第180話 学校が始まりました。
新年の行事が未だ続きます。
(1月10日です。)
新年のゴタゴタも終わった。今日は、タイタン公爵領の行政庁の開庁式だ。行政長官は、王都から来て貰ったコリン・ダーツ元男爵だ。ずっと、グレーテル王国行政府で行政官をやっていて、2年前にご子息に家督を譲られた52歳の方で、奥様と一緒に赴任されている。一緒に10人程の下級行政官も派遣してもらっていた。現地採用も10人程いるが、お互いに仲良くやっているようだ。
あと外交担当も2人来ており、グリーン・フォレスト連合公国との外交折衝に当たったり、入国審査をしているらしい。挨拶が苦手な僕は、ニコニコしているだけだった。驚いた事に、ダーツ長官が連れてきた官吏は、全て女性だった。女性の方が、事務能力が高いらしい。うーん、そんなものかな。週に1回、シェルかクレスタが出席する庁議があるが、僕は出なくても良いらしい。行政庁の最上階に、領主室があるが、その奥に、鍵のかかった部屋がある。ゲート部屋だ。当然、領主館のゲート部屋と繋がっている。
朝から、行政庁の前は長蛇の列だ。居住許可、営業許可、建築許可、開発許可、出国許可に入国許可それに減税申請や課税に関する諸届け、良くこんなに仕事があるものだと思う。セバスさん、顔がやつれていたのは、このせいだったのですね。
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午後は、王都の騎士学園に行く事になっている。シズちゃんのダンジョン実習を見学するのだ。スターバ騎士団長も一緒に行くらしい。学生は、ダンジョンの前で昼食を取るが原則自炊をしている。これも訓練らしい。シズちゃんのパーティーは、豆と干し肉のスープだった。シズちゃんが、僕秘伝の固形のスープの素を使っている。あれ、絶対ズルだから。
昼食が終わると、シズちゃんのパーティーが先頭でダンジョンに入っていく。女性ばかり4人のパーティーだ。皆、鎧の下は超ミニスカ防護衣を着ている。というか、丈の長い上着だけという感じだ。以前は、普通の上下で、下もズボンの子が多かったはずなのに、昨年から激変したそうだ。お陰で、来年の入学希望男子が倍増したそうだ。でもそれって絶対誰かのせいだよね。
シズちゃんのパーティー以外は、魔道士がサポートに付いているが、シズちゃんのパーティーには付いていない。以前は、付いていたらしいが、何もする事が無いため、付かなくなったとのことだった。4人の中で、シズちゃんが一番小さいが、先頭を歩いている。他の女の子は、5m位後方だ。シズちゃんは、既に弓を左手に持ち、矢を3本右手に持っている。
お定まりのゴブリンが現れた。5匹だ。多い。しかし、シズちゃんは、ゴブリンどもが向かってくる前に3本の矢を放っている。全矢的中だ。ゴブリンの心臓や首に命中している。すべての矢が貫通しており、衝撃で、命中箇所が大きく抉られている。シズちゃんは、そのまま、ゴブリンに走り寄り、ミスリルのロングソードで、残り2体の首を刎ねた。殲滅後、ゆっくりと貫通している矢を回収している。パーティーの仲間は、シズちゃんの弓の威力や剣技の凄まじさを初めて見て驚いていたが、直ぐにゴブリンの死体から魔石を取り出していた。
3階層にいるトロールに対しては、ユックリこちらを向くのを待ってから、確実に心臓を撃ち抜いていた。逃げ出そうとするトロールには、背中から心臓を撃ち抜くので絶対に漏れはなかった。
4階層、5階層のアンデッドには、ファイヤ・ボールで殲滅しているが、その威力が半端ない。完全に骨まで燃焼してしまうのだ。カランカランという音と共に魔石が転がる。仲間達が、それを拾い集める。というか、仲間たちは先頭に全くタッチしていないような気がするんですが。
6階層のビーチエリアでは、防具を脱ぎ、防護衣も脱ぎ捨てる。シズちゃん、中に水着を着ていた。クラーケンが触手を伸ばしてくるが、シズちゃんの弓で爆砕してしまう。1度で3本の触手を無くしたクラーケンが海の中に逃げて行く。後は、海の中の食材つまり足の破片採取だ。30分後、クラーケンの足を入れた大きな袋を背負って、7階層に潜っていく。スターバ騎士団長が、頭を抱えている。授業にならないらしい。
7階層は、ワイバーンだが、シズちゃんを見て逃げ始めた。学習したのだろう。もう既に100mは遠ざかっている。シズちゃんは、1本の矢をつがえ、ギリギリと引き絞ってから、『ギュイーン』と放った。矢はワイバーンの頭を吹き飛ばしたようだ。どんだけの威力なんだろう。どうやら『ヨイチの弓』は、遠距離射撃の特殊属性を持っているみたいだ。スターバ騎士団長は、開いた口が塞がらない。あの固いワイバーンの頭を吹き飛ばすなど信じられない。逃げ延びたワイバーンは、もう、山の上から降りてこなかった。弓を使う前は、ファイア・ボールでワイバーンの丸焼きを作っていたらしい。落ちてきたワイバーンの皮を剥いで、持てるだけ回収する。
