第271話 戦慄のハンナ村
ハンナ村は、魔物により人々が全滅した村でした。
(2月13日です。)
ハルバラ市の東は、人口1万4千人のハトバラ町と小さな村が2つ残っていた。ハトバラ町には、ゴロツキの事務所があり、好き放題をやっているみたいだった。ハトバラ町の町長は、そのゴロツキのボスの従兄弟だった。この町には、珍しく衛士隊もいたが、全員が最近なったばかりのゴロツキ組織出身者だった。
僕は、町役場に行って、町長に面会を申し込んだ。気の弱そうな、男の職員が町長室に案内してくれた。町長は、首の太い卑しい顔をした男だった。僕は、自分の身分を明らかにし、町長に命じて衛士隊を整列させた。だらしがない。これから、ゴロツキのボスの事務所に踏み込むと言ったら、皆大笑いしていた。
1人の男が、僕を指差し『お前1人でやって来い。』と馬鹿にした口調で言った。次の瞬間、その男の頭が破裂した。皆、その時初めて僕の『二つ名』を思い出したようだ。
『殲滅の死神』
その名は、絶対に抵抗してはならない恐怖の名前として、5年ほど前に帝国中を席巻した名だった。しかし、その僕はまだ小さな子どもだったはず。ここにいる僕は、身長190センチ以上の大男だ。
僕は、衛士隊員一人一人の名前と出身地を聞いた。この町に来て、どのような犯罪を犯して来たかも聞いておく。皆、素直に答えていた。嘘を言えないように、『威嚇』で心を拘束しているからだ。強盗、強姦を犯した者は、心臓を凍結させ、その場で処刑した。殺人を犯した者は頭を破裂させた。皆、ブルブル震えている。逃げ出そうとした者もいたが、頭がボンと破裂した。全員の審査が終わってみると、6人程残っていた。死刑に値するだけの罪を犯していない者には、償いをするチャンスを与える事にしたのだ。そのチャンスとは、ゴロツキのボスを連行してくる事だ。僕は、衛士隊の駐屯所前で待つ事にした。
町長は、ずっと地面に膝を突いて動けずにいた。衛士隊駐屯所の周りには多勢の市民が集まっている。僕がどんな人間か分からないので、遠巻きに見ているみたいだ。僕は、イフちゃんに衛士隊の後からついて行くように飛ばした。逃げようとする者は、灰にして良いと言ってある。幾つか爆発音が聞こえてきた。僕が、煙の上がっている方を見ていた時、町長が若い男性に刺されてしまった。その男は、恋人を町長に強姦されてしまい、それを苦に、恋人が首を吊って自殺してしまったそうだ。僕は、背後の気配から、その男の殺気を感じていたが、放っておいた。そのまま男にとどめを刺させた。町長は、どの道、死ぬしかない男だったろう。町民の中から何人かが飛び出て来て、死んでいる町長を蹴飛ばしている。余程悔しい思いをしたのだるう。
僕は、町民の中から何人か選んで、一緒に衛士隊駐屯所にむかった。しかし、誰もいなかった。いや、何人かの気配がある。奥の方だ。奥の扉を開けると留置場だった。汗と血の匂いがする。看守はいなかった。留置室は満員だった。留置室の扉の鍵は、入口脇にかかっていた。一緒にいた男達が、鍵束を持って次々に開けてゆく。長い間、留置されていた者は、歩くことが出来なかった。
駐屯所を出たところで、多勢の町民が駐屯所玄関前に集合していた。僕は、『自分は、この地域の新しい領主である。』ことを告げた。『もう上級認証官が着任する事はない。新しい町長は、皆の中から選ばれるだろう。』と宣言した。その後、ゴロツキの事務所に向かうが、見たい者はついて来るようにと言うと、皆ゾロゾロとついて来た。ゴロツキの事務所の前には、先程の衛士の死体が何体か転がっていた。先ほどの爆発は、逃げ出そうとした衛士を逃さないようにした結果だった。まあ、木っ端微塵では、二度と逃げ出せないだろうが。残った衛士は、2人だけだった。事務所の中には、敵意と恐怖の入り混じった気配が数十人分有った。きっとゴロツキどもなのだろう。イフちゃんに聞いたら、人質などの気配はないそうだ。僕は、シールドでスッポリと事務所を囲った。
全てを消滅させようかと思ったが、金庫の中を確認してからにしようと思いとどまった。シールドの一部を開いて中に入ってから、すぐに閉じた。これで誰も逃げられない。玄関を入ると、10人位が、剣を抜いて構えていた。僕は、『力』を放って相手の脳だけを破裂させる。血は出てこないが、確実に頭蓋内はグチャグチャだろう。全てのゴロツキどもの脳味噌を破裂させるのに、4分程掛かった。
奥の部屋は、娯楽室のようだが、中の8人も一瞬で死に至った。2階に上がる。2階は、大きな部屋だった。ソファがいくつも置いてある。17人のゴロツキが、剣を抜いて身構えている。1人ずつ丁寧に処理をして行った。全員を処理したところで、奥の重厚そうなドアを開けようとしたが鍵がかかっていた。構わず、そのままドアを引きちぎった。中には、デブの中年男がいた。短剣を両手で持って震えている。僕は、ギロリと睨みつけた。『威嚇』など使わな。ただ、睨んだだけだ。男は、ズボンを濡らしながら、短剣を落とした。この男のレベルで僕に剣を向けるのは100年早かった。
「金庫はどこだ?」
男は、デスクの後ろを指さした。
「開けろ。」
