第221話 温泉観光ホテル開業
ついに観光ホテルができます。これで、南の温泉街は、一流観光地の仲間入りです。
(12月1日です。)
ニース・タウンの温泉観光ホテルが開業する。周囲の旅館やホテルは全て、木造2階建てにしていたので、この3階建て煉瓦作りのホテルの威容は他を圧倒していた。名前は、シェルの命名で、『グランド・ニース・ホテル』にした。全室、サウス・タイタン・リバーに面しており、温泉かけ流しの室内バスとベランダの露天風呂がついている。床材や壁材も最高級素材を使っており、ベッドや調度品も王都で特注した最高級品を使っている。一般室はオークやローズウッド製で、スイート・ルームはマホガニー製だ。
全室ツイン以上で、ベッドはクイーンサイズが標準だ。ダブルはスーバーキングサイズだ。スイートはキングサイズ2個を付けて設置している。そのほか、予約段階でレストランでの夕食を希望した場合には、高級ワイン飲み放題を付けている。1室、銀貨15枚以上でスイート・ルームは大銀貨6枚となっている。ドアボーイ、コンシェルジェ、ルームボーイ、メイド、シェフなど従業員だけで60人を新規に雇っている。レストランにはソムリエも付けている。ホテルのマスターは、王都の最高級ホテルを定年退職したトランプさんという人を雇い入れた。年齢は50歳だが、まだまだ元気だ。年収は、金貨12枚だ。そのほかに、ホテルの利益に応じてのボーナスがある。
ホテルの自慢は、屋上の露店風呂で、温泉を魔力ポンプで屋上までくみ上げている。源泉かけ流しの露天風呂だ。屋外には、泳ぐことのできる池を作っている。水は、常に洗濯石の層を通過して綺麗な水を維持している。池の周りには、丸テーブルとイスを配置して、ゆっくりできるようにしている。毎日、河原で花火を打ち上げることにしているが、この花火は、和の国でしか作れないみたいだったので、和の国から花火職人をタイタン市に招聘して作らせているのだ。
特筆すべきは、王都からの直通ゲートが館内に作られていることだ。王都側は、タイタン領観光案内所の中に繋がっている。『グランド・ニース・ホテル』予約客限定で、ゲート利用料を衛士隊に支払わなくても良いのだ。
1週間前から、ブッシュさんの従業員教育が行われていた。歩き方、お辞儀の仕方、そしてお客様との対応要領。レストランの給仕は、原則、レストランボーイの仕事だ。メイドは、ルーム清掃等で、基本的にお客様と接するのはボーイだと言われている。このホテルは、チップ禁止だ。しかし、どうしても受け取る場合がある。その場合には、トランプさんかコンシェルジェに申し出ることになっている。会計の時に、その額を引いて清算している。
1か月以上前から、予約が殺到している。あのゴロタ公爵直営ホテルとなると人気が出ない訳がない。初日は、僕のウエルカム挨拶があるというので、若い女の子がお小遣いを貯めて予約しようとしたが、初日分は、売り出しとともに全室完売となってしまった。あとは、12月24日と2月14日の日のタイタン市のお土産店でのイベントがあるが、その情報も含めて、観光案内所で紹介しているので会員登録をした方が良いと進めていた。なんか、アコギな感じがするが、それは僕の知らない話だった。
午後4時、僕と15人の妻、婚約者、婚約者候補らがホテルのロビーに勢ぞろいした。女性達は皆、ホテルのメイドさんの服を着ている。違うのは、極端なミニスカだという事だった。僕が挨拶をすることになっていたが、顔が真っ赤になって何も言えない。代わりにシェルが挨拶をした。
「ご来館の皆さま、本日は、ここ『グランド・ニース・ホテル』をご利用くださいましてありがとうございます。いよいよ、当ホテルのオープンでございます。このホテルは、お客様に安らぎのひと時と至福の時間を過ごしていただくことを目的としております。何分、従業員も今日が初めての者ばかりです。不行き届きの点も多々あると思いますが、どうかご容赦願います。」
「本日は、グランド・オープン記念として、レストランにおいてワインのウエルカムドリンクをご用意させていただいております。また、女性のお客様限定ですが、ここにいるゴロタ公爵と握手が出来ます。それでは、ようこそいらっしゃいました。」
シェルの合図で、エーデル達が全員、『いらっしゃいました。』と言ってカーテシをした。短いスカートを持ち上げるので、パンツが見えそうになった。男性客は、目を皿のようにして見つめている。女性客は、僕のところへ殺到した。握手の筈が、キスをしてくる女性客もいる。中年の女性客は、平気で僕の下半身を触って来る。しかし、シェルはニコニコして見ているだけだ。きっと、頭の中では、今日の売り上げを考えているに決まっている。この守銭奴め。
オープニングセレモニーが終わった。僕達は、隣の敷地の別荘に移った。オープン記念パーティだ。バンブーさん達も来ている。今日のパーティの経費はバンブー建設持ちだ。シェルを始め、超絶美女、美少女に囲まれてバンブーさんを始め、建設に携わった人達は緊張していた。しかし、お酒を飲み過ぎたシェルが酔っ払って乱れるのを見て、安心して飲み始めた。勿論、ジルちゃんやジェリーちゃん、ブリちゃんは未成年だから飲めない。ジュースだ。フミさんが、僕のそばに寄ってきて、ジェーンさんに引き離されている。前にも見た光景だ。
