第256話 荒ぶる海の神ポセイドン
久しぶりにゴロタの全力での戦いです。でも、世界を消滅させてはいけません。
3人で暫く待っていると、急に海の波がうねり始め、沖合に大きな渦ができていた。渦の中から1人の男が現れた。大きい。上半身だけで500mはある。その1キロ位先に大きな魚の尻尾が海面に出ている。手には、黄金に光輝くトライデントを持っている。きっと、この男の人が『ポセイドン』さんなんだろう。
ポセイドンさんは、ドンドンこちらに向かってくるが、近づくごとに身体が小さくなっていく。波打ち際に上がった時には人間サイズになって、足が生えていた。一緒に上がってきた女性が、ポセイドンさんの肩に布をかけてあげた。自分は、まだ裸だが気にしていない。きっとポセイドンさんの妻のアムピトリーテーさんだろう。もの凄い美女だ。アムピトリーテーさんも直ぐに服を着て、こちらを向いた。ポルキュースさんが、ポセイドンさんに声をかけた。
『久しぶりじゃの。ポセイドン殿。』
『うむ、息災でしたか?ポルキュース様。』
一応、ポセイドンさんが後輩なので、敬語だ。ポルキュースさんが、僕を紹介した。僕は、膝まづいて臣下の礼のまま挨拶をする。朝貢品として、羊10頭を差し出す。
『羊は飽きた。他にないか。』
我儘な神だ。取っておきの『猪の魔物』のロース肉を100キロほど積み上げる。これは、通常の猪の10倍は美味い。それと完全熟成の鹿肉を1頭分、それにスモークターキーを10羽分出した。
アムピトリーテーさんが合図をすると、貝殻で胸を隠し、腰にエプロンだけをしているメイドさん達が、貢物を何処かへ運んで行った。裸エプロンのメイドなんて何を考えているんですか。
『珍しい物、遠慮無くいただく。ところで用件は、何じゃ。』
僕は、いくつかの事を申し入れた。
・メデューサを妻として認めてくれること。
・二人の息子を我が子と認知すること。
・貢物の羊を半分、ポルキュースさんに分けてくれること。
この3点についてお願いした。最初のお願いで、ポセイドンさんの眉が釣り上がっていたが、子供がいると聞いて、諦めたようだ。天上界の神々は、原則一夫一婦制だ。嫉妬心が強い神々には、一夫多婦制は許せないのかも知れない。その代わり、性風俗は乱れているみたいだった。ポセイドンさんは、ポルキュースさんと小声で相談していた。どうやら、例の火球の話をしているらしい。ポセイドンさんは、僕の方をチラチラ見ていた。ポセイドンさんは、話を聞き終わってから、僕の方を向いた。顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。
『話は、分かった。2番目と3番目は言う通りにしよう。』
「1番目は?」
『それは、儂の一存では決められない。妻のアムピトリーテーが了解しなければならんでな。』
突然、メデューサさんが口を開いた。
『私、もう妻にならなくても良いと思っています。子供達も大きくなったし、だから気にしないでください。』
『うむ、それでは1番目の話はなかったことにしよう。ところで、ゴロタよ。そなたの実力を見せて貰いたいのだが。』
そういうと、いきなり『トライデント』が僕の頭上から襲い掛かって来た。ポルキュースさん達3人は、急いでドアを開けて外に避難した。
僕は、『トライデント』の三又の穂先を掴むと、横に薙ぎ払い、そのまま背中の『オロチの刀』を抜刀して、上段から切り下した。ポセイドンさんは、『瞬動』で10m位下がり、『トライデント』を僕の方に突き出してきた。三又の穂先が僕の方に向かって伸びて来る。10m以上も伸びるなんて違反だと思ったが、僕は、伸びて来る穂先を交わして、剣の鎬を槍の柄に当ててながら、前に進んでいった。
もう少しで、ポセイドンさんに到達するというやにわに、ポセイドンさんが大きな口を開けて、ウオーターカッターを放ってきた。至近距離だっただけに躱せないと思ったが、『蒼き盾』が『バシュ!』と音を立てて防いでくれた。
僕は、左手で『オロチの刀』を持ち、右手に『紅き剣』を出現させて、二刀流で戦う事にした。『紅き剣』は、ショートソードサイズだ。ポセイドンさんは、槍の長さを戻して、槍の間合いで、僕と対峙した。僕は、胸がワクワクしていた。剣と槍の違いはあるが、数合打ち合うだけで、ポセイドンさんの実力が分かって来た。槍の伸ばす速度は、僕の目にも見えない位早い。気配を感じて躱すのが精一杯だった。ポセイドンさんも僕の『打ち』を、紙一重で躱す。しかし、お互いにどうしても躱せない時があった。ポセイドンさんは、身体の至る所が切り傷だらけになって来た。僕は、寸前で『蒼き盾』により、防いでいたので、傷つくことはなかった。
ポセイドンさんは、100m位下がって、海の中に潜った。次に浮上してきたときには、身体には傷一つなかった。これはズルい。ポセイドンさんの身体が、グッと持ち上がって来た。海が盛り上がっているのだ。大きな波が、僕を襲ってきた。僕は、シールドで波を防いだが、引き波が強く、身体を持って行かれてしまった。凄い速度で沖合まで流されていく途中、殺気を感じた。ポセイドンさんが、高い波の天辺から、『トライデント』を構えて飛び降りて来たのだ。僕は、『紅き剣』をポセイドンさんに向けて突き出した。赤い閃光がポセイドンさんの胸を貫ぬく。さすがに、攻撃態勢に入っていたポセイドンは躱すことが出来なかったようだ。ポセイドンさんは、右胸を抑えているが、夥しい血が流れ出て来た。ポセイドンさんは、飛び下がって、海水を浴びた。右胸の穴がふさがってしまった。ああ、きりがない。僕は、空中300m位のところに飛び上がり、魔法呪文を詠唱した。最大級の魔法をお見舞いする気だ。
「暗き雲より出でしもの。全てを貫く電撃の剣よ。わが名は僕。至高にして雷神を名乗るゼウスに我は命ずる。」
「ギガ・サンダー・サイクロン・ボルテージ」
一瞬にして、空は分厚い雲に覆われ、その切れ目から、まばゆいばかりの雷撃が渦を巻きながら、ポセイドンさんの上に直撃した。しかも、数えきれないほどの数だ。
ズゴゴゴゴ、ドドドド、ゴロゴロゴロゴロ、ドッカーーーーーーン!!!
