロタが邪魔らしい。聞けば、詩絵留さん、ノエルそれにエーデルの3人は、学園美少女トップ3らしい。その3人とも五郎太の彼女だという事が許せないらしいのだ。
「何言ってるの。あの騒ぎは、エーデルの魔法のせいよ。五郎太君は、関係ないわ。」
クラスの皆が、吃驚していた。この学校の生徒達は、魔力検査で魔力があるという事で、集められているが、誰も魔法を使えなかったのだ。
「何で、エーデルが使えるんだ。大体、誰も使えないから、ここで暮らせるんだろうが。」
ゴロタには、コイツが何を言っているのか分からなかった。どういう事だろう。
「ふん、五郎太君に教わったの。もう、凄いんだから。私も、使えるようになったわよ。」
ノエルが自慢げに言った。なんか、博士から『絶対に言ってはいけない。』と言われたような気がしたが。
「ふざけんなよ。恵理が使えるわけないだろう。」
「あのねえ、何故、あなたに名前を呼び捨てされなくっちゃいけないの。わたしには、野村という姓があるんだから。毒島。」
彼は、『ブスジマ』というらしい。変な名前だ。そう思ったら、クスリと笑いが漏れた。
「てめえ、何笑っていやがるんだ。」
毒島が、ゴロタに殴りかかった。ゴロタは、避けもしない。15歳の少年のパンチなど、痛くも痒くもない。案の定、彼の右パンチが、ゴロタの左頬にヒットしたが、1センチも顔は動かなかった。
「い、痛ー!」
毒島が、右手を押さえている。拳にヒビが入ったかも知れない。
「お前、今、何をした。これも魔法か?」
涙目で、毒づいている。ゴロタは、黙っていた。何もいう事がないのだ。しかし、ノエルが黙っていなかった。
「毒島、何するのよ。五郎太君は、何もしていないでしょ。謝りなさいよ。」
しかし、毒島は、それどころでなかった。右手が痛いのだ。それもそうだ。コンクリート柱のようなものを、思いっきり殴ったのだ。痛くないはずがない。
毒島は、痛さの余り、そのまま気を失ってしまった。仲間の3人が、抱えて教室を出て行った。
「五郎太君、魔法を使ったの?」
ゴロタは、首を横に振る。魔法など使ってない。使ったら、警報が鳴るはずだ。
使ったのは『身体強化』スキルだ。筋力や反射神経のみならず、筋肉の硬さも上がるのだ。
担任教師が、教室に入ってきた。
「毒島が、ひどい怪我をして、いま、救急車を呼んでいる。右手の骨が砕けているみたいだ。八郎潟君にやられたと言っているが、本当か?」
ゴロタは、立ち上がって否定の仕草をした。どうも、この先生にはきちんと話せない。苦手だ。
「一体、何があったのだ。」
ノエルが右手を上げた。
「先生、五郎太君は、何も悪くありません。」
「君には、聞いていない。八郎潟君、授業が終わったら、職員室に来るように。」
随分、横柄な教師だなと思ったが、学校の教師って皆、こんなのかなと思って黙って席についた。
午前中の授業は、数学と英語のテストだった。数学は、変な記号がついた式を解く計算問題だったが、スラスラ解く事ができた。きっと、昨日の夜、詩絵留さん達とした予習のテスト勉強のお陰だ。
午後は、野外活動だ。ゴロタの班は、街の掃除だ。掃除といっても、掃除ロボットについて歩くだけだ。掃除ロボットが掃除しきれない場所や雑草を処理する。
班は、ゴロタ以外、皆、女性だった。ノエルは、他の班だった。何故か、皆、ゴロタと手を握りたがった。ゴロタは、なんとも思わないので、皆と交代交代に手を繋いで歩いた。
皆、ノエエル達とどこまで行っているのか聞いて来る。ゴロタは、何も言わずに、ギュッと手を握り締めてあげた。それだけで、顔を真っ赤にして黙ってしまった。
2時間ほど、街をブラブラしてお終いだった。こんな授業でいいのかと思ったが、本当は学校などに行かなくても、必要な知識を身に付ける事ができるのだが、学校生活を送る事が大切らしい。
放課後、職員室に行ったら、生徒指導室に連れて行かれた。そこには、見た事がないオバさんが座っていた。
隣には、毒島が、右手を包帯でグルグル巻きにして座っている。あと、中年の男性が1人。この人は、きっと校長先生だろう。朝、朝礼をしていた。
ゴロタは、椅子に座らされ、担任の教師に、毒島に謝るように言われた。何も悪いことはしていないが、謝るくらい訳はない。
ゴロタは、深く頭を下げて、『ごめんなさい。』と言った。余りの素直さに、オバさんもキョトンとしていた。
