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第255話 ポルキュースさんの憂鬱

ポルキュースさん、殲滅されないで良かったですね。殲滅すると、お話が難しくなるので、降参で戦いを終わらせました。

(今日が、いつかなんて分かりません。)  

  天上界は、唯一の絶対神がいるわけではない。能力や身体的特徴に差はあっても、それだけで価値を決めようとするのは、天上界を知らない地上界の者達だけだ。時空が違っても、すべての始まりは光だった。光が生まれる前のことは知らない。光はエネルギーであり、エネルギーは物質であった。神々も、光と実体の混在により存在している。精霊は、ほぼ光であり、ポルキュースさんのような神は、ほぼ実体であった。


  地上界にも様々な宗教がある。太陽神を崇める宗教もあれば、創造神を唯一絶対と信ずる者もいる。中には、神の使徒を信奉する宗教や、使徒の教えを絶対とする人たちもいるそうだ。


  大精霊のイフちゃんだって、実体化出来る炎の思念体だとすれば、神と変わりはないが、神と崇める人間がいないだけだ。コマちゃんやトラちゃんだって、天上界の存在で、地上界での役割を果たしているに過ぎない。人間も、多くの人間は死んで思念体になり転生を繰り返している。僕のように、過去の記憶を持つことは、珍しいが無いことではない。


  時々、神の生まれ変わりとか、過去の実在した著名人の生まれ変わりだと言う人間が現れるが、あれは、ほぼ間違いで、思念体が実体化するために人間を依代にすることはあっても、実体化している神が、人間に生まれ変わる必要はない。現にステノーさん達は、そのままの姿で地上界に来ることができる。また、僕の両親のように目的を持って人間として生まれる者もいる。


  ポルキュースさんは、もうそろそろ、全ての海を支配する海の神をやめたいそうだ。海の神と言っても、何が出来るわけでもない。精々、さっきのように海面をうねらせる位だ。海の生き物達は、下等な者が多く、ほとんどが神の存在を知らない。人間の多くも、海で何か有ればポルキュースさんを恨む事はあっても、感謝することは年に1回の海のお祭りの時だけだ。それも形式的にだ。


  大体、ゴルゴン3姉妹の父で、妹に子供を産ませた神として有名なのが気に食わない。あの3人が魔物のような姿になったのだって、メデューサさんが今の海神ポセイドンと不義密通をしていたことが原因だ。あろうことか、二人は永遠の処女神アテーナー様の神殿の中でエッチしたものだから、行かず後家のアテーナー様の逆鱗に触れてしまった。しかし、ポセイドンはゼウスに匹敵するだけの強さを誇っていたため、メデューサだけが罰を受けてしまった。まあ、股の間が緩いメデューサもいけないのだが。それで、よせば良いのに、ステノーさんとエウリュアレさんが片手落ちの処分に文句を言ったら、二人もおまけでゴルゴンにされてしまった。ステノーさんだけは、髪の毛が蛇にならずに済んだが、下半身が蛇になってしまった。


  ポルキュースさんは、ポセイドンには全く敵わないので、早々に引退をしたのに、この仕打ちは酷すぎると思うのだった。ポルキュースさんは、今まで、ケトさんしか女性を知らない人生だった。しかし、最近は、もう魔物を産むのは嫌だとケトさんが夜の営みを拒んでいるので、いつも一人で寂しく寝ている。いわゆる家庭内別居だ。


  これも、あのゴルゴン姉妹のせいだと思うと、つい荒く扱ってしまう。後で、ケトさんにきつく叱られるのだが、懲りないポルキュースさんだった。僕は、ケトさん達に夕食を作る事にした。ここのところ、ずっと食事当番だ。ステノーさん達は、今まで長く生きてきたが、本格的に料理はしていないそうだ。まあ、ゴルゴンの姿でフライパンを持たれても笑えてしまう。


  今日の夕食の希望を聞いたら、肉料理がいいと言われた。ずっと海のものばかりを食べていたので、魚料理には飽きていたそうだ。厨房を借りて料理をすることになったが、厨房にはケトさんが使用しているシェフがいた。人間のような姿をしているが、何か変だ。赤い顔で眼が凄く離れていて黒いガラス玉を嵌めているみたいだった。後、腕が4本、脚が4本あり、うでの先には吸盤の付いた先っぽがあるだけだった。シェフは蛸人間だった。得意料理は『粉もん』で、丸い半円の窪みのある鉄板で、団子のように丸く焼く料理が得意だった。うん『たこ焼き』のタコなしですね。あ、自分の腕を切っていれるのは辞めて下さい。


  僕は、イフクロークから子羊を丸ごと取り出し、胸の所の部位を骨ごと切り分けた。後、背中の脂身が多い部分も取り分けておく。骨付き肉は、そのまま香草と共にオイル焼きだ。出て来た肉汁でソースを作った。背中の肉は、スパイスでよく揉んでから、岩塩に包みオーブンで焼く。岩塩は、魚の形にしておいた。魚かと思うと、肉だったというサプライズ用だ。後、鍋に山盛りに野菜を盛り、その上に薄く切ったバラ肉を並べ、火にかけて蒸し焼きにする鍋料理も準備した。


