第190話 ゴロタ出生の秘密
今回は、回想シーンとなります。
(まだ西の白い大地です。)
シェルは、目が覚めた。随分、長い間眠っていたように感じた。眠っている間に夢を見ていた。遥かな昔、遠い国で小さな女の子だった頃や、奴隷になって、無理やり男の慰み者になろうとしたこと、兵士として戦ったこともあった。いろいろな人生を経験したような気がする。
そして、シェルが死ぬ間際にはいつも僕がいた。『ゴロタちゃん』だったり、『ゴロタ君』だったりするが、いつもシェルを助けていた。
シェルは、全てでは無いが僕のことだけは思い出していた。6歳の自分と一緒に旅をした『ゴロタちゃん』。あれが、最初だった。自分は、何故死んでしまったのか、それは分からなかったが。閃光に包まれて、後の意識は無かった。
いつも、ゴロタ君に助けられている。初めて会ったときも、クイール市の時もそうだった。シェルは、涙が出て来て、止まらないのも構わず、僕を呼んだ。
「ゴロタ君、あなた、どこ?」
僕はすぐにテントの中に入って行った。シェルは、僕に抱き付き、泣きながら言った。
「あなた、ごめんね。ごめんね。私が弱いために、あなたに嫌な思いをさせて。」
僕は、何も言わずにシェルの肩をそっと抱きしめた。僕も、以前見た夢を思い出していた。あのとき、シェルが死んでしまった時、力を解放していた。
きっと制御できないほどの力だったのだろう。記憶には残っていないが、この星が変形してしまうほどの力だったのかも知れない。
今だって、シェルに何かがあれば、同じことをしただろう。でも、どうしてシェルなんだろう。それは分からなかったが、心の奥でシェルを求めている気がした。
ブラックさん達は、僕に伝えるべきことは全て伝えたと言ってきた。後は、知り得た者、伝えるべき者に聞けと言った。これより西には行っても何もないとも言われた。
僕達は、タイタン市に帰る事にした。帰る途中、また、あの谷に寄った。露天風呂に入るためだ。温泉宿は、もう少し後に建てることにしよう。暫くは、僕達専用の温泉だ。
お風呂に入りながら、シェルに7つの災厄について話した。6つ目の最後の厄災が行方知れずのことも話した。
シェルは、玄武の言っていた、僕君の両親のことを思い出していた。ベルゼブブとシルフィード。ベルとシル。きっと同じなのかもしれない。
シェルがその事を話したら、やっと思い出した。なんとも思考能力欠如の僕だった。
お風呂から上がって、4柱の方角神を召喚した。トラちゃん、アオちゃん、スーちゃん、それにゲンさんだ。
玄武のゲンさんに災厄の神ベルゼブブと風の精霊シルフィードの事について聞いてみた。
『ゴロタよ。ソナタの父は、確かにあの災厄の神ベルゼブブじゃ。』
ゲンさんの話は、衝撃的だった。
今から300年前、暴食の神ベルゼブブは地上に降臨した。まだ、紅き剣はこの世界に顕現していなかった。ベルゼブブは、世界を飢餓と貧困に落とし込もうとしていた。
最初は飢饉だ。収穫の時期に嵐を巻き起こそう。大海の中で、熱を放出すれば、直ぐに嵐が出来る筈だ。しかし、上手く行かなかった。嵐は、大陸に近付けなかった。
次に、大雪を降らせようとした。北と南の極地で、わずかに残っている熱を奪うと、世界が冷え込み、冬は大雪になり、春は雪解け水で洪水、夏は冷夏になる筈だ。しかし、それも上手く行かなかった。何時もは吹かない風が吹き、冷気が大陸に届かない。
ベルゼブブは、神の意思を感じた。どの神だ。ベルゼブブは、世界中をスキャンした。いた。グレーテル王国の神殿にいた。古い神殿だ。力を感じる。ベルゼブブは、その神殿に行ってみることにした。
ベルゼブブは、創造と滅亡の神センティア様のご意志により作られし神だった。この世界に苦しみを与えることにより、神の祝福を受けるべき者を選民する。その大いなる目的を邪魔するものは、神と言えども許されない筈だ。
神殿で、ベルゼブブは、初めてシルフィードと会った。ベルゼブブも風の精霊シルフィードも、光の体しか持っていない。ベルゼブブとシルフィード、二人はイメージ世界の中で、恋に落ちた。お互いを尊敬し、慈しんだ。しかし、実体がなければ、愛を確認することはできなかった。
ベルゼブブは、魔人の身体を見つけた。死産するはずの赤ん坊だった。その赤ん坊に自分の御霊を流し込んだ。ベルゼブブは、タイタン王の王子、魔人族の王となるべき者として生まれた。名前は、ベルゼブと言う。しかし、シルフィードは、まだ、この世界には生まれていなかった。
それから100年後、シルフィードは、ハイ・エルフの末裔でありながら奴隷となっている女の中の胎児に、自分の御霊を流し込んだ。その子は、この世に生を受けることが出来ない運命の子だった。シルフィードが宿った子が生まれたとき、母親は死んでしまった。子供の名前は、シルフィーと名付けられた。
