第245話 石化しちゃった。
ゴルゴンというのは、固有名詞の様に思っていたのですが、実はゴルゴン3姉妹の総称だそうです。
(9月27日です。)
ゴルゴンは、髪の毛の代わりに生きている蛇が生えており、背中には黄金の翼、手は青白く光る青銅で覆われており、口からはイノシシのような牙が生えている。上半身は裸だが、大きな胸が突き出しており、下半身は僅かな布で覆われている。顔さえ見なければナイスバディだ。魔物と思われるが、昔は天上界の絶世の美女だったそうだ。何故、こんな姿になったのかは諸説あるが、男と女の問題らしい。普通の魔物のように、魔界や冥界から生まれて来たわけでは無いので、面倒くさい。
彼女が、ゆっくり振り返ってこちらを見る。金色の目、縦に細長い瞳は蛇の様に縦長だった。僕の前に蒼き盾が出現した。盾が石化の視線を跳ね返した。僕の後ろにいたジルも無事だった。
だが、横にいたジェーンが『瞬動』で横に飛んでいた。僕の横、10m位に移動した地点で、ゴルゴンの視線を浴びてしまったのだ。ジェーンは、みるみる石化し始めた。もう間に合わない。僕は、ジェーンのところに飛び、石化したジェーンをイフクロークに収納した。
直ちにジルと一緒に、ダンジョンの外へ転移した。いわゆる逃げたのだ。逃げるのは『恥』でもなんでも無い。ジルに、ここで待っているように言って、再度、1人でダンジョンに潜って行った。ゴルゴンは、空を浮遊しながら、僕を見つめている。
バチ、バチン!
蒼き盾が、音を立てて視線を跳ね返した。僕は、ゴルゴンの金色の翼をベルの剣の斬撃で焼き切った。足から、地面に落下したゴルゴンは、シュタッと立って僕を睨みつける。
バチーン、バチ、バチーン。
再度、蒼き盾が防ぎ切る。僕は、超絶極大フラッシュをゴルゴンの目の前で光らせた。目から煙が出るほどの光で網膜を焼き尽くしたのだ。翼を焼かれ、目を潰されたゴルゴンは、ほぼ無力だった。イノシシのような牙を剥き出して、周囲を威嚇しているが、全く脅威を感じない。僕は、『オロチの刀』を抜き、ゴルゴンの首を切り落とした。頭の蛇達も動かなくなった。
魔石がドロップした。見たこともない色の魔石だ。白い殻の中に黒い核が閉じ込められているような魔石だ。ゴルゴンの体内からは、魔石も何もなかった。そうこうしているうちに見る見るゴルゴンが煙になってしまう。落した首も一緒だった。あれ、身体が消滅してしまったようだ。
第2階層まで潜ってみる。この階層には、バシリスクが群れていた。バシリスクは、身体は蜥蜴、頭がニワトリのようだが、その口からは猛毒を吐き、真っ黒な目玉で睨まられると石化する。1階層のゴルゴンといい、この階層のバジリスクの群れといい、Aランクパーティーでも全滅しかねない魔物レベルだ。このダンジョンは、かなりおかしくなっている。森の中の魔物達は、きっとこのダンジョンから逃げ出したのだろう。僕の青き盾がガンガン音を立て続けている。バジリスクの攻撃を防いでいるのだ。僕は、『オロチの刀』に気を込め、赤く光り始めた段階で、斬撃を放った。バジリスク達は黒い煤になってしまった。コロコロと、バジリスク達の魔石が転がり落ちて来たが、普通の魔石だった。
第2階層のボスは、大きなバジリスクだった。10m超えだ。そのニワトリのくちばしで、僕をつつこうとするが、蒼き盾が防いでくれる。僕は、大きく飛び上がって、バジリスクの首を跳ね飛ばそうとするが、大きく下がられて空振りしてしまった。その間も、石化の視線を浴び続けているので、蒼き盾の大活躍だった。僕は、『オロチの刀』を納刀し、バジリスクのニワトリ程度の脳みそを『重力』でつぶしてしまう。バジリスクは、傷一つない姿で、死んでくれたので、そのままイフクロークにしまうことにした。後で、オークションに出すことにしたが、絶対に大金貨30枚は行くだろう。