  最後に酢飯に魚や貝をスライスした物を乗せて食べる、和の国の料理も作った。山葵や醤油などは、前に買っておいたものがあるので困らなかった。


  食事は、大好評だった。僕は、同じものを6人分作り、ステノーさん達がいるバンガローに持っていってあげた。食べ方を教えてあげてから、海中の神殿に戻って行った。ポルキュースさんが、何もしないから皆で一緒に食べたいと言っていたが、ケトさんが静かに首を横に振っていた。


  ポルキュースさんは、久しぶりの羊肉に舌鼓を打っていた。昔は、よく貢物で子羊が手に入ったが、今、海に関する貢物は全てポセイドンが総取りしている。娘を慰みものにされ、貢物は取られで踏んだり蹴ったりだ。でも、実力差を考えると、逆らうことができない。


  それを聞いていた僕が、明日ポセイドンさんの所へ行っても良いと言った。ポルキュースさんは、目が点になった。この人間は何を言っているんだ。人間が、神に敵う訳無いだろう。しかし、ポルキュースさんは大きな勘違いをしていた。神である自分が、僕に手も足も出なかった事を忘れている。ポルキュースさんは、僕に質問した。


  『ポセイドンに会って何をするのか?』


  「ポセイドンさんに、毎年の貢物の半分をポルキュースさんにくれる事と、メデューサさんの事をちゃんと責任取ってくれるようにお願いするつもりです。」


  『もし、断られたらどうするのだ?』


  「素直に諦めますが、癪に触るので、特大火球でも破裂させます。」


  『火球とは、あのキノコ雲が出るやつか?』


  「はい、今まで最大の力を発揮したことが無いので、試してみようと思います。」


  『え?あれよりも大きいのか?』


  「はい、あの10倍は余裕です。』


  ポルキュースさんは、あれの10倍以上ということは、海が無くなってしまうと考えていた。しかし、ポルキュースさんは、またまた大きな間違いをしていた。僕は、力が10倍ではなく、火球の大きさが10倍と言ったのだ。体積にすると10の3乗だから、質量も1000倍、エネルギーも1000倍と言うことになる。


  天上界がいかに広いと言っても、完全にオーバースペック、結果が恐ろしいのだが、皆、何も考えずに鍋をつついていた。


  この日の夜、バンガローに帰ったら、メデューサさんが起きていた。


  「メデューサさん、僕、明日ポセイドンさんに会うんだけど、メデューサさんはどうする。」


  『もう、ポセイドン様には興味はないけど、2人の間の子の事は、正式に認めてもらいたいの。』


  爆弾発言だった。子供がいる?どう見ても16歳位の女の子なのに、神様は本当に狡いと思った。メデューサさんとポセイドンさんの間には、2人の男子が生まれていた。黄金の剣を持つクリュサオルと天翔る馬のペガサスである。クリュサオルは、エキドナさんの父であり、やはり魔神であった。ポセイドンさんは、この2人が自分の子である事を認めていない。メデューサさんがアテーナーの怒りを買い、ゴルゴンになったことからポセイドンさんに捨てられ、その後に生まれた2人だったからだ。僕は、ポセイドンさんへの要求事項を追加することにした。子供の認知だ。男として責任を取ってもらおう。


  翌日、メデューサさんと一緒に海底神殿に行った。メデューサさんとポルキュースさんが会うのは3000年ぶり位だそうだ。最初、2人は黙っていたが、ポルキュースさんが一言


  『息災か?』


  メデューサさんは、大きな涙を浮かべながら頷いた。涙には、二つの意味があった。久しぶりの父親の変わらぬ姿に、昔の楽しかった時の頃が思い出されるとともに、自分のせいで魔物の父にしてしまった事のお詫びの気持ちだった。しかし、父への畏れと照れがあり、ケトさんの時のように抱きつく事は無かった。





  これからポセイドンさんに会いに行くことにした。ポセイドンさんの神殿は、ここから2パーセク位離れた所にあるそうだ。『飛行』などでは行けないので、空間転移で行くそうだ。1パーセクは約3光年なので、光の速度で進んでも6年半かかってしまう。やはり空間を曲げてゲートを繋げるしか方法はないのだろう。しかし、そんな距離の空間を繋げるなど、さすが神様である。


  開いたゲートを潜ると、そこはポセイドンさんの神殿だった。デカい。際限なくデカい。こんな大きさが必要かと思うくらいだ。石柱が立っているが、上の方は雲に隠れている。石柱の間は、狭いところでも100mはある。石柱だって、太さが20mはありそうだ。


  入り口に半魚人がいた。門番だろう。身長が3m位だが、見た目は人間だ。ただ、首の所にヒレがついているので、半魚人だと分かる程度だ。


  『これは、これはポルキュース様、お珍しい。本日は何の御用ですか?』


  『こちらのゴロタ殿が、ポセイドン殿に会いたいそうじゃ。案内せよ。』


  『しばらく、こちらでお待ちを願います。』


  門番が、空間にドアを出して開けてくれた。中は、応接間だったが、静かな入江の波打ち際の砂の上だった。応接用のソファセットがパラソルの下にセットされていた。女性の半魚人が、お茶を持ってきた。お茶は、当然、昆布茶だった。

ポルキュースさん、羊が欲しいなんて、情けないです。でも、海の神様に羊を飼う事はできません。

最後は、すみません。ギリシャ神話の天上界で昆布茶って、絶対に笑えます。自分なら。

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