第21話 呪われた剣
王室デビューをしたゴロタ君、ちゃんとマナーを守れるかな。しかし、ヒッキーで王室デビュー、それが何か?の世界、どうなんでしょうか。
(10月7日です。)
謁見が終わると、一旦、控えの間に下がった。
僕とシェルさんは少しほっとして、冷たいレモネードを飲んでいると、エーデル姫が血相を変えて入ってきた。
「あなたたち、私に内緒にしていたのでありますか?シェル殿がエルフ王国の姫で、ゴロタ殿が勇者だという事をです。」
「姫様、そんなことはありませんわ。私の素性など聞かれませんでしたもの。それにゴロタ君が勇者なんて、とんでもない与太話ですよ。この子は、ヒッキーですよ。コミュ障ですよ。発育不良ですよ。そして私の婚約者ですよ。」
うん、最初の二つは合っている。しかし、後の二つは違うと思います。
「大体、その婚約者という事が怪しいのです。こんな世間知らずの小さな子を、婚約者に仕立てて、一体何を考えているのです。」
「だから、ゴロタ君と『郷』に帰ろうとしているのよ。そもそも、この国の能力検査機がはっきりしたことを表示できないから、ゴロタ君のことを勇者じゃないかと思うのよ。勝手にゴロタ君の将来を決めないで貰いたいわ。」
最後の言葉は、『シェルさんだけは言ってはいけない。』と、僕は思った。
「とにかく、これから父上、母上同席のお茶会ですから、その時にすべてハッキリするのです。」
エリーゼ姫、何でそんなにムキになるのですか。たかが平民の将来のことではないですか、と思う僕だった。
国王・皇后両陛下の居室は、お城の4階全部だった。建物の中なのに、森があって、池があって、ゴルフ練習場まであります(嘘です。)。お茶会は、そんな森の中に作られたサンルーム(コンサバトリー)の中で開かれた。
出席者は国王・皇后両陛下、フレデリック内親王殿下、エーデル姫の兄君のファーブル皇太子殿下、姉君のガーベラ王女殿下、そしてエーデル王女殿下。あと、ジェンキン宰相とスターバ王国騎士団長であった。
シェルと僕は居心地が悪そうに、座っていたが、周りの人達、特にジェンキン宰相には、色々と聞かれた。僕は殆どというか、まったく答えることができなかった。こんな怖そうな大人の人、特にとても偉い人と口を利くなんてできる訳ないじゃないか。
シェルさんと宰相の話は、特産品がどうとか、貿易の話をしていたが、シェルさんがとても迷惑そうな感じを出しているのに、ジェンキン宰相はお構いなしにグイグイ話を進めてきます。ある意味残念な人かも知れまない。スターバ団長は、じっと僕の方を見ている。本当に伝説の勇者なのか、疑っているようだ。
それまで、フレデリック殿下と話していた国王陛下が、僕に声を掛けました。
「ゴロタよ。そなたは、『紅き剣と蒼き盾の伝説』を聞いたことはないか。」
聞いたことがないので、首を横に振った。ジェンキン宰相が、
「陛下の御前であるぞ。首を振っての即答は無礼であろう。」
と怒ったが、僕にはこれ以上の回答方法などできない。なんか凄く悲しくなってきたが、じっと泣くのを我慢していた。
「良い、良い。そうか、聞いたことはないのか。聞けばそなたの父は『魔族』だったそうだが、頭に魔族の象徴の角はなかったじゃろうか?」
僕は、小さい時のベルを思い出しましたが、角なんか見た事が無い。だから、また、首を横に振って否定の合図をした。
「ふむ、やはりそうか。魔王になるべき運命を捨てた者が、妖精とともに地上に降り立つという、あの伝承は、本当だったかも知れない。となると、この子は。」
「陛下、調べてみたところ、ハッシュ村にゴロタ殿の両親が参られたのは15年前で、その前、どこにいたのか、どこから来たのかは誰も知らないそうです。」
ジェンキン宰相が、またまた新事実を発表した。なんだか、段々居づらくなってしまった。
「それよりも兄上、ゴロタ君の能力が半端じゃあねえ。今の段階で、王国騎士団でゴロタ君にかなう者は一人もいねえんじゃないかな。」
それを聞いたスターバ団長が、鼻息を荒くして、僕を睨みつけながら
「王国騎士団で、こんな男女の子供に負ける者などいる訳ない。なんなら、今すぐ、我が騎士団の真の力を見せてもいいぞ。」
フレデリック殿下、何て事を言うんですか、こんな怖い人と勝負なんかできる訳ないじゃないですか、それに、僕は男女ではなく、女男です。
ニヤニヤ笑っていた国王陛下が、この場を纏めてくれた。
「よし、分かった。それでは、明日、王国騎士団とゴロタ殿、ええい面倒だ、ゴロタの御前試合をすることにする。騎士団側は5人の選手を選んでおくこと。勝った者には、余自ら直々に褒美をとらせる。よいな。」
これを聞いて、ニヤリと笑う団長、しかし団長は気が付いていなかった。陰で大笑いしているフレデリック殿下のことを。お茶会が終わり、本日は、宮殿内の迎賓室に泊まることになった。今まで、見たこともないような豪華なベッドや家具、調度類に口をポカンとする僕。『郷』に比べると豪華だけど、歴史が感じられないわと、鼻で笑うシェルさん。両者それぞれに思うことは違っていた。
