第22話 3人の生活が始まりました
魔剣、宝剣、呪われた剣、怖いですね。カッコ良いですね。最初、伝説のバハムートが憑依した剣としましたが、火属性を使いたかったので、イフリートにしました。紅いしね。
今回は、残念お姫様の活躍?です。ご期待ください。
(10月8日です。)
星の深淵 静かに眠りし 大地の息吹
何人も その堅き岩を崩すこと 能わず
何人も その堅き岩を削ること 能わず
大地を溶かす熱をもって 幾星霜
その緋色の金は 神の力を以って 姿を変える
遠き世界に住まうという
炎と煉獄の邪神 その名をイフリート
全てを統べる者を焼き尽くし
全てを守る者を焼き尽くす
そも その使命を知らざる也
剣は その使命を彼の者に示したもう
彼は 与えられし 使命を以て 天命とす
剣は 作られた 剣は鍛られた
呪われしは 剣の定めにあらず
死する定めを持つ者 その剣を持つべからず
死する定めを持つ者 その剣を欲してはならず
ただ 天命を受けし者 剣の力を揮うもの
人知れず 隠れしその剣 今 姿を現わす
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王国でも、この伝承を知る者は限られている。この伝承の剣は、あの『すべてを断ち切る力を統べる紅き剣』ではない。
その人外な力を求めて、多くの血が流されてきた。そして、その剣を手にした者は、多くの力とともに自分の命を使い果たし、悲惨な最期を迎えると言われる。この剣を持つと帝王になれるのではない。帝王になれる者しか、この剣を持つことができないのだ。しかし、帝王となった者は、もうこの剣は必要ない。
何故なら。『紅き剣』を手にしているからだ。誰が打って、誰が鍛えたのかも分からない剣、禍々しい邪神の力を纏ってまいる剣。何人にも、そのような剣の存在を知られてはならないのだ。
「ゴロタよ。この剣は、必要な時以外、使ってはならぬ。お主が帝王になるべき者ならば、おのずと使うべき時を知るであろう。しかし、『死する定めを持つ者』つまり人間のことじゃが、この剣を使うのは危険すぎるのじゃよ。お主の命を削ってまで力を揮うべきではない。また、決して人に奪われてはならない。過去にこの剣をめぐって、何度も戦争や内乱が起こったのじゃ。だから、今、この剣はこう呼ばれているのじゃ。『呪われた剣』と。」
「この剣カバーは、剣の持つ禍々しい力を抑え込んで居るようじゃ。きっと名のある名工が作った者じゃろう。この剣カバーも大切にするようにな。」
「ガチンコ」
「え、あのガチンコ師匠が作ったのか?さもありなん。なるほど、なるほど。」
「師匠?」
「そうじゃ、明鏡止水流の達人にして稀代の名工、我が王国騎士団の団長として、勇名を馳せたお方じゃ。」
ガチンコさんは、何気に凄い人だったみたいです。
僕達は、お城を後にした。エーデル姫が用意してくれた馬車で、『カメの甲羅武器店』まで、送って貰った。いつもの服装に戻り、ほっとする僕だった。しかし、自分の運命のようなものが示されて、すこし心が重かった。ハッシュ村に帰りたい。あの森の匂い、谷川のせせらぎの音。今頃は大雪山脈も真っ白になっているだろう。なんで、あの家を出てきてしまったんだろう。あの時は、何も未練なんか無かったはずなのに。そうだ、シェルさんを送り届けたら、ハッシュ村に帰ろう。あの残念な村長やシスターそして衛士のおじさん、どうしているかな。驚きの事実を知った僕は、運命に抗うこともできないまま、遠い過去を忍ぶのだった。(いや、そんな昔じゃないから。わずか1か月ちょっと位前だから。)
今日の夕食は、トマトソースで炒めたご飯を卵焼きでくるんで食べる料理にした。鶏肉が手に入らなくても、豚肉でもいいや。玉ねぎを一杯入れて作ろう。シェルさんには、もっと大きくなって貰いたいから、牛乳を買ってきて、砂糖をたっぷり入れたホットミルクを飲んで貰おう。夕飯の準備ができて、シェルさんも稽古から帰って来た。今日は、2時間も撃ち続けたみたいだ。今、挑戦している3本撃ちは、ほぼ完成したみたいだ。あとは、連射速度を上げる練習を始めると言っていた。いっぺんに3本の矢をセットするのって、難しいんだろうなと思ったが、この技が、後日、僕を助けることになるなど、今の僕には分かる筈がなかった。
シェルさんと二人で、オムライス風のオムライス?を食べようとしたとき、玄関ドアをノックする音がした。僕が出迎えてみると、エーデル姫が一人で立っている。あの、いつもの鎧を纏った恰好で。そして、何か大きなバッグを持っていた。とっても嫌な予感がしたので、何も言わないでドアを閉めた。
「ちょっと、なに、ドア閉めてんのよ。開けなさいよ。」
いつもの変な口調ではなく、その辺のお姉さんのような口調で叫びながら、ドアをドンドン叩いている。シェルさんが諦めて、家の中に招き入れた。
「何の御用かしら?」
ダイニングテーブルの椅子に座ったエルダー姫が、オムライス風オムライスを見て
「あなた達、またこのような美味しそうな夕食を食べて。私の分もあるますのですか?」
