第205話 サタンの使徒ユニコーン
ユニコーンは、サタンの使徒です。え、あの可愛いユニコーンがと言うのは、見た目で胡麻化されています。角から雷撃は放ちません。あれは、ゲームの世界の話です。
(5月6日の夕方です。)
忍びの採用試験は全て終わった。結局、14歳の子は、50人中、8人もいた。皆、読み書きはできるが、学校に行ったことのない子ばかりだった。僕は、毎日、交代で試験官を搬送していた。シェルが、事務的な手続きや面接官をしてくれたので、僕は実技のみを見ていた。元々の身体能力が高い上に、忍びの訓練を重ねているので、半端な冒険者よりは戦闘能力が高い者が殆どだ。それに、存在感のなさは、常人では真似ができないレベルだ。
夕方、郷の長にお別れを言おうとすると、最近、森の南から魔物が現れて困っているそうだ。そのため、森に狩りに行けず、このままでは、冬の備蓄ができなくなってしまう。郷で討伐隊を組んで、追い払おうとしたが、その鋭い角で、皆、刺し抜かれてしまった。僕は、その魔物を見たことはないが、聞いたことがある。『ユニコーン』だ。身体は真白な馬のようだが、大きな違いは、頭に長く捻れた角が1本生えていることだ。また、大きさを自由に変えることが出来るようで、森の中を自由に駆け回れるそうだ。
僕は、明日、皆を連れて来るからと言って、一旦、領主館に帰った。僕には、どうもユニコーンを討伐する気になれなかった。白い馬なら可愛いと思うのだが。聞くところによると、昔、人間とユニコーンは仲が良かったらしい。しかし、その角に、全ての毒を消す効果があるからと言う理由で、ユニコーンは狩猟の対象になってしまったそうだ。それからの乱獲が祟り、ユニコーンを見なくなってしまったのだ。僕は、ユニコーンを捕獲しようと思っている。そのためには、ビラの力が必要になる。ビラの『魔獣使い』のスキルがあれば、戦わずに馴らせるのではないかと考えたのだ。
次の日、シェルとビラを連れて忍びの郷に来た。今日は、全員フル装備だ。3人で南へ向かう。未だ5月だと言うのに蒸し暑い。森の中の湿度が高いせいだろう。僕は、探知を使う。ビラもバルトを飛ばしている。しかし、見つからない。僕は自分の気配を消した。僕の余りにも高い戦闘力で、勘の良い魔物なら、逃げ出す事が多いからだ。
暫くすると、バルトが何かを見つけた。森の熊や猪が逃げて来ているのだ。逃げて来る方を見ると、大きなユニコーンがいた。いや、これは大きすぎる。森の木々を下に見下ろしている。高さは30m以上ありそうだ。角だけでも10m位はありそうだ。僕は、『飛翔』で、ユニコーンの目の前に浮かんだ。ユニコーンがこちらを見ている。大きく蒼い瞳の馬の目だ。とても可愛い。真白なタテガミが、前の方まで回っていて髭のようだ。尻尾はライオンの尻尾の形だが、端の毛も真っ白だ。蹄は、ヤギのように二つに割れている。
ユニコーンは、黄金色に光ったと同時に姿を消した。いや、消したわけではない。気配は、地上に確かにあった。僕は気配のある所へ着地した。金色の光に包まれたユニコーンがいる。ビラが近づいて来て、ユニコーンの前に、しゃがみこんだ。
「まあ、可愛い。ユニコーンって、こんなに小さいの?」
ユニコーンは、30センチ位の大きさになってしまっていた。角の長さは10センチ位だ。ユニコーンは、震えながらビラのスカートの中に潜り込んできた。ミニスカートだから、全身が隠れる訳は無いが、プルプルと震えている。ビラは、困ってしまった。引きはがしても良いが、震えているユニコーンを見ていると、それも可哀そうだし、と言って、このままでは変な気持ちになってしまう。
そのうち、ユニコーンは寝息を立てて眠り始めた。ビラは、ユニコーンを抱え上げて、胸の間に抱いてあげた。このユニコーンは雄なのだろうか。結局、ユニコーンとは戦わずにテイムしてしまったようだ。このユニコーンは、本当に災厄の罪のうちの『憤怒の神サタン』の使徒なのだろうか。僕には、分からなかったが、忍びの村の人々が喜ぶなら、それでいいかと簡単に考えることにした。僕達は、ユニコーンを連れて領主館に帰ってきた。玄武のゲンさんが、ユニコーンを見て、恐ろしい事を言ってきた。
ユニコーンは、処女が大好きで、処女に抱かれると眠ってしまうそうだ。その代わり、非処女には見向きもしないとの事だった。僕の妻達で非処女は1人しかいない。しかし、そのことはシェル以外には内緒にしているので、クレスタは、決してユニコーンのそばに近づかなかった。ユニコーンは、ビラの使い魔になったはずなのに、ジェリーちゃんが大好きだった。これは、処女好きと言うよりも、幼女好きの変態馬なのかも知れない。
ジェリーちゃんも、ユニコーンの事が好きなようで、1m位のポニーサイズにして、鞍を付けて乗って遊んでいる。ジルちゃんも一緒になって遊んでいるが、ジルちゃんの膝の上に乗って眠るのが好きなようだ。どうも変な嗜好があるようだ。
