第199話 ヒュドラとの闘い。
いよいよ戦いが激しくなってきます。
(12月29日です。)
ヒュドラは、巨大な胴体に9つの首を持つ大蛇である。蛇と言っても、足が6本あるので、歩く蛇、蜥蜴のようなものかも知れない。ヒュドラの頭の先から、尻尾の先までは50m位ある。ヒュドラの9つの首のうち8つの首は切り落とすことが出来るが、すぐに傷口から新しい2本の首が生えてくる。そして真ん中の首は、アダマンタイト級の硬さを持った鱗と瘴気のシールドで包まれており、通常攻撃は、全く歯が立たない。厄介なのは、ヒュドラの息である。普通に猛毒の息をしているため、辺りには猛毒が立ち込めている。この猛毒は、一般の解毒剤や魔法のデポイズンが全く効かない。いわゆる魔毒である。ヒュドラは、身体からも猛毒を含んだ瘴気をばら撒いており、ヒュドラが歩いた後には10年は草木一本生えないと言われている。
幸いなことに、このヒュドラ、遠距離攻撃の手段は持っていないので、猛毒を含んだ瘴気にさえ気を付けていれば、致命的な攻撃を受けることは無い。僕は、聖なるシールドを身に纏い、ヒュドラの前に立った。真ん中の首以外の首8本が首を伸ばして、僕に襲い掛かる。僕は、『オロチの刀』を抜き、斬撃を横に払う。真ん中以外のすべての首が落とされた。落とされた首は、暫くの間、猛毒の瘴気を吐き続けている。堕ちた首の周りが紫色に染まっている。エグい。
ヒュドラは、全く苦しむ様子もなく直ぐに倍の16本の首が再生した。首への攻撃は、相手を強力にするだけであることが判明したので、僕は『瞬動』で、ヒュドラの背中に飛び移った。しかし、ヒュドラの背中は決して安全地帯では無かった。ヒュドラの長い首は、360度周囲への攻撃ができるのだ。僕に襲い掛かる首を交わしながら、刀を背中の真ん中へ刺し通す。刀を抜くと、紫色の猛毒瘴気が傷穴から吹き出してきた。聖なるシールドをしていたから、無事だったが、少しでも浴びるとひどい目に会う所だった。しかも、紫色の猛毒瘴気を吹き出した後には、傷口は綺麗に塞がれてしまっているのだ。これは、一旦、引き下がって、様子を見ることにした。
ヒュドラの歩行速度は極めて遅いため、今日、明日にフライス村に到着することは無いと思われた。しかし、何とかしないといけない。首への攻撃は、極力避けるとすれば、胴体への攻撃だが、まず移動できないように脚を攻撃することにする。
攻撃のチャンスをうかがっていると、シェル達が応援に来てくれた。フランに、聖なるシールドをドーム状に張って貰い、猛毒の息を吸わないようにした。次にクレスタに、足元を狙って大きな穴を掘って貰った。足が、穴に嵌まり込んで前進できないようにしてもらう。その状態のまま、足元の土を固めてしまう。ヒュドラが動けなくなったのを確認してから、皆で作戦会議を開く。ヒュドラの正面からの攻撃は、17本ある首が攻撃対象になりやすく、さらに首を増やす危険性がある。そのため、ヒュドラの側面から攻撃することにした。僕は、ヒュドラの上空から攻撃するので、側面からは、遠距離物理攻撃ができるシェル、エーデルそれに シズちゃんにがんばって貰う。フランちゃんは、聖なるシールドの維持に専念し、ノエルは敵の猛毒瘴気を聖魔法で除去して貰う。ビラは、ヒュドラの 体内に雷撃をお見舞いすることにした。
フライス村の方から、討伐軍が進軍してくるのが見えたので、僕は直ぐに『転移』し、村に戻るように指示した。全員をシールドすることも出来ないので、これが最良の方策だった。
シェル達は、ヒュドラの側面、100m位の位置に移動した。まず、弓矢の攻撃だ。聖属性の魔石を嵌め、シェルとシズちゃんが矢を放った。シェルが5本、シズちゃんが3本だ。連続して攻撃する。ヒュドラの大きな胴に面白いように突き刺さって行くが、致命傷にはならないようだ。次にエーデルの『熱刺し』を百連続で打ち込むが、すべて跳ね返されてしまった。やはり聖属性の武器でないと効果が無いようだ。
ノエルが、ヒュドラに聖魔法のシャワーを浴びせた。全ての猛毒瘴気が消え、シールドも無くなった。その瞬間、エーデルが『熱刺し』の連続攻撃をする。ブスブスと突き刺さるが巨体過ぎて、効果があまり感じられない。
僕は、ヒュドラの上空に飛翔し、尻尾の方から『斬撃』で切り刻んでいく。切断面から、猛毒瘴気が噴き出て来るが、構っていられない。切断された方は、バタンバタン動き回って、猛毒瘴気をまき散らしているが、そのうち動かなくなってしまう。この猛毒を何とかしなければ、今後、このあたり一帯は死のエリアになってしまう。しかし、その処理はヒュドラを倒した後に考えることにした。まず、こいつを倒さねばならない。
僕は、胴体の真ん中辺りに『斬撃』を飛ばした。
ズバーーーーン!