海面が、帯電量に耐えられなくなって、雷撃を上に登らせている。ポセイドンさんは、真っ青な光に包まれたかと思うと、海面の中に入って行った。身体からパチパチ電気がショートしている。ポセイドンさんは、真っ黒こげになった。しかし、海面の中から出て来た時には、火傷一つしていない綺麗な身体だった。本当にチートだった。
ポセイドンさんは、『トライデント』を空高く掲げた。『トライデント』の3つに別れた槍の穂先がそれぞれ違う色に輝いてきた。
右端の青白い光の穂先からは『雷撃』が飛び出してきた。
左端の真っ赤な光の穂先からは『業火』がうなりをあげて僕を襲う。
そして最後の真ん中の水色の光の穂先からは、特大のアイス・ランスが飛び出してきた。
僕は、全てを受け止めることにした。どう見ても、僕を傷つける程の威力を感じない。『紅き剣』を納め、右手を開いて、前に突き出す。『蒼き盾』が、シールドの様に僕を包む。ポセイドンのすべての攻撃を跳ね返してしまった。雷撃は吸収してしまった。業火は立ち消えになった。アイスランスは、カンカンと音を立てて落ちて行った。
僕は、『オロチの刀』を納め、『紅き剣』を大剣サイズに換えた。力を込めてやる。剣が真っ赤に光る。もっと力を込める。剣の光が真っ白になった。僕は、そのままポセイドンさんの方に向かって、剣を上段から大きく切り下げた。力が迸る。ポセイドンさんのいる場所の手前から、海面が切れ始めた。ポセイドンさんを真っ二つにして、その先の海を大きく切り裂いて行った。海水を切っているのではない。消滅させているのだ。湯気も出なかった。物凄いエネルギーが、物質の存在を消滅させている。
ポセイドンさんも死んだかなと思ったら、はるか沖のかなたに、大きな体で復活していた。瞬間、実態をすてて思念体になり、時空間移動をしたらしい。実体のない者、つまり質量の無いものであれば可能な技だ。ポセイドンさんは、海中に潜って行った。そして、僕の切り裂いた海の谷に、周りから海水が滝のように流れ込んできた。どこかで見たことがあるようなシーンだったが、思い出せなかった。
これくらいでいいだろうと思い、僕は、浜辺まで戻り、半魚人メイドさんにドアを開けて貰って、ポセイドンさんの神殿に戻った。そこには、ポセイドンさんの奥さんのアムピトリーテーさん、それにポルキュースさんとメデューサさんがいた。僕が無傷で出てきたので、アムピトリーテーさんが慌てて、浜辺の応接室の扉を開けて中に入ろうとしていた。だが、扉は向こう側から開けられた。素っ裸のポセイドンさんが出て来た。体中、どこにも傷がない。アムピトリーテーさんが慌てて、空間から服を出して掛けてあげる。
ポセイドンさんは、服を着ると、僕達を神殿の奥の部屋に案内してくれた。奥の部屋といっても、何もないところだ。ポセイドンさんが、手を伸ばすとドアが現れる仕組みだ。そこは、普通の部屋だった。まあ、普通と言っても、ドアの向こうが浜辺になっている部屋よりも普通だというだけで、大きな広間になっていた。真ん中に、応接セットが置かれていて、大理石の立派なテーブルがソファの間に置かれている。ポセイドンさんは、僕がソファに座ったのを見てから、話しかけて来た。
『今回、お主と戦ってみて分かったのだが、お主は『全てを統べる者』だという事は、本当のようだ。』
僕は黙っていた。さっきの戦闘で、少なからず疲れてしまったのだ。ポセイドンさんは、今夜は、ここに泊まって行くようにと言ってきたが、ステノーさん達が心配しているので、帰ると言った。それを聞いたポセイドンさんは、非常に残念そうな顔をしたが、それは無視することにした。どうも、先程からメデューサさんを見る目が粘っこいので、きっと目的が違うのだろう。
約束の二つ目は、既に実行しているそうだ。ポルキュースさんの神殿倉庫には、山のように羊肉が積まれているそうだ。また、メデューサさんとの子供2人については、自分の神殿を訪ねて来るようにと言ってくれた。
最後に、重大な話があった。ステノーさんを始め、ゴルゴン3姉妹の呪いを解くことが出来るそうだ。それは、永遠の処女神アテーナー様の許しを得ることが出来れば良いそうだ。もう、ポセイドンさんは、内諾を得ているそうだ。あとは、メデューサさんが直接行って謝れば良いそうことになっている。
ああ、まだまだタイタン市には帰れそうにありません。
ポセイドンさんは、とても女好きです。奥さんがいるのに、次から次へと愛人を作り、どこでもエッチをしたがるみたいです。