「八郎潟君、君は何で謝ったのかね?」
校長先生が聞いてきた。答えは、決まっている。
「先生が謝れと言ったので。」
オバさんの顔が、見る見る赤くなって行った。
「まあ、なんて態度でしょ。これだから両親のいない再生人間なんか、この学校に入れるべきではなかったのよ。全然、反省していないじゃないの。大体、この子が入学してきたときから、私は反対していたのよ。人間らしい育ち方をしていない子が、うちの子の様な真っ当な育ち方をした子と一緒になるのは危ないって。」
だめだ。このオバさん、止まらなくなっている。校長先生も、呆れた顔をしている。それから、2時間ほどオバさんの話に付き合わされ、その後、反省文に署名をして解放された。
学校の外では詩絵留さんが待っていた。少し涙ぐんでいる。ゴロタは、シエルの頭を撫でてやった。
五郎太が、DNAからのクローン人間なのは間違いないらしい。しかし、だから危険という論理はひどいと思う。でも、ゴロタが、謝り、署名して済むならお安いもんだ。鉄貨1枚分の価値も無いことだから。
今日あったことを詩絵留さんに教えると、とても怒っていた。だがゴロタが何とも思っていないようだったので、詩絵留さんも黙ってしまった。
暫く歩いて、ゴロタは、この先に数十人の人間が悪意を持って隠れているのに気がついた。しかし、人間それもかなり弱い人間が何十人いたって、少しも怖く無い。
ゴロタ達が近づくと、バラバラと飛び出してきた。制服が違う。詩絵留さんが、高校生だと教えてくれた。どうりで身体が大きい筈だ。
真ん中のひときわ大柄な男子がボスらしい。身長は180センチ位だろうか。
「俺の弟を可愛がってくれたようだな。お礼をさせて貰うぜ。」
喧嘩馴れしているようだ。直ぐに、ゴロタに接近して右フックを見舞って来た。しかも、ノーモーションだ。一撃目を必ずヒットさせようとしている。しかし、ゴロタには当たらない。ゴロタには、動作がゆっくりと見えているのだ。
ゴロタは、軽くスエイしてかわす。ゴロタの鼻先1センチを、パンチが通り過ぎていく。男は、必ず当たると思ったパンチを躱され、大きくたたらを踏んで、姿勢を崩してしまった。
ゴロタは、男の背後に回り込んだ。ゴロタが、急に消えたので、辺りをキョロキョロ見回している。ゴロタは、男の足を軽く払う。バランスを崩した男は、派手に転んでしまった。
もう、このへんでいいだろう。ゴロタは、『威嚇』を使った。男達は、その場に跪いて、泣き始めた。ゴロタは、ゆっくり自宅に帰ることにした。
「ねえ、五郎太君、何をしたの。みんな泣き始めちゃったけど。あれも、魔法なの?」
「いや、あれは固有スキル。僕の能力。魔力は要らない。」
「へー、そうなんだ。私にもあるのかな?」
「分からない。測定器もないし。」
「測定器?魔力の?」
「いや、能力とスキルの測定器。何でも測れる。」
「五郎太君の元の世界って、何でもありなんだね。」
「何もない。毎年、大勢の人が飢え死にしている。」
この世界は、ゴロタから見ると何でもある世界だった。食べ物も、着るものも、住まいも。皆、健康に気を使い、病気も殆どないようだ。
でも、ゴロタにとっては、元の世界の方がよかった。生きていくのが難しいが、生きていく張り合いがあった。
この世界では、生きている実感がない。きっと、誰でもが、年老いて死んでいくのだろう。
「五郎太君、どうしたの。黙り込んじゃって。さ、帰るわよ。今日も、私の家で勉強だからね。」
詩絵留さんのいう『勉強』が何を意味しているかわかったが、何も言わないことにした。あのことに関しては、この世界も元の世界と余り変わりがないようだった。
詩絵留さんの家には、お母さんがいた。ホログラムではない本物だ。今日は、早く仕事が終わったそうだ。詩絵留さんが、少し残念そうな顔をした。
今日のおやつは、バナナサンドだ。バナナと生クリームをカステラで包んでいる。おいしい。元の世界の『タイタン・バナナ』の味がした。食べ終わってからら、詩絵留さんの部屋に行く。
部屋に入ると、きつく抱きついてキスをしてきた。バナナの味がした。小さな胸の小さなポッチを撫でると、ポッチが硬く立ってきた。でも、今日はこれで終わりだった。
15の春はもうすぐですが、この世界では、高校までは義務教育のようです。しかし能力に応じて行ける高校が決まるようです。




