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第204話 忍びの郷

温泉街はちゃんとできそうです。

(5月1日です。)

  イチローさんから、相談があった。今の僕の屋敷の警護だが、人手が足りないそうだ。タイタン市の領主館と王都の屋敷、それに領主直轄の各施設全てを見ることはできないそうだ。そういえば、うっかりしていた。タイタン市の公共施設の警備は、衛士隊に任せているが、クレスタのお土産屋さんとか、ハッシュ村のギルドとホテルそれに娼館2館、エッチな飲食店、フライス村のギルドと旅館それに今度できる温泉観光ホテル。


  今の10人では、絶対に無理だ。実際は、屋敷以外は常駐せずに、巡回しているだけだそうだ。そこで、イチローさん達の『郷』に行って、新たに募集したいそうだ。それに、サクラさん達も結婚して子供を作りたいそうだ。当然、相手はイチローさん達の中の誰かだ。うん、結婚式には、呼んでもらおう。そう言えば、イチローさん、婚約者とは別れたそうだ。理由ははっきりしないが、どうやらイチローさんより好きな人ができたみたいだ。やはり娼婦との恋はうまくいかないようだ。


  それはともかく、シェルと相談したら、イチローさんに、これからの警備計画を作って貰い、必要人員を雇う事にした。取り敢えず、イチローさんの『郷』に行かなければならない。イチローさんの『郷』は、中央フェニック帝国の帝都リオン市の南、辺境にあるらしい。シェルとイチローさん、サクラさんの4人でリオン市に『空間転移』した。それからは、徒歩で行くと言う。忍びの足でも10日ほど掛かるそうだ。駅馬車は、南へ行く馬車はあるが、人里離れた忍びの郷に立ち寄る駅馬車はなく、いつもは、忍び走りで帝都へ往復しているそうだ。


  僕は、防具屋に行き、飛行帽と飛行眼鏡を2つ買ってイチローさん達に渡した。帝都の外に出て、まず『重力』スキルでシェル達の体重を10分の1にした。その後、僕は『飛翔』で、シェル達は『念動』で飛行させるのだ。4人全員で手を繋げて飛ぶのは、少し恥ずかしいので、この手段を取ったのだ。シェルは、それでも手を繋ぎたがったので、繋いであげる事にした。


  シェルが物陰に行って飛行服に着替えた。サクラさんは、忍び装束だ。僕は、スキルを発動し、地上300mに浮かび上がり、時速300キロ位で飛行を始めた。もっと速度を上げても良いが、呼吸が苦しくなるので、抑えて飛んでいる。途中、休みを入れて5時間、やっと『忍びの郷』に到着した。


  森の中に、岩山がそそり立っている。集落どころか、人影がない。僕達は、森の中の僅かに開けている場所に降下した。着地する前、周辺を探知すると、300人位の人間が木や岩の影に潜んでいるのが分かった。僕は、空中でシールドを大きく張り出した。そのまま着地したと同時に、上から大きな網が被せられてきた。罠だ。


  しかし、シールドに遮られて、僕達には掛からなかった。まるで宙に浮いているみたいになっている。僕は、少しだけ力を開放して網を一瞬で灰にした。続いて、四方八方から飛んでくる短い矢。シールドで防いでも良いが、ご挨拶にはご挨拶だ。念動で全ての矢を、飛んできた方向に反転させた。


  至る所で、呻き声が聞こえた。続いて、油の攻撃だ。油の入った壺が投げられ、続いて火矢が打たれた。僕は、自分たちにかからぬようにしてから、ストリームで、火の付いている油を四散させる。また、悲鳴が聞こえてきた。油が森に延焼していく。僕は、弱い冷気をかけて炎を消した。


  今度は、緑の忍び装束を着た者が、30人程出てきた。片手には、短い直刀を持ち、もう一方には三叉の金属道具を持っている。イチローさんとサクラさんはニヤニヤ笑っている。シェルは、『ヘラクレイスの弓』を構えているが、撃つ素振りはない。僕は、『ベルの剣』を鞘ごと抜き、左手で提げ刀にしたまま立っている。中々掛かって来ない。理由は、直ぐに分かった。後ろから、吹き矢が撃たれたのだ。やはり直接ではなく、闇討ちが得意なのだろう。僕は、半歩動いて躱した。全く後ろは見ていない。


  諦めたのか、全員で掛かってきた。僕は、皆の両腕の肘をポンポンと叩いて行った。腕が痺れて、獲物を落としてしまう。一番遠い者の所まで瞬動で飛んで、獲物を落としてから、片手で頭上に抱えた。敵は女性だった。2m位先に投げ捨てた。クルリンパッと立って、怪我はしなかったようだ。もう面倒だから、剣はしまい、空拳で敵の全ての武器をイフクロークに投げ入れた。相手は、両手に持っていた武器が一瞬で消えた事に驚いている。


  敵の戦意が消えた。もう武器は持っていない。集団の中から猫族の老人が出てきた。猫人の年齢は、見ただけでは分からないが、この老人は、長く伸びた顎髭と眉毛、それに丸くハゲ上がった頭で老人だろうとは思ったのだ。老人は、この『郷』の長だった。名前は無い。忍びに名前がないのは、自分のことを明らかにしないための手段だそうだ。


