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紅き剣と蒼き盾の物語(コミュ障魔王と残念エルフの救世サーガ)  作者: 困ったちゃん
第24章 王国の西はタイタン領です。
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第239話 旧ブリンク領内に平穏が帰って来た

旧ブリンク領内は、まだまだ治安が悪いようです。統治機構が崩壊したのだから当たり前です。

(6月10日です。)

  コルトン市の騒動は、解決した。僕は、クスシがタイタン市に来た時、ちょうど北の村を巡回している最中だった。一瞬、シェルの声が聞こえたような気がした。気のせいかと思ったが、何か胸騒ぎがして、タイタン市に帰ることにしたのだ。領主館に戻ってみると、執事長のセビリアさんから、コルトン市の異変について知らされた。もう、シェルは向かっているらしいとの事だったので、僕も直ぐに転移した。やはりあの声は、シェルの念話だったのか。僕は、シェルに呼びかけたけど、返事は無かった。きっと、他の事に集中しているのだろう。


  市役所の中では、皆が吃驚するだろうと思い、市役所の上空に転移して、その場で浮遊していた。市役所の周りをゴロツキども500人位が剣を抜いて囲んでいる。しかし、奴らは、皆、物陰に隠れている。市役所の玄関前で、シェルが弓を構えているのが見えた。


  これで今の状況が分かった。これからどうしようかと考えているときに、クオンさんの悲鳴が市役所の中から聞こえた。僕は、『不味い!』と思い、とりあえず馬車の陰に隠れているゴロツキどもを灰にした。次に、建物の陰に隠れているゴロツキどもは、『スリープ』で寝かせてしまった。全員が、眠っていることを確認してから、市役所の中に入って行った。シェルが、クスシさんに心臓マッサージと人工呼吸をしている。しかし、遅かったのかも知れない。


  僕は、シェルの肩を掴んだ。ゆっくりと振り向いたシェルの顔は涙だらけだった。シェルをどかして、クスシさんの状態を見てみる。外傷は癒えている。もう出血はない。心臓が止まっているのは、出血のショックによるものだろう。僕は、何となく心臓に電気を流したら良い気がした。誰かが、頭の中で呟いている。聞き取りにくいが、何をすれば良いか教えてくれているみたいだ。


  『シンゾウテイシ、レベル300ヲカクニン。A・E・Dヲキドウシマスカ。キドウカクニン。ソウチヲムネニアテテクダサイ。』


  『チャージチュウ。チャージチュウ。ジョサイドウカクニン』


  『ショックヲジッコウシマス。』


  『ショック!、モウイチドオコナイマス。ショック!。」


  クスシさんの身体が海老ぞりに跳ね上がる。クスシさんの目が開いた。僕は、『治癒』と『回復』スキルを使い、とりあえず命の危険はなくなった。その後、まだ眠っているゴロツキどもを生きたままイフクロークにぶちこんで、市役所の前に積み上げた。当然、皆、死んでいると思ったが、まだ生きていた。あれ、死んでない。そう言えば、生きたままイフクロークに生物を入れたことはなかった。


  イフちゃんが、教えてくれた。


  『この空間は、全ての時間が停止している。死への変化もじゃ。』


  よくわからないが、生きたまま保存できるらしい。そんなことは、どうでもいい。ゴロツキを積み上げた山の中に、ミニミニ太陽を灯した。それから周りにシールドを掛けた。煙と臭いが広がらないようにだ。


  暫くしたら、シールドの中は、ミニミニ太陽だけになった。表面温度6000度、中心温度百万度の太陽の前では、煙や臭いさえ存在が許されなかった。僕は、シールドの中の熱を自分に戻した。シールドを消しても熱くも何ともなかった。


  タイタン市の衛士隊本部と市役所前をゲートで結ぶ。衛士隊を最大動員した。ダーツ大佐に、今回の騒乱の仲間の捜索をお願いした。市役所内の行政庁長官補室に入る。クスシさんが、ソファに寝ている。眠っているようだ。クオンさんが、手を握っている。フランちゃんが来ていた。クレスタさんもだ。皆で、領主舘に戻った。ダーツさん達は、死んだ衛士の措置やゴロツキの残党を捜索するのに、3日ほど掛かってしまった。


  クスシさんは、元気を取り戻したようだ。静養のために、僕と二人で別荘に行きたいと言っていた。シェルは、諦めたように認めてくれた。でも、あのジト目が怖かった。


  結局、クスシさんとの別荘は2泊3日だった。帰ってきたとき、クスシさんの頬はピンク色になっていたのは気のせいだったのだろうか。それから、僕は、夜、別荘で寝ることになった。勿論、夜の当番と一緒にだった。なんか、付かれるような気がしているのは僕だけのようだ。


  一段落してから、僕はジェンキン宰相に会いに行くことにした。衛士隊を借用するためだ。結局、来年3月まで200名を借りることができた。その間の衛士の給与として、大金貨80枚を王国に支払ったのだが、当然、王国は上前を跳ねることになっている。衛士隊の皆さんは、来週から来てくれることになった。宿舎は、旧ブリンク領内の衛士隊本部と詰め所だ。




