第185話 シズちゃんは高校を卒業です
シズちゃんは、一体いつから剣の達人になったのでしょうか。
(3月4日です。)
今日は、シズちゃんの卒業式だ。朝、ダッシュさんと一緒に王立騎士学校に行く。ダッシュさんは、行く前から、泣き顔だ。
式が始まった。昨日の例もあるので、僕は、最初から気配を消している。
シズちゃんが、最初に名前を呼ばれた。首席で卒業したのだ。何か、記念のメダルと賞状を貰っている。その後で、卒業生代表の答辞を述べていたが、余りにも長いので、僕は居眠りをしてしまった。ダッシュさんの鳴き声と鼻水をすする音で目が覚めた。
式が終わると、やはり男子たちがシズちゃんの所に駆け寄ってくる。数が多い。20人位だ。結果は、昨日のフランちゃんと同じだった。泣きながら走り去っていく男子生徒達。
シズちゃんは、王立騎士学校の非常勤講師をすることになっている。剣技と弓技の指導だ。まあ、指導する立場は、シズちゃんの性格に合っているかも知れない。その内、タイタン大学や付属高校でも指導をお願いしようと思っている。
今日は、シズちゃんの卒業記念パーティを王都の屋敷でする予定だ。スターバ将軍閣下達も参加する。非常勤講師と言えども、騎士団に所属することになるので、就職祝いも兼ねている。
シズちゃん、ダッシュさんと別れて、エクレア市のガチンコ師匠の店に行く。この前、預けていたヒヒイロカネのロング・ソードを受け取るためだ。
鞘と柄は出来上がっていた。鞘は、ミスリル銀で作って、ワイバーンの皮を張っている。鞘の先と鯉口には金を使って装飾されていた。柄は、水竜のザラザラの皮を中に張って、その上をワイバーンの皮でキッチリと巻いている。やはり、金で装飾されているので、黒と金でなかなか派手にできている。スロットは一つなので、好きな魔石を嵌めて使えるようにしている。僕は、火属性の魔石を嵌めておいた。
問題は、刃体だ。ガチンコさんが苦労しながら、研いだところ、見たことがない文様が浮かんできた。この文様の正体は分からずじまいだったのだ。
僕は、じっとその文様を見ているうちに一つの言葉が思い浮かんできた。
『竜のアギト』
そう、この剣は『竜のアギト』と言うらしい。
ガチンコさんが吃驚していた。『竜のアギト』を知っているらしい。伝説のドラゴンスレイヤーだそうだ。店の裏で、少し素振りをしてみた。それだけで、剣が赤く光る。
真正面に向けて、気を込める。赤く光った剣から、二つの赤い光が迸る。絡み合いながら、竜の顔のような光が、何かをかみ砕こうとしているようだ。すぐ、気を収めた。今の斬撃の効果は、実戦で使わせるしかない。ガチンコさんは、伝説の剣のすさまじさを目の当たりにして、ひどく興奮していた。この剣が大きなブラックGのドロップ品だなんて、誰にも言わないことにしよう。
剣の手直し及び研ぎ直しで金貨3枚だった。すべての素材は、僕が提供したのだが、やはり色々手間がかかったみたいだった。
屋敷に戻って、卒業記念パーティの時、『竜のアギト』をシズちゃんにプレゼントする。この剣が、あのダンジョンでの最終ドロップ品だという事は黙っていた。絶対、見ただけではわからない筈だ。
シェルは、直ぐに剣の価値を見抜いて、僕をジト目でみていたので、後で、シェルだけには本当の事を教えてあげた。それ以後、シェルは『竜のアギト』を絶対に触らなかった。
その日の夜は、シズちゃんが当番になった。卒業祝いだろう。シズちゃんとは、キスまではしているが、それ以上の事はしていない。しかし、今日は、一緒に風呂に入ってきたし、パンツを履かないでベッドに入って来た。うん、今日から大人だね。でも、自分からは何もしてこないので、僕もそっとしておいたら、そのまま眠ってしまった。
朝、起きてから、シズちゃんは裏庭に行って、剣の稽古をしていた。当然『竜のアギト』を持っている。明鏡止水流の12の型を、静かに演武している。剣を振る時、止める時、剣が赤く光る。最後に、突きをした時、『竜の光』が発動した。真っすぐに、前に向かって突き進んでいく竜が、大きな口を開けている。シズちゃんが直ぐに剣を上に向けたので、竜ははるか上空をかみ砕こうとして消えた。僕は、この剣のいわれや使い方について指導してあげた。
シズちゃんは、剣の価値に初めて気が付いたのか、僕に感謝の深いキスをしてきた。シズちゃんの手が下に伸びてきたが、放っておいた。
