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第211話 デビタリア市の平穏

ゴロタは遂に、災厄の神と遭遇します。

(6月30日です。)

  僕達は、一気に、デビタリア市まで飛行した。状況から、この市が最も怪しい。モンド王国を南下するに従って、サキュバスの被害が大きくなっているからだ。しかし、行ってみると市内にはサキュバスの姿どころか、淫夢による被害が全く無いのだ。市内は、平穏そのもの。今までの、各市町村での騒ぎは遠い国の話のようだ。僕は、敵の所在地は、ここでは無いのかと思ったが、一応、確認しようと思い、デビタリア辺境伯の屋敷を訪ねることにした。


  デビタリア辺境伯は僕の突然の訪問に驚いたが、前回とは違う女性を連れているのに、そのことの方が驚き度合いが大きいようだった。応接間でお茶を飲んでいると、ブリッジブックさんが部屋に入ってきた。真冬だと言うのに、極端に短いスカートを履いていた。久しぶりに会ったブリッジブックさんは、涙を浮かべながら、僕に駆け寄って抱きついてきた。


  え? 何で?


  もう、身長は僕の方が高かったが、彼女は思いきり首筋に手を回してキスしようとしていた。ビラが、必死になって引き剥がそうとしていたが、体格差が有りすぎて全く引き剥がせない。頭に来たビラが、電撃を放とうとして光り始めたので、あわてて僕も一緒になって引き剥がした。


  ようやく落ち着いたブリッジブックさんが、ビラに気が付いてキョトンとしていた。この子は誰?何で、僕さんと一緒にいるの?と言う感じだ。僕は、ビラのことを紹介した。当然、今、新婚旅行中であることも話した。少し得意気なビラ。涙目になって、ワナワナ震えているブリッジブックさん。その様子を、父親のデビタリア辺境伯はニコニコしながら見ている。このまま、娘を嫁にあげるから連れていってくれと言う雰囲気がたっぷりだった。


  でも、確かブリッジブックさんは、会ったときに14歳だったから、今だって16歳位だろう。嫁に行かせるのは早すぎではないですか。この時、僕は知らなかったのだが、魔人族は、14歳で嫁に行くのが普通で、早い者では12歳で結婚する女の子もいるらしいのだ。ブリッジブックさんは、父親の薦める縁談を全て断っていたらしい。それも、もう二度と会えないかも知れない僕が、自分を迎えに来てくれる事を待っていたからだそうだ。


  僕は、驚いてしまった。迎えに行く約束なんか、一度もしたことがないし、結婚の約束も記憶がない。そのことで、ビラがこっそり教えてくれた。あの年頃は、夢見る乙女で、想像と現実が混在してしまうそうだ。僕は、ブリッジブックさんが、エーデルと共に、素っ裸で一緒のベッドに寝たことはビラには内緒にしておこうと思った。


  ソファに座ってメソメソ泣いているブリッジブックさんを見ていると、むげに断れない気がしてきた。よし、決めた。僕は、その場でブリッジブックさんの手を取って、タイタン市の領主館に『空間転移』した。シェルに紹介するとともにどうしたらよいか相談するためだ。


  ブリッジブックさんは、初めての『空間転移』に吃驚すると共に、領主館の立派さ、シェルの絶世美少女ぶりに言葉を失っていた。事情を聞いたシェルは、現在、僕には4人の妻と3人の婚約者がおり、婚約者候補も1人いるので、これ以上は無理だとブリッジブックさんに伝えた。


  当然、ブリッジブックさんは、またメソメソと泣き始めた。シェルはそれを見て、新婚旅行の途中で、新しい婚約者の候補を連れてくるなんて、前代未聞だが、僕のことだからしょうがないと諦めて、一緒に住むことを承諾してくれた。それを聞いたらブリッジブックさんは、直ぐに泣き止んで、では、暫く、ここにいたいと言う。


  いや、それは無理でしょう。父親と母親に承諾を貰わなくてはいけないと言ったが、平気だと言う。聞くと、結婚を勧められる度に、『ゴロタさんが迎えに来るから。』と断っていたらしい。あれ、もしかしてお屋敷を訪ねたのって地雷を踏みました?


  シェルが、ジト目で僕を睨んでいる。シェルさん、僕は無実です。そう言いたかったが、うまく言えない。久しぶりに、目が潤んできてしまった。結局、ブリッジブックさんには、2階のジェリーちゃんの隣の部屋に住んで貰う事になった。後、これからは『ブリ』ちゃんと呼ぶ事にした。


  僕は、ブリちゃんを置いて、デビタリア辺境伯邸に一人で戻った。辺境伯と母親のドエルさんが、一度、タイタン市に行きたいというので、新婚旅行が終わったら、案内する事を約束した。


  その後、今、モンド王国で起きていることや、この領内での変化について聞いたところ、モンド王国、特に南部で起きている事については知っていた。領内は、平穏で、変わった事と言えば、最近、妊娠する奥さんが増えているらしい事だけだった。長い事、子宝に恵まれなかった夫婦に子供が出来たとか、出来ちゃった結婚が増えているらしい。僕は、怪しいと思ったが、それだけでは淫魔サキュバスのせいとは言えないので、取り敢えず様子を見る事にした。


  辺境伯から、『今日は、この屋敷へところへ泊まれ。』と言われたが、ビラがホテルに帰りたいと言っていた。ビラの目的が分かってしまった僕は、1日位休みたかったので、申し出を受けてお屋敷に泊まる事にした。ブリちゃんとの『婚約式』は、新婚旅行が終わってからにした。その日の夕食は、普通のディナーだった。僕が、ユキウサギの肉を提供したので、お屋敷のシェフが腕によりをかけて作ってくれた。素晴らしい味付けだったが、クレスタの作る方が美味しい気がした。でも、それは内緒にしておこう。


