第206話 火の山
いよいよ、ゴロタのバージョンアップは最終局面を迎えることになります。
(5月20です。)
最近、タイタン市へ転入する人が多い。魅力の一つは、治安が良いと言うことだらしい。そういえば、市内の凶悪犯罪は、あの宝石店立て籠り事件以来ない。殺人事件もない。犯罪が割の合わない商売だと、皆知っているからだ。
次に、税金が安い。
5%、10%、15%の3種類だけだ。しかも、去年までは無税だ。他のどこの都市も、最低20%かららしいので、破格の安さだ。タイタン市内は、土地の所有を認めていない。全て借地だ。借地料は、当然、僕に支払う。これがバカに出来ない位の額だが、他の都市に比べれば、これも破格に安い。最後に、差別が無い。そのため、亜人の流入が続いている。エルフ以外の亜人は多産だ。今後も、人口は増え続けるだろう。
最近、エクレア伯から領地移譲の話が出ている。
『もう歳なので引退したい。爵位手当と家作収入だけで十分だ。』との事らしい。子供は、娘さんが1人いるが、親の反対を押し切って平民と結婚したらしく一緒には暮らしていないらしいのだ。
エクレア市には、僕が病院を建設中だ。それまで病院らしいものは、教会の補助事業で治癒をしていただけらしい。また、学校も中学までしか無い。行政が停滞して、財政が逼迫しているのだ。僕は、これ以上領地を拡張する気もないし、今の領地で十分だと思ったが、エクレア領の領民のことを考えると無碍に断れない。最終的には、拡張するにしても、国王陛下の裁可を得るのに1年は掛かるから、それから考えようと思っていた。
それよりも、ヴァイオレットさんの行動が問題だった。最近は、ワイちゃんと一緒に市内観光をしたり、ハッシュ町のリバちゃんとお茶をしている。しかし、リバちゃんが、店外デートで食事をご馳走して貰うことに、興味を持ったらしい。いや、ヴァイオレットさん、お客さんが破産してしまうから、やめて下さい。
それでも、働きたくなったのかエリーさんが開く高級店で働くことが決まってしまった。お客さんがかわいそう。あ、パンツは履いてくださいね。そう言う店では無いはずですから。エリーさんは、王都にも広告をしているみたいだ。王都の貴族や大商人を相手にして営業するそうだ。なんか、高そうな店になりそうだ。
それよりも、ブラックさんが棲むという『火の山』に行く事にした。『火の山』がどこにあるか分からないが、北西の方らしい。シェル達は連れて行かない事にする。危険は無いと思うが、きっと僕自身の問題なんだろうと思ったからだ。
ヴァイオレットさんが、領主館の転移部屋で服を脱ぐと、時空のゲートを開けた。ゲートの向こう側は、『火の山』だ。僕は、躊躇う事なく転移した。そこは、灼熱の世界かと思ったが、そうでも無かった。真夏の炎天下のような感じだ。我慢できない事もないが、シールドを張った。熱波が遮断される。
山の頂や中腹からマグマが噴き出ている。至る所から、蒸気が噴出していて、さながら火炎地獄のようだ。その中で、ヴァイオレットさんは、直ぐに全長100mの黒龍の姿に戻って、大きく羽ばたいた。僕も『飛翔』で、後について行く。空は、厚い雲に覆われている。火山ガスが辺りに充満しているため、草木1本生えておらず、動いている獣1匹もいない。死の山だ。ヴァイオレットさんは、『火の山』の上に到着すると、火山の火口に飛び込んでいった。僕も、仕方がないので、同じように飛び込んでいった。辺りが、真っ赤なマグマに囲まれている。シールドが無ければ、溶けてしまうだろう。どれくらいマグマの中にいたろう。突然、辺りが無の空間になった。いや、周囲には夥しい星々が見える。ここは、どこだ。そう思った瞬間、物凄い速度で移動を始めた。星が流れて行く。
着いたところは、何もない所だった。大地はあるが、ただ、存在しているだけ。不思議な空間だった。ブラックさんとワイちゃんが黒龍の姿でいた。他に、真っ赤な龍や真っ青な龍もいる。皆、動かずにジッとしている。ブラックさんが、人間の姿になって、近づいてきた。腰のところは、長い髪の毛で隠れている。
『ゴロタよ。方位の神獣を召喚せよ。』
僕は、4匹を召喚した。まだ、可愛い姿のままだ。辺りを見回して、状況を理解したのか、元の姿になって、四方に飛んでいった。きっと、東西南北が分かるのだろう。玄武のゲンさんが飛んでいった方が北なのだろう。
ブラックさんが、神獣達に命じた。
『そなたらの力を示せ。』
神獣達の目が赤く光るとともに本体が、青白く光った。光が繋がる。その光が、其々の位置から僕に向かって伸びて来る。僕が、光に包まれる。僕の頭の中に、不思議な光景が広がって行く。行った事もない世界。見た事も聞いた事も無い世界だった。
突然、おかしな声が聞こえて来た。