  「何をしに来たのじゃ。」


  「長、俺だ。」


  イチローは、忍びの頭巾を取った。


  「おお、お主は泉の南のシロか?」


  どうやら住まいの場所と毛色で区別しているみたいだ。不便な気がするが、風習なのだろう。長が言うには、急に空から舞い降り、見たこともない服装、災の妖が来たと思ったそうだ。僕とシェルが、メガネと帽子を脱いだ。皆が吃驚している。美男美女が現れたのだ。


  取り敢えず、郷の中心街に案内された。中心街と言っても、広場があるだけ。家がない。いや、目を凝らしてみれば、あちこちに立っていた。いわゆる迷彩塗装と、草木のカモフラージュにより、巧妙に隠されていたのだ。長の家は、2階建ての大きな家だった。明かりとりの窓が天井に開いており、外壁の窓は、極力少なくしている。


  シェルが、長に忍びの警護隊を雇いたいと言った。イチローさんやサクラさんを分隊長として、5人ずつ、全員で50人だ。年齢は、分隊長より下をお願いした。報酬の話になったら、一緒に聞いていた郷の人達の目が見開いた。破格なのだ。しかも、あの、嫌な暗殺や誘拐をしなくても良いと言うのだ。


  大人達は、こぞって自分の息子や娘を推薦してきた。しかし、50人となると、直ぐには選定できない。取り敢えず、イチローさんの部下5人とサクラさんの部下5人を決める事にした。


  今日は、長の家に泊まる事にした。勿論、イチローさん達は実家に泊まる。預かっていた、沢山のお土産を出してあげた。取り上げていた郷の皆の武器は、とっくに返している。長の家は、大家族で、長男家族と、長の末娘がいた。長から末娘を採用して貰えないかと言われた。未だ14歳だが、運動能力と戦闘能力は誰にも負けないと言う。


  長には世話になっているので、無碍にも断れない。そこで、採用条件を緩めた。今年の3月までに14歳になっている者も、能力試験で合格できれば、面接を受けれる事にした。ただし、14歳の者は、働きながら中学に通って貰う。郷には、学校がなかった。集会場や、武闘訓練所が学習場所で、読み書きや算数を教えて貰っている。教師は、代々、長とその縁者が担当していた。


  翌日は、大変な事になっていた。小さな子供を持つ母親が長蛇の列を作っている。何とか、自分の子供を学校に入れたいとの思いらしい。どう見ても、小学生にしか見えない子供を連れている母親もいた。


  長から、長く戦争のない時代が続き、忍びの働き口は、犯罪者集団か領主の汚れ仕事位しかない。しかし、学校も碌に出ていない子供達に、まともな仕事があるわけなく、村を出て行った子供達の殆どは行方知れずになってしまっている。


  僕の申し出は、子供達の将来に希望をもたらしてくれたのだそうだ。僕は、シェルと相談した。タイタン市にある中学校の寄宿舎を増設して無償留学生を受け入れよう。定員は30名、各学年10名ずつだ。これから工事をしても、出来上がるのは秋だ。秋に、選抜試験をする事になった。そうすれば、今、採用できなくてもチャンスが出来るわけだ。シェルが、そう説明すると7割位の母親が帰って行った。


  採用試験は、まず身体検査だ。年齢や体格を確認する。猫人に多いアルビノ種も不合格だ。次に簡単な学力テスト。小学校卒業程度だ。最後に、体力検査。走力、跳躍力、筋力を測定する。変わった種目は、10mの高さから飛び降りての着地だ。全ての科目でトップは、村長の娘だった。ゲートを使ってタイタン市に戻った。今日、採用した10人は、18から20歳が中心で、未成年は村長の娘だけだった。採用者には、名前が必要なので、自分たちで考えておくようにお願いした。


  タイタン市への移動は、5月10日にした。それまでに、ベッドを揃えなければならない。また、領主館と王都の屋敷の従業員用宿舎も増やさなければならない。男子寮と女子寮だ。出来上がるまでは、相部屋か衛士隊と騎士団の女子寮に間借りだ。


  また、バンブーさんと相談だ。衛士隊も、そろそろ拡充しなければいけない。タイタン市も、年内に人口が5万人を超えるのは、確実だ。またハッシュ村を始め各町村も拡大している。温泉街にも、衛士隊の出張所が必要だ。


  今年から、年貢の賦課と徴税が始まる。昨年秋に、徴税吏員を採用して、王都に半年間の研修に行かせている。今、行政庁に徴税課を設けているが、別組織にする予定だ。後、救護院と孤児院も必要だ。ゼロス教会とアリエス教会にお願いする予定だが、建設はこちらでしなければならない。


  学校も作らなくてはならない。市立小学校が4つに市立中学が2つだ。経費は莫大になってきたので、最近、サボっていたがワイバーンなどをオークションに出そうと思っている。経費獲得の最後の手段は、南の果ての谷川だ。金剛石や砂金を採取してこよう。

忍びの集団は、やはり人里離れたところにいるようです。

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