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第19話 カレーライスの唄

王都の生活がはじまりました。何事もなく平和な毎日が続けばよいのですが、それでは読者はいなくなってしまいますので、すこしは波乱があった方が、きっと。

(10月6日です。)

  王都に来てから、6日が過ぎた。


  王都近くの森の中で、採集と低級魔物討伐の簡単お手軽依頼をこなし、早めに自宅に帰ってきた。今日は、白いご飯の上に黄色いスープをかけて食べる料理を作ってみる。


  牛の骨でスープを作り、あくを良くとってから覚ましておく。フライパンで、牛肉のぶつ切と玉ねぎを良く炒め、玉ねぎが透き通ってきたら、牛肉を別皿に取り出しておく。


  鍋の中に12種類位の香辛料と小麦粉をバターで良く炒め、ジャガイモ、ニンジン、季節の茸と一緒に炒めたらワインとお水を加え、最後に取り置きしていた牛肉と玉ねぎを一緒に混ぜて、グツグツ煮こんだら出来上がり。最近、王都ではやっている料理だそうで、シズさんに教わって作ってみることにしたのだ。


  まだ、階下のお店は営業中だが、このスープは、取り分けてシズさんにおすそ分けする予定だ。ちょうど、シェルさんが射場から帰ってきた。最近は、一度に3本の矢を撃つ練習をしている。一度に撃って、3か所の的に当てるのだ。結構、集中力を必要とするようだが、ニコニコしながら帰って来たシェルさんを見ていると、うまくいったようだ。


  お風呂を沸かしておいたので、シェルさんに先にお風呂に入るように促し、今日のメイン料理、辛いスープかけご飯とキュウリの甘酢漬けの準備をする。と言っても、ただご飯にスープを掛けるだけなので、極めて簡単だ。部屋の中には、おいしそうな匂いが充満している。


  料理ってどうしてこんなに楽しいんだろう。一人でできるし、おいしいし。もう、冒険なんか行かずに、レストランにでも就職しようかな。その方が、シェルさんも喜んでくれるかも知れないし。


  そんなことを考えていた時、突然、ドアのノックする音がした。おかしいな、まだお店はしまっていないから、シズさんが来る訳ないしと思いながら、ドアを開けると、そこには騎士様が一人立っていた。いや後ろのメイドさんを入れると二人だった。


   「え、お姫様とジェーン様?」


  そこには、いつもの騎士姿のエーデル姫様とメイドのジェーン様が立っていたのだ。


 「久しいの、シル、いやゴロタ殿。息災かなのです?」


  あ。ばれた。顔を引きつらせながら、二人を部屋の中に入れる。ソファなど無いので、ダイニングテーブルの椅子に座ってもらう。さりげなく、ダブルベッドを置いてある部屋のドアを閉める。僕って何をしているんだろう。お風呂場からは、シェルさんの調子はずれの歌声が聞こえてくる。


  お姫様が、ちょっと怒ったような顔で、僕を睨み


  「ゴロタ殿とシェル殿は一緒に暮らしているのでござるかなのです?」


  「はい。」


  「二人は婚約者であると叔父上から聞いたが、本当でござるかなのです?」


  「いえ、違います。」


  「それでは、婚約者でもない二人が一緒に暮らしているのでござるかなのです?」


  「はい。」

 

  「もしかして二人は、その、何とか、その。」


    顔を真っ赤にしてモジモジとし始めたお姫様。代わりにジェーン様が

 

  「姫様。私が代わりに聞きます。あなたたちは、結婚前で将来の約束もしていないのに、一緒に暮らし、あんな事やこんな事など、青少年にとって、してはいけないことを毎夜しているのですかと、お姫様はお聞きになっております。」


  「いえ、誤解です。」


  「それでは、お二人の関係はどんな関係なのですが。四大精霊に誓って、恥ずかしいことはしていないのですか、とお姫様はお聞きになっております。」


  「しておりません。」


  「姫様、この子のいう事、どのようにお考えですか?」


  「ええ、私はシルいえゴロタ殿の言う事を信じたいと思っているのです。しかし、姉代わりとして、シェル殿にも確認しなければならないのです。」


  はい、姉様になったつもりのお姫様ですが、僕は同意していませんから。


  「ところで、この良い香りのするものは何ですか。何かの食べ物なのですか?」


  「はい、辛しスープご飯です。」


  「ほう、そのようなもの、食べたことはないのです。」


  「姫様、これは今、巷で大流行している食べ物ですが、ごった煮のようなもので、王族の食べるようなものではありません。」


  「何を言っておるのです。食べてみなければ、そのような判断ができないのです。」


  僕は、お二人の食事の準備を始めた。その時、非常にまずい状況が発生した。シェルさんが、お風呂から上がってきたのだ。


  「ああ、良いお風呂だった。ゴロタ君、冷たいソーダ水ないかな。」


  いつもシェルさんには言ってるんです。ズボンをはかないで、お風呂から出てこないでって。なのに、今日もパンツと上着だけで、部屋に出てきて。お姫様と目があって。一瞬、静寂が流れて。


  「キャー、何でお姫様がここに。」


  と言って、お風呂場に走って逃げるシェルさん。


  「ジェーン、今日からゴロタ殿は宮殿の中で暮らして貰いますです。それが、姉たる私がしなければいけないことなのです。」


  「はい、このままでは、ゴロタ様の教育に悪いと思われます。さっそく馬車の手配をします。」


  「ちょっと待ってよ。」


  ようやく寝間着のズボンをはいて出てきたシェルさん。


  「私たち、別にやましいことなんか、全然していないんだから。なんで、ゴロタ君を連れて行くのよ。それに姉ってなによ、姉って。いつからお姫様はゴロタ君のお姉さんになったの。」