8階層は、森林エリアだ。トレントに食人花、それに大型キラービーだ。大規模火魔法は使えない。森林火災を起こしてしまうからだ。シズちゃんには相性の悪い相手だろう。僕は、そっと食人花の『雌しべ』と、トレントの口の中を凍らせておいた。飛来して来るキラービーは、全てシズちゃんの弓矢の餌食だ。頭から尾まで貫かれているキラービーもいる。少しかわいそうかな。キラービーを殲滅してから、剣を抜き、『斬撃』で食人花とトレントを切り倒して行く。単なる木こりと一緒だ。これには他の女の子も参加している。
9階層は、レブナントのエリアだ。瘴気のシールドを張っている。聖属性以外の攻撃が効かない。これも普通なら困った相手だ。シズちゃんは、聖魔石をスロットに嵌めて、矢を射ている。しかし、シールドは破れるが威力が若干弱くなっている。シズちゃんが、チラっと僕を見た。弓から聖魔石を外し剣に嵌め込んでいる。僕は、こっそりと聖なる光でレブナントを包み込んだ。レブナントは、声にならないうめき声をあげ、身悶えしている。シズちゃんは、すかさず剣を横に薙いだ。レブナントの首が5mは飛んだと思われた。
次のレブナントが現れた。瘴気のシールドを貼ろうとした矢先、シズちゃんの剣が一閃した。完全に貼り終わってないシールドごと、胴を真っ二つにしてしまった。ほぼ、弱い者苛め状態だった。10体ほど倒したらもう出現しなくなった。階層ボスはリッチだった。間断無く『ファイヤ・ボール』を撃って来る。シズちゃんが、闇魔法デスペルの強化版である『サイレント・ワールド』を発動した。絶対の静寂。死の世界だ。詠唱どころか、発動のためのワードさえ無効になってしまった。シズちゃんは、火魔石を弓に嵌め、たった1本の矢に魔力を流し続けた。鏃が真っ赤に燃え上がっている。放った。一直線にリッチに向かって炎が伸びていく。残像が、いつまでも光線になって残っている。そして命中した。
ズゴゴゴゴーーーーン!!
リッチは、消滅した。うん、シズちゃんの実力は『S』クラスはあるだろう。後、シールドの達人とヒーラーがいれば、殆どの魔物は敵にならない気がする。
最下層に潜った。変なエリアだ。大きな皿や鍋が雑然と置かれている。変な臭いが漂っている。この匂い、嗅いだ事がある。あれだ、台所に置いてある残飯入れの匂いだ。ということは、嫌な予感がする。音が聞こえてきた。ブーンという羽音とカサコソという、何かが移動している音がする。
シズちゃん達も気がついたようで、顔が青ざめている。見えた。1匹が50センチくらいあるブラックGの大群が、鍋のヘリから降りて来る。あの鍋の中は、絶対に見たくない。
シズちゃん達女性陣は、キャーキャー騒ぐだけで、全く戦う気がない。とりあえず、鍋の中に大火球を放り投げておく。爆発はさせない。爆風で、破片が飛んだ来たら堪らないからだ。既に、鍋から出てきた奴らは、瞬間冷凍だ。積み重ねられた大きな皿の間からワラワラと這い出てきた。土魔法で大きな穴を開けておく。奴らは、みな底に落ちていく。全て落ちたのを確認してから、土をかぶせて、重力魔法で土を固める。
左手の空から、大軍が飛んできた。水魔法で雨を降らせた。土砂降りの雨だ。羽が濡れてしまって、全て落ちてしまった。落ちた奴らが、こちらに向かって来る。大きな水たまりの中で、ウニュウニュと蠢いている。見たくない。僕は、『サンダーボルト超極大』をお見舞いした。全てが、感電して燃え尽きた。
水たまりの中に、何かあっては嫌なので、火魔法で乾燥させ、上から土を被せておいた。もう居ないだろうと思ったら、遠くの鍋から大軍が出てきた。もう嫌だ。僕は、初めて『オロチの刀』を抜いた。力を込める。赤く光って来た。十分に光ってから『斬撃』を飛ばした。赤い光が飛んでいく。光の先が、蛇の頭のように見える。奴らの真上で、地上を舐め尽くす。地上の土が溶けてマグマになってしまった。
ようやくブラックGを殲滅した。
遂にダンジョンボスだ。今までの展開で、嫌な予感が消えない。こういう時の嫌な予感は、必ず当たる。出た。巨大Gだ。大きさは5m以上ある。触覚をブンブン降っている。取り合えず、100m程逃げる。僕は、紅の剣を具現化して、Gに向ける。Gの頭上10mに火球を浮かばせる。それだけでGは焼け死んだ。火球を地面に下ろす。Gは存在しなくなった。全てが終わった。
Gのドロップ品は、ドロドロの紫色の体液にまみれたロング・ソードだった。誰も欲しがらなかったので、僕が貰うことにした。洗濯石とシャワー石で綺麗にしておく。柄と鞘は腐食していて、使い物にならなかったが、取り合えず、イフクロークに入れておく。何か、予感がしたのだ。
帰還石でダンジョンを後にする。スターバ騎士団長は、頭が痛くなっていた。レブナントやリッチなど国家壊滅級の魔物を、この女の子達、いや孫娘一人で殲滅するなど信じられない。もう無理やりにでも騎士団採用だ。
僕は、ダンジョンを出てから、ダッシュさんの店に行く。さっきのロング・ソードを見てもらうためだ。抜いてみると、刃体もかなり汚れていたが、錆びてはいないようだ。刀剣用の洗浄剤で拭いてみた。赤みを帯びた刃体が現れた。
ヒヒイロカネだった。
またまた出ました。ヒヒイロカネ。このソードも謂われがあるのですが、それは後で分かります。