僕と、シズちゃんで久しぶりに稽古をした。シズちゃんは木刀、僕は、柳の細枝だ。鋭いシズちゃんの打ち込み、常人では絶対に避けられない。僕は、ピシリと振り下ろしてきた木刀を横に薙ぎ払う。それだけだったが、木刀はへし折れてしまった。次の瞬間、柳の細枝はシズちゃんの首筋に当たっていた。あとは、何回やっても同じだった。折れた木刀の山ができていた。
シズちゃんは、何とか打ち込もうと無理な体勢から切り返そうとしたりしていたので、一旦中止して、目で見える相手を打つのではなく、心に感じる相手の気配を打つように教えてあげた。明鏡止水流の極意、『心刀』である。シズちゃんは、深くうなずいてから、一生懸命、型を練習していた。
午後、騎士団本部の裏手にある騎士学校にシズちゃんと一緒に行く。在学中から、シズちゃんの剣道具や弓のセットを持ち込んでいる。竹刀や弓は、標準品だ。生徒の使うものと差があっては指導にならないからだ。
今日は、2年生の進級試験があるそうだ。学科試験は、既に終わっており、今日は実技試験だ。シズちゃんも見学することにして、武道場に行ってみた。50人位の生徒さん達が、型を演じている。ジッと見ていたシズちゃんが、採点担当の先生に耳打ちをする。
模範演技をするらしい。しかも、簡単な技だ。青眼に構え、振りかぶって面を打つ。残心を示して、元の位置に戻る。これだけだ。
シズちゃんが、木刀を持って、提げ刀のまま、道場の真ん中に立つ。左手で剣を引き上げ、右手で剣を抜く。青眼に構える。10秒位ジッとしていたら、木刀が青く光り始めた。生徒達がざわめき始めた。
次に、スーッと上段に振りかぶる。青い残像が円を描く。
「ヤッ!」
掛け声とともに、正面に打ち込む。ズドーンと床を踏み抜く音。ビュッという剣風の音。最後に、青い閃光が前に走るが、壁に当たって消滅した。そのまま、静かに剣先を下げ、2歩下がってから、青眼に直り、納刀する。
この一連の動きを、全員にして貰うことにした。
型が出来て、剣に勢いがあれば、斬撃が飛ばなくても合格にするつもりらしい。
結果、斬撃は出なかったが、剣が光った者8名、型ができて勢いのあった者が39名だった。3名は、補修を受けて合格とする予定だ。
補修は、シズちゃんが面倒を見る予定だ。まだ、正式採用にはなっていないが、来年からシズちゃんが指導する最上級生達だ。今から、鍛えておく必要があるようだ。
年齢は、皆、シズちゃんより1つ以上、上なのだが、全ての生徒が、深々と頭を下げていた。担当の先生から、僕に模範演技を見せて貰えないかと言われた。シズちゃんも頷いていたので、依頼に応じることにした。
木刀で、明鏡止水流12の型を見せたが、余りの気迫に、何人かはズボンを濡らしてしまった。全ての動作の終わりに、赤い斬撃が飛んでいく。壁にあたる寸前で消えるように力を調整しているのだが、本当に紙一重で消えているので、見ている者は、『ぶつかる!』と思ってしまうことが何度もあった。
担当の先生も、これ程とは思わなかったらしく、顔が真っ青だ。終わって、木刀を納めると、パチパチと拍手が聞こえて来た。シズちゃんだ。気が付いたように皆も拍手を始める。最後は、道場中に響く拍手の嵐だった。
僕達は、校長先生に面会をした。来年度から、女子生徒の制服を変更してもらうためだ。物凄く反対された。伝統の制服で、質実剛健を売りとする本校の校風と一致するとの意見だった。それに、既に入学予定者も制服を購入させているらしい。今の2年生が9人、1年生が12人、それに入学予定者が15人らしい。親御さんに、新たな負担をさせる訳にもいかないとの事だった。
僕は、初回の新制服購入代金は全て僕が負担するし、スターバ騎士団団長閣下も了解して貰うからという条件でOKを貰った。
その足で、制服専門店『コシダケ・ジュンコ』に行き、デザインをお願いした。現代風の明るい色で、夏は白と青を基調としたカッターシャツとチェックのプリーツスカート、冬は、青とオレンジを基調としたセーラー服タイプのミニスカで、スカーフで学年を識別するようにして貰った。また、ハーフコートはキャメル色のダッフルコートにした。胸には、騎士学校の紋章を刺繍してもらう。
早速、明日、学校に行って、採寸や納入の手続きをするそうだ。経費は、全部で金貨8枚程度だったので、即金で支払うことにした。
後で、聞いたら、殆どの女子生徒が泣いて喜んだそうだ。これで、運動服で通学する女子学生もいなくなるだろう。
シズちゃんは、自分の居場所を見つけたようです。