  次に、ヘンデル帝国のプーチキン宰相に会いに行く。ここでも衛士を200名借りた。現金が喉から手が出るほど欲しかった帝国としては、もっと貸しても良いと言ってきたが、帝国内の治安も心配なので、それは断ることにした。プーチキン宰相は、『できれば給与を前渡しで欲しい。』と言ってきた。事情を聞くと、現在、衛士達の給与は遅配しているらしい。遅配の総額を聞くと、大金貨120枚らしい。僕は、ある時払いの催促なし、年利3分で貸すことにした。必ず返すからと言う言葉を信用しているが、今度、コリン・ダーツ行政長官と宰相の間で覚書を交わしてから貸すことになったようだ。プーチキン宰相は、これから僕と一緒にタイタン市に行き、今日中に覚書を交わしたいと言ってきた。よほど、逼迫しているみたいだ。その日のうちに、覚書を交わして、借款は成立した。帝国に帰る際、大量の『タイタンの月』と『白い愛人たち』を買っていたことは、御愛敬だろう。




  来週、400名の応援が来ることをダーツ大佐に伝え、それまでに宿舎の手配と、必要装備品、糧食、それと各市町村への配置計画を作るようにお願いした。ダーツ大佐は頭を抱えていた。行政庁の若手職員10人を手伝いに行かせることにしたが、いつまでも武人では済まない。管理職としての手腕を発揮していただきたいものだ。




  次の週、応援の衛士隊をタイタン市に転移させる日が来た。帝国の衛士隊は、初めてのゲートに吃驚していたが、タイタン市に来て、余りにも綺麗な都市なので、さらに吃驚していたようだ。タイタン市の衛士隊本部で、組分けと、隊士規定等について教養した後、各都市へ分散してもらった。連絡員も2名ずつ付けることにしている。来月、新規に採用試験を実施するが、当然、王国衛士隊の隊員も応募可能だ。その場合は、即配置とする予定だ。でも、それは王国には内緒にしている。決して引き抜きではありません。本人の自由意思です。但し、帝国出身者は資格なしとしている。衛士隊も公務員なので、国民でなければいけない。万が一、帝国と戦争になった時、王国に忠誠を誓うことができるか疑問だからだ。本人がいくら忠誠を誓っても、家族や一族が帝国にいては、刃も鈍ろうと言うものだ。




  バンブーさんは、また大忙しだ。やっと御用邸建設が終わったと思ったら、衛士隊員養成所をエクレア市に作るだけでなく、各地に衛士駐屯所それに行政庁出張所と職員住宅などを建設しなければならない。既存の衛士隊駐屯所を改修しても良いが、老朽化しているところも多いのだ。使えるのは、僅かだった。後、小学校や中学校も建設しなければならない。用地取得は、行政庁がやってくれるから良いが、来年4月の開校に間に合わせなければならない。もう、後2~3社、建設会社を吸収しなければならないと言っていた。


  ニュー・タイタン市の花街組合の理事長は、戦々恐々だった。聞けば、タイタン市では、借金のかたに娼婦を雇ったら重罪で、奴隷落ちになるらしいという情報が回っているのだ。今日、シェルが皆を集めて、来月までに各娼婦の借財状況とその金利、収入について帳簿を提出するようにと指示をしていた。


  理事長ほか主な組合員たちは、『借金なしで娼婦をやる女なんかいるもんか』と思っていたが黙っていた。それに、今までは売り上げの全てを店が取って、娼婦には食事と小遣い銭だけやっておけばよかったのが、これからは、売り上げは全て娼婦のものになり、その中から、居室使用料、食事代、光熱水費、その他の必要経費を貰う事になると言うことが伝えられた。というか、営業権は領主のみが持っており、今までのオーナーは、雇われ人となるとの事だった。これなら廃業した方がマシかも知れないが、他に生きて行く手段もないし。それと娼婦に暴力をふるうと最悪、死罪で軽くても奴隷落ちだとのことだ。言う事を聞かない娼婦に折檻するのは当たり前だろう。あと、18歳未満の女は娼婦としてばかりでなく、娼館に出入りさせてもいけないらしい。ということは、将来の娼婦候補を小さい時から子飼いすることも出来ないと言う事だ。皆、頭を抱えていた。王都のドエスさんが、ニース・タウンで売春専門の旅館を経営しているらしいが、ドエスさんが手に入れられるのは、旅館の宿泊料だけだ。売春の報酬は、すべて娼婦がとってしまうのだ。紹介手数料も認められないので、利益が少ないけど、旅館はいつも満室なので、それなりに利益が上がっているらしい。組合員の中には、許可がいらないなら、うちも鞍替えしようかと思った物もいたが、それも許可が必要だと分かり、あきらめてしまった。


  ああ、来月はどうなるんだ。不安で一杯の理事長だった。


  クスシさんは、ニュー・タイタン市の行政長官補の仕事に戻っていた。死に掛けたけど、あの別荘での3日間を思えば、何てことは無い。傷も全く残っていない。最近、僕さん、とてもうまくなったような気がする。自分が変わったのかも知れないけれど、感じ方が全然違う。もう、何回も気を失ってしまうの。ハッと、気が付いたら、僕さんが心配そうに顔を覗いていたわ。あのイケメン、永遠美少年に見つめられると、それだけで感じてしまう。ああ、またゴロツキ達が来ないかしら。


  そういえば、もう領内にゴロツキとゴロツキ予備軍はいなくなってしまったらしいわ。まあ、僕さんが殲滅したところは見ていなかったけど、灰も残らなかったらしいし。誰だって、灰ぐらいは残したいものね。


  とても、とても平和なニュー・タイタン市とブリンク領内です。

領民たちは、何よりも自分たちの安全を望みます。安全と水がタダだと思っている、どこかの国とは違います。

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