第25話 婚約させられてしまいました
戦争などに勝つと、祝賀パーティーがあります。その席上、爆弾発言がありました。
(11月3日です。)
授与式が終了したら、祝賀パレードだ。これも、気が重かったが、4頭立のオープン馬車に乗り、ニコニコ笑いながら左右を見て、手を振っていれば良いとのことだったので、シェルさんの隣で真似をしていたら、あっという間に終わってしまった。大勢の人たちが、微笑みながら『万歳』、『万歳』と叫んでいるのを見ていると、本当に、被害が市民の人達にまで及ばなくて良かったなと思ったゴロタだった。
まだまだ、式典は続いた。
次は、国王陛下主催の戦勝祝賀パーティだ。聞くところによると、今回の戦いでも、他国との戦争でも国王陛下の『天賦の力』に応じて戦果が決まると信じられているらしいのだ。という事は、今回は、殆どの魔物を『殲滅』したのだから、ものすごい国威発揚となったわけだ。良かったですね。アルベルト国王陛下。パーティでも、騎士団の儀典服を着たままでいた。勲章を首から下げ、爵位章を胸に付けと段々と色々なものが付いて来た。でも、まあ我慢できる。
シェルさんの後を付いて、あっちでウロウロ、こっちでパクパク、そしてついでにゴクゴク。何をどうしているのかお判りだろう。まあ、出てくる料理のおいしい事、おいしい事。宮廷料理人が腕と時間と、そしてお金をかけて作るのだから、まずいわけがない。
ちょうど、ローストビーフを真っ白なパンに挟んで食べていた時だった。スターバ王国騎士団長が小さな女の子を連れて僕のところに来た。
「ゴロタ殿。この度は本当にありがとうございました。死んだ部下たちも浮かばれました。ゴロタ殿がいなかったら、儂たちもどうなったか分からないところじゃった。本当に感謝してもしきれない気持ちで一杯じゃ。ところで、この子は、儂の孫でまだ9歳なのじゃが、どうじゃろ。ぜひ嫁に貰って貰えないだろうか。何、正妻でなくても構わぬ。第二いや第三夫人でも結構なので、是非、婚約だけでもしていただけまいか。」
僕は、思わず口にしていたパンを吹き出しそうになってしまった。その子を見てみると、金髪に青い大きな瞳、確かに可愛らしいことは間違いないのだが。何せ9歳、愛も恋も分からない歳で結婚なんて、可哀そうすぎる。そりゃ、確かに並んでみると、僕と大して変わらない大きさだし。あれ、僕より少し大きいんじゃないかな。ああ、絶対に嫌です。将来、団長のような大きな女の人になったら、怖くて口がきけません。
でも、はっきり断るのも悪いし。シェルさん。助けて。思いが通じたのか、向こうからシェルさんが近づいてきた。
「将軍閣下、可愛らしいお孫さんですね。でも、まだ9歳では、男性の魅力も分からないと思いますの。そうですね、この子が15歳になっても、まだゴロタ君のことを思い続けていたら。婚約という事になさったら如何でしょうか?」
うん、それなら6年も猶予があるから、大丈夫じゃないかな。うん。
「お姉さま、男の人と女の人の秘め事位存じておりますわ。このゴロタ様は、私の将来の伴侶として、申し分ない殿御とお見受けしました。ゴロタ様さえ良ければ、私は。キャッ、」
何が『キャッ。』じゃ。団長、どんな教育をしているのですか。この子に。
とにかく、その場はごまかして、料理の方に向かおうとしたとき、『国王陛下からの重大発表があります。』と、宰相が会場の皆に伝えてきた。
何を発表するのかなと、シュリンプサラダを食べながら聞いていると、
「本日、アルベルト・フォン・グレーテルがグレーテル国王の名において発表する。我が第二王女エーデルワイス・フォンドボー・グレーテルと、国難を救った英雄ゴーレシア・ロード・オブ・タイタンとの婚約を発表する。婚約式は来月の佳き日とする。」
フーン、エーデル姫が婚約するのか。良かったですね。あんな残念姫ですけど、可愛らしいところもあるし。エーデル姫、お幸せに。良かった。良かった。
あれ、シェルさん、何、震えているのですか? エーデル姫に先を越されたのが悔しいのですか。大丈夫ですよ。シェルさんの方が綺麗なんだから。もっと素敵な人が見つかりますよ。僕以外の。
でもこのシュリンプサラダ、おいしいな。かかっているオレンジ色のドレッシングがおいしいのかな。レシピ教えてもらえるかな。あれ、シェルさん、何か泣いているようですけど、どうしたのですか。それに周りの皆さん、僕のことをあまり見ないでください。食べるのが恥ずかしくなるでしょ。もう一皿お代わりして、向こうの方で食べようかな。
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(11月4日です。)
次の日の朝になった。ゴロタは、一睡もできなかった。何で、こんなことになってしまったの。僕が何か悪いことをした。昨日、シェルさんに頬っぺたを思いっきりひっぱたかれたし。エーデル姫には、思い切り抱き着かれてキスされそうになったし。国王陛下とフレデリック殿下は、ニヤニヤ笑うだけで助けてくれないし。
もう嫌だ。ハッシュ村に帰る。そう思ったら、国王陛下に、
「逃げられると思うなよ。婚約式が終わるまで、この街を出ることは許可できないからな」
