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紅き剣と蒼き盾の物語(コミュ障魔王と残念エルフの救世サーガ)  作者: 困ったちゃん
第27章 ヘンデル帝国タイタン侯爵領
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第272話 ハートブレーク村は、可哀想な村です。

戦争や飢饉では、いつも年寄りと幼い子供達が犠牲になるようです。

(2月14日です。)

  タイタン市の領主館に行ってみると、大変な事になっていた。あのアテーナー様が来ていたのだ。一緒にいるのは、見たこともない女性だ。しかし恰好や要望から、どう見ても女神様だ。2人は、大広間のソファに腰を掛けて、お茶を優雅に飲んでいる。シェルは、戸惑ったような素振りで、二人の前のソファに座っていた。僕が、アテーナー様に挨拶をする。随分、会ってないような気がするが、まだ別れてから2か月も経っていなかった。アテーナー様は、隣の女神様を紹介してくれた。


  『僕よ、彼女の名は『ヘスティア』じゃ。彼女は、妾と同じ経験をしたくて、僕に会いに来たのじゃ。これから、妾にしたことと同じことを彼女にもして貰いたいのじゃ。』


  隣のヘスティア様は、顔を真っ赤にしている。可愛い。今の話は、完全に二人だけの念話だったので、シェルに聞かれることはない。


  『次に、天上界に行った時に、ご相談に乗りますが、今は、少し忙しいので、4月まで待っていただけませんか。』


  『ふむ、4月とな。人間界の月日は、天上界では一瞬じゃ。あい、分かった。それでは、4月になったら妾が迎えに来るのじゃ。その時は、妾もな。分かっておろう。』


  アテーナー様は。凄くエッチな笑いをしてから消えてしまった。後には、とても良い香りだけが残っていた。シェルは、女神様達が何の用で来たのか聞いてきたが、僕は、特に何も言わない事にした。こういう時は、黙っているのに限る。嘘を言っても、必ずばれてしまうからだ。


  今日は、チョコレートの日だったが、皆、チョコを作っている暇はなかったようだ。あのイベントも、こんな状況なので急遽中止になった。権利購入権は、『クレスタの想い出』で払い戻していた。タイタン市では、静かな『チョコレートの日』が過ぎて行った。






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(2月15日です。)

  今日は、タイタン市からハルバラ市に衛士隊200名を派遣する日だ。衛士隊本部は、以前の本部をそのまま使用する。行政庁は、少しは機能しているように思える。僕が潤沢に食料を補給しているので、暫くは大丈夫だろう。ヘンデル帝国のハルバラ北方辺境郡は、これからはタイタン北方辺境侯領となった。領都は当然、ハルバラ市だ。


  以前の郡総督上級認証官の公邸は手狭なため、侯爵邸とするために、」その周辺の住宅や店舗を買い取り、広大な敷地を確保した。空き家になっている所もあったが、大した資金は必要なかった。人口減少に伴い、不動産価格は暴落しているようなのだ。早速、バンブー建設にお願いして、侯爵邸を大改修して貰う。本館は、この旧郡総督上級認証官邸を増築して貰う。それと使用人宿舎、それに迎賓館を別に作って貰う。バンブー建設は、今では王国一の建設会社で、傘下には100社以上の建設、土木それに家具店を擁しているそうだ。王都に本社があるが、タイタン市の支店は、『タイタン本社』として別経営にしているそうだ。当然、今回の建設依頼もタイタン本社に依頼した。やはり、地場産業の育成が必要だからだ。最近では、タイタン本社の方が売り上げが多いそうだ。





  次の日、最後の村ハートブレーク村に行く。


  ハンナ村は、あのままだ。ダンジョンの近くにゲートを作り、ハッシュ町のギルドと繋いでおいた。今頃、あのダンジョンは、冒険者で溢れかえっているはずだ。ゲートを通って、魔物がハッシュ町に来ることがないように村内の魔物を殲滅しておいたのだ。ハートブレーク村は、ハンナ村の南40キロ程のところにあった。歩いて1日の距離だ。周囲は、大麦畑が広がり、エールがうまいと評判らしいが、僕はエールが嫌いなのでどうでも良かった。


  今は、冬なので雪に覆われているが、夏は大麦の金色の穂が広がっているのだろう。ハートブレーク村周辺にも魔物がいるそうだが、それほどの数ではないみたいだ。それよりも、前回の災厄で、村人の殆どの者が死んでしまった。特に、成人の男女が多く亡くなったために、労働人口が極端に少なくなり、昨年の収穫が半減したそうだ。


  村に到着してみると、村内の道路は、雪に埋もれ人が踏んだ跡が辛うじて通路になっている状況だ。村内は閑散としていた。表を歩いている人は殆どいなかった。村の中央にある教会に行ってみた。荒れた状況はあるが、補修された跡があった。祭壇の奥の部屋に人の気配があった。入ってみると、若いシスターと幼い子供達が固まっていた。シスターは、子供達を庇うように前に出てきた。