第3階層は、泉エリアだった。何かいい匂いのする植物が生えていて、その森の中に、綺麗で澄み切った泉が湧いている。金色の長い毛を垂らした女性が、泉で水浴びをしていた。ナイスバディの若い女性だった。目は金色、鼻筋が通っている。此方を振り向いた。全くの全裸だったが、前を隠そうとしないばかりか、こちらを向いてニコリと微笑んだ。僕は、その美しさにじっと見つめてしまったが、突然、蒼き盾が現れ、カンカンと何かを跳ね返していた。彼女の視線を跳ね返している。金色の目が、光っている。魔物だ。突然、彼女の背中に金色の羽が生えてきて、髪の毛は、金色の蛇に変わった。彼女はメデューサだった。顔は、美形のままだ。蛇が、首の周りにも生えて来た。グロイ。無数の蛇の中から、美しい顔が覗いている状況だ。
僕は、彼女の背中の方からウインドカッターを首に向けて放った。彼女の首は、身体から離れたが、そいつは、自分の首を持って、まだこちらを睨んでいる。首が胴体から離れても、生き続けるなんて、気色悪いが、首に向かって熱弾を撃つ。首が粉々に崩れてしまい、ようやくメデューサを倒すことが出来た。ドロップ品は、金色の針だった。針といっても、裁縫の道具ではなく、取っ手の付いた暗殺者が対象の首の後ろを狙って刺し通すための暗殺用具だ。
やはり、体内に魔石はなかった。あ、メデューサも煙になって消えてしまった。この階層には、階層ボスがいなかった。そのまま、第4階層に潜っていく。第4階層から下には何もいなかった。僕は、キョトンとした。何もいない。絶対、変だ。そのまま、最下層10階層まで潜ってみる。やはり何も出なかった。10階層は、神殿エリアだった。
長い階段が続く丘の上に、真っ白な大理石の石柱が何本も立っていて三角の屋根を支えている。階段を上って、神殿の中に入ると、一人の女性が石で出来た大きな椅子に座っていた。その女性は美しい赤い瞳を持ち、真っ赤な髪の毛を腰に掛かるほど伸ばしていた。僕は知らなかったが、美の神アフロディーテに模して作られし邪神であった。彼女は、メデューサ等とは違い、長いローブを纏っていた。しかし、いつ蛇頭に変身するかも分からないので警戒は緩めなかった。
僕は、『オロチの刀』を抜いたまま、その女性に近づいて行った。女性は立ち上がって、僕を見つめた。特に、石化の兆候もないし、蒼き盾も生じなかった。女性は、身長170センチ位の均整のとれたスタイルだった。
『妾はステノー。不死の身体を持つ者。妾の妹たちを滅ぼしたのはそちか?』
念話で、話しかけて来た。どうやら、あの怪物どもの姉らしい。禍々しさは、あの怪物達よりも強く感じる。しかし、何も攻撃してこないところを見ると、攻撃手段を持たないか、攻撃する気が無いのだろう。
『妾は、この地に召喚されし者なり。妹達は、空腹のため、上の階層に上がって行ったが、先ほど気配が絶たれた。しばらくは、復活できぬはずじゃ。』
「ここで何をしている?」
『何も、しておらぬ。ただ存在しているだけじゃ。妾は、神より生み出されし者なり。邪なる神とも言われておるぞ。妾の運命は、神のみぞ知っておるのじゃ。』
どうやら、このステノーさんという魔物が、この神殿に召喚されたことにより、魔物が生まれ続けたらしい。そして、あの蛇頭の女どもが、その魔物を食いつくしてしまったのでは無いか。森の中であった、オーガなどは、食われないために、ダンジョンから逃げ出してきたに違いない。