  夜、部屋に行ってみると、大きなベッドが一つだけ置いてあった。他人の屋敷内なので、今日は何もなく直ぐに眠りについた。





  夜、僕は怪しい気配で目覚めた。例の盾が、2人の周りを囲んで蒼く光っている。サキュバスだ。サキュバスの思念が、2人を襲っているのだ。僕は、ビラを起こさないように気を付けて、『聖なるシールド』を部屋の中に張った。かなり魔力を込めて、屋敷中にシールドを広げた。


    『ギャーーーッ!!』


  3階で、悲鳴が聞こえた。屋敷の者達が、起き出して来たようだ。僕は、ガウンを纏い、屋敷の者達と一緒に3階に上がる。3階は、使用人達の部屋が並んでいた。その中の一つの部屋の前に、使用人達が集まっている。その部屋は、この前産まれたばかりの辺境伯の次女の方の専用メイドの部屋だった。部屋には、内側から鍵がかけられていたが、僕が『念動』で解除して、部屋に入った。そこには、泡を吹いて気絶しているサキュバスがいた。何も着ていない。股間には、変な道具が差し込まれていた。


  そのサキュバスは、屍肉の匂いがしない。石鹸のいい匂いと雌犬の匂いが混じっていた。僕は、皆を下がらせて、サキュバスを縛り上げた。辺境伯が、部屋に剣を帯びて入ってきた。辺境伯に話を聞くと、今回、新しく次女のメイドを雇ったそうだ。この娘は、執事の紹介で採用したのだそうだ。その執事を呼んでみようとしたが、既に自室で事切れていた。


  縛り上げていたサキュバスが、気付いたようだ。歯を剥き出して僕を睨んでいる。そのサキュバスの周りを『聖なるシールド』で包んでいるので、淫靡な思念を放射できない。


  『お前は、『全てを統べる者』だな。殺さなければ。殺さなければ。ご主人様が危ない。危ない。』


  「ご主人様とは誰だ?」


  『偉大なる神、この世の平和の使い。我々に至福を与える者。』


  「その神は、何処にいる。言わねば、殺す。」


  『偉大なる神よ。偉大なる神よ。私をお側に。』


  サキュバスの頭が破裂した。自分の思念を増幅して自殺したのだ。シールドを張っていたので、皆、無事だったが、この思念の大きさでは、この屋敷内の人間は全滅していただろう。


  飛び散った肉片などの後片付けは、他の執事とメイドに任せて下の大広間に戻った。今月生まれた辺境伯の次女について聞いてみることにした。6月6日に生まれたらしい。怪しい。しかし、まだ目も開いていない乳児だ。何か出来るわけがない。僕は、明日、その子に会わせてもらう事にした。


  翌日、ブリちゃんの妹になる次女を見たが、怪しい所は何も無かった。試しに『聖なる光』で包んでみたが、キャッキャッと可愛らしい声を上げて喜んでいた。身体中を調べたが、あの数字のシルシは、何処にも無かった。流石の僕も、乳児の大事なところを広げて見ることはしなかった。しかし、そこには、はっきりとシルシが描かれていたのだが。


  辺境伯の屋敷を後にして、南の森の先に行って見る事にした。スーちゃんと会った谷だ。その谷に、露天風呂を作った。大きなテントを張り、テーブルを出した。床にマットを敷き、大きなテントごと、シールドをしたので、冷たい南風は入ってこない。


  2人で露天風呂に入る。空には、オーロラが輝いている。


  結局、この谷には3日間いた。その間、砂金と金剛石を採集していた。金剛石は、前回の時よりも大きいが、他の石と混じっていたので、カットすると小さくなってしまうのだろう。砂金は60キロ位採取した。純度にもよるが、大金貨30枚位だろう。採集に飽きると、2人で遊覧飛行だ。山を越えて、南に行って見ると、そこは大海原だった。極寒の海だ。風も冷たい。太陽も、地平線から出て来ない。直ぐに、谷に戻って露天風呂に入った。


  ビラが、自分も空を飛んでみたいという。大きな杖になりそうな流木を探してくる。それを浮かす練習からだ。ビラが、『聖なる力』を杖に纏わせる。青白く光っている。ワンドで、その杖を動かして見る。右に左に。上に下に。うん、出来ている。念動とは違う。魔力の操作だ。


  次に、その杖にまたがってみる。今は、飛行服を着ているから平気だ。杖が光り始めた。魔力を上に向けて動くように意識を集中する。少し、浮き上がったが、脚は地面から離れていない。


  僕は、その杖に、飛翔の魔法陣を刻んだ。今までみたことも無い魔法陣だったが、なんとなくイメージが湧いたのだ。彫り終わってから、『錬成』スキルで『飛翔の杖』を作りあげた。


  ビラが、杖にまたがって、『聖なる魔力』を流し込む。浮いた。どんどん浮き上がっていく。僕は、落ちた時のために、一緒に浮遊する。ビラが恐る恐る前に進ませる。詠唱はなかったが、前に進み始めた。急に、落下を始めた。魔力切れを起こしたらしい。僕が、そっと地上に下ろしてあげる。そのあと、ビラは1人で練習していた。余り高度を上げずに、『風魔法』で左右に自在に飛べるようになるまで、それ程、時間が掛からなかった。

ゴロタには、災厄の神を殲滅することはできませんでした。まだ、乳児ですから。

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