ヒュドラは、胴体のところで真っ二つになってしまった。その後、尻尾の方は動かなくなってしまったが、頭の方は、いつまでも動き続けている。辺りは、どんどん猛毒瘴気が濃くなってきた。僕は、しょうがないので、シェル達をフライス村まで避難させた。
僕は、自分の中にある『全てを燃やし尽くすもの』から、ほんのちょっとだけ熱を貰い、小さな太陽を2つ作って、ヒュドラだったものの上に浮かべた。そして、その2つを融合させた。表面温度6000度の火球が大爆発を起こした。僕は、その爆風を上空に向けるよう、念動で放射熱を無理やりねじ曲げた。
ヒュドラだったもの及び猛毒瘴気は、存在そのものが許されなかった。焼失したのではない。消滅したのだ。ドロップ品も魔石も全て焼失してしまった。もったいない気がしたが、しょうがない。ヒュドラの質量が、全てエネルギーになって上空へ放たれた。きっと何万年か後にどこかの星が惨劇に会うか、或いは小さな星になって漂うか、僕には知り得ないことだった。
闘いは終わった。後は、処理だけだった。ノエルとビラとフランが力をあわせて瘴気を払う。清浄な空気の中、僕は猛毒の毒素を空の彼方へ空間転移させていった。森の中のヒュドラの通った後も、同様にする。しかし、葉の裏に付いた毒素まで転移させるのは難しい。
僕は、玄武のゲンさんに知恵を借りることにした。ゲンさんは直ぐに現れて、周囲の匂いをかいだ。ゲンさんは、直ぐ消毒方法を教えてくれた。和の国に生えている『ドクダミ草』と、北の崖地の『蛍の光』の花ガラを酒精で3日間溶かし、聖なる力を注いで作った解毒薬を周囲に噴霧すれば、毒素は消失するそうだ。
今から、作っても出来上がりは元旦だ。しかし、しょうがない。毒素が消えるまで、森の探索は出来ない。
取り敢えず、僕一人で森に入り、ヒュドラの毒で死んだ獣達を灰にしていく。灰になったと同時に、体内の毒素が空気中に分散する。それは良いが、リスやネズミまでも灰にするのは、結構面倒だ。しかし、今のところ、それしか方法がない。根気よく続けた。
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(2025年1月1日です。)
年が明けた。ヒュドラ騒ぎで、年越しの準備もできなかったが、今日の昼は、新年のグレーテル国王陛下への拝謁のための王城参賀がある。
朝、起きるとシェルが準備してくれた貴族服を着る。公爵章と勲章を全て付ける。シェルと、エーデル、クレスタも宮廷ドレスを着て、公爵夫人章を斜めに下げる。直ぐに、王城に参内して、国王陛下に新年の挨拶をする。僕が終わらないと、他の貴族達が挨拶を出来ないらしい。
それが終わると、直ぐに領主館に帰って、執事を始め、従業員達から新年の挨拶を受ける。勿論、王都のセバスさん達も一緒だ。その後、コリン・ダーツ行政長官を始め、行政庁の幹部、騎士団と衛士隊の将校以上、それに2町2村の長と助役達が、行政庁から領主館に入ってくる。大広間に、高さ30センチの謁見台が設けられている。その真ん中に僕が立ち、両脇に妻達が並ぶ。シェルが右隣、エーデルが左隣、クレスタはシェルの隣だ。ノエルとビラ、フランちゃんとシズちゃんは台の下右横に並んでいる。コリン・ダーツ行政長官とダンヒル大佐、ダーツ大佐は、挨拶後左横に整列する。
僕は、一人一人に言葉をかける。簡単な言葉だ。
「本年も、息災で過ごして下さい。」
これだけだが、うまく言えない。しかし、皆も分かっているので、間違えても、恭しく礼をして下がっていった。全員で、新年の午餐会をする。勿論、メインディッシュはお雑煮だ。午後は、行政庁の2階ベランダで、領民への挨拶だ。
挨拶そのものは、コリン・ダーツ行政長官が代読するので、問題ないが、集まった領民が大変な事になっている。殆どが着飾った女性で、僕がベランダに顔を出すと黄色い歓声が上がる。聞くと、最前列の女性達は、大晦日の夜から並んでいるらしい。僕は、最前列の女性一人一人に手を振ってあげた。あ、4人ほど気を失って、衛士さんに抱えられている。泣き出す人た達もいた。シェルが、僕の脇腹をつつき、これ以上サービスするなと合図してきた。僕の新年行事は、これで終わりだ。
今日の領主館行事と行政庁前の雑踏整理に当たった衛士さん達には銀貨1枚の特別手当てを出してあげた。領主館の使用人達には、新年は7日まで休みにした。その間の僕の身の回りの世話は、シェルが、料理はクレスタとノエルがしてくれる。エーデルは、実家に帰るそうだ。ジェリーちゃん達は、暮れから学校が始まるまで実家に帰っていた。
次の日、僕は南の森にいた。側には、完全装備のシェルがいた。危ないから、僕一人で良いと言ったが、聞き入れて貰えなかった。森の中のヒュドラの通った後に、風魔法で、解毒剤の霧を巻き上げる。猛毒のある場所は、紫色に光り続ける。毒が無効になると、光も消えた。途中、シェルも風魔法で手伝ってくれた。ドンドン森の中に入っていくと、大きな岩山があった。そこには、高さ10m以上の洞穴が空いていた。きっとダンジョン入り口だろう。僕は、土魔法で、入り口を封印し、魔除けの石板をセットした。
この洞窟の攻略は、シズちゃんの誕生日が過ぎてからにした。
ヒュドラ、結構ヤバいです。通常では勝てません。