  開き直ったシェルさんは、強い。髪がびしょびしょに濡れ、寝間着姿のままでなければ。


  僕は、黙ってご飯に辛いスープを盛った大皿4枚をテーブルの上に並べ、冷やしたお水の入ったコップとスプーンを皆に配った。


  「とにかく、せっかくゴロタ殿が準備してくれたのですから、食べてからにするのが良いことなのです。」


  「はい、姫様、いただきましょう。」


  食べ始める二人を見て、シェルさんも食べ始めた。


  「おいしい、なにこれ?ゴロタ君が作ったの?」


  シェルさんも、おいしそうに食べてくれた。でも、お姫様にお城に連れていかれたら、もうこんなシェルさんを見ることはできなくなる。


  それに、きっとお城の高い塔のてっぺんの暗い部屋に閉じ込められて、一生そこで暮らすんだ。窓から下界を眺めながら。くすん。僕は絶対にお城になんか行きたくない。


  そう考えると、涙がこぼれてきた僕。それを見たエーデル姫が、


  「ゴロタ殿、どうしたのです。私は、ゴロタ殿のそんな顔を見ると、悲しくなってしまうのです。」


  「ゴロタ君、お城になんか行かなくてもいいのよ。ここで私とずっと暮らしましょ。それに私の『郷』の両親だって、ゴロタ君に会ったら絶対に結婚を認めてくれるから。」


  結婚というワードに反応したお姫様が、


 「え、二人は将来、結婚の約束をしたの?でも、さっきゴロタ殿は違うと言っていたのです。本当はどうなのです?」


  「正式の婚約は、私の両親が結婚を認めた段階で成立するのよ。でも、まだ『郷』に帰ってないから、今のところは仮婚約ね。」


  「仮婚約ということは、まだ婚約前、そのような若い二人が、一緒に暮らすなどふしだらな事は姉の私が許さないのです。」


  「あの、先ほどから、姉、姉と言ってますが、どうしてお姫様がゴロタ君のお姉さんなの。年だって1年と違わないじゃない。」


  もう、ほとんど友達同士の喧嘩状態。僕の気持ちなんか誰も聞いてくれず、自分の言いたいことだけを言い続ける二人。見かねたジェーン様が、


  「お二人とも、ご飯がお口から飛んでいます。食べ終わってからにしてください。」


  さすがジェーンさん、礼儀作法にはうるさいんですね。


  黙々と食事を続ける僕達。食事を終えてから、シェルさんの好きなリンゴのコンポート生クリーム添えをお出しした。当然、お姫様達にも。僕の分は、残ってなかった。一口食べたお姫様は、


  「まあ、これはおいしいのです。これもゴロタ殿がお作りになったのですか?」


  「うん」とうなずく僕。シェルさんがなぜか自慢げに、


  「これはゴロタ君が私のためにいつも作ってくれるデザートなの。最初に食べたのは、ゴロタ君の家だったわ。」


  と、不必要情報を発表する。なぜか悔しそうなお姫様。


  「もう、良いのです。ゴロタ殿、私と一緒にお城に来るのです。」


  涙がジンワリあふれ出ながら、首を左右にふる僕。お願いだから、僕のことはほっといてください。


  リンゴのコンポートを作っているときが、一番幸せなんだから。


  「わかりました。それでは、今日から私もここに泊まるのです。姉として、ゴロタ殿の貞操を死守しなければならないのです。」


  なんか、ものすごく誤解しているし、スゴイことをおっしゃっていますが。お姫様が、ここで暮らす?絶対にありえませんから。僕は、絶対に逃げ出しますから。


  「姫様、それは許されません。お父上が心配されます。どこの馬の骨ともわからない者と一緒に暮らすなど。」


 「分かったのです。それでは、明日、お城に来るのです。お父様に、会って貰うのです。」


  へ、お城に行く?王様にお会いする?無理、絶対に無理。泣いてしまう。死んでしまう。窓から飛び降りてしまう。本当に本気泣きをしてしまいます。


  その日は、お姫様にはお城に帰って貰った。シェルさんが、急に能天気なことを言い始めた。


  「そうだ、ゴロタ君、結婚してしまおうよ。どうせ、いつか結婚するんだから。明日、教会で式を挙げてからお城に行けば、もうお城に住めなどとは言われなくなるわよ。そうしましょう。」


  この人は、何を考えているのだろうか。というか、何で15歳になったばっかりで結婚しなければいけないですか。それに、この人だって、絶対に発育不良だし、僕だって自慢できないけど、まだ子供のままだし。結婚なんか考えてもいないし。


  「いや。まだ結婚したくない。」


  「え、いやなの。私とじゃ嫌なの。そんなに私のことが嫌いなの。今までのことは何だったの。」


  ちょっと、待ってください。シェルさんと結婚するのが嫌とは言ってませんから。シェルさんのことが、嫌いとは言っていませんから。それに今までだって何もありませんでしたから。あ、あったと言えばあったのかな?あんなことや、こんなこと。大体、事の発端は、あのハッシュ村の僕の家でのスッポンポン事件だったのだし。


  え、結局、僕にとってシェルさんって何なの。どんな存在なのかな。


  お友達?同居人?友達以上恋人未満?将来を約束している?かな?


  とにかく、明日、結婚するのは、絶対に嫌です。


  その夜、ジンワリ涙を流しながら、シェルさんに添い寝される僕だった。

  

カレーライスという言葉は、現代まで文明が進まないと、一般的にならないかもしれません。その他の食材や料理は、現代風のものもありますので、まあ、作者の思い付きという事で。本筋以外のところですから(汗)

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