そんな頃、スパーダ団長は頭を抱えていた。あの、ゴロタという少年、あんなに小さいのに、明鏡止水流の免許皆伝、しかもほんの10日前に入門したばかりだというのに。我が団員も含め、門下生の誰もが勝負にならず、総長、師範が何とか勝負になるレベルなんてチート過ぎて、どうすれば良いんじゃ。あの総長なんて化物のはず。目隠しして、我が団員10人を相手にして打ち負かすなど、不敗伝説の塊じゃ。そんな総長と良い勝負をする子供なんて。ああ、見た目に胡麻化された。儂の妻と一緒じゃ(それは関係ないような気がしますが。)。
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(10月8日です。)
翌日、王国騎士団に急にインフルエンザが大流行したそうで、試合予定者全員が入院したとのことだった。しかし、それでは、せっかく楽しみにしていた国王様も面白くない。急遽、呼ばれたのが、国王陛下、皇太子殿下の剣道指南役をしている明鏡止水流の総長、師範そして師範代だ。
国王陛下の前で、模範稽古をすることになってしまった。稽古だから、勝ち負けはない。しかし、師範代は、昨日からずっと思っていた。
『国王陛下、私はやりたくありません。考えただけでトイレに行きたくなってしまいます。』
模範試合は、午後一番に始まった。僕にとっては、いつも稽古をつけて貰っている総長らだから、気が楽だ。使い慣れている短剣サイズの木刀を左手に持ち、自然体で相手と対峙する。最初は、師範代だ。
師範代の動きは直線的で、最初の打突を躱せば、あとは流れに乗るだけで、1本とることができる。難しいことは考えずに、相手の『気』を読んで対応しようと考えた僕だった。勝負は、3合と持たなかった。面を撃ってきた相手の、ほんのわずか右に入って、振り下ろされる剣を摺り上げて面、寸止めだったが『それまで』の声で、残身を示しながら元の位置に戻り、一礼した。
見ているほとんどの人は、ぽかんとしてしまった。師範代の気合のこもった面打ち、間合い、気合、速度すべて素晴らしい打ち込みだった。『危ない。』と思った瞬間、ほんの少しだけ、少年の身体がぶれて見えた。あとは、寸止めしているゴ少年と、試合を止める号令が聞こえるだけだった。木刀がぶつかる音がしたが、どこがぶつかり合ったのか全く見えなかった。
次は、師範との稽古だ。これは、双方ともに動きが早く、目で追っていくのが大変だ。木刀がぶつかり合う音、床を踏みつける音、そして時たま聞こえる気合。両者、ともにゆっくりと呼吸しながら、動きは人間の域を超えていた。少年も強いけど、師範の真剣な動作に、『この人こんなに強かったんだ。』と再認識する観客の人達だった。
段々、見学者が増えてきた。中には、今日インフルエンザで試合を放棄した騎士団の人達もいた。しかし、そんなことはどうでもいいことだ。こんな面白いもの。見ようたって見られるものではない。
師範が、激しい突きを打ち込む。それを木刀の鎬で躱した刹那、小手を打ち返す僕。その小手を小手抜き胴で逆襲する師範、それを2m近く飛び上がって躱す僕。なかなか勝負はつかない。でも師範はわかっていた。僕との体力差が激しく、このままでは、いつか決められる。綺麗に負けなければと思い始めた時、
「それまで。両者引き分け。」
総長が二人を止めた。別に制限時間があるわけではない。二人の良いところを十分に引き出せたのだから、これ以上稽古を続ける意味がない。そう思って止めたのだった。
最後は、総長との稽古だ。しかし、総長が陛下に頼み込んで、中止にして貰った。師範との稽古で真剣に審判をしていたので、目が疲れ、気が足りなくなり、とてもまともな稽古などできないことが理由だった。それは、国王陛下も同じだったので、本日の御前稽古は終了となった。
稽古終了後、皆が演習場から立ち去ってから、総長立ち合いで、僕と国王陛下が稽古をした。国王陛下も鋭い打ち込みをするが、師範代と同レベルだ。でも、面を打ち込ませて、『参った。』をしたら、国王陛下がニヤリと笑って木刀を納めてくれた。
稽古終了後、汗を拭き、カバー付ベルの剣を腰に下げたら、国王陛下が、その剣を見せてくれと言ってきた。そういえば、この剣は総長にも見せたことはなかったことを思い出した僕は、二人の前で剣を外し、国王陛下に渡した。カバーを外し剣を取り出して、国王陛下と総長は目を見張った。鞘、柄、柄頭の作りすべてが常識を覆すようなものだったからだ。しかし、本当に驚いたのは、剣を鞘から抜いてからだった。国王陛下は、その赤く輝く剣を見て、涙を流し始めた。総長は、何も言わずに震えていた。国王陛下は、震え声で、こう言った。
「シン・イフリート・ソードじゃ。」
この剣の名前だ。数百年前、世界から失われた宝剣だそうだ。このことは、王族の一部にしか伝えられていない。この剣は、世界の帝王となるべき者にのみ持つことができるとの伝承がある剣だった。そんな剣を自分が発見できた。その感動で、国王陛下は涙を流したのだった。しかし、伝説の『紅き剣』とは違い、この剣は、『呪われた剣』とも言われていることを僕は全く知らなかった。
怖いですね。呪われていますね。どうも、怪しいと思ったんです。普通じゃないですよね。ゴロタが持っていて良いんでしょうか。