第209話 ビラと結婚しました。
ビラちゃんは20歳になりました。もう立派な大人です。
(6月23日です。)
ビラの20歳の誕生日の日、僕はビラと結婚することにした。内輪だけの結婚式だったが、フランちゃんがゼロス教の式次第に則り式を執り行ってくれた。ビラの両親は、既にこの世にいない。1人娘だったため、兄弟もなく、親戚も全てナレッジ村にいたので、親類縁者は誰も来ない状況だった。バージンロードへの誘導は、セバスさんにお願いした。誓いのキスが、あまりにも長すぎて、皆の顰蹙を買ったのはご愛嬌だ。
次の日から、ビラと共に新婚旅行に出ることにしている。勿論、行き先は獣人の国、モンド王国だ。夢のお告げに従う事にした。南の国で、僕が知っているのは、モンド王国が一番南になる。ビラは、途中、郷里のヘンデル帝国ナレッジ村に行ってみたいと言って来た。
次の日の朝、僕達は、『空間転移』でナレッジ村に行ってみた。ナレッジ村は、まだ誰もいない死の村だった。ビラは、自分の実家があった場所に花を手向け、静かに手を合わせた。死んだ両親に、結婚の報告をしているのだろう。僕も一緒に手を合わせた。
祈りが終わったビラの目には、大きな涙がこぼれていたが、顔は笑顔だった。それから、村の南のイースト・セント市に行き、この日は、そこのホテルに泊まる予定だ。ホテルは、市内の最高級ホテルで、そのホテルのスイート・ルームに泊まることにした。夕食は、ホテルのグリルで海鮮料理を中心としたディナー・コースだ。
この日の夜、僕達は本当の夫婦になった。
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全てが終わってから、ビラが名前を呼んでくれと言う。また、あの儀式だろう。
「ビラ。」
「なあに、あなた。」
「ビラ。」
「なあに、あなた。」
20回位繰り返した。それから、二人ともぐっすり眠ってしまった。
翌日、二人は、モンド王国の王都、デルモンド市に向かった。王都に特に用は無かったが、ビラとの新婚旅行だ。観光も兼ねて、王都見物をすることにしたのだ。王都は、もう雪国だった。今回、来てみて驚いた。女の子達は、皆、コートの下がミニスカートになっていた。やはり、クレスタと来た時の、クレスタの服装が衝撃的だったのだろう。
魔人族の中でも巨人族の女性は足がすらっと長く、魅力的なので、とてもよく似合っていた。小人族は、まあ子供がミニスカートを履いているような感じで可愛らしかった。しかし、ビラが今、着ているような王立魔法学院高等部の制服のようなものは無いらしく、女の子達の注目を浴びていた。寒いので、羽毛の入ったジャケットを着ているが、わざと前を開け、チェック柄の世界的に有名なマフラーをしていた。ビラは、どうも制服を着るのが好きなようだ。まあ、似合っているので良いのだが、20歳になって高校の制服というのも、なんか犯罪臭い気がするのは僕だけだったろうか。この王都でも、やはりスイート・ルームを予約した。
翌日、僕はモンド王国の国王、デリシャス・デル・モンド4世に謁見を申し込んだ。普通なら門前払いだろうが、僕の胸に輝く3等宝珠武功勲章の威力は素晴らしく、直ぐに王宮内から迎えが来た。前に、叙勲の時に会った事がある人だったが、名前は忘れてしまった。僕が、一生懸命思い出そうとしていたら、相手が自分から名乗ってくれた。
「お久しぶりです。ゴロタ殿。宰相のデビアスです。お忘れですかな?」
にこやかな顔で挨拶され、僕は顔が真っ赤になってしまった。国王陛下には、直ぐに謁見が出来た。僕は、南の方で、災厄の神が転生したかも知れないと伝えたら、国王陛下は、驚いた顔をしたが、直ぐに宰相とヒソヒソ話をしていた。
国王陛下が、僕に現在の王国の現状を伝えてくれた。今、王国南部で猟奇的な事件が続発しているらしい。まず、強姦事件が多くなったそうだ。それも、行為の後、男どもが死んでしまうと言う奇怪な事件ばかりだ。死んだ男どもは、大切な部分が食いちぎられていたそうだ。
また、女性がいつの間にか行方不明となっている。夜、寝室に寝たはずの娘が、翌朝いなくなっているのだ。自分で、家出をした様子だが、所在が全く分からないらしい。
最後に、命は助かったが、男性の大切な部分を齧り取られる事件も多発しているそうだ。
うん、帝国のサキュバス事件の時とよく似ている。違うのは、村や町が全滅しないことだ。町の人口から比較したら、微々たる数の強姦、殺人事件数だ。僕は、先日起きた、ヘンデル帝国でのサキュバス事件、国民・兵士7万人が殲滅された事件について語った。国王陛下は、それを聞いて、顔が真っ青になってしまっていた。僕は、もし類似事件が発生したら、直ぐに連絡を貰いたい旨を申し出た。