男は、震える手で、金庫を開けた。中には、金貨がビッシリ詰まっていた。
『良かった。焼き尽くさなくって。』
そう思って、ほっとした僕は、表通りに面した窓を開けた。外には、とんでもない程の群衆が集まっていた。僕は、その男の頭を掴むと、そのまま持ち上げ、道路にポイッと捨ててしまった。その辺のゴミを捨てるようにだ。表では、惨劇ショーが始まっていた。僕は、イフクロークの中に金庫の中身を全て移しておく。借金の証書もあったようだが、それは、すべて焼き尽くしてしまう。その後、ゆっくりと表に出て、みなを下がらせた。ボスだった男は、何か分からない物になっていた。僕は、大袈裟に手を事務所の方にかざした。手から獄炎の炎が迸る。事務所は、完全に燃え尽きて灰になったしまった。中に転がっていたゴロツキ達の死体も、当然灰となった。
町民達から歓声が上がった。町長の自宅とボスの自宅は、直ぐにシールドをかけた。誰も入れない措置を取った。家族は、町民の判断に任せた。自宅にある財産は、後で、タイタン市の徴税吏員に処理させる予定だ。それから、町役場の前で、大量の食料を積み上げ、役場の職員に配給をお願いした。後は、任せて大丈夫だろう。
町の周辺は、魔物の群れだらけだった。衛士隊は、ろくに仕事もせずに町で好き勝手をしていたのだろう。僕は、目に付く限りの魔物どもを殲滅して回った。あらかた片付いたら、もう夕方だった。後、2つの村を浄化したら、一応、北方辺境郡の平定は終わりのはずだ。
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翌日、ハルバラ町の東、ハンナ村に行ってみた。行く途中、街道上には人の姿は無く、オークなどの低級魔物が跋扈していた。僕は、飛行しながら、魔物達を殲滅して行った。ハンナ村の上空に行ってみると、人間の存在している気配は無かった。道を歩いているのは魔物ばかりだった。人間がいない、それは魔物の餌がないと同じことを意味する。魔物達は皆、飢えて凶暴な目をしていた。ゴブリンやレッサーウルフは、魔物のヒエラルキーでは最下層に位置しているので、単独ではオークなどの餌に過ぎなかった。そのため、群れることで生き延びようとしているが、オークも数匹で群れて対抗している。
村内はまるで戦場の後のようだった。これでは、人間が生き残れる訳が無い。こんな状況になるほど魔物が湧く理由は一つしか考えられない。
ダンジョンだ。ダンジョンが、村の近くにできたのに違いなかった。しかし、その考えが間違っていることに、直ぐに気づかされる僕だった。村の真ん中の広場、教会の真ん前に、大きな穴が開いていたのだ。きっと新しいダンジョンだろう。よりにもよって、村のど真ん中にできるとは驚きだ。
穴からは、時々ゴブリンやオークなどが湧いているようだが、レベルの高い魔物は湧いていないようだ。僕は、穴の側に着地した。穴は、直径20m位でかなり大きい。すり鉢上になっていて、真ん中には、底の見えない穴が下へ続いているようだ。
僕は、シールドで底の穴を塞ぎ、新たな魔物が這い出て来ないようにした。次に、僕はコマちゃんと神獣達4柱それにリバちゃんを呼んだ。皆、久しぶりだ。リバちゃんの格好に驚いた。大きく胸が開き、パンツが見えそうなまで裾にスリットの入ったドレスを着ていたのだ。いや、胸の開いた所からおっぱいの先がチラチラ見えてます。
なるべくリバちゃんは見ないことにして、村とその周辺の掃討をお願いする。コマちゃんと神獣さん達は元の姿に戻って四方に散った。リバちゃんは、つまらなそうにしていて、動こうとしない。どうしたのか聞いたら、
「ここの魔物など、妾、1人で殲滅できるのじゃ。皆が、頑張っておるから、妾は、見ているだけじゃ。」
圧倒的戦闘力を誇るリバちゃんだったが、リバちゃんと二人っきりでいるのはかなり危ない気がする。
村のあちらこちらで、『チュドーン』とか『ズゴーン』と言う音がするが、まあ、平素ペットや置物となっている神獣達には良いストレス解消になるだろう。30分ほどで、静かになった。新しくできたダンジョンの中に、死んだ魔物を入れ込んで行く。そうすれば、他の魔物が食うか、ダンジョンが吸収する筈だ。作業が終わったので、またシールドで蓋をした。皆には、帰ってもらったが、何故かリバちゃんだけは帰ろうとしなかった。二人でダンジョンを攻略しようと言うのだ。
その時、遠くから、シェルの声が聞こえてきた。
『あなた、早く帰ってきて!』
シェルの念話だった。シェルは、複雑な会話は無理だが、祈りに似た気持ちで僕に願いを伝えることが出来る。僕は、リバちゃんを放っておいて、シェルのいるタイタン市の領主館に転移した。
リバちゃんは、気が向けば『メリー・ドール2号店』に帰るだろう。まあ、何かあっても、魔物達が戦慄するだけだから、僕が気にすることはない。
新しいダンジョン発見です。しかし、ハルバラ市には、ちゃんとした冒険者ギルドはありません。冒険者が、皆死んでしまったからです。当分、ハッシュ村のダンジョンから出張冒険になります。ゴロタは、ダンジョン攻略はしません。ある程度、冒険者達に任せようと考えています。




