第174話 神を許せないです
いやあ、遂に恐ろしい敵と戦いますが、これは、3000年以上も前の話です。ゴロタは一体、誰と戦うのでしょうか?
僕が気が付いたとき、辺りは、荒れ地だった。決して、荒れ地に転移したわけではない。全てが燃え尽きてしまったのだ。総大将も魔人の部隊もいない。当然、リッチも、リッチが発している瘴気も消滅していた。
今の光には、見覚えがあった。僕の力を開放した時の光と同じ光だ。僕は、シールドを纏っていたので、大丈夫だったが、イフちゃんは、シールドをしていなかったので、かなりダメージを受けたようだ。しかし、存在が消滅していないので、エネルギーを補給して回復するだろう。
僕は、シェルちゃん達のことが心配になり、『空間転移』により、戻ってみた。辺りもやはり、荒野になっている。
ヘラさんがいた。右腕が無かった。出血がひどい。しかし、意識はしっかりしている。どうやら、岩の陰にいたので、被害が少なくて済んだらしい。右腕は、後で、エリクサーと復元スキルでどうにでもなる。心配なのは、シェルちゃんだ。どこだ、シェルちゃん。
あ、いた。
ヘラさんがいる位置よりも、30m位先に転がっていた。すぐに近寄ってみると、うつ伏せになっている。見たところ、五体満足だ。良かった。僕が抱き起す。顔が無かった。頭の前半分が消滅していた。身体も、前の部分は、大きくえぐれていた。既に、シェルちゃんは死んでいた。
僕のせいだ。もっと、離れたところに転移していれば、シェルちゃんは無事だった筈だ。何故、シェルちゃんは死ななければいけない。どんな悪いことをしたのだ。
僕は、頭の中、心の中がブチブチと切れて行くのを感じた。イフちゃんを上空に飛ばす。南の方を見る。20キロ以上先に、白く輝いている光が、南に遠ざかって行くのが見える。
早く追い掛けなければ逃げられてしまう。しかし、その前に、ヘラさんを何とかしなければならない。ヘラさんにエリクサーを飲ませる。腕の出血が止まった。『復元』スキルで腕を再生する。肉芽が盛り上がってきた。骨が形成されている。もっと、スキルポイントを注ぎ込む。細いが、ヘラさんの腕が元通りになった。シェルちゃんの遺体をヘラさんに任せ、僕は、『空間転移』で、さっきの場所まで戻る。
イフちゃんを、再度上空に飛ばす。もう、白い光は、50キロ以上離れているように見える。遠く、地平線の向こうに消えかかっている。僕は、力のシールドを前に張って、全速力で追い掛ける。樹木も魔物も、僕の進行を阻もうとするものは全て、消滅してしまう。というか、エネルギーに変換されて、前方に放射されている。僕は、走る速度のギアを一段上げた。『体力強化』スキルを使って、走力全般の力をアップさせている。
しかし、光の遠ざかる速度の方がはるかに早く、走っていては追いつかない。僕は、空を飛びたいと思った。羽が欲しい。空を早く飛ぶための羽が欲しい。心の底からそう思った。僕の身体が青く光り始めた。背中に違和感を感じて来た。この感覚は何だ。背中が熱い。僕の身体がフワリと浮いた。
僕の背中に黒い翼が生えている。僕は服を着ているので、その翼が服を突き破っているわけではない。翼の付け根は、消滅しているのだ。背中の手前で、消えている。しかし、僕は、その翼がしっかりと背中に付いていることを感じている。異空間でつながっているのだ。というか、翼そのものが異空間の存在のようだった。僕が、重力を無視して浮かんでいられるのも、空間を歪めて、重力を上空に向けているからだ。空間を歪めて飛行するための媒体として、翼があるようだ。
翼の付け根は、何もなく、僕の背中とつながっているようには見えないが、しっかり飛行が出来ている。僕は、南の光を追跡する。
かなりの速度で飛行中、光から声が聞こえて来る。念話だ。
『お前は、何者だ?』
『僕はゴロタ、よくもシェルちゃんを殺したな。』
『限りある命を宿す者の一人や二人、死んだところで何も変わらない。』
『ふざけるな。シェルちゃんは何も悪いことをしていないのだぞ。死ぬ理由なんか何も無いのに、何で、殺されなければいけないんだ?』
『罪の深さと現世の生とは何ら関係ないのじゃ。死すべきものは、死すべき時に死すのが世の習い。』
『説明になっていない。それでは、魔人の部隊を全滅させたのは、なんでだ。』
『もう、必要が無くなったからだ。エルフの奴隷、十分すぎるほどの量を摂取したからだ。』
『摂取ってなんだ。殺したのか?』
『摂取は摂取じゃ。その子のエネルギーを貰って我の糧としたのだ。』
『お前は誰だ。』
『先ほどの我の質問と重なっておるが、まあ、良い。我は神だ。』
