第261話 タイタン市の静かなる聖夜
タイタン市のクリスマスイブは、ゴロタで始まり、ゴロタで終わってしまうようです。
(12月24日です。)
王国暦2026年も間もなく終わろうとしている。僕は、この日、午前4時にタイタン市の北の森にいた。と言っても、誰も来ない西の端の方だ。今日は、聖夜、七面鳥が湧く日だ。まだ森の中は真っ暗だ。樹々の梢の葉が、月の光を遮って漆黒の闇だ。しかし、僕の『暗視』スキルで、昼とは行かないが夜明け直前の明るさで見る事ができる。
いた。七面鳥が、枝に鈴なりに止まっている。皆、グッスリ眠っているのか微動だにしない。僕は、他の七面鳥が起きないように、そっと1羽ずつ、生きたままイフクロークに放り込んでいく。100羽ほど捕まえてから、公爵館に戻った。まだ夜明け前だ。裏庭の端に大きな穴を開けた。昨日のうちにコンロを組み上げておいたので、メイドさん達が大きな鍋にお湯を沸かしていた。穴の上に、長い物干し竿を10本渡しておく。僕は、ベルの剣を持つと、イフクロークの中に手を入れ、1羽の七面鳥を取り出す。当然、まだ生きているので暴れ出すが、直ぐに首を切り落とす。それから、1番上段の物干し竿に、首を切り落とした七面鳥の足を結えつける。
ポタポタと血が垂れ落ちる。100羽の七面鳥を処理するのに1時間ほど掛かってしまった。まだ日の出は来ない。最初に首を落とした七面鳥は、もう血が垂れていなかった。次々と、鍋の中に七面鳥を入れていく。メイドさん達が冷えないように大きなシールドをかけている。シールドの中は鍋の火で暖かい。熱めのお風呂の温度にしているお湯に3分ほど入れて、羽の毛根を柔らかくして、一気に羽を毟る。羽は、後で穴の中に入れるが、取り敢えずは飛び散らないようにバケツの中だ。大きな羽を全てむしったら、メイドさん達が小さな羽毛をピンセットで丁寧に抜いていく。ある程度抜いたら、僕が火魔法で、表面の抜けきらなかった羽毛を焼き落とす。これで、表面の殺菌もしているので日持ちがいいはずだ。
クレスタとノエルは、昨日からケーキ作りだ。当然、店用だ。もう、店の儲けなど微々たるものになる程裕福なのだが、女性陣にとっては、そういうものではないらしい。あ、そういえば黄金のグレムリンは、大金貨9800枚で売れた。オリハルコンのゴーレム兵は、大金貨1200枚だった。オリハルコンの軽装兵は、10体ほど上下をつなぎ合わせた後、アテーナー様に命を与えて貰った。これは神様にしかできない技だ。ゴーレムの口に自分の口を近づけて『フッ』と息を吹きかけるのだ。
感心していると、
『何を感心しておるのじゃ。ティターン族の末裔のゴロタよ。やってみよ。』
僕は、真似をしてみた。息を吹きかける時、自分の中の力を移す感じですると、ゴーレムが動き始めた。彼らは、屋敷内の警備をしてもらう。土から作るゴーレムより役立ちそうだ。しかし、エネルギー補給の仕組みが分からない。
全ての処理が終わったら、妻や婚約者達の実家にお裾分けだ。昨日から、アテーナー様達も来ている。部屋はアテーナー様が2階の南側の部屋、ステノーさん達が1階の客間にした。
昼食後は、いつもの通り握手会だ。今日は、去年の優待券を持っている娘だけなので、100人ほどだった。それでも2時間ほどかかってしまった。後は、店の奥のカウンターに立ち、お客さんにニコリと笑いかけるだけだ。買い終わったお客様は、横の通用口から出てもらう。混乱を避けるためだ。夕方6時には、店内の商品は無くなった。倉庫から、明日、王都などへ帰る人達のためのお土産品を並べる。明日で、年内の営業は終了だ。
さあ、これから皆で聖夜の晩餐会だ。料理はノエルが、陣頭指揮をして貰った。昨日のケーキ作りから始まり、大変だったようだ。アテーナーさん達は、庭でブラブラ散歩したりしていたが、街には出ないようにお願いしていた。料理は、大きなエビのグラタン、アワビのスープ、魚の串焼きそれに七面鳥だ。そのまま食べると手が汚れるので、サンドイッチにもしておいた。最後は、生チョコをたっぷり使ったデコレーションケーキと、ミルクたっぷりのプリンだ。エウリュアレさんは、際限なく食べ続け、ステノーさんに叱られていた。アテーナーさんは、上品な食べ方だったが、七面鳥を食べて汚れた手を当然のようにテーブルクロスで拭いていた。きっと、それがマナーだったのだろう。
いよいよプレゼントの時間だ。皆、ダイヤの髪飾りにした。バラの花の形だ。葉は、エメラルドをちりばめている。1個金貨7枚だった。
セバスさん達、執事さんやメイドさんには、金貨1枚をボーナスで上げた。イチローさん達には金貨2枚を渡した。情報収集に頑張って貰ったお礼だった。明日で、使用人達は仕事納めだ。
