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第214話 ジルちゃん、それで良いんですか?

ジルちゃん、謎の中学生です。本当は、とても良い子です。

(8月31日です。)

  1週間後、僕とエーデルはタイタン市に戻った。エーデルは、満足そうな顔と、残念そうな顔の半々だった。明日から、学校は2学期だ。シェルの話では、中等部の改修は無事終わったそうだ。


  ジェリーちゃんの見張り役のジルちゃんが、夏休みの間に、実家に帰っていて、お見合いをしたらしい。相手は、貴族ではなく、王都の大商人の長男だそうだ。ジルちゃんが16歳になったら結婚することになっているので、高等部には進学しない事になった。


  それに、もう見張りは要らないと、ジェリーちゃんの父親に言われたらしい。まあ、ここに来ていたので、学費も生活費も掛からなかったので助かったと言って笑っていた。それどころか、シェルから貰っている、月々の僅かなお小遣いも、使わないで実家に仕送りしていたらしい。でも、何となく目が笑っていなかった。


  その日の夜、シェルが相談に来た。ジルちゃんの事だった。ジルちゃんが寂しそうだったので、2人だけで話をしたのだそうだ。ジルちゃんは、泣きながら本当の事を話してくれたそうだ。ジルちゃんの婚約相手は、もう34歳で、前の奥さんには逃げられた男らしい。子供が3人いて、上の子は、ジルちゃんより年上だそうだ。男の父親が経営している商会から、ジルちゃんの父親は少なくない額の借金もあるらしい。それが、借金の棒引きの他に、莫大な結婚支度金を支払うというのは、領地無しの準男爵という下級貴族にとっては、願ってもない条件だったらしい。


  それに、シェルが言うには、ジルちゃんは僕の事が好きだと言うのだ。シェルだけは、前から気が付いていたらしい。僕は、どうして良いか分からなかった。ジルちゃんとは、そんなに話した事はないし、ジェリーちゃんのお付きと言う位にしか思っていなかった。シェルは、最初に我が家に来たときの僕を見る目付きで、女としての危険を感じていたらしい。


  僕がワンドをジェリーちゃんに買ってあげた時や、誕生日プレゼントを上げた時のジルちゃんの目付きも、嫉妬している女の子の目だったそうだ。ブリちゃんが、婚約者候補として屋敷に来た時も、誕生日プレゼントを買ってあげたときも、寂しそうな顔をしていたそうだ。


  シェルが、今度、ジルちゃんと一緒に、ジルちゃんの実家に行ってあげてくれと言ってきた。もう、こうなったら10人も11人も同じだというのだ。いえ、今、3人の相手だけで疲れ切っているんですけど。当然、3人とは、シェル以外の妻達だ。


  次の日、シェルと2人でジェリーちゃんの両親に会いに行った。直接ジルちゃんの家に行かないのは、ジルちゃんの家庭状況を確認するためだ。まず大切なのは情報収集というのは、戦いの鉄則だ。最初、ジェリーちゃんの父親のブロックさんは、ジェリーちゃんの婚約の話かと身構えていたが、ジルちゃんの事だと聞くと安心していた。ジルちゃんの実家は、スターバ家の分家で、ジェリーちゃんのお母さんの妹さんの嫁ぎ先らしい。ジルちゃんの父親は、司法省の役人で、優秀だったことから平民から准男爵に叙せられたらしいのだ。しかし、準男爵では、年給も大した額ではなく、役所からの給料も、大勢の子供達の進学費用で手一杯だそうだ。そのくせ、貴族としての体面も繕わなくてはならず、貴族服や紋章付きの備品も揃えなければならない。月に1度のサロンや、国王陛下への挨拶、舞踏会出席と経費ばかりが掛かってしまう。


  極め付けは、長男が、来春、王立大学へ進学となり、その費用が工面できなかったらしい。ブロックさんのところへも借金にきたが、今までも少なからず工面してあげたので、もう無理だと断ったのが、先月初めの話だったらしいのだ。聞くと、相手の商会からの借金は、金貨4枚で、結婚支度金として貰えるのが大金貨1枚だとの事だった。僕とシェルはビックリした。借金の桁が予想と違いすぎるからだ。たったそれだけで、年端も行かない娘を嫁にやってしまうのかと思ったのだ。


