第282話 エーデルという女の子
シェルがいたら、当然エーデルもいます。
次の日は、土曜日という事で、学校は無かった。朝から、何もやることがない。
散歩に出かけてみた。博士のいる研究所までは、ゴロタの足で30分位だ。なにもゲートを使わなくても良いのにとおもってしまう。
馬なし馬車、あれはオート・カーゴと言うらしいが、荷物を運ぶのがメインの仕事らしい。誰も乗っていない時がある。荷物を運ぶだけだ。
この世界では、ゲートを使うのが主な移動手段らしいが、荷物までゲートで運ぶのは、どうも非効率的らしいので、荷物は、このオート・カーゴが運ぶらしい。
主な施設は、すべて個別コードと座標軸が公開されており、行ったことがない場所でも転移できる仕組みになっている。個人住宅は、パスコードと本人の虹彩情報を入力し、行き先の許可があって初めて転移できるようだ。あと、いつでも不許可にできるので、別れた夫などを不許可にすると、幾ら個別コードを知っていても、そのコードを入力できなくなるらしい。
通常は、ユニーク情報として、例えば『五郎太君の家』などと言えば、スカウターのAIが自動識別して、行きたい場所にゲートを開いてくれる。
ゴロタの『空間転移』は、行った場所の風景とか事象を記憶していて、その記憶をもとに行きたいという意欲と、胸の熱をほんの少し、空間を捻じ曲げるのに使うだけで転移先にゲートがつながるのだ。
こちらの世界の仕組みとどこか違うのかよく分からないが、自分だけの力で転移しているゴロタの方が高度な感じがする。感じだけだが。
周りを見てみると、散歩している人達が結構多いのに気が付いた。散歩というより、駆け足に近い。パンツとブラジャーだけで外を歩いている女性には吃驚した。ほとんど下着だ。
極端に短く、腰まで切れ上がっているパンツ。ブラジャーも、ぴったりしていて、胸のポッチが飛び出て見える。歩くと、左右にユサユサ揺れている。走ると上下にタップタップだ。それでお臍が丸出しだ。みていてこっちが恥ずかしくなる。あんな恰好で、街を歩かれても、とても迷惑な気がする。
1時間位、市内を探索していたら、自宅の前に女の子が1人立っていた。この子がエーデルかな。
「もう、五郎太君、どこに行っていたの、今日は、私が来る日だって知っていたでしょ。」
ゴロタは、何も言わなかった。元の世界でもそうだが、女の子から叱られると、言葉がうまく出なくなるので、黙っていることにしているのだ。
「また、そうやって黙る。とにかく、ここは暑いから、早く家の中に入りましょう。」
ゴロタは、家の玄関前に立つ。しばらくすると、スカウタに『認証しました。お帰りなさい。五郎太さん。』と言う声が聞こえた。
エーデルと二人で、家の中に入ると、直ぐに抱きつきキスをしてきた。思いっきり舌を入れられている。あの、汗を拭きたいのですが。2分位したら、やっと解放してくれた。エーデルの口の端から、涎が垂れている。
ゴロタは、直ぐにシャワー室に向かった。服を脱いで、浴室に入る。今は、暑いので、冷たいシャワーにした。頭からシャワーを浴びていると、エーデルが入って来た。勿論、裸だ。ゴロタの背中から抱きつき、前の下の部分に両手を伸ばして来た。ゴロタは、構わずにシャンプーをしている。この世界のシャワーは便利だ。水も15度以上だし、頭を洗おうと思うと、自動でシャワーが止まって、蛇口からシャンプーが出て来るのだ。最後は、リンスと言う髪がサラサラになる液体まで出て来る。
エーデルは、自分の下半身をゴロタの腰に擦り付けて来る。しかし、エーデルも同い年のJCだ。これ以上は不味い。
エーデルが、ゴロタの手を取って、自分の股間に誘おうとするが、それは拒否した。
シャワーが終わると、お勉強の時間だ。エーデルも勉強に来たはずだ。あ、そういえば、エーデルも魔法が使えるのか聞いたら、『魔力はあるけど、魔法は使ったことがないらしい。』と答えた。
学校では、魔法は教えてくれないのかと聞いたら、そうだと言う。魔力は、皆が持っているのかと聞いたら、今、通っている中学校は、魔力がある生徒だけが行ける学校らしい。というか、この一か所に魔力のある子だけ集められているらしい。
ゴロタは、エーデルと一緒に近くの公園に行った。公園の中は、散歩する人達が多かったが、森の中の広場は、閑散としていた。
ゴロタは、エーデルに火魔法を教えてあげた。まず、『炎』のイメージを持ってもらう。家の中では、炎は全く使わないので、炎を最後に見たときの事を思い出すように言った。小学校の最後のキャンプの時のキャンプファイアが最後らしい。燃えさかる火を心の中に思い浮かべて貰う。
エーデルの身体が熱くなってきている。エーデルは気が付いていない。思った通り、元の国のエーデルと一緒で、『炎』属性があるみたいだ。次に詠唱だ。一番簡単な炎の詠唱だ。
