第220話 悪徳行政官ベンデナイ
悪代官は、必ず成敗されます。勧善懲悪がファンタジーの王道です。
(11月10日です。)
昨日の夕方、フミさんの実家から帰ってきてから、シェルに全てを話した。直ぐに正座をさせられ、説教を2時間受けさせられた。シェルが、フミさんを部屋に呼び、意思の確認をした。フミさんは、正座をしている僕を見ると、『ウフフ。』といたずらっぽく微笑み、シェルの質問に答えた。
シェルさん達には申し訳なかったけど、30になるまでに女になりたかっただけで、結婚したいなど全く考えていない。でも、今は、少し考えが変わって、結婚しなくても定期的に●●をして貰いたいとの事だった。当然、そんな破廉恥な事が許される訳もなく、結婚しない女性とそういう関係、いわゆる不倫関係など絶対にダメだとシェルにいわれ、『じゃあ、結婚しようかしら。』と言われて、シェルは黙ってしまった。
シェルが涙目で、僕を見ている。僕に何か言えという事らしい。こんな状況で、僕に何を言って貰いたいのか分かない。僕は、別にフミさんが嫌いではないし、ブリちゃんやジルちゃんの例もある。シェルの時みたいに衝撃的な出会いで、恋とは言えないかも知れないが、特定の女性が想い人になったのは、シェルだけだった。
エーデルにしても、嫌いじゃない程度から始まっている。ジルちゃんに至っては、僕が思いもしないのに婚約させられたようなものだ。それに比べれば、フミさんとは既成事実が先にできてしまったわけで、結婚したくない理由が思いつかない僕だった。この問題は、来年、ノエルと結婚してから解決することにして、とりあえず婚約者として夜一緒に寝るローテーションに入れることにした。これで、夜のローテーション対象は、11人になってしまった。
シェル、エーデル、クレスタ、ビラ、ノエル、シズちゃん、フランちゃん、ジェリーちゃん、ジルちゃん、ブリちゃん、そしてフミさんだ。シズちゃん以下の年少者は、一緒に眠るだけで何もしない。僕はロリコンではないのだ。本当に。その日の夜、このことを発表したら、エーデルのメイドのジェーンさんから、クレームがきた。フミさんをローテーションに入れるなら、自分も入れて貰いたいと。
は?ジェーンさん、何を言っているのですか。それどころか、レミイさんとドミノちゃんまで、ローテーション入りを希望してきたのだ。もう、僕は何も言えなかった。以前、シェルに怒られたことがあった。女性に優しすぎてはいけないと。決して、疚しい気持ちがあった訳ではない。パーティに呼んであげて、クリスマスにプレゼントして。ドミノちゃんなんか口もきいたことが無いんですけど。ブリちゃんが、『だからドミノちゃんがメイドになる時に反対したのに。』と文句を言っていたが、ローテーションに入れるのには反対しなかった。反対する理由がないのだ。ドミノちゃんの方が年上なのだから。しかも、エーデルとの新婚旅行の時に自分のしたことを考えると絶対に反対できる訳が無かった。
ブリちゃんは、今、ドミノちゃんを学校には連れて行っていない。魔法が無くても、不自由しなくなったからだ。家でも、メイドが沢山いるので、ドミノちゃんに頼ることはほとんどない。シェルが、ドミノちゃんに、『モンド王国に帰ったらどうか。』と言うと、メソメソと泣き始めたそうだ。自分は、役立たずかも知れないが、このまま帰りたくない。お母さんのためにも、ゴロタさんのお嫁さんにならなければいけないと言うのだ。怪しい。絶対、嘘泣きだとは思ったが、シェルはそれ以上言えなかった。
こうして、夜のローテーションは15人になってしまった。ちなみに、ジェーンさんは、ダッシュさんの2階に僕達が住んでいたころから、狙っていたそうだったが、姫君の相手だったので自重していたそうだ。というか、シェルがやっぱりと言う顔をしていた。そういうことは早く言ってください。シェルさん。
この日の夜、ジェーンさんが僕と初めて一緒に寝ることになった。ジェーンさんは、普通の寝間着だった。軽いキスだけにして眠ることにした。
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(11月11日です。)
今日、エクレア市のエクレア伯爵を訪ねた。伯爵邸は立派な門構えだったが、屋敷そのものは古く、至る所が傷んでいた。エクレア伯爵と会って、ベンデナイの悪行を一つ一つ教えてあげた。エクレア伯爵は、口を震わせて怒りを露わにしたが、もうすぐ引退の身、ここで波風を立てたくないので、そっとしておいてほしいと申し入れて来た。気持ちは分かるが、それでいいのかと聞いた。本来なら、伯爵領内からの収入はもっと多いのに、それを横領されていたわけで、だから領主館の補修もままならないのでは無かったかと言うと、力弱く笑うだけだった。