駄目だ、いつもの口調に戻った。いつもの残念姫に戻っている。ゴロタは、自分の分のオムライスを差し出し、一人で台所に立って、自分の分を作り直している。残念姫は、オムライスを食べ、ホットミルクを飲みながら、話し始めた。
「父上に許可は貰って来ましたの。今日から、ゴロタ殿と行動を共にするです。目的は、王国の平和を守るためと、ゴロタ殿の貞操を悪の手からお守りするためですの。」
「何を勝手に決めているのよ。大体、この部屋は、ゴロタ君と私のスイートホームなのよ。他人のあなたが、入り込んで良い訳無いでしょ。」
あの、シェルさん、お姫様に対して『あなた』呼ばわりはまずいんではないですか?それに、この家、スイートホームじゃないから、間借りしているだけですし。
「フン、何を言われても出ていく気など、無いですの。もし嫌なら、ご自分が出ていけば良いですの。でも、このオムライス美味しいですの。お代わりはできますですの?」
ゴロタよ、いつかオムライスを食べれる時が来るぞ、きっと。
夜、寝る段になって大騒ぎ、ダブルベッドが一つあるだけ、お姫様とシェルさんが一緒に寝る訳ないし、どうしたら良いのか分からない。それで、寝る方法をいくつかプランニングしてみた。
1 お姫様が一人でベッド、シェルさんとゴロタが床
2 シェルさんが一人でベッド、お姫さんとゴロタが床
3 ゴロタとお姫様がベッド、シェルさんが床
4 ゴロタとシェルさんがベッド、お姫様が床
5 三人が床
6.三人が我慢してベッド(狭い)
結果が6番目だった。ゴロタが真ん中で、シェルさんがいつものように右側、お姫様が左側で寝た。ゴロタは、棒のように真っすぐになって寝たが、色々と色々なところが当たってよく眠れなかった。それよりもお姫様、その透けて見えそうなレースのネグリジェ、どうにかなりませんか?
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ゴロタ達に、今までの日常が帰ってきた。
早朝の自主稽古、朝食作り、掃除、洗濯、朝食、後片付け、ギルドで受注、サクッと完了、道場で稽古、夕飯の買い物、夕食作り、お風呂、お風呂洗い、夕食、後片付け、就寝。
この日常に、お姫様が入ってきたことで面倒が増えた。シェルさんだけでも、自己中だったが、それはそういうもんだと諦めていた。しかし、それにお姫様が入るだけで、こんなに面倒とは思わなかった。
ギルドに行くときに左手でシェルさんの右手を握ると、お姫様が、ゴロタの右手を握ってくる。シェルさんだけでも、恥ずかしいのに、お姫様と3人で手を握っていると、何か特別な宗教に入っているような感じがして、耐えきれないほど恥ずかしい。まあ、知らない人が見ると、小さな女の子をお姉さん二人が手をつないでいるように見えなくもないが、ゴロタとしてはそういう問題ではない。
ギルドで依頼を受注し、冒険に出発しても、シェルさんは、歩き始めてすぐに抱っこを要求してくる。しかし、お姫様がいると、さすがに抱っこはできない。するとシェルさんは足が痛いだの、疲れただのと嘘泣きするし、仕方なく抱っこをすると、お姫様は途端に機嫌が悪くなる。お姫様も最近は抱っこを要求し始めた。シェルさんを見ていて学習したようなのだ。
魔物と戦闘になった時、たまにシェルさんをオンブしながら戦闘するときがある。一緒に攻撃をするためだが、これもお姫様にはアウトだった。二人公平に扱わなければならないようだ。でも、二人一緒にはオンブできない。結局、交代交代でオンブして討伐している。
夕方の道場は天国だった。お姫様は、師範代に任せ、ゴロタは総長や師範と稽古だ。最近は、短剣2本を使った型を稽古をしている。攻撃は左手剣、防御は右手剣が基本だ。右利きの人とは反対だが、総長がミラーリングと言っていた。よくわからなかったが、向かい合って、同じ型をすれば良いので、そんなに難しくない。
最近、お風呂の順番が決まった。シェルさん、お姫様、僕だ。最初、お姫様を先にしていたが、上がってから、薄いネグリジェでウロウロしている上に、シェルさんがお風呂に入ると、裸同然のお姫様とゴロタが二人きりになり、危険な匂いがしたそうだ。
それで、お姫様がお風呂を出た直後は僕がお風呂に入ることになった。ほんと、その胸のポッチが透けて見えるネグリジェ、何とかして貰いたいのだが、お姫様は『ウフフ』と訳の分からない笑い声で答えるだけだった。
ある日、僕は二人に提案をした。もっと大きな家を借りて引っ越そう。1人に1部屋、ベッドもそれぞれで、ゆっくり寝ようと。二人の答えがハモッて帰ってきた。
「「絶対に嫌!」」
こうして、3人の奇妙な共同生活が始まって1か月が経ち、シェルさんも、お姫様も順調にステータスがレベルアップして行った。
とうとう、3人生活が始まってしまいました。ハーレムパーティーとして妬まれないのは、ゴロタの少女風外観のせいです。
でも、それなら、こんな女の子(一人は小学生?)のパーティーで冒険させるなんて。ギルドは何をしているのでしょうね。