第189話 七つの災厄と七人の魔王
題名から、有名なアニメのパクリと思われるかも知れませんが、ヨーロッパの伝承をモチーフにしています。
(西の白の世界です。)
七人の災厄の神とは
傲慢の神 ルシファー
憤怒の神 サターン
嫉妬の神 レヴィアターン
怠惰の神 ベルフェゴール
強欲の神 マーモン
暴食の神 ベルゼブブ
色欲の神 アスモデウス
の7柱だ。皆、天上界の神だったが、神の気まぐれか、創造と滅亡の神のお考えか分からないが、地上に降り立ち世界を混乱に陥らせているらしい。
人間には、対抗する力はなく、慈悲にすがっても許されず、何百万人も死んでしまう事もあったそうだ。
最初に降り立ったのは、『傲慢の神ルシファー』だった。今から、3000年前の事だ。その時は、天上界から魔族の王が現れ、激しい死闘の末、打ち倒したが、王、自らも消滅してしまったらしい。
それから、人間界が乱れる毎に、災厄の神が降臨している。2200年前には、『憤怒の神サターン』が現れ、国が1つ消滅した。
1900年前には、『嫉妬の神レヴィアターン』が、降臨し、世界規模的な戦争が起きて多くの人達が餓死した。
1300年前には、『怠惰の神ベルフェゴール』が降臨し、大きな災害が起きて、人類滅亡の危機だったそうだ。
最後は、今から700年前に、『強欲の神マーモン』 が降臨し、異常気象により、多くの種が絶滅した。人類も、絶滅寸前まで死に絶えたそうだ。
しかし、その度に、紅き剣か蒼き盾を持った魔族の王が地上に現れ、神を倒すか追い払ってくれたらしい。しかし、必ず自らも死を選ばれたそうだ。地に落ちたといえども神の力、死を覚悟して立ち向かわなければならなかっただろう。
300年ほど前に、『暴食の神ベルゼブブ』が現れたとの噂があったが、災厄は起こらず、神は降臨しなかったのでは無いかと言われてるが、真相はわからない。
僕は、ホワイトさんの話を上の空で聞いていた。自分には関係無いと思っていたのだ。その様子を見て、ホワイトさんは、怒り始めた。
『えーい、人の話をちゃんと聞かんか。お主に話しておるんじゃぞ。』
「シェルを、戻して。」
念話でないと、片言しか話せない僕だった。呆れたホワイトさんは、シェルをもとに戻してやった。ワイちゃんの服が、破けてしまったので、また飛行服を出してあげることにした。しかし、シェルは自分で着ようとしない。意識が、完全には覚醒していないようだ。
イフちゃんに下着と靴を出して貰う。ブラジャーとパンツだ。あれ、これって、詰め物が無い奴だ。いつ買ったのだろう。少し、緩いが、殆ど平らな胸をちゃんと隠してくれた。パンツをはかせて、飛行服をきちんと着せてあげる。ホワイトさんが、イライラしていた。何千年も生きているのなら、こんな時間なんて一瞬だと思うのだが、そうでもないらしい。
『もう、これでいいじゃろう。早く、出さぬか。』
え、何を出すのかな。思い当たるものは、無かった。
『お主は、ゴロタじゃろう。火の黒龍から聞いておる。お主は、うまい食い物を持っているじゃろう。あの、鹿とか猪とかじゃ。』
どうやら、ホワイトさんとブラックさんは情報交換をしているらしい。黒龍は、皆、飲んべいで大食漢らしいのだ。
僕は、キャンプセットを出して、料理を始めた。ワインを出して、ホワイトさんに1本ごと与え、シェルには口移しに飲ませてあげた。何回か、飲ませているうちに、舌を入れようとしてきた。もう、完全に正気に戻っていると思う。口を離すと、首に回した腕に力を入れてきた。ホワイトさんの目の前なので、無理やり引き離してやった。
食事は、鹿肉のローストと黒トリュフのスープだ。ワインを飲み干したホワイトさんに、1本、僅か銅貨68枚の合成酒を出してあげた。アルコール度数55度の強烈な奴だ。ホワイトさんは、喜んで飲んでいた。
本当に、黒龍って意地汚いと思う。食事をしながら、シェルがジト目でホワイトさんを見ている。ホワイトさんは、白く光り輝く長髪で、切れ長の水色の目、真っ直ぐ筋の通った鼻、形の良い真っ赤な唇、所謂超絶美女だ。それに加えて、ブラックさんの服では少し小さいらしく、はち切れそうになっている胸と、スリットから覗いている長い足、所謂女性の敵とも言える姿であった。