連絡と言っても、僕の領地までは、何か月もかかってしまい、その間にモンド王国が全滅しかねないとデビアス宰相が言うので、所定の警戒体制と出入口管理体制がそろえば、僕の領地とゲートを設けてあげても良い事を話してあげた。国王陛下をはじめ、その場にいた全員が、とても関心を示して来たので、試しにタイタン市との間にゲートを開いてあげた。突然、空中に現れたゲートを見て、驚きを隠せなかったが、王国魔導士長のデアブロイさんが、失われた古の魔法について知識があったようで、国王陛下に説明していた。
一旦、皆でタイタン市に行き、キョロキョロ辺りを見回してから、直ぐにモンド帝国の王宮内に帰ることにした。今は、タイタン市の案内などしていられないので、この件が片付いてから、ゆっくり案内することにした。モンド国王は、王宮の隣、行政庁と衛士隊の中間に、ゲート管理庁を作る事にし、宰相が早速手配をしていた。僕は、いつものように、意味不明の石門を作り上げた。まだ、ゲートは設置していない。
その日の夜、王宮内で内輪の夕食会が開かれた。久しぶりに会うデリカ王女は、少し大人っぽくなっていた。それなりに胸も膨らんできている。ビラが、デリカ王女を見て物凄く嫌な顔をしていたが、デリカ王女もビラと、左手薬指の指輪をチラチラ見ていた。
話が、ビラの魔法能力の事になった。誰も見たことがない雷撃魔法の応用ある『サンダー・シェルター』を披露することになった。ビラは、サンダーボルト・ボールを宙に浮かせ、ワンドを縦横に振ったら、青白い雷光が細く網目状になって、ビラを覆いつくした。いつまでも消えない雷光もそうだが、それを網目にするなど、誰も見たことが無い。外から見ると、とてもきれいだ。消すときも、下から徐々に消していったので、その動きに、皆、うっとりと見とれていた。デリカ王女が、少し悔しそうな顔をしていたが、まあ、彼女はまだ14歳の筈だ。これから、きっと色々できるようになるだろう。でも、ビラのようなことが出来るようになるかは、僕でも分からなかった。
夕食会が終わると、国王陛下からの、『王宮に泊まって行くように。』との誘いを断って、昨日のホテルに戻ることにした。
ホテルに戻ると、ロビーには、デザイア伯爵令嬢のデビちゃんが来ていた。さすがに王宮の夕食会に招待もされていないのに行くわけにも行かないので、ここで待っていたそうだ。婆やさんとメイドさんも一緒だ。今日は、僕と一緒に泊まりたいと言ってきた。
僕は、婆やさんに、今、ビラと新婚旅行中だと打ち明けたが、クレスタとの前例もあるので、どうかお許し願いたいと、逆に頼まれてしまった。ビラは、あからさまに嫌な顔をしていたが、デビちゃんは全く動じる気配がない。諦めて、皆で泊まることにした。幸い、スイートルームには、予備ベッドが3つあるし、主寝室は、キングサイズのベッドが2つ連結されているので、3人で寝ても狭くはない。
デビちゃんは、夕食は済ませていたようで、部屋に入ると、直ぐに風呂に入りたがった。僕と一緒に入ると騒いでいたが、さすがにそれは許されないので、婆やと一緒に入って貰う。僕は当然、ビラと入ったが、デビちゃんがものすごく不満そうだった。
今日は、何もしないことにして、僕が真ん中になって寝たが、デビちゃんが僕に抱きついて来る。ビラは、それを押し退けようとするが、首に手を回して離れまいとするデビちゃんに、ついに諦めて、ビラも僕に抱きついてきた。僕は、じっと上を向いて眠ることにした。
翌朝、起きてみると、デビちゃんはもう既に起きて、伯爵邸に戻っていた。早く帰らないと、学校に間に合わなくなるらしい。一体何しに来たのだろう。遅い朝食を取った後、二人で、南に向かうことにした。『空間転移』しても良かったが、折角の新婚旅行なので、駅馬車に乗って、次の都市まで行く事にした。雪道の駅馬車は、ソリの付いている馬ソリだった。
次の都市は、デッセン伯爵領のデル・デッセン市だ。前回は、上空を飛んだだけだったので、立ち寄るのは今回が初めてだ。途中、野営が3回と村が2つあるので、5泊6日の旅となる。考えてみれば、こういう旅も本当に久しぶりだ。駅馬車が3台で、警護の衛士隊が20騎ついている。随分、厳重だと思ったら、最近、不審な事件が続いているので、警護要員が多くなったそうだ。その分、駅馬車代も高くなっているが、旅人も仕方が無いとあきらめているようだ。元々、冬の駅馬車は夏の1.5倍だが、警備割増がつき2倍になっている。
駅馬車は、魔人族の巨人種を標準に作られているみたいで、物凄く大きかった。馬も12頭立てだ。僕達人間族が珍しいのか、駅馬車に乗っている人達から声を掛けられる。僕は、今でも知らない人と話すのが苦手なので、ビラに対応を任せることにしていた。
ついに結婚してしまいました。これで妻が4人です。順番だとノエルが先かと思ったのですが、やはり年齢の壁がありました。




