第233話 北の飢餓地獄
悪政が続くと、民は疲弊します。領地経営の失敗は、必ず収穫の低下を招いてしまいます。
(4月28日、王都です。)
グレーテル国王陛下は、ジェンキン宰相からブリンク元伯爵の措置について報告を聞いていた。証拠の品々については、王立司法審問所において精査しているが、極めて証拠価値の高い物ばかりであり、ブリンク元伯爵が領民に対して苛政を強いているばかりではなく、非人道的な行為についても明白であることが判明した。通常、貴族の最高刑は奴隷落ちであるが、彼の場合は、公開処刑が相当と思われるとの事であった。
ボラギノは、両手両足と言葉を失っている。取り調べもできないので、ゴロタ公爵に処置をまかせることにしたそうだ。僕は、ボラギノをブリンク市の市民の判断に任せるつもりだ。ブリンク元伯爵は、処刑前、王宮広場に高札を掲げて、3日間、首枷手枷の刑に処することになった。その後、断頭台にするか鉄の馬にするかは、3日間の入札により決められることになった。これで、ブリンク伯爵の話題は終わってしまった。続いて、今回の戦闘状況についてである。
「それで、ブリンクの騎士団は、3000、衛士隊が1300だったのだな。ゴロタ公爵の部隊はどれくらいだったのだ。」
「はい、騎士団500でございました。」
スターバ騎士団団長が答えた。
「なんと、4300対500か。凄いな。そんなに精鋭ぞろいだったのか?」
「いいえ、この500騎は、全く戦いませんでした。剣も抜いておりません。いわゆる見せ兵でした。」
「え、それでは誰が戦ったのだ。ブリンク軍は全滅したと聞いたぞ。」
「はい、エーデル姫様をはじめとする、ゴロタ殿の夫人達と婚約者達です。」
「ちょっと、待て。何でそうなるのだ。一体、ゴロタ公爵には妻は何人いるのだ。」
「はい、正確に言いますと、エーデル姫様をはじめとする奥様が4名、あと王都の魔法学院大学で教授をしているノエル様ら婚約者3名の計7名でございました。」
「なんと、女性7名で、3300名の騎士達を殲滅したのか。詳しく話せ。」
「はい、実際に武器を取っていたのは、シェル様とエーデル姫様それにシズというハーフエルフだけでした。シェル様の弓矢の威力はすさまじく、1000m先の騎士団長や魔導士長を一撃で仕留めてしまいました。しかも、多くの兵士の上を飛び越えてです。それから、騎馬隊や軽騎士に対しては1度に10本の矢を射て、10人の敵を倒していました。100発100中で、狙った敵は必ず仕留めていました。」
「うん、シェル殿の弓は、あの『ヘラクレイスの弓』だからな。あれは特別じゃ。」
「それだけではありません。シズという少女の矢が、威力だけならシェル殿以上かと思います。1度に3名の軽騎兵を貫通するのですから。まるで、弩弓のようでした。」
「遠距離攻撃が2人もいるのか。で、エーデルはどうじゃったのだ。あのヘナチョコ姫が戦えるとは思えんのだが。」
「いや、攻撃力が凄まじく、あの細いレイピアで『斬撃』を飛ばすので。それも、一度に100回近くもです。その1回だけでも、敵の重騎兵の盾と鎧を貫通してしまうのです。」
「あやつは、一体いつから、そのような技を身に着けたのだ。スターバ将軍、我が軍に重騎兵を盾ごと一撃で貫通するほどの技を持っている者はいないのか?」
「残念ながら、我が軍にはおりませぬ。それだけではありません。エーデル姫は、ゆっくりと倒れた敵部隊の中を歩き回り、生き残った騎士たちを何やら指さして殲滅していったのです。あのような技、始めて見ました。」
「それで、魔法攻撃はどうじゃったのじゃ。確か、魔道士が4名と聞いたが。」
マリンピア魔道士長が答えた。
「彼女達の魔法は、人外としか言いようがありません。全て無詠唱で、レベル4以上の魔法を次々と放たれるのです。」