  今時、娘を娼館に売ったって大金貨2枚以上は貰える。まあ、貴族の娘を、そう言う所に売る訳には行かないだろうが。礼儀上ブロックさんに、ジルちゃんを我が家で引き取って育てるから了解してくれと言ったら、自分が口を挟むことではないが、異論はないと言ってくれた。母親は、可愛い姪の事が心配だったらしく、僕が面倒を見てくれるなら、これで安心と、最初から最後まで泣きっぱなしだった。


  2学期が始まって、最初の休みの日に、シェルとジルちゃんの3人でジルちゃんの実家に向かった。ジルちゃんの実家は、王城からかなり離れたところにある庭付きの一軒家で、普通に比べたら大きいが、貴族の屋敷としてはそれほどでもない、ありふれた民家だった。


  挨拶は、シェルがした。お土産の『タイタンの月』に、ジルちゃんの弟と妹達が目を離さずに見続けていた。父親は、モントレイ・ウオッカ准男爵、母親はリズナさんと言う名前だった。シェルが、突然、とんでもない事を言い出した。


  「娘さんのジルちゃんを、このゴロタ君のお嫁さんに欲しいのですが、お許し願いませんか?」


  僕は、呆気に取られた。まあ、いつかそうなるかも知れないが、こんなに急とは思わなかった。僕は、黙っていた。ジルちゃんは、耳まで真っ赤になっている。ウオッカ準男爵は、急な申し出に顔を真っ赤にして怒り出した。妻の本家からの口添いだから、仕方なく会ってみれば、『婚約したばかりの娘をくれ。』など、失礼にも程があると言うのだ。母親のリズナさんは、ジルちゃんの様子を見て、すぐに事情が分かったようである。リズナさんは、今度の婚約には、最初から反対だった。しかし、実家から経済的援助が貰えないので、何も言えなかったのだ。


  ウオッカ準男爵は、僕の事を知らなかった。王宮行事に参加しても、大広間に入れないような立場だ。ブロックさんも詳しいことは言わなかったようだ。


  「急にそんな事を言われても、娘には婚約者もいるし、そもそも貴方は誰ですか?」


  「ゴロタ君は、国王陛下から叙爵されているタイタン公爵です。」


  「え、公爵?タイタン?すると、今、娘が世話になっているゴロタ殿が貴方様ですか?」


  漸く、事のしだいが分かってきたウオッカさんだった。しかし、問題は複雑だった。ウオッカさんが抱えている多額の借金。喉から手が出るほど欲しい支度金。今、婚約を破棄したら、違約金まで払わなければならない。


  シェルが、幾つかの質問をした。まず、今のウオッカ家の収入だ。司法省での給与が、年に金貨6枚、准男爵の年金が年に金貨2枚半だそうだ。息子さんが行く王立大学の授業料が、年に金貨2枚、入学金が金貨3枚だ。今は、これまでの借金の返済で月に大銀貨1枚を相手に利子として払っているそうだ。


  金貨4枚の借金で、利息が年金貨1枚と大銀貨2枚、かなり高い利率だ。シェルは、大金貨3枚つまり金貨30枚分を出して、


  「これは婚約支度金です。婚約さえしてくれれば、返す必要はありません。それに、国王陛下の許可を頂き、タイタン市行政庁司法部長として出向して貰います。年収は、金貨12枚をタイタン市が支出します。宿舎も無償でで準備します。お子さん達は転校しても、こちらにいてそのまま通学しても結構です。タイタン学院大学法学部に入学したければ、推薦してあげます。勿論、ウオッカさんだけ単身で来られても結構です。如何ですか。」


  と言った。ウオッカさんは夢を見ているようだった。死ぬほど勉強して、平民としては出世している方だが、未だ司法省の平係長だ。準男爵の爵位だって、学歴と業績以外にかなり金を使って推薦してもらったのだ。勿論、スターバ騎士団長の威光もフルに使わせてもらった。


  それでも、退官までに課長までなれれば良い方だ。下手をすると、地方に出向してドサ回りかも知れない。平民と貴族にはそれだけの差があるのだ。本省課長以上は、殆どが男爵以上だ。というか、男爵以上の者の子弟から選考するのだ。それが、地方とは言え、公爵領行政庁の司法部長だ。自分より上司は長官だけの筈だ。願ってもない話だった。


