第249話 ベスという少女
ニュー・タイタン市では、違法売春宿がはびこっているようです。クリーン作戦を実施します。
(11月1日です。)
今日は、エーデルの誕生日だ。誕生プレゼントは、本人の希望で、2泊3日の旅行か、宝石の選択制にしたら、エーデルは旅行を選択した。直ぐに、クレスタの誕生日が迫っていたので、10月29日から今日までお誕生日祝い旅行に出かけていた。
旅行といっても、1日目はモンド王国の南の谷に行って野営した。到着するなり、露天の温泉に入りたがった。当然、お風呂に入るだけでは無い。その後、2人で谷川の中を探索したが、まあ、もう直ぐ11月なので、北半球の5月の陽気だ。風邪は引かないだろう。辺りは、新緑の香りにむせ返りそうで、雲ひとつない満天の星空の下、長い夜が始まった。
次の日は、1日、河原の珍しい石や金鉱石を採取し、この日の夜はニース・タウンの別荘に泊まることにした。これもエーデルの要望だった。エーデルは、国王陛下である父に、自分の子を見てもらいたいらしい。しかし、やはりエーデルはこの日、受胎しなかった。
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今日は、国王陛下から招待されて、エーデルの誕生パーティーだった。国王陛下から、お願いがあった。皇太子殿下に男の子が生まれないらしい。女の子が2人続いているのだ。もし僕とエーデルの間に男の子が生まれたら、皇嗣として王宮内で育てたいし、できれば先に生まれた孫娘と結婚してもらいたいとのことだった。いわゆる従妹結婚だ。物凄く、不確かな将来だが、生まれてくる本人の意向次第だと思う僕だった。
パーティーの料理は食べ切れないほどで、大量に余っていたので、公爵邸からエウリュアレさんを呼んで良いかと聞いたら、是非、招待したいと国王陛下が仰った。僕は、エウリュアレさんだけを呼ぶつもりだったが、メデューサさんも来たがっていると言われた。しかし、ステノーさんが行きたがらなかったので、ステノーさんがいない時のメデューサさんの危険さを知っている僕は、次の機会にしてもらった。
エウリュアレさんは、もう夕食は終わっていたが、お腹の調子は大丈夫というので、ロングドレスに着替えて貰って王城に向かった。この日、王城では、長らく破られなかった大食い記録が更新されたそうだ。
夜、エーデルと別荘に泊まった。これで3夜連続となってしまった。
翌々日は、クレスタの誕生日だった。クレスタも旅行を望んだ。もう、数日前から頬がピンク色だ。何を考えているのか直ぐに分かってしまった。クレスタも、エーデルと同じ旅行コースを選んだ。旅行の新鮮さが無いような気がしたが、目的が目的だから仕方がない。帰りに、父親のガーリック伯爵邸に寄ったら、ここでも子供の話になった。孫が生まれたら、ぜひここで育てたいと言ってきた。それもクレスタと子供が決めれば良いと思ったが、まだ子供も出来ていないので、頷くだけにしていた。
ジェーンもきっと欲しがるだろうと思った。ビラはどうだろう。ビラには僕しかいない。生きる拠り所が僕だけでは、余りにも悲しい気がした。仕事も、魔法学院の教授は楽しいらしいが、子供を育てる楽しみは、仕事とは違う楽しみだろうと思う僕だった。
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11月7日にお誕生日祝い旅行から帰ってきたら、イチローさんが、領内情勢について報告に来ていた。エクレア市を拠点とする商会が、ニュー・タイタン市つまり旧ブリンク市と周辺の町で、非合法の娼館を開業しているらしいとのことだった。ニュー・タイタン市周辺を領地にした時、ニュー・タイタン市内のいわゆる色街には多くの娼館があった。しかしタイタン領全土に公布している売春宿健全営業法、略して『売営法』による届け出を求めたところ、全て廃業してしまったのだ。それまで殆どの娼婦は、奴隷として買われてきたか、借金のかたに年季奉公という名の買われて来た者ばかりだった。
奴隷の娼婦は、稼げなくなるまで働かされ、報酬は無かった。また、借金のかたの年季奉公は、年季が上がるまでは、ほぼただ働きで、年季が明けても、稼ぎが悪かっただの食費がかかり過ぎただのとと理屈を付けて、借金を返し続けさせた。
それが、タイタン領の『売営法』では、奴隷による売春及び借金返済のための売春は禁止している。売春により得た収入は、全て娼婦のもので、経営者は、部屋代及び消耗品代を法定額で徴収することができる。また、客の飲食代及び掃除、洗濯及び入浴の実費を徴収できるだけだ。
奴隷の購入代を奴隷の借金又は売り上げノルマとしてはならない。つまり奴隷の購入費は丸損だ。娼婦にとっては、トレード費用のようなもので、本人には関係ない経費となる訳だ。後、借金のある娼婦は、今までの労働期間に応じて定められた計算により借金を棒引きにし、残額は年5分の利率で30年以上の分割で返済させることにしている。
また、病気、怪我等で客を取ることができなくなった場合は、借金は、損金として扱える。つまり娼婦は、借金なしで自由になるということだ。これでは、利益が出ないとほとんどの業者は廃業したのだが、娼館はそのまま残っているので、王都のドエスさんに捨て値で売却したのだ。