『リンクカンリョウ。パッケージヲジッソウシマス。ゲンザイ、10%デス。パスヲケンサクチュウ。ミツカリマシタ。インクルードシマス。25%カンリョウ。アタラシイパッケージガアリマセン。ヴァージョンヲコウシンシマス。』
延々と続く呪文。僕には何も変化が無い。ただ、神獣達の目の光が強くなったり弱くなったりで、凄い速さで点滅している。
『100%カンリョウ。スベテノパッケージガインクルードサレマシタ。オツカイノパッケージハサイシンデス。』
神獣達は、光らなくなって、いつもの可愛らしい姿になっていた。目の光も消えている。
『ゴロタよ。これでお主は、蒼き盾を持つ者となった。全てを統べる者じゃ。』
神獣達は、四方に飛んでいって消えた。
『青龍を呼ぶのじゃ。』
僕は、アオちゃんを呼んだ。僕の左腕に、蒼く光る盾が着装された。盾が話しかけて来る。
『わてや、わて。アオや。形になる時は、こんなん感じや。でも、ホンマは形が無くても構わへんのや。』
訳が分からない。
『まあ、そのうち分かるやろ。ほな。』
盾が消えた。
『わては、いつもいるから気にしといんて。』
「いつもいるってどこに?」
『それは、こう言う事じゃ。』
ブラックさんが、突然、炎のブレスを僕に放った。国を滅ぼすブレスだ。僕は、薄いシールドを纏っているだけだ。間に合わない。僕は、真っ赤な炎に包まれた。なんとも無い。蒼く光る盾が完璧に防いでいる。さっきのような片手用の小さな盾では無く、大型の重騎兵が持つような盾が宙に浮かんでいる。
今度は、ヴァイオレットさんが、炎のブレスを僕の背後から吹いた。もう1枚、同じような盾が現れて、完璧に防いでくれた。
『これで分かったじゃろ。この盾は持ったり構えたりしなくとも良い。必ず、最適な形態で守ってくれるのじゃ。』
凄い防御力だ。意思があるようだ。聞けば、この魔法は、『イージス何とか』と言うらしい。余りにも古いので、ブラックさんも名前を忘れたらしい。しかし、これを持ったと言うことは、戦いが始まると言うことだ。災厄の最後の神が降臨して来るのでは無いだろうか。
ブラックさんが教えてくれた。
『あの神獣どもは、結構怠け者でな。今、天上界で下界に降りる準備をしておるが、いつ降臨するかは気分次第じゃ。戦いの時が来れば、必ず分かるから、今まで通りにしておれば良いのじゃ。』
取り敢えず、温泉観光旅館が出来るまでは戦いたくない僕だった。
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色欲の神『アスモデウス』は、時が来たことを知った。だが、まだ動きたくない。思念体のままで良かった。この世界は、甘美で芳醇で隠微な香りに包まれている。わざわざ、あの臭い世界になど行きたくなかった。『アスモデウス』は、使徒を送り出す事にした。言葉は要らない。思念で使徒を呼んだ。使徒は、地上に降り立った。ヘンデル帝国の北、海に面した森の中に。
使徒は、サキュバスだった。彼女は、人、いや男の特定の匂いが好きだった。男が、絶頂に至るときの呻き声が好きだった。夢の中で、繰り返し繰り返し●●続けるのだ。その内、男は何も考えられずに、●●●ばかりを求め続ける。サキュバスは、今は、何も着ていない。取り敢えず、森の端の村を襲う事にした。夜、皆が寝静まった頃、そっと忍び込む。男の匂いがする。思念を飛ばして、淫らな夢を男どもに見せる。まだ●●もできないガキは除いた。男どもは、股間から●●を垂れ流しながら狂っていった。村の女を襲い始める。老若関係ない。次々と襲い、殺し、最後は食い始めた。サキュバスは、耳に響くような嫌な笑い声で笑い続けた。
帝国の北の辺境の村、ドロンは、こうして死の村になった。
サキュバスは、村の娘の死体に乗り移った。首が折れていたが、平気だ。その姿のまま、朝、村を出た。南に向かう。サキュバスは、腹が一杯だった。男の股間を貪り食った。血まみれの●●も食った。しばらくは、何も食いたくなかった。次の村へ行く駅馬車が通りかかった。乗せて貰ったお礼に、淫らな夢をプレゼントした。駅馬車の乗客は、誰も次の村に着くことができなかった。
次の日、サキュバスは、次の村に行った。活気のある村だった。サキュバスは、旅人のフリをして、旅館に泊まった。夜、村中の男達が夢を見た。次の朝、村に生きている者は年老いた者と、まだ大人になっていない男の子達だけだった。
サキュバスは、男を喰らうと、インキュバスになった。インキュバスの獲物は女だった。しかし、この村には、もう女はいなかった。次の村がターゲットだった。
全てを統べる者が生まれたとき、神が天から降りて来る。そんな伝承でした。しかし、サキュバスとは、エッチな魔物が現れました。