「火の精霊よ、我が手に炎を顕現せよ。」
エーデルの掌に、ボウッと炎が燃え上がる。エーデルは熱くないが、炎がかなり多きい。初心者レベルではない。炎の大きさが、キャンプファイアのようだ。あ、イメージ通りか。しかし、不味いことになった。警報が、鳴り渡ったのだ。
『アラート、アラート、公園内で魔法攻撃を感知しました。レベル20、避難レベルは5、市民は、5キロ以上離れてください。市民は5キロ以上離れてください。』
至る所で、サイレンが鳴っている。遠くで、誰かの叫び声が聞こえる。
ゴロタは、ゲートを開き、自宅に戻った。自宅の前には、もう八郎潟博士がいた。警戒ロボットが20体、それに研究所の助手さん達が20人程だ。
「絶対にお前じゃと思ったら、やはりお前だったか。」
「違うんです。五郎太君は何も悪く無いのです。私が、魔法に失敗してしまったのです。」
「何、君が?君は誰じゃ。」
「はい、私は、『御堂筋淡雪』と申します。みんなはエーデルと呼んでいます。五郎太君の恋人です。今、発達途上の15歳です。」
ああ、この残念姫、この世界でも全く変わっていなかった。しかし、そんなことはどうでもいい。ゴロタは、公園での出来事について説明した。エーデルが『火』属性を持っている事を知っていたとは言わなかったが。
博士は、皆と一緒に、もう一度公園に行った。住民は避難した後だったので、誰もいなかった。博士は、エーデルにもう一度、魔法をやって見せるように言った。ゴロタは、もう少し、大きな魔法を見せようと思い、上級魔法の詠唱を教えてあげた。そして、火事の時の天まで届くような炎をイメージさせた。
「火の精霊の福音により、我の力は解き放たれる。古の地獄の眷属にして業火をつかさどる者よ。我が身に宿りし者よ、その力を示せ。我は命ずる。炎よ。災厄の炎よ。今、放て。」
「ヘル・ファイヤー・テンペスト」
とんでもないことが起きてしまった。この魔法は、本人の魔力と魔法レベルに応じて、その威力を増減させるのだが、エーデルの魔力は半端なかったらしい。地上300mまで、炎が燃え上がった。触媒もないのに、炎が生じたのだ。いや、空気はふんだんにある。あと、燃える者は地面だけだ。大地は、殆どが珪石と鉄などの金属だ。それらが、一気に燃え上がったのだ。後には、直径10mの燃え残り、いわゆるマグマが池になっていた。
博士と研究員の髪の毛の先は、熱で焦げている。当然、ゴロタとエーデルは無事だ。炎の近くにいた警戒ロボットの残骸は、半分以上が溶けていた。
魔法は理屈ではない。イメージだ。自分の体内の魔力と、イメージ力のコラボで、物理上あり得ない事象が発生するのだ。市内のあちらこちらで、警報サイレンが鳴っている。他国からの攻撃か、魔物が出現した際の被災レベルなのだろう。後で、衛星画像を確認したら、日本の上を覆っていた雲が、一点を中心に渦を巻きだしたのが分かった。物凄い上昇気流が発生したためだ。
うん、これでは天災級だったのかも知れない。それよりも、エーデルが心配だった。完全に魔力切れをおこして、その場で失神している。まあ、失禁していないだけましだった。ゴロタは、エーデルを背負って、ゲートを開いた。自宅に戻ろうとしたら、博士に止められた。このまま、富士山の麓の演習場に来て貰いたいというのだ。まあ、いいけど、今日は嫌だといった。これから、エーデルを自宅まで送り届けなければいけない。それに、詩絵瑠さんやノエルにも断らないと。
「いや、その子も一緒に行って貰いたいのだ。というか、その子の能力を調べたいので、一緒に来て貰いたいのだ。」
それなら、なおさらエーデルの両親の了解を貰わないといけない。そういうと、『それもそうじゃな。』と言って、エーデルの自宅に一緒に行く事にした。
エーデルの両親は、土曜日なので在宅していた。さすがにグレーテル国王陛下と皇后陛下には似ていなかった。しかし、なかなかのイケメンと美人さんだった。
ゴロタに背負われているエーデルを見て、吃驚していたが、魔法を使い過ぎただけですと言ったら、安心をしていた。このエリアの住宅は、皆、魔力のある子どもと一緒に引っ越してきた家族ばかりなので、魔法に関することには寛容なようだった。
エーデルを部屋まで、連れて行って驚いた。部屋がピンクと白に統一されている。まんま、元の世界のエーデルの部屋だった。両親が、さすがに恥ずかしがっていたが、その気持ちはよくわかります。
博士が、自己紹介したら、両親は恐縮してしまった。それもそのはず、博士は王国で言えば、国王陛下みたいな立場の人だったらしい。
次の日は、日曜日なので、富士演習場に行くのはすぐ了解してくれた。
エーデルワイスは、日本名『西洋薄雪草』と言うので、エーデルの名前は『薄雪』さんです。こじつけです。
 