どうせ、この領主館は処分をして、王都の伯爵邸に住むつもりだし、ただ、この領主館で長年働いている執事やメイド達の将来が心配だと言ってきた。その点は、心配しなくても、僕が全員の雇用を保障することを約束してあげた。これで、ベンデナイの処分は、年明けになるが、処分はもう決まっている。全財産没収の上、奴隷落ちだ。家族は、わずかな年金で、エクレア市追放だ。地方の村で細々と暮らして貰う。だが、きっとエクレア領内では生きていけないだろうと思うが。
タイタン市に戻る前にガチンコさんの店に行く。『魔封じの大剣』を受け取るのだ。ズーッと預けっぱなしにしていたが綺麗にできていた。代金は、前金で払っていたので、受け取るだけだった。『今度、ホテルができたら、泊りに行くから。』と言われたので、『お待ちしています。』と言っておいた。それ位は言えるようになった僕だった。
タイタン市に戻ったら、バンブー建設支店からの客が面会を求めて来ていた。支店長と設計師だ。用件を聞くとエクレア市の公共施設改修のための調査の件だった。エクレア市の行政庁に行って、用件を伝えるとベンデナイ行政長官の部屋に呼ばれたそうだ。長官が言うには、エクレア領内で公共工事をするためには、事前に相談が無ければならない。相談料は、工事費の2割が相場だと言われた。この工事は、老朽化した庁舎回収の工事で、決して、施主の利益のためではないし、新領主の僕の依頼によるものだと言ったが、それは来年の話だし、来年になっても相談なしの工事は認められない。払わないのだったら、測量も許さないと脅されたそうだ。
僕は、深いため息が出た。測量は、来年1月早々にして貰い、とりあえず、資材準備とかできることだけして貰うことにした。以前建てたエクレア市の治癒院の建設費が異常に高額だった理由がこれでよくわかった。これは、エクレア市の建設業者も処分対象だなと思い、イチローさん達に、今度は建設業者を調べるようにお願いした。
次の日、僕はエクレア市に行ってみることにした。気配を完全に消して、僕がそばを通っても、誰もそのことに気付かない状態になった。行政庁のそばに行く。行政庁を訪れる人はまばらだ。以前は、気が付かなかったが、どうも街に活気がない。ホテルやレストランも客が少なく、閑古鳥が鳴いている。王都から、タイタン市に行くのなら、ゲートを使うし、この街に用がある人だけが、駅馬車を使って来ているみたいだ。
以前は、広大な領地の集荷地だったし、辺境まで行くためには必ず通過しなければならない都市だったのだが、今では単なる地方の中核都市程度になってしまっている。店舗も売屋が目立っている。行政庁から一人の太った男が出て来た。立派な身なりをしている。ベンデナイだ。行政庁の職員数人が荷物持ちをしている。4頭立の馬車に乗って、西に向かった。僕は、こっそりと尾いて行った。馬車は、西の色街にある料理屋に到着した。店から、女将さんや番頭が出て来た。ゆっくりと馬車から降りたベンデナイは、番頭に荷物を預けて、鷹揚に店の中に入って行った。僕は、イフちゃんに頼んで、監視して貰った。僕も意識を共有する。
ベンデナイが会っているのは、4人の男達だった。どうやら建設会社の社長達らしい。会談の内容は、来年の新体制になってからの公共工事の受注確保の方法と、今までの不正、手抜き工事の誤魔化し方だった。詳しい話は僕には理解できなかったが、この連中がいけない事をしているのはよく分かった。会談の終わりに、社長連中がお土産の菓子折りを渡していた。ずっしりと重そうだった。ベンデナイが中を確認している。大金貨が4枚入っている。社長1人当たり大金貨1枚を負担したのだろう。ベンデナイは、その菓子折りをそのまま鞄の中にいれてから、ゆっくり上着を脱いだ。これが合図だったらしい。薄く透けて見えるネグリジェしか着ていない女性4人が部屋に入って来た。ベンデナイの両脇に2人、残りの2人は社長達の間に座った。
もう、十分だ。イフちゃんを戻し、タイタン市に戻ることにした。夜、ジローさんとツバキさんに、エクレア市のイチローさん達と共同で、ベンデナイと建設会社社長の自宅から、ため込んでいる金貨を盗み出すようにお願いした。今では、彼らはどんな鍵も開錠できるし、全く気配を消して忍び込むことが出来る程なので、お安い御用だとの事だった。そのあと、手の者を使って、被害に遭った後の行動を確認するようにして貰った。絶対、隠し財産の無事を確かめに行くはずだから、それを確認して貰いたいのだ。来年の没収財産とする予定だ。
3日後、全てがうまく行った。盗み出した現金は、大金貨53枚、金貨45枚だった。ベンデナイの家からは、借金の証文251枚も盗み出していた。その中身を見て呆れた。年利24割だ。という事は、毎月2割を払わなければならない。これでは、娘を毎月、利息代わりに差し出すはずだ。
しばらくして、エクレア市の衛士隊は、夜も眠れないほど働かされていると言う噂が流れて来た。
エクレア伯爵は、自分の生活を大切にする人です。善人です。とても善人です。人を処罰することなどできません。