「レベル4といえば極大魔法級ではないか。それ以上とは。一体どうなっているのじゃ。」
「まず、クレスタ殿ですが、一瞬で、高さ3mの土塁が、延々と造られました。それに、氷魔法は、アイスランスが何百本も振り落ちてきて。」
「ちょっと待て。アイスランスだと。シャベリンでは無いのか。」
「はい、極太のアイスランスが天から降り注ぐのです。殆どの者が頭から貫かれました。それに、ビラと言う女性は、杖に乗って空中浮遊しておりました。私は、あの失われた大魔法を初めて見ました。」
「空中浮遊か?儂も見たことは無いが。で、攻撃はどうなのじゃ。」
「ノエル殿とビラ殿が、雷撃魔法を放ったのですが。余りの攻撃の強さに、地面が溶けてしまいました。」
「なんと、地面が解けた?我が王国魔道士協会には、そのような雷撃使いはおるのか。」
「おりませぬ。本来、雷撃は相手を感電させて行動不能にするか、感電死させるためのもの。彼女達のは、余りの熱量で、相手は瞬時で蒸発してしまいました。」
「うーむ、恐ろしいのう。で、最後の魔道士は何をしていたのじゃ。」
「はい、最後はフラン殿と言って、元聖ゼロス教大司教国の大司教様でして、任務はヒーラーのようでしたが、戦闘には参加せず、終始、菓子を食っておりました。」
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(5月1日です。)
今日から、北へ向けて領内平定に行く事にした。ボラギノは昨日、処刑された。処刑方法は、真っ赤に焼けた鉄の棒を尻から差し込まれ、口から出るまで、押し続けられる。その間、鞭で背中を打ち続けるのだ。この方法は、ボラギノが子供達にしてきた行為の仕返しだそうだ。北には、ブータノ男爵が治めているブタノール市がある。周辺にはカンタ村、ケンタ村、ジンタ村がある。ブタノール市までは村が2つに町が1つあるのだが、まず、ブータノの処分が最優先だ。
従って、途中の町や村には立ち寄らないで、真っ直ぐブタノール市に行くことにした。ホテルの前に、押収した馬車を持って来させた。当然、馬が6頭繋がれている。僕達は、馬車に乗り、北の城門に向かった。城門を出た後、御者と馬を返した。馬の繋がれていない馬車、かなり間が抜けている。
僕は、重力魔法で、馬車の荷重を抜く。浮くか、浮かない位の状態だ。その馬車を、念動で移動させる。速度は、ほぼ駅馬車並みだ。ニュー・タイタン市が見えなくなったら、馬車を高度30m位まで上昇させ水平飛行に移行する。そのまま加速し、時速200キロ位で移動する。
約4時間で、ブタノール市に到着した。少し離れた所に着地した。キャンプセットを出して、皆はお茶の時間だ。
僕は、気配を消して、市内に歩いて入る。気配を消しても、姿は見える。しかし、こちらを見ても注意が向かなくなるのだ。城壁は無い。街道沿いに門があるだけだ。誰も居ない。人通りがないのだ。人の気配は有るのだが、通りを歩く人が居ない。あ、いた。数人の男達が歩いている。しかし、どう見てもゴロツキだ。その先、衛士が10人位、たむろしている。生気のない顔だ。数人のゴロツキを相手に下卑た笑いを浮かべていた。
街の中心街に来て、ホテルやレストランが並んでいるが、やはり人通りが少ない。歩いているのは、年寄りばかりだ。高級そうなホテルに入ってから気配を消すのをやめた。
フロントの人は、急に入ってきた僕に吃驚したていたが、貴族服に変わったロングソードを背負っている僕の姿に、もっと吃驚していたようだ。部屋を予約した。最近は、これ位は出来るようになった。小さな声で、下を向きながら、
「ダブル1つ、ツイン3つ。」