来年1月5日の仕事始めまで長期休暇だ。アテーナーさんは、オリンポスの神殿に帰ってもらう。王都の屋敷は、警備の者以外は誰もいなくなるのだ。警備の者も交代交代だ。裏門と屋敷内は、メタルゴーレムに任せているので、正門だけ見て貰う。年末年始手当で、1当番銀貨2枚を支給することになっていた。
エクレア市とニュータイタン市の旧領主屋敷は、改装中だ。迎賓館と、臨時の宿舎にするつもりだった。しかし、バンブーさんが点検したら、かなり痛みが激しいので、修繕に1年以上かかるみたいだ。今は、調度品は全てイフクロークに収納しているが、完成したら警備隊を常駐させなければならないだろう。
ステノーさん達は、王都よりも、この屋敷の方がいいと言い始めた。料理の味が良いのと、アテーナーさんと一緒だと緊張してしまうそうだ。アテーナーさんの意見も聞かなくてはならないが、この領主館も別館を建てなければならないかも知れない。
翌日、アテーナーさんはニケ神殿に帰っていった。ステノーさん達もケトさんの海底神殿に帰れば良いのに、帰りたがらなかった。理由は、年末に夜の当番が回ってくるからだそうだ。それから、毎日、ステノーさん達の、タイタン市散歩が始まった。朝、10時に公爵館を出て、メイドさん3人と一緒に、ゆっくりと市内に向かう。約1時間かけて中央広場まで来ると、噴水脇のベンチに座って、メイドさんが出す携帯のお茶セットでお茶を飲む。テーブルは、空間から出している。昼食は、近くのレストランだ。エウリュアレさんが、丹念に調べ上げて、いく店を決めている。
店が決まると、メイドさんが席の予約に行く。店によっては、午後1時にならないと席が空かない店もあったが、全く気にしなかった。ステノーさんは、いつも半分位残してしまうが、2人前を食べ終わったエウリュアレさんが、残りを全部食べ切ってしまう。
それから、行政庁や騎士団本部などの官公庁を回って、午後3時に公爵館に帰るのだ。タイタン市でも、見物客ができて、ダーツさんが苦労していた。僕は、ジェリーちゃんと2泊3日のお誕生日旅行だ。ジェリーちゃんも15歳、早いもんだ。6年前、スターバ閣下から紹介された時は9歳のジャリッ子だったのに。最近、胸も出てきて大人っぽくなってきた。ただ顔はソバカスの跡があり、子供のままだった。
父親のブロックさんに旅行に行く許しを貰いに行ったら、自分か母親が一緒に行くと言われたそうだ。ジェリーちゃん、顔を真っ赤にして怒り始めた。家出をするとか、親子の縁を切るとか、何処かで聞いた話だ。僕が、絶対に手は出しませんと約束して、やっと許可を貰った。旅行計画は、ジェリーちゃんがブリちゃんと一緒に考えていたらしい。あ、ブリちゃんとも行かなければならないんだっけ。最終目的地は、和の国だ。その前に、ブリちゃんの故郷の国に行ってみたいそうだ。お泊まりは、ホテルではなく、もっと南の最果ての谷でキャンプしたいそうだ。
ジェリーちゃん、クレスタかエーデルに何か聞きましたね。ダメです。約束したのだから、清い旅行ですよ。旅装を整えた。ジェリーちゃんは、タイタン学院中等部の制服に、羽毛入りのコートだ。その制服、随分スカート丈が短いようだけど。
ジェリーちゃんが言うには、可愛い制服を着れるのは今しかないのだから、存分に皆に見せつけてやるそうだ。あれ?昔のビラを思い出す。そう言えば、ノエルもあった頃は、誰も履いていなかったミニスカートを履いて、僕の下宿に来ていたっけ。
モンド王国の王都に転移した。年末の所為か皆、慌ただしく歩いていた。一気に夏真っ盛りだが、それほど暑くないのは緯度のせいだろうか?
僕とジェリーが、防寒服を脱いで、ブラブラ歩いていると、皆、注目している。僕の身長は、この国では珍しくない。この国の大きい男性は、220センチ位あるからだ。
しかし、上等な貴族服を着て、背中に長剣を背負っている超イケメンの僕と、まだ幼いが、超可愛い制服を着ているアイドル風の女の子が腕を組んで歩いているのだ。注目するなと言うのが無理だ。
お昼時だったので、高級そうなレストランに入っていった。予約が無ければ入れないと言っていたが、予約料で銀貨2枚を渡したら、奥の貴賓室に案内してくれた。料理はお任せで、2人で楽しんでいたら、部屋のドアがバタンと開けられた。ドアの方を向くと、女の子が立っていた。身長が160センチ近くあったが、デビちゃんとすぐ分かった。僕は、何故デビちゃんが、ここにいるのか分からなかった。デビちゃんは、手を握りしめ、肩をワナワナ震わせながら、大粒の涙を流していた。
不味い、このシーンはとっても不味いシーンだ。いかに鈍感、絶対的発展途上、空気読めない男子の僕でも、ピンと来るシチュエーションだった。
この頃、タイタン市には領外からの転入が続いています。人工も10万人に届きそうです。