客足は、飢饉と重税が影響して、とても悪かったが、まあ、利益度外視なら、しばらくは大丈夫だろう。立地がよく、3階建ての大きな娼館は、僕が買い上げた。娼婦達は、一旦、ハッシュ町やフライス村の娼館に行ってて貰い、バンブーさんに改装をお願いした。全室バス付きで、食事も取れるスペースの部屋を1階と2階に25室作った。3階は、大きな浴槽と丸いベッドを置いた特別室を4つ作った。1度に5人の娼婦と遊べる広さだ。娼婦達は、自分専用の部屋で、暮らしてもいいし、安い専用宿舎から通勤しても良いことにしている。
シフトは、泊まりが2回続いて、明けの翌日は休み、その翌日は不定期の日勤でそれからまた泊まりになる。つまり5日のうち客を取るのは3日だけというシフトだ。部屋持ちの娼婦が25人と、3階のみで働く高級娼婦を10人雇っている。3階に客がいない時は、1階レストランでウエイトレスをするか、隣の怪しい酒場で稼いで貰っている。この高級娼婦は、部屋がないので、近くの借家かホテルに住んで貰っている。
一般娼婦で月に金貨1枚、高級娼婦で月に金貨3枚も稼いでいるようだ。そんな健全経営の娼館だが、働きたい女性が非常に多くて、あぶれた女性達が女衒に騙され違法な闇娼館と契約してしまうそうだ。中には、明らかに未成年と思われる少女もいるらしい。
僕は、実態調査をするためにニュー・タイタン市に行くことにした。しかし、僕は余りにも目立ち過ぎる。身長が190センチオーバーで、超イケメンの童顔、1度見たら忘れられない。僕は、以前、試しに使って上手くいかなかった『変身』を使ってみることにした。イメージは、ハッシュ町のギルドで働いているテルをイメージした。気を全身に巡らせたら、一瞬、意識がボーッとして変身が終了した。イチローさんが吃驚していた。僕が立っていた場所に身長175センチ、ヒョロっとしているテルが立っていたからだ。
どうやら、今の僕のスキルでは、『変身』は、同性の同年代の人間のみに有効なようだ。問題は、着ている服だった。服までは変化できなかったため、サイズがブカブカだ。取り敢えず、近くの店でありあわせの服を買った。
イチローさんと一緒に、違法営業の店に行ってみる。まだ昼過ぎだったせいか、客は少なく、通りの人通りもまばらだった。外観からは、娼館であることは分からない、一見すると場末の飲み屋という感じだ。店の中は、娼婦が数人おり、客席で暇そうにしていた。僕達は、夜、また来ることにして、一旦行政庁支所に戻ることにした。
夜になると、町の様子が一変していた。毒々しい明かりが店の外側を照らしている。店の前をブラブラしていると、客引きの女が、僕達の腕を引っ張り、店の中に連れ込んだ。明るい店内で見ると、客引きの女は、明らかに未成年だった。婆さんが出てきて、
「いらっしゃい。お兄さん。その子は、まだ未成年だからダメだよ。他にいい子がいっぱいいるからさ。30分、大銅貨7枚で良いよ。どう、見てっておくれよ。
店内の奥の客席には、パンツだけの女性が、スケスケのネグリジェだけを羽織って座っていた。僕は、また客引きの少女を見た。どう見ても13〜14歳位だ。
「おや、どうしてもその子かい?なら、あと銀貨2枚出したら30分だけ目を瞑るから、2階に連れて行って良いよ。」
交渉成立だ。部屋代込みで、銀貨3枚を支払い、2階に上がる。薄暗い廊下の奥の部屋に案内される。女の子は、ベスと言った。直ぐにパンツを脱ごうとしたが、制止して一緒にベッドに座った。
「しゃぶるの?なら大銅貨3枚頂戴。」
僕は、銀貨1枚を出して色々訊こうとしたが、中々本当のことを話してくれない。仕方がないので、少しだけ『威嚇』を使った。ベスは13歳だった。12の時、両親の借金のカタに連れて来られたらしい。父親が4年前に借りたのは金貨1枚だったが、3年で金貨6枚になってしまったらしい。去年の春、利息が払えなくて、北の村から連れて来られたが、2年続きの飢饉で今年の春、両親は死んでしまったそうだ。それから、ベスの借金は雪だるま式に増えて行ったらしい。
毎日、5人位の客を取らされているが、部屋代と食費で、稼ぎの全てを取られ、借金が全く減っていないそうだ。話しているうちに、ベスは涙を流し始めた。流れてきた涙に吃驚していた。もう、ずいぶん長いこと涙を流すことを忘れていたらしい。
僕は、服を脱ぐようにお願いした。ベスは、スカートをめくってパンツから脱ごうとしたが、僕は慌てて止め、下着は脱がなくても良いと言った。ベスの体には、アザと火傷の跡が付いていた。アザは背中に多く、火傷は内股に大きく付いていた。アザは、客にベルトで殴られたり、店の男に殴られて付いたらしい。火傷は、最初、股を開くのを嫌がった時に熱湯を掛けられたと言った。それから、火傷のところに触れられないように、思いっきり脚を広げるようになったそうだ。
僕は、聞いているうちに、体の中で熱いものが溜まっていくのを感じた。いけない。これ以上、この子の話を聞くと、ニュー・タイタン市が消えてしまう。僕は、水を1杯貰って気持ちを落ち着かせた。
ベスは、13歳の売春婦です。辛い思いをしてきましたが、ゴロタの婚約者にはなりません。




