第198話 フライス村ダンプ村長の憂鬱
遂にプロローグから数えて200話目となりました。今まで、毎日2話以上投稿していたのですが、秋から多事多忙となり、1日1話になることがありますが、お許しください。これから、戦闘シーンが続きます。
(12月26日です。)
タイタン領最南部の村、フライス村の村長ダンプさんは、嫌な予感がした。昨日、村の娘が冬の野良仕事に出て帰ってこなかったのである。
仕事場は、村の南のトウモロコシ畑だ。冬の間に、天地返しと肥料散布がある。重労働だが、次の収穫のための大切な準備だ。その娘は、両親が先に帰ってから、後片付けをしていたそうだ。夜になっても、帰って来なかったので、村の若い衆に捜索に行かせたが、見つかったのは、散乱した農機具と、大きな獣の足跡だけだった。魔物に襲われたのだろうと言うことだったが、この辺の魔物はレッサーウルフか、サーベルキャット位の筈だ。あんな大きな足跡の魔物は、見たことがない。
ダンプさんは、今日、タイタン市の衛士隊に相談に行く予定だ。村で雇っている衛士は、村出身の年寄りだ。戦闘力は、ほぼゼロだ。勿論、大きな魔物を相手をしたことなどない。ゴロタ公爵のお陰で、タイタン市にはあっという間に行けるようになっている。衛士隊の隊長は、最近、王都の衛士隊本部から派遣されているダーツ大佐だ。以前の隊長は、引退してアント町で家業を継いでいる。
話を聞いたダーツ大佐は、直ぐに調査隊を編成し、フライス村に派遣してくれた。調査隊は、小隊長以下20名で編成された。村に到着すると、一番最初に、現場に行ってみることにした。現場では、魔物の足跡が南の森から来て、また帰って行ったことが分かった。一応、南の森まで行ってみることにした。それが、調査隊の最後だった。調査隊は、森の中から帰ることは無かった。
その日の夕方、調査隊の帰りを待っていたダンプさんは、衛士隊の様子を見ようと、村の南に向かってみた。しかし、はるか南の森まで、衛士隊の姿は無かった。これ以上、森に入るのは危険だと思った。何が出てくるか分からないからだ。ダンプさんは村に引き返し、直ぐに、タイタン市の衛士隊に報告に行くことにした。
ダンプさんからの報告を受けたダーツ大佐は、事案が異常事態であることに初めて気がついた。直ぐに領主館に報告に行ったが、上司であるゴロタ公爵閣下は留守だった。応対に出た奥様に、今までの状況を報告した。奥様は、『今日は遅いので、明日、一番に衛士隊本部に行かせる。』と言われたので今日は衛士隊に帰る事にした。翌日、ダーツ大佐はビックリしてしまった。ゴロタ公爵閣下を始め、奥様や第2夫人、第3夫人そして婚約者の皆様が、完全装備で現れたのだ。ゴロタ公爵は、見たこともないアダマンタイトの甲冑に小手、脛当てと時価でタイタン領の年間税収以上はするだろう。少し大きい気がするが、気になるほどではない。エーデル夫人も同様のアダマンタイトの甲冑だ。さすが国王陛下の第三王女だけの事はある。それ以外の奥様達も、ミスリル製の防具に、ワイバーンの皮を張った最高級品だった。きっとフルセット大金貨1枚以上はするだろう。
ゴロタ公爵閣下の噂は、色々と聞こえてくるが、奥様達も災害レベルの実力だと聞いている。今回、初めてゴロタ公爵閣下と奥様達の実力を見ることが出来るかもしれない。ただ、治癒院のフランシスカ院長だけは何時もの白衣で、装備もワンドだけと言うのが気になるが、何時もボーッとしている院長先生だから、こんなもんだろうと思うのであった。もう一人、気になるのは最近、娼館に来た『リバ』と言う絶世美女の女性だ。この女性は、全く装備をしていない。一体、何しに来たのだろう。
派遣部隊は、衛士隊100名、騎士団200名の混成だ。総指揮官は、当然、ゴロタ公爵閣下だ。副指揮官は、ダンヒル大佐。ダーツ大佐は、衛士隊の大隊長だ。フライス村までゲートを使って移動し、そこからは徒歩で進軍する。森の手前、100mの位置で部隊は一旦停止する。
僕は、シールドを張ってから、ゆっくりと飛び上がった。すでに、森の魔物が何であるかイフちゃんに聞いている。
ケルベロスの特殊個体だ。特異なのは、まずサイズだ。それに、全身が金色の針で覆われているそうだ。攻撃手段は今のところ不明だ。
今回は、シェル達に任せようと思う。シェル達の総合火力なら、絶対に負けない筈だ。後は、作戦と個々の集中力だ。僕は、シェル達の後ろに立って、様子を見ることにした。
イフちゃんに、敵の後方、森の南側から『地獄の業火』で、森の出口の方へ追い立てている。目前の森の樹木がバキバキとなぎ倒されていく。見えた。形はケロベロス、いわゆる三つ頭の犬だ。しかし、頭の天辺の高さが10m位あるし、金色の針のような毛を逆立てると、物凄く大きく見える。左側の頭が、僕達に向けて炎を噴射してきた。クレスタが『キルケの杖』を使って、風のシールドを5枚張り炎を防いでいる。シェルが、『ヘラクレイスの弓』で左側の頭を吹き飛ばす。