銀貨11枚だった。鍵を受け取り、部屋に入ると、シェル達の所へ行き、馬車ごと片付けて、皆で僕の部屋に行った。空の旅は快適だったが、やはり汗やほこりが気になるので、風呂に入る事にした。風呂は、水しか出なかった、僕の魔法で直ぐ温かく出来るので、問題なかった。シェルが、フロントに行って、食事の注文をしてきたが。いないはずの上の階から女性が降りて来たので、吃驚していたと言っていた。食事は、食材が無いので、フルコースは出来ないと言われたそうだ。仕方がないので、僕がシェルと一緒に厨房に行き、必要な食材を準備してあげたけど、余分に出しておき、余ったら処分してくれとお願いしておいた。
夕方、皆で食事をしていると、衛士と思われる男が5人位入ってきた。一番偉そうな髭を生やした衛士が、僕に向かって、
「お前達は、どこから来た。通行税は払ったのか?」
と言われたが、僕は、黙っていた。シェルが、口を開いた。
「あら、この街に入るのに通行税が必要ですの?どこで払えば良かったのかしら。」
シェルの横柄な態度に、頭に来たのか、その衛士が、シェルの肩を掴もうとした瞬間、衛士の手が止まった。僕が、ベルの剣を衛士の首に当てている。少し、刺さって血が出ている。他の衛士達は何が起きたか分からなかったようだ。
「出ろ。」
どうせ殲滅する予定の腐れ衛士だ。遠慮はない。衛士達と共にホテルの外に出た。全員が、出たのを確認した後、剣を納めた。それを見た衛士達が、やにわに切り掛かってきたが、僕は、ホテルの前の道路が血だらけになるのが嫌だったので、手刀で、全員の首を叩き折った。遠くで、市民達が見ている。僕は吃驚した。ここには、こんなに人がいたんだ。しかし、多くは老人ばかりだった。僕は、衛士の死体を50m位離れた衛士隊本部の前に積み上げて、ホテルに戻った。
手を十分に洗ってから、食事を再開した。食事は美味かった。いい腕のシェフだ。食事を楽しんでいるとき、フロントの男の人が、血相を変えて飛んできた。ホテルの周りが取り囲まれているそうだ。シェル達がニヤニヤしている。僕は、食事の代金で、大銀貨2枚を出した。こんなにいらないと言われたが、チップだと言って釣りは貰わない。
皆と一緒にホテルから出たら、衛士とゴロツキが100人位おり、ホテルの出口の外に屯している。衛士隊長みたいな男が、何か言いかけたが、煩いので、『デスペル』で全員の言葉を奪っておいた。続いて、『威嚇』で、動きを封じてから、一人一人の男どもの胸に手を当てて、心臓めがけて電流を流した。ノエルも同じことを始めた。エーデルが、肺を燃やしていく。クレスタが、心臓を凍らせている。
全員を始末するのに5分位だった。死体を先程のように、衛士隊本部の前に積み上げた。
ついでに衛士隊の中に入って見る。臭い。この匂いは知っている。汗と血と糞尿の臭いだ。精液の匂いもする。地下から匂ってきている。地下は、シェル達に任せて、隊長室に向かうことにした。隊長室の前に、5人の衛士が抜刀して構えていた。僕は、指鉄砲の連射で殲滅する。最近は、1秒間に5発の連射ができるようになった。威力は、それほどでもない。人間は貫通するが、壁は貫通しないような威力だ。この本部は、将来使うつもりなので、余り壊すとシェルに叱られるかなと思ったのだ。隊長室の中には、隊長らしい男と、中年の男がいた。男は、ゴロツキの親分らしい。
何か言いかけたが、聞く気もないので、すぐに言葉を奪い、そのまま、二人を隊本部の前に連れ出す。本部前に積み上げられている100体以上の死体を見て、ズボンがおびただしく濡れている。僕は、二人が逃げられないように、右足と右腕を体から切り落としておいた。出血死しないよう、傷口を焼いて血管をつぶしておく。衛士隊の前には、何百人も市民が集まっていた。
シェル達が、地下から娘さん達を連れ出してきた。半裸状態の娘さんには、シーツを掛けてある。娘さん達の親や家族が駆け寄ってくる。皆、泣いていた。
ゴロタは、大変な領地を担当してしまったのかも知れません。