  「どなた様でしょうか。」


  「僕は、ゴロタと言います。今度、この地の領主になりました。」


  「え!領主?この帝国は領主を認めていない筈ですが?」


  「皇帝陛下は、北方3郡の領地を僕に割譲されたのです。」


  「そうですか。帝国も、余程困っていたのですね。でも、まだお若いようですが、大丈夫なのですか?」


  この質問には、なんと答えて良いか分からなかった。タイタン領は、比較的うまく行っていると思うが、遠く離れたこの地でも、うまくやれるかは分からなかったからだ。僕は、その質問に答えず、後ろの子供達を見た。皆、痩せ細り、目だけが大きく見えた。典型的な飢餓状態の子供達だ。後ろのベッドには、1つのベッドで3人の子供が寝ていた。


  「領主様、申し訳ありません。この様な状況ですので、お茶もお出し出来ず。」


  僕は、構わないでくれと言いながら、ベッドに駆け寄った。子供の手を握ると、体内の状況を探査する。特に悪いところはない様だが、衰弱がひどい。僕は、直ぐにタイタン市の医務院の診察室とゲートを結び、フランちゃんを呼んだ。


  シスターは、吃驚してしまった。空間に白い光が現れたと思ったら、大きな穴が開いてしまったのだ。穴の向こうは、昔、帝都で見た治癒院の治療室の様だった。もっと驚いたのは、その向こうから、白衣を着たフランちゃんが出てきたことだ。フランちゃんは、直ぐにベッドの子供達を診察し始めた。数人の子供達を、タイタン市の治癒院に搬送する。しかし多くの子供達は、ベッドに寝かせままだ。手の施しようがないみたいだった。悲しげに首を横に振った。


  僕は、キッチンを借りて、大きな鍋でミルク粥を作った。蜂蜜を入れて食べやすくしたものだ。熱いと火傷するので、人肌まで冷ましてから子供達に与えた。様子を見ていたシスターは、何もない所から鍋や食材が出てきたのにも吃驚していたが、僕の料理の手際が良いのにもっと驚いていた。


  ミルク粥は、直ぐに無くなった。量を調整して作ったからだ。飢餓状態の身体で、すきなだけ食べさせると、必ず消化不良を起こしてしまう。 ベッドの子供達には、レモンと砂糖と塩を混ぜた飲料水を口に含ませる。口から溢れるのも構わず含ませて、念動力で、胃袋まで移動させる。後は、何も出来ることはなかった。次々と、措置をしてゆく。頬に赤みが刺してくる子もいたが、うっすらと目を開けた子がいた。


  シスターを見て、


  「お母さん。」


  これが最後の言葉だった。その子は、目を閉じることなく、息を引き取った。シスターは、『フランちゃん、フランちゃん。』と叫びながら、泣き崩れていた。死んだ子の名前もフランだった様だ。駆け寄ってきたフランちゃんが、心臓の鼓動と呼吸、瞳孔を確認して、その子の目を閉じてあげた。8台のベッドに18人の子供達がいたが、今、17人になってしまった。僕は、もう一度、子供達に先程の混合液を飲ませてあげた。飲むと言うよりも、口から胃に移動させると言う方が近いが。しかし、2人の子供が、そのまま呼吸をしなくなった。僕は、措置をしながら涙が止まらなかった。生と死を司る神は不条理だ。こんな苦しい飢餓の目に合って死ぬ位なら、何故、生を与えたのかわからなかった。


  自分の無力を呪った。この子達は、まだ生きている。なのに死を待つだけなど、酷すぎる。僕の頭の中に声が聞こえた。


  「セイリショクエンスイ、1リットルノマミズニ9グラムノシオ」


  「ケツエキホジュウノヤリカタ。コウカン、テンイ、チュウニュウ。」


  「チュウニュウ、チュウニュウキヒツヨウ。ゲンジョウ、フカノウ。テンイ、サイテキカイ」


  意味が良く分からなかった。僕は、シスターに大きな器を準備してもらった。スープ鍋だった。計量カップは200CCのものがあったので、正確に1000CCを図り、塩を9グラム入れて良く混ぜた。それに少しの砂糖を混ぜてカップに入れた。


  重症の子の側に行き、カップの中の食塩水と心臓を小さなゲートで繋ぐ。カップの中に血液が溢れ出てくるが、カップの中から同じ量を念動で心臓に注ぎ込む。それから、少しずつカップの中の塩水を減らしていく。その分、体内に入って行く筈だ。カップの中の食塩水は、逆流してきた血液で真っ赤だった。1時間後、カップの中が空になる直前にゲートを閉じた。その子は、それまでの苦しそうな顔から落ち着いた容体を見せてきた。フランちゃんが、何をしたのか聞いてきた。僕は、自分のやったことを説明したが、その理由は良くわからなかった。


  兎に角、生命を維持するのには、水分と塩分と糖分が必要な事は分かった様な気がした。全ての子に、同様の措置を取っていたら、翌朝になっていた。その間、シェルやフミさん、ノエルなど治癒能力を持つ子達が応援に来てくれていた。残念なことに、この措置でも命の灯が消えてしまった子供が2人いた。シスターは、泣きながら、子供を共同墓地へ連れて行った。シスター以外、この子達を埋葬してあげる者はこの村には居なかった。

シスターは神に仕える身です。ゴロタとは、怪しい関係になることはない筈です。

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