食事が終わってから、この世界のことを色々聞いたら、ここより先、広い海の先には、大きな大陸があるそうだが、人間や亜人は少なく、野獣と魔物が跋扈する世界だそうだ。その大陸の向こうは広大な海が広がっていて、南側にも大きめの大陸があるが、その先は、この大陸の極東の島国、和の国に繋がっているそうだ。
僕は、ズーッと西に行くと、東の和の国に到着すると言うことが良く理解できなかった。きっと、ゲートみたいなものがあるのだろう。真っ直ぐ飛び続けて、この地に戻ってくるのに、黒龍の最大速度でも50時間ほど掛かるそうだ。今の僕では、想像も出来ない広さだった。ホワイトさんは、僕をじっと見つめていた。それから、シェルを見ている。スッと立ち上がってから、シェルの額に右手を当てた。右手が赤く光っている。
ホワイトさんが、右手を離した時、シェルは気を失っていた。倒れそうになるシェルを抱き抱えながら、僕はホワイトさんを睨み付けた。シェルに、何をした。何か有ったら、ホワイトさんと言えども許す気は無かった。
『心配せずとも良い。妾が、輪廻の記憶を呼び戻しているだけじゃ。』
僕は、テントセットを出して、シェルをマットレスの上に寝かせた。テントにシールドを掛けて、寒くないようにしてあげた。ホワイトさんは、ブラックさんを呼んだ。ブラックさんは、いつものように、ナイスバディの素っ裸で現れた。直ぐに、ブラックさんの服を出してあげる。この辺は、精霊であるイフちゃんの方が服を着て現れるので、扱いやすいかな。
ブラックさんとホワイトさんが並ぶと、髪の色と身長が違うだけで、顔は瓜二つだった。二人は、僕には聞き取れない声で、話し合っていたが、ようやく話が終わった。
ブラックさんが、僕に言った。
「ゴロタよ。全ての準備は整った。後は、神の思し召しによるだけじゃ。」
「準備って、何ですか?」
「戦いの準備、いや、全てを統べる者になる準備じゃ。」
いや、そんな気ないし、その前の『戦いの準備』って何ですか。誰と戦うんですか?
ブラックさん達は、色々話してくれた。四方の守護神を集め、玄武に頼むと、青龍が蒼き盾に成ってくれる。そして、その時、災厄の神が降臨するのだ。
今までは、その逆で、災厄の神が降臨してから、紅き剣を持つ者が現れた。しかし、蒼き盾を持っていないため、災厄の神からの攻撃を防ぐことが出来ずに、相討ちでしか倒せなかったそうだ。
今度の戦いは、きっと『暴食の神ベルゼブブ』か、『色欲の神アスモデウス』だろう。しかし、紅き剣と蒼き盾を持っていれば、決して負けない筈だ。『筈』と言うには、過去に戦った記録が無いらしい。伝承とか吟遊詩人の歌でしか伝わってこない。
僕は、自分の父ベルと母シルの事について聞いた。
ホワイトさんは、二人のことをよく知っていた。ベルは、もしかすると災厄の神の一柱だった可能性がある。300年前のあの時、確かに『暴食の神ベルゼブブ』が降臨した筈だった。
その際、何故か、風の精霊『シルフィード』も、地上に降臨していたらしい。降臨した理由は、よく分からぬが、二柱共、忽然と消えたらしいのだ。
『シルフィード』、きいた事がある気がする。よく思い出せない。『ベルゼブブ』も、誰かが似た名前を言ったような気がした。
それよりも、今はシェルの事が心配だ。シェルの記憶ってなんですか?僕は、あのときの6歳のシェルちゃんを思い出していた。しかし、あれは3000年前の話だ。今のシェルには、思い出せる訳が無い筈だ。
僕は、蒼き盾を持ってしまうと、災厄の神が降臨するならば、持たなければ、降臨しないと言うことでは無いだろうかと単純に考えてしまう。その事を、ホワイトさんに聞いてみた。答えは否定的だった。僕が紅き剣を持つ前から、スタンビートが異常発生したり、枯れているダンジョンにレアモンスターが発生するなど、何かが起きている。
これは、災厄の神が降臨する前兆だそうだ。では、いつ降臨するのかは、分からないそうだ。今の僕では、降臨した災厄の神に勝つことは出来ないだろう。
僕は、これ以上考えるのを止めた。考えたところで、何も変わらないだろう。僕は、守るべき者を守る、それだけだった。
とりあえず、2人のために猪のバーベキューを1頭分焼く事にした。後、食後のスイーツに、『タイタンの月』を出すことにした。
その日、2柱の黒龍は、夜遅くまで安い合成酒を飲み続けていた。
どうしても、ゴロタを戦いに引き込もうとしているように感じます。