僕は、バンブーさんにエクレア市の建設会社4社の評判を聞いた。あまり良い噂を聞かないそうだ。手抜き工事は当たり前。注文もされていないのに、高級素材を使って、法外な値段を請求する。断るとゴロツキみたいな奴らに脅されるらしい。うん、やはりだなと思った僕だった。
バンブーさんが、今度、帝国にも支店を出したいそうだ。現在、グレーテル王国全土の領都には支店があるので、これからは国外にも目を向けたいそうだ。そのため、ヘンデル皇帝を紹介して貰えないかというのだ。勿論、紹介料はちゃんと支払うとの事だった。僕は、酔っ払ったシェルを小脇に抱えて、今度チャンスがあったら紹介してあげることを約束して、このパーティはお開きになった。
今日は、シェルが別荘に泊まることにして、皆は領主館に帰って行った。二人だけになったので、2階の僕の部屋に行く。シェルの服を脱がせ、お風呂に入れようとするが、酔ったシェルが僕に抱きついて来る。僕はシェルを抱えて、お風呂に入った。身体を温めてあげる。シェルがキスをしようと迫ってきた。酒臭い。物凄く酒臭い。僕は、口を閉じて拒否した。身体を洗ってあげて、お風呂から上がった。濡れた身体をタオルで拭いて、髪を乾かしてあげる。その間に眠り始めた。僕はそっとベッドの中に寝かせて、自分も隣で眠った。
翌朝、シェルと一緒に王都に行った。目的は3つ、聖夜のプレゼントを買う事と、ジェリーちゃんの誕生日プレゼント。それに、この前、カーマン王国で買った水色の剣をダッシュさんに整備して貰うこと。この頃、いつもガチンコさんに頼んでいるので、今回はダッシュさんに頼もうと思ったのだ。
まず、ティファサンに行った。シェルが色々選んでいたが、今回はネックレスにしたようだ。プラチナ製の鎖に星型のペンダントが付き、星形の真ん中にルビーがはめ込まれている物だ。これを15個注文した。いつもは7個の注文なのに急に倍増したので、店長が吃驚したが、すぐニコニコ顔になった。1個、金貨4枚だったので、これだけで大金貨6枚だ。次に、小さなダイヤが並んでいるプラチナ指輪を14個注文した。1個、大銀貨2枚だったので、金貨2枚と大銀貨8枚だった。王都の公爵邸と領主館の従業員には、男女同一で大銀貨1枚をカードと一緒に送ることにした。但し、イチローさん達6人と執事長、メイド長は大銀貨2枚だ。
次にジェリーちゃんに、プレゼントを買う。子供らしいものが良いと思うが、ティファサンには、そんなものは扱っていない。店長が、小さな箱を持ってきた。蓋を開けると、小さな人形が立ち上がり、クルクル回り始める。綺麗な曲が流れて来る。オルゴールと言うものらしい。遠い異世界から来たものだと言う。異世界ってどこか知らないが、凄いものだと思う。これは、金貨4枚だそうだ。箱の下に鍵があって、それを回すと、曲が鳴るらしい。蓋を占めると、曲が止まる。早速買うことにした。店長が、金貨3枚にしてくれた。
ティファサンの店長が、商品が出来上がったら、領主館にお届けすると言ってくれた。段々サービスが良くなってきている気がした。
次に、ダッシュさんの店に行った。今日は、シズちゃんが実家に帰っている。騎士団の訓練が無い日らしい。ダッシュさんに、例の剣を出して、研ぎ直しをお願いした。ダッシュさんは、スラリと抜いて言葉を失った。何だ、この剣はと言う顔をしている。急に、店の奥に行って、古びた本を出してくる。いろいろ調べているが、あるページで動きが止まってしまった。
『灼熱の短剣トリトーン』
一言、つぶやいた。え、『トリトーン』って何。僕は、聞いたことが無い言葉に疑問だらけになってしまった。
「この剣は、太古の技術で作られている。もう、存在そのものが疑われている素材でできているんだ。それは『オリハルコン』だ。ゴロタ、この剣をどこで見つけた。」
僕は、カーマン王国シェパード町の鍛冶屋で見つけたこと、代金が大銀貨2枚だったことを話した。ダッシュさんは、大金貨2枚と聞き間違えているらしく、
「大金貨2枚なら、大儲けだ。この剣は、今の状態の儘でも、大金貨20枚はするぞ。」
と言った。僕が、大銀貨2枚だと言ったら、
「えええええええ!!!!」
と大きく口を開けて固まってしまった。シェルさんは、僕が最初にこの剣を出した時は、物凄く渋い顔をしていたが、今は、ニコニコ笑っている。
「お前は、詐欺師だ。泥棒だ。いや強盗だ。どうやりゃ、この剣が大銀貨2枚で買えるんだ。今すぐ、返してこい。」
と怒っていた。当然、返すわけがない。刃こぼれを治すのに金貨2枚、拵えを治すのに金貨2枚はかかるとの事だった。何で、刃こぼれの修理でそんなにかかるのか聞いたら、アダマンタイト鋼の砥石で、3週間以上研ぎ続けないと直せないらしい。しかも、アダマンタイト鋼がドンドン減って行くので、2回は買い直さなければいけないらしいのだ。このオリハルコンを研ぐのは、ヒヒイロカネかオリハルコンでなければいけないが、両方とも入手不可能なので、仕方が無く、アダマンタイト鋼を使うらしい。
僕は、金貨4枚をだして修理をお願いした。
大切なのは、お客さんをとぎらせないことです。この街のお話は、適宜入ってきます。