僕は、蛇頭の女どもを討伐したので、当分の間は、普通のダンジョンに戻るだろうと思った。それよりも、ステノーさんにジェーンを元に戻す方法を聞いてみた。
『軟化の魔石と金の針が必要じゃ。エウリュアレとメデューサが持っていたはずじゃ。』
エウリュアレとは、最初のゴルゴンの名前らしい。僕は、さっきのドロップ品を取り出した。
『ふむ、それじゃ。その魔石を、心の臓の上に当てるのじゃ。石の肌が柔らかくなったら、金の針を少しだけ刺すのじゃ。呪いが解けて、元の姿に戻れるはずじゃ。』
僕は、ジェーンをイフクロークから出し、神殿の前に安置した。悲し気な顔の石像だ。先ほどの魔石を心臓の上にあて、聖なる魔力を流してみる。魔石が白く光り、石化した胸の一部が柔らかな肌に戻っていた。そこに金の針を1センチ程刺してみる。血は出て来なかった。針の刺さった位置を中心に、石化が解けて行く。1分ほどで石化は全て解けてしまった。しかし、ジェーンの意識が戻らない。僕は、弱い電流を心臓に流してみる。鼓動が始まった。しばらくして、大きく呼吸を始めた。
「あれ、私、石になりかかっていたのに。ここは、どこ?」
ジェーンの意識も、しっかりしているようだ。僕は、ステノーさんに礼を言った。
『礼など良いのじゃ。それより頼みがあるのじゃ。妾を地上に連れていって貰いたいのじゃ。ここは、何もないのでな。つまらぬ。』
ジェーンが、二人を見て、あからさまに嫌な顔をした。ステノーさんは、絵に描いたような美女でナイスバディだ。絶対に危険だ。しかし、僕にはジェーンをもとに戻してもらった恩もある。頼みを聞くことにした。
『うむ、その前に妾のしもべを作るのじゃ。ここには、魔の素がふんだんじゃ。』
きっと、魔物が生まれるための素が溢れてきているのだろう。この調子なら、このダンジョン、暫くは稼いでくれるかもしれない。ステノーさんは、女オーガ2匹と、女ゴブリン5匹を作り出した。当然、見た目は魔物だが、床に膝まづいている。じっとしているのだ。
ステノーさんは、1匹の女オーガに近づいて、頭に手を当てる。手の平が赤く光ると、その光が、女オーガを包み込む。女オーガは、若い女性に変身した。身長175センチ位の筋肉マッチョ女だ。肩まである髪の毛の色は真っ赤だ。しかしも、あの特徴的な角と牙が消えている。肌も薄い褐色ではあるが人間の肌の色だ。顔付きも、美形の部類だろう。もう1匹のオーガも同様に人間の姿に変えた。先程のオーガに瓜二つだ。暫く両者を見ていたステノーさんが、2番目のオーガに手を当てた。髪の毛の色が青くなった。
次に、ゴブリンに手を当てた。ゴブリンは、身長140センチ位の女の子になった。顔付きは、ゴブリンほど醜くはないが、まあ、普通だ。きっと、鼻の形が丸いからだろう。目と口の形は可愛らしい。肌の色は、かなり濃いめの褐色だ。ボブカットの髪の毛と瞳が黒い。胸は膨らみかけの少女体型だ。次々と、ゴブリンを変身させていく。5人のゴブリン、全てが人間の女の子に変身した。僕には、5人の見分けは全く付かなかった。
それよりも困ったのは、ステノーさん以外は全裸だと言うことだ。目のやり場に困ってしまう。彼女達は、恥じらいが無いのか、前を隠そうともしない。ジェーンと一緒に、ダンジョンを出て、ジルと合流した。3人で、タイタン市に戻り、ステノーさん達の服を適当に見繕って買う。下着などは、後で買えばよいだろう。再度、地下10階層に戻り、ステノーさん達全員と一緒にタイタン市の領主舘に転移した。
あらあら、またまた美女が増えました。