  今回の婚約相手は、かなり面倒な相手のようだった。ウオッカさんには、説得するだけの自信が無さそうだった。


  「分かりました。今回の相手方への説得もこちらでやります。それで、どうですか?」


  漸く、ウオッカさんが納得して、僕に一任する事になった。ジルは、母親のリズナさんと抱き合って喜んでいる。シェルは、少し悲しくなった。今回、早く手が打てたから、不幸になる少女、それも僕に恋心を抱いている少女を救うことが出来たが、きっと不幸な子達はもっと一杯いるのだろう。タイタン領内では、こんな事が起きないように、領民にもっと寄り添った政治をしようと思うのであった。


  シェルは、借金を片に若い娘を娶ろうとする男が許せなかった。その足で、王城の側に大きな店を構えている男に会いに行った。店の名前は、セントラル商会だ。金融と交易をメインに商売をしているらしい。


  僕達は、アポ無しで面会を求めた。受付の女の子が、直ぐに上司に連絡し、その上司も僕を見ると何も言わずに、自分の上司に連絡をとっている。最終的には、社長まで連絡が通ったみたいで、5階の社長室に通された。


  社長は60年配の頭の薄い男だった。側に、物凄く太った、やはり頭が薄い男が立っていたが、年齢から見てこいつが、例の男だろうと思った。社長は、僕のことを知っているみたいで、形式的な挨拶の後、直ぐに本題に入った。


  「それで、ゴロタ公爵閣下がこんなところまで何の御用ですかな?」


  シェルが本日の用件を話し始めた。ウオッカさんの借金は、今まで払った利息で棒引きにすること。ジルちゃんと息子さんの間の婚約は、無条件で解約すること。この2点を申し入れた。息子の顔が青ざめていた。ワナワナ震えている。社長は、黙っていた。机の下で、何かを引っ張っている。暫くすると、若く屈強な男達が10人程、入ってきた。社長が、ドスの利いた声で口を開いた。


  「断ると言ったらどうする。俺様が、若造に馬鹿にされて黙っているような男に見えたか。」


  どうやら、この男、大商人とは名ばかりの裏世界にも顔がきく男らしい。シェルは、気が楽になった。こいつなら少しくらい痛い目にあわせても可哀そうなことはないからだ。


  「借金は、ビタ1文まけん。婚約を解消して欲しければ、大金貨5、いや10枚持ってこい。それが嫌ならとっとと帰れ。」


  僕は、ガタガタ震えてしまった。それを見た荒くれ達は、僕が怖がって震えていると思ったらしく、ゲラゲラ笑っている。シェルが小さな声で呟いた。


  「皆さん、命なんか要らない方達ばかりかしら?」


  「はあ?ここにいるのは命知らずばかりよ!」


  啖呵を切ったバカ社長だった。シェルは、僕が怒りで震えている事を知っていた。このままでは、この建物が跡形も無く消えてしまう事を心配していたのだ。


  「あなた、壊すのは、5階だけにしてね。」


  次の瞬間、社長の机の後ろの壁が消し飛んだ。吹き飛んだのではない。消滅したのだ。次に、ゴロツキどもを、壁の無くなった穴から落としていった。1人ずつ、ゆっくりとだ。ゴロツキどもは、逃げる事も出来ずに5階から落ちてゆく。運が良ければ、足の骨折だけで済むだろう。運が悪ければ、それは自分の不運を恨むべきだ。地面に激突する気持ちの悪い音が聞こえてくる。


  社長は、何が起きているのか分からなかった。何か、魔法を使っているのだろうが、あの命知らずどもが、口も開かず、スーと浮き上がって落ちていくのだ。見ていて恐怖以外に感じる事ができない。社長は、この時目の前の若造の二つ名を思い出したようだ。


    『ロリコンフェチの両刀使い』


  じゃない。そう、最初に付けられた


    『殲滅の死神』


  だ。1人で1万人の軍隊を殲滅した、あの死神だ。今、全くの無表情で、5階から10人を次々と落とした。次は、息子か俺の番だ。社長は、乾いてへばりつく喉を、やっとの事で開いて僕に話しかけた。


  「待て、分かった。俺が間違っていた。言う通りにする。言う通りにするから、もう帰ってくれ。」

いわゆる政略結婚ですか。でも、久しぶりにチートだったですね。

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