名前は『ユニ』と名付けたが、別に何も変化は無かった。既に、ビラの使い魔になっているからだろう。子供達と遊んでいない時は、厩舎に入れているが、どうも隣の雌馬が危なさそうだ。ユニが厩舎に入ってくると鼻を鳴らしている。まあ、ユニコーンと普通の馬との間に何が生まれるのか楽しみだから放っておくことにした。
僕は、移動で馬に乗ることは無くなったので、ユニは子供達の遊び相手位にしか役に立たないが、森に放って冒険者達に狩られるよりも、屋敷の中で自由に歩き回っている方が幸せなので、好きなようにさせていた。
しかし、夜中に厩舎で寝るのは嫌なのか、夕方になると小さくなって屋敷の中に入って来る。コマちゃんやトラちゃんが威嚇するが、出て行かない。しょうが無いので、籠を部屋の隅に置いて藁を敷き詰めてあげた。夜、その籠の中で丸くなって眠っているユニも、ほっこりと可愛らしいと思う僕だった。
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(5月10日です。)
今日は、新しく採用した忍びを迎えに行く日だった。エーデル姫が、忍びの村に行ってみたいと言うので、一緒に行く事にした。ゲートを使って行ってみると、採用予定者達が大きな荷物を持って待っていた。皆、背中に直刀を背負い、腰に三又の金属棒を刺している。この三又の武器は『サイ』と言うらしい。
制服は既に準備しているが、今は、忍び装束を着ている。色はいろいろだが、黒が最も多い。忍び装束の下には鎖帷子を着こんでいる。足元は、藁を編んだサンダルのような物を履いている。さすがに、忍び頭巾はしていないが、この格好でタイタン市内を歩いたら、間違いなく衛士さんに捕まってしまうだろう。
郷からは皆で、『空間転移』したが、未成年の子達には母親が同行してきた。どこで、寝るのか、どんな学校に行くのかが心配らしい。転移先が僕の領主館の中だったので、室内の広さと豪華さに驚いていた。次に、母親だけ、タイタン市内を案内する。案内役は、サクラさんだった。王都でも勤務して貰うのだが、王都見学は省略した。帰りのお土産は、『タイタンの月』を1人2箱持たせた。
新忍び達には、まず制服の支給だ。女の子はメイド服風の戦闘服、男の子は衛士隊制服に似た戦闘服だ。着替えてから、それぞれに警備する施設に案内されていく。
宿舎は、女の子たち20人は、とりあえず、王都屋敷の3階に泊まって貰う。今年の秋には、領主館の脇と王都屋敷の脇に女性専用の宿舎ができるので、そこで寝泊まりして貰う。サクラさん達は、幹部なので、今まで通り領主館の3階に個室が与えられている。
男性忍びは、イチローさん達と一緒の従業員宿舎だ。まだ十分に余裕があったので、全員が入居出来た。そのうち、王都屋敷警備要員は、王都に移転する予定だ。男子、女子ともに未成年は、全員、タイタン学院大学付属中等部学校に転入して貰う都合上、タイタン市勤務だ。
そういえば、衛士隊のダーツ大佐から増員の要請が来ていた。タイタン領内の人口は、8万人近い。200人の衛士隊では、圧倒的に足りないのだ。衛士隊の新規採用を200名とするので、領内と王都、エクレア市から募集するようにお願いした。衛士隊の子息は、優先採用して貰うようにも言っておいた。
騎士団は、ほぼ儀礼用なので、現状のままとした。直ぐに、戦争は無いだろうし、魔物も付近にはいなくなったからだ。たまに西の森へ、遠征訓練に行っているが、オーガ3匹位にも苦労しているみたいだ。今度、選抜して南のダンジョンにでも潜らせよう。少しは、根性が付くだろうしスキルアップも図れるだろう。
エリーさんが、タイタン市の繁華街の中に、夜の店を開きたいと言ってきた。タイタン市は、そんな街にしたくなかったので、難色を示したら、そんな店では無いと言う。静かな雰囲気の店で、ドレスを着た女の子が、隣に座ってお酌をするだけ。エッチなことは、一切ない店らしい。そんな店が流行るのかと思ったが、許可だけならタダなので、試しに許可してみた。既にある店の改装だけなので、1か月以内には、オープンするそうだ。場所は、クレスタの店の裏だそうだ。
そう言えば、最近ワイちゃんに会っていない。どうしているのかな?と思った途端、ヴァイオレットさんが、召喚部屋から現れた。ヴァイオレットさんは、向こうで人間に変身してから転移してくるから、素っ裸だ。そのため、こちら側に誰もいない部屋を用意しなければいけない。
その部屋で、ヴァイオレットさん用の、サイドにスリットの大きく入ったロングドレスに着替えてから、出て来るのだ。ヴァイオレットさんの用件は、そろそろブラックさんのいる、火の山に来るようにと言うことだった。
僕の部屋のソファーに深く腰掛け、脚を仕切に組み替えている。ヴァイオレットさん、一体何を見せたいのですか?
急にドアが開き、シェルが飛び込んできた。
ユニコーンって、結構エッチです。クレスタさん、いつかばれてしまいますよ。




