第280話 不思議な世界
いよいよ異世界に行って(来て?)しまいました。
一緒に階下に降りたら、詩絵留さんの両親がいた。父親は大公とは似ていない。何から何までそっくりという訳でもなさそうだった。
食事は、ハンバーグだった。僕の世界のハンバーグよりも洗練されていた。ソースで煮込まれ、お肉がフワフワだった。美味しい。食事中、今日の警報の話題になった。
「本当に、今日のアラート、何?100キロ以上避難しろなんて。100キロって言ったら、富士山の向こうじゃない。私、浜松の叔母さんの所まで逃げたわよ。」
「私の会社なんか、大変さ。重要書類キーを持ち出したり、避難場所を連絡しあったり。結局、避難する前に解除になったけど、いい迷惑だよ。」
原因が僕だということは、口が裂けても言えなかった。
ハンバーグも美味しいが、お米のご飯が美味しかった。真っ白で艶があり、口に含むと甘味が感じられる。どうやって作るのだろう。米も違うみたいだ。僕の世界で、こんな米を作っているのは和の国だけだった。今度、和の国から種籾を輸入しよう。
食後、まったりとしていると、詩絵留さんが『勉強するから一緒に2階に行こう。』と言った。え?勉強は昼で終わった筈なのに。僕がグズグズしていると、少し怒った顔で、『勉強が嫌いなの!』と強い口調で言われた。
なんで、そんな言われ方をされなければならないのか知らないが、しょうがないので一緒に2階に上がって行った。部屋に入ると直ぐにキスをして来た。
「あの、詩絵留さん、下にご両親がいるのですが。」
「大丈夫よ。パパもママも、何やってるか知ってるんだから。」
はあ?何、それ。おかしいでしょ。15歳でその扱いは。この世界では、それが普通ですか?詩絵留さんは、僕をベッドに押し倒して来た。
「ところで五郎太君。あなた誰?」
あ、ばれてる。僕は黙ってしまった。しかし、いつまでも誤魔化せない。正直に言おう。
「僕はゴロタ。この世界の者ではない。今日の昼、この世界に転生してきた。元の世界では、タイタン領の領主で、冒険者だ。妻が5人います。最初の妻は、シェルと言いハーフエルフです。」
「領主?妻が、5人?ハーフエルフ?それって、まるっきりファンタジーじゃない。転生って、どう言うこと。」
説明は出来ない。僕は、窓を開け、詩絵留さんの手を取って空に飛び出した。シールドを張って、光を跳ね返している。周りからは、何も見えない。僕はどんどん高度を上げた。西に富士山の大きなシルエットが、浮かび上がっている。
富士山の周りを1周してから部屋に戻った。部屋の中は暖かかったが、詩絵留さんの身体は冷たくなっていた。僕は、少しだけ熱を詩絵留さんの中に注ぎ込んだ。
「どうやったの?」
「よく分からない。浮かびたいと思ったら浮かべるんだ。」
僕にも、『飛翔』の原理は分からない。ただ、物体が下に落ちる力をねじ曲げているような気がする。その日、僕は自宅に帰って、シルに見守られながら熟睡した。明日、目が覚めれば元の世界に戻っているかも知れないと思いながら。
翌朝、シルの機械的な声に起こされた。あ、戻れなかったみたいだ。朝食は、管理者から転送されていた。スクランブルエッグにトースト、それにホットミルクだった。スカウターを嵌める。自動的に起動した。
『おはようございます。五郎太さん。今日は2月25日月曜日です。小田原地方の天候は晴れ、気温12度、湿度23%です。今日は、傘は必要ありません。本日午前6時の放射線測定値は8.4マイクロシーベルトです。』
何を言ってるか、よく分からなかったが、今日も寒いし、いい天気らしい。昨日着ていた学校の制服を着る。シャツは、綺麗にアイロンされている物が出てきた。
首に、変なヒモを巻くのだが、伸び縮みするので、巻くのは簡単だ。靴を履いて部屋を出る。自動で玄関ドアがロックされた。超便利だ。さて、学校はどっちかなと考えていたら、スカウターが話しかけてきた。
『詩絵留さんが迎えにきます。』
暫く待っていると、向こうから歩いてくる。少しは歩かないと、太ってしまうらしい。毎日、片道2キロを歩いていると言っていた。
学校は、ここから歩いて10分位らしい。二人で並んで歩く。だが、何故かよそよそしい。きっと、ここにいる僕が、詩絵留さんの知っている五郎太とは違う事を知ってしまったからだろう。
学校は、銀色と白色の金属を組み合わせた変わった格好をしていた。校門には、昨日のロボットが2体いたが、武器は携行していない。校門のところで、皆、一旦立ち止まっている。何をしているのだろうか。ロボットの目が赤色から青色に変わると入っていいらしい。僕も列に並んだ。当然『青』だった。聞いたら、武器や薬物それにゲーム器を持ち込まないようにチェックしているそうだ。
構内に入ると、3年生は4階だった。空間移動部屋というのがあって、中に入ってドアが閉まると、ボタンを押す。暫くするとドアが閉まり、次にドアが開くと、もう4階だった。詩絵留さんが、
「いい加減『転移ゲート』を作ればいいのに。本当に面倒臭い。」
と言っていた。僕にすれば、この仕組みを応用すれば色々できるかも知れないと考えていた。
クラスは、詩絵留とは違うクラスだった。僕の席は、窓際の真ん中位だった。隣の席を見て驚いた。ノエルが座っている。いや、ノエルによく似た子だった。
「お早う、五郎太君。今日も、詩絵留と一緒?」
「あ、うん。」
言葉に、ちょっとトゲを感じた。ドギマギしていると、
「何、オドオドしているのよ。別に、どうでも良いのよ。」
そういう時は、絶対にどうでも良い事ではないと分かって来た僕だった。それよりも、周囲の男子の視線が気になる。あの目、間違いなく嫉妬の目だ。冒険者ギルドで何度も体験している。
「ノエル。」
試しに読んでみる。
「え、なあに?私のことノエルって呼んでくれるの?嬉しい。」
え、何故、喜ぶ?この子は、なんて名前?