シルフィーが、12歳を越えたとき、南の大陸のエルフの国から、迎えが来た。所在不明だった王家の娘シルフィードの行方が明らかになったからだった。シルフィーは、エルフの王国の姫として育てられた。
今から、100年前、魔人の国がエルフの国に攻めいった。その時、魔人の国総大将だったベルゼブとシルフィーは初めて限りある命の者として出会った。しかし、お互いに惹かれても、敵同士の身、一緒になることなど出来なかった。ある夜、二人は、全てを捨てて逃げ出した。ベルゼブは、自ら、魔人の王たる証の角を切り落とした。
二人は、苦労をして北の大陸に渡った。大陸をさ迷い、魔物を狩ったり、森の獣を狩って日々の糧を得ていた。19年前、大陸の西の辺境ハッシュ村にたどり着いたらしい。
神々は、ベルゼブとシルフィーを注目していた。魔族と精霊の間に出来る子は、世界を統べる者になる資格を有する。創造と滅亡の神のご意志かも知れない。
そして、待望の男の子が生まれた。ベルゼブは、『ゴーレシア』と言う、魔神族の勇者の名前を付けた。
『ゴーレシア・ロード・オブ・タイタン』
頭文字を続けて、『僕』と呼ぶことにした。僕は、スクスク育った。異変が起きたのは、11年前だった。シルフィーが魔物に教われたのだ。肉体を失なったシルフィーは、精霊となって、天上界に戻って行った。風の神シルフィードは復活した。
その8年後、今度はベルゼブが、肉体を失った。谷川の下流にある大瀑布に落ちてしまったのだ。ベルゼブも暴食の神ベルゼブブとして天上界に戻って行った。
その後の二人は、僕を見守り続けているそうだ。僕が、『全てを統べる者』になれば、天上界に行く事もできるだろうが、それは、青き盾を具現化しなければならない。
まだ、僕にその準備はできていない。7つの災厄の神のうち、最後の色欲の神アスモデウスを倒さなければならないのだが、その前に神の試練が与えられるはずだ。7つの災厄の神の使徒を倒さなければならない。もう3体は倒していた。
ルシファーの使徒グリフォン、マモンの使徒ゴブリンそしてベルゼブブの使徒ケルベロスだ。ゴブリンの場合は、どのゴブリンか分からなかったが、ゴブリンロードやゴブリンエンペラーを倒しているので、その内のどれかだろう。他の魔物は、討伐した記憶が確かにあった。
ベルフェゴートの使い魔フェニックスは、スーちゃんと違うのか聞いたところ、あのような下等な魔物と我を一緒にするなと、スーちゃんに叱られた。
しかし、どこにいるのかが分からない。これでは、討伐もできない。
ゲンさんが、心配することは無いと言ってくれた。天上界にいるベルゼブブが行くべき道を指示してくれると言うのだ。
良く、夢の中で聞こえる声、あの声がベルの声だとは思えなかったが、僕の知っているベルの声は、魔人族ベルの声だそうだ。夢の中で聞こえてくるのは、暴食の神ベルゼブブの声らしい。なんか、混乱しそうだと思ってしまった僕だった。
シェルが、
「それじゃあ、今のところ、直ぐにやることは無いので、タイタン市に帰っても問題ないのね。」
と言った。ブラックさんが、帰っても良いと言ってくれたので、方角神を引き連れて帰ることにした。帰る前にブラックさんが、僕の頭に手を当てて、何やらブツブツ言っている。
僕は、頭の両脇がモゾモゾしてきた。髪の毛の中に黒くて小さな角が生えている。丸い形の盛り上がりだが、確かに角だ。ブラックさんは、これで、僕のスキルのすべてが解放できているはずだ。角は、成人した時に、もっと立派になるだろうが、今の状態のままに変化することもできるそうだ。
ホワイトさんが、シェルに対し、『絶対に死んではならぬ。』と言っていた。何を当り前のことを言うのだろうと思ったが、今度の災厄の神との闘いが最終戦争となる。その時に、シェルが死ぬようなことがあったら、今までのようにはいかない。
きっと、僕は力のセーブをしないままに、解放するだろう。それは、この星、いやもう少し広い範囲の消滅を意味する。全てを統べる者が全てを消滅させる。それは世界の終末を意味するそうだ。そうさせないためにも、シェルが僕をセーブしなければならないそうだ。
それから、最後に一言、注意された。シェルは、ここで半年間眠り続けていたそうだ。ホワイトさんは、そのために時間の流れを早くしていたらしい。タイタン市に戻ったら、もう秋になっているはずなのじゃが、あらかじめ教えておくそうだ。あ、皆の誕生日、どうしようかと思ったが、しょうがないので、すぐ諦めた僕だった。
ゴロタの両親が何者なのかわかりました。