と、本当に嫌な目つきで脅されたし。それから、泣き続けるシェルさんを連れて、自宅に帰ったら、エーデル姫がものすごい格好で待っているし。
どんな格好だったかは、このサイトの趣旨に合わないから言わないけど。それを見てシェルさんも服を脱ぎだすし。まあ、シェルさんのパンツ姿や、もっとすごい姿も見ているので何とも思わないけど。
エーデル姫に、『今日は、お城に帰って貰いたい。』と言ったら、シェルさんがここにいる間は、絶対に帰らないと言うし。結局、また三人で川の字で寝ることになって。
右側のシェルさんは、べそをかき続けるし、左側のエーデル姫は、なんかいろいろ迫ってくるし。眠れるわけないでしょう、あんな状態で。
これから眠る訳にも行かず、しょうがなく、起き出した僕は、『ベルの剣』を持って裏庭に行った。11月初旬、そろそろ朝の冷え込みも厳しくなり始めの時期だが、大きく息を吸い、剣を構える。
最近の型の練習の初太刀は、下段切りから始めることにしている。相手の戦闘能力を奪うには、立てなくすればよいのではないかと考えたからだ。以前、初めてオーガと戦った時も、そうしたのだが、あの時は、ガチンコ師匠の教えていただいた、基本技の応用で何とかなった。しかし、やはり相手が強くなってきたら、キチンと自分の型を持たなければならないと考え始めたのだ。
『下段切り』、中段やや下向きに構え、大きく踏み込んで、前膝を曲げ、姿勢を低くして斜め切りで相手の膝下を切断する。姿勢を低くしたまま、体を入れ替え、相手のアキレス腱を切断する。立ち上がって、転倒している相手を想定して、突き降ろし、そして残心を残して下がる。すべての動作に無理・無駄がなく、風も起きず、地も動かず、明鏡止水の心で斬撃を繰り返す。
同じ動作を1時間以上やっていたら、すべての邪念が消え去り、遠く渡り鳥の羽音のみが聞こえる。
部屋に戻ると、二人とも起きていた。シェルさんは、目を真っ赤にして。エーデル姫は、なぜか勝ち誇ったような顔で。コミュ障の僕にこんな状況を打開できる訳もなく、黙って朝食の準備をする。今日の朝食は、お酒を飲んだ翌朝なので、レモン粥にする。お粥に、甘く煮込んでいたレモンスライスをいれ、塩を足して出来上がり。乾燥ハーブを適当にパラリで食欲も出るはず。胃にやさしく、おいしく食べられるのが一番。あと、梅の実の塩漬けを脇に添えてと。
食事が終わると、洗い物、洗濯、簡単な掃除といつもの作業を手早く、僕が一人でやる。その後、冒険者服を着て、ギルドに出発だ。二人も黙って付いて来る。途中、誰も喋らない。でも、右手は、シェルさん。左手はエーデル姫と、両方の手を握られているのは、いつもと一緒。いや、いつもと違うことが一つ。エーデル姫が、胸を僕の腕に押し付けてきている。
手を握るのではなく、腕を組んで、ピタッとくっついてきているのだ。それを見たシェルさんも同じようにしてくる。
あの、エーデル姫、シェルさん、あなた達は僕よりもはるかに大きいのに、そんなにくっつかれたら、僕、歩けなくなるのですが。
何とかギルドに着いた。今までのイチャイチャぶりを見ていた皆は、仲の良い姉妹をみるような目付きだったが、昨日の婚約発表のニュースは、市内、いや、国内中に知れ渡っているみたいで、今までよりも目線がきつくなっているような気がした。
とにかく、ギルドの3階で冒険者カードを機械に入れて、シェルさんの能力を確認してみることにした。
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【ユニーク情報】
名前:シェルナブール・アスコット
種族:ハイ・エルフ
生年月日:王国歴2005年4月23日(15歳)
性別:女
父の種族:エルフ族
母の種族:ハイ・エルフ族
職業:王族 冒険者C
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【能力】
レベル 23( 7UP)
体力 120(60UP)
魔力 130(10UP)
スキル 80(25UP)
攻撃力 150(90UP)
防御力 60(15UP)
俊敏性 100(40UP)
魔法適性 風
固有スキル
【治癒】【能力強化】【遠距離射撃】【誘導射撃】
習得魔術 ウインド・カッター
習得武技 【連射】
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レベルの上がり方が、凄い。一気に7も上がってしまった。また、攻撃力が150なんて、『B』ランク級の攻撃力だ。体力もこれだけ上がれば、強力な弓だって弾けるはずだ。
シェルさんが、ボウガンを使っていた理由は、体力がなくて、強力な弓が弾けなかったからだ。ボウガンは、威力はあるが、連射性では、弓に負けてしまう。まあ、シェルさんの【連射】スキルで何とかなったが、やはり弓にはかなわないだろう。あと、経験も十分だし、冒険者カードも更新しなくっちゃ。
どうも、異世界では、多重婚は普通のようです。子供が育ちにくい厳しい環境では、しょうがないことかも知れません。でも、ある程度、年収がないと多くの妻を持つことが出来ないそうです。ちなみに、国王様は、養子なので第二婦人はいません。