『個人情報は表示できません。位置情報を表示します。』
全員の頭の上に逆三角のマークが現れ、名前が表示される。フルネームではなく、苗字と呼称だ。『佐藤君』とか『鈴木君』とかだ。中には
呼び捨ての男子もいた。きっと、仲が良いのだろう。しかし、その子たちは、あまり活発そうには見えない子ばかりだった。
ノエルは、『野村さん』だった。だが、喜んだ理由は、すぐ分かった。女友達から『ノエルちゃん』と呼ばれているのだ。
授業が始まる前、体の大きい子が、僕のそばに寄ってきた。何人かの手下を連れている。
「おい、名無しの五郎太。ちゃんと持ってきたろうな。」
何のことか分からない。それに『名無しの五郎太』って何だろう。
『名無しの五郎太は彼らから呼ばれている蔑称です。昨日の約束は、ゲーム機の校内持ち込みです。』
何、それ?ゲーム機って、どんなものかも知らないのに。僕が、黙っていると、
「てめえ、また、いつものダンマリかよ。」
僕は、迷った。若い頃のように涙ぐんで許して貰うか、それとも『威嚇』を使うか。
「やめなさいよ。弱い者苛めは。五郎太君が困っているでしょ。」
「うるせえ。恵理は黙ってろ。」
「何ですって。あなたに名前を呼び捨てされる覚えはないわ。」
その時、大人の男性が入ってきた。どうやら教師らしい。教壇のボードを見ながら、全員の状況を確認する。どうやらボードには、生徒全員の情報が表示されているらしい。
「おい、田中。熱があるじゃないか。医務室で診察を受けろ。」
田中と呼ばれた男子が、教室を出てゆく。教師は、今日の連絡事項を伝えたら、教室を出て行った。
目の前の大きなボードに、授業内容が表示される。教壇上には、女性の姿が現れた。仕組みは分からないが、本当にそこにいるみたいだった。
僕の座っている机には、同じ内容が表示されている。授業内容は、数学だったが、分かりやすかった。円周率というものの計算方法だったが、ある程度の推測で確認していくものだった。
何故か知らないが、頭の中に次々と数字や記号が浮かんでくる。演習は、円周率を20桁まで計算で出す課題だったが、僕は100桁まで楽勝だった。
次の授業は、国語だった。太古の文学らしいが、問題無く理解できた。紫色の女の人が書いたラブストーリーだが、変な言い回しにさえ気を付ければ、意味は簡単だった。
午前中最後の授業は、見たことも聞いたこともない外国の言語だったが、グレーテル王国の公用語と同じだった。僕にとっては、何も問題を感じない。
内容は、その国に旅行に行く様子を書いているが、飛行機とか空港とか聞いた事がない言葉さえ理解できれば、普通のグレーテル王国公用語言葉だ。
僕にリーディングの演習が当たった。普通に読んだら、教師も皆も吃驚していた。あ、まずかったかな。終わったら、皆が拍手をしていた。さっきの男の子が悔しそうな顔をしていた。
お昼は、食堂で食べることになっている。テーブルに座ると、その子に合った食事が転送されてくるみたいだ。スープは冷めていて、あまり美味しくなかったが、僕は完食をした。何故か、ノエルが隣に座っており、反対側には詩絵留さんが座っている。
周囲の羨望と嫉妬に溢れた視線も慣れっこだ。ノエルが、しきりに先程の英語のリーディングを褒めていた。あれは『英語』というのか。何故、英語というのかよく分からなかった。
通常、異世界ものというと、現代の先端技術の知識を持っているが弱っちい人が、チートな能力を獲得して中世の剣と魔法の世界に行くのが多いのですが、このお話では、チートな能力を持っているゴロタが、未来の日本、それも科学技術は素晴らしいが魔法初心者国の日本に転生したようです。
お定まりで、エッチはどこでも同じです。なんせ、ラブコメですから(汗)