すかさず、真ん中の頭が左側の首に息を吹きかけて首を再生させた。右側の首が、口から瘴気を吐き出して、シールドを張る。もう、シェルの弓では貫通しない。ノエルが聖なる炎を放って、瘴気を払ってしまう。
また、左側の頭が炎を吐き出す。狙っているのはノエルだ。一点集中の炎の貫通力が高いのか、クレスタの張ったシールド2枚が破られてしまう。ノエルが風のシールドを張り直す。
シズちゃんが、『竜のアギト』で、火属性の斬撃を飛ばす。右側の頭が燃え上がって落ちて行く。また、真ん中の頭が右の首に『再生の息吹』を吹きかける。あっという間に、頭が生えて来た。
ケルベロスが、身体をブルブル震わせた。金色の毛針がシェル達を襲ってくる。針と言っても、太さが1センチ以上あるものだ。シールドにぶつかって、カンカン下に落ちて行くが、数が多い。シールドが1枚1枚と減って行く。
クレスタが、土のシールドを張る。さすがに、土塁に刺さるだけで破られる様子はない。ビラが、極大に増幅した『サンダーストーム・テンペスト』を放つ。危険を察知したケルベロスが、『瞬動』で100m位右に移動する。クレスタが、移動地点の地面に大穴を開けて、移動困難にした。
ビラが、再度、『サンダーストーム・テンペスト』を放つ。左右の頭と胴体の一部が焼け焦げてしまったが、真ん中の頭だけは、また瘴気のシールドを張って、攻撃を防いでいる。エーデル姫が、『百刺しのレイビア』で、ケルベロスの真ん中の頭を、シールドごと貫通した。ケルベロスの真ん中の頭が爆発した。
これで、全ての頭を吹き飛ばしたが、ケルベロスはまだ動いている。しかし、クレスタが空けた大穴から出ることが出来ずにいるようだ。そう思った瞬間、ケルベロスは『瞬動』で穴の外へジャンプしてきた。
既に、ケルベロスの真ん中の頭は再生していた。左右の首に『再生の息吹』を吹きかけて、元に戻ってしまった。
フランちゃんが、『神の御技』で広域の聖魔法を張り、左側の頭の張る瘴気のシールドを無効化しておく。シェルの『ヘラクレイスの弓』と、シズちゃんの『ヨイチの弓』による遠距離攻撃を始めた。計8本の矢が、ケルベロスの頭を狙っていく。一瞬で、3つの頭が吹き飛んだ。直ちに、クレスタがケルベロスの上から水魔法で雨を降らせる。十分にケルベロスの身体が濡れているのを確認して、再度、ビラが『サンダーストーム・テンペスト』で身体の中から黒焦げにした。
もう安心だろうと思ったら、真ん中の首だけムクムクと再生し始めた。もう、きりが無い。その時、リバちゃんが右手を指鉄砲のような形にして、ケルベロスに照準を合わせた。
リバちゃんの身体が青白く光ったかと思ったら、あの水の噴射が伸ばした人差し指から噴出した。ケルベロスは、上下、左右に切り裂かれた。そこにエーデル姫の『熱刺し』のレイビアが放たれる。百連発の突きだ。既に瀕死のケルベロスは、完全に命を絶たれてしまった。
戦闘は終わった。ゴロタは、黄金色のケルベロスの身体を『復元』で、元に戻したのち、イフクロークにしまった。この特殊個体、大金貨20枚以上で売ることにしよう。とりあえず、王都のギルド本部まで持って行く必要がある。
ダンヒル大佐とダーツ大佐それに兵士達は、シェル達の戦いを見て、開いた口がふさがらなかった。きっと、王国軍では、1個師団でさえ、たった一人の女性に殲滅されてしまうだろう。災害級の噂は本当だったと、改めて恐ろしさを感じる兵士達であった。
森の中の掃討作戦は、明日にして、本日は、兵士100名を警戒のために残し、残りの全員が、タイタン市に戻ることにした。このことが、僕のミスであったことは、後になって知ることになる。
翌朝、前線から1名の兵士が騎士団本部に連絡に来た。物凄い魔物が出て来て、警戒のために残していた100名の部隊は、一瞬で全滅してしまった。丁度用足しに部隊から離れていたこの兵士1名だけが生存者のようだ。兵士の弔慰金は、1人大金貨1枚が相場だ。大金貨100枚が一瞬で失われてしまったわけだ。一昨日の20名を足すと、プラス20枚だ。
そんな事より、フライス村が危ない。僕は、直ぐにフライス村の南側郊外に出た。敵は、ヒュドラだった。それも首が9本ある奴だ。今まで、ゴロタが戦った魔物の中でも最上位クラスだ。
こうして、ヒュドラ戦が始まった。
え、ヒュドラですか?ヒュドラはケルベロスの兄弟で、不死の頭を持ち、解毒の効かない毒を吐くそうです。これは、ゴロタ一人ではきつそうですがどうなるのでしょうか?