『神が、何故、人々を殺す。人々のエネルギーを欲する。』
『神にもいろいろあるのじゃ。我は、唯一の創造の神から作られし神にして、創造の神の僕。人は、我を天使とか精霊と呼ぶ者もいるが、そのような区別はつまらぬ意味のないものじゃ。』
『神にも名前があるだろう。』
『我は、傲慢の神じゃ、人間のような名前は、勝手に付けるが好かろう。亜人も含めた人間の業の中でも傲慢を司る神じゃ。』
『何故、地上にいる。神は天上界にいるのではないか。』
『ふん、どこに居ようと同じ事じゃ。人間の傲慢さが我を生み、地上へ招いたのじゃ!。』
『誰が地上に招いたのだ。』
『さあ、全てを統べる者だとも言われているが、詳しくは知らん。』
いい加減な神であった。しかし、圧倒的な力を感じた僕は、不用意に近づけなかった。
『どうした、来ぬのか?なら、こちらから行くぞ、』
光は、大きく輝き、グリフォンの形になった。頭が鷲、身体がライオン、前脚が鷲、後ろ脚はライオン、背中に鷲の翼が生えている。しかし、このグリフォン、半端な大きさではない。全長1キロはありそうだ。背中に生えている小さな翼をパタパタしながら宙に浮いている。グリフォンは、その鷲のくちばしを大きく開けた。口の中に光の球が見える。ドンドン巨大化している。
『いけない。やられる。』
と、思った瞬間、光のビームが僕を襲う。シールドを貫通しそうだったが、慌てて3枚重ねにしてしのいだ。次の瞬間、僕の『斬撃』がグリフォンを襲う。グリフォンのライオンの胴体を真っ二つにしたと思ったが、はるか彼方に弾き飛ばされてしまった。僕は、ベルの剣に気を込めて、真っ赤にする。続いて、『斬撃』を飛ばした。赤い閃光がグリフォンを目指したが、先ほどのように、はるか彼方に弾き飛ばされた。但し、グリフォンの皮膚から、黒い煙が立ち上っている。
僕は、ベルの剣を納めた。空手のまま、グリフォンに近づく。でかい。首元に近づいたが、大きな城ほどの大きさの首だ。僕は、力の剣を大剣の形に実体化した。その剣を下段の形に下げてから、グリフォンの首を狙って左下から右上に切り上げた。
ズバーーン!
力の大剣は、確かにグリフォンの首元を切り裂いた。しかし浅い。致命傷にはほど遠い。ほんの僅かに青い血を吹き出させたが、直ぐにふさがってしまった。
『今のは、効いたぞ。少し、痛い』
グリフォンは、前足を広げて、僕を儂掴みにしようとした。僕は、上空に目一杯逃げる。あの前足に捕まったら厄介だ。足の形が、鷲の爪のようになっている。あれで掴まれたら、間違いなく腹に大穴が空いてしまう。
僕は、空中で『瞬動』を使って、鷲爪の攻撃を漸くかわす。僕は、力の『斬撃』を飛ばす。グリフォンの翼の1枚を切り飛ばした。きりもみ状態で落下していくグリフォン。しかし、決してただでは転ばない。落下途中、周囲にあの光線を吐き散らかしている。非常に迷惑だが、よけざるを得ない。
グリフォンは、落下速度を遅くして、体勢を立て直した。その後、一瞬、光輝き、もとの姿、つまり青白く光るものになった。光になったせいで、物理攻撃は無いが、あの光線攻撃はあるので、決して楽な戦いになった訳ではなかった。
僕は、力の大剣を納めてから、内なる熱き力を開放した。上空に光の球が現れた。ドンドン大きくなっている。それでも、僕は力の開放を止めない。僕の周りの空気がパチパチ光り弾けている。周囲の物質を吸い込んで、エネルギーに変えている。そのエネルギーを全て、上空の光球に注ぎ込む。
イフちゃんが念話で話して来た。
『ゴロタよ、もう、やめるのじゃ。星が無くなるぞ。」
僕は、光球を爆発させた。光のシャワーが神の光に降り注いだ。
『お前は、今、何をした。この光、このエネルギー。人間では、決して持てない、いや持ってはいけない力だという事を知っているのか。』
『傲慢』の声がかすれてきている。もう、満足に話すこともできなくなっているのだろう。僕の力は、物質でなくても、物質から由来の物であれば自由自在にできるのだ。
『傲慢』が消滅した。ふと下界を見ると、大きく陸地が削り取られている。大きさは、直径20Km位かも知れない。しかし、これで終わりではない気がする。
この世界を創造したとされる4人の神、精霊とも神とも呼ばれているが、それらは、全て、人間生活に密着している尊い神である。しかし、今回の神と名乗るものは、『傲慢』の神だ。信じられないが、人間の持って生まれた業の一種だ。という事は、他にもきっと、今回のような神がいるはずだ。
今日のような神との戦いが、永遠に続くのか?
そう思った瞬間、僕は意識を失った。
いやあ、敵の正体が分かってきました。確か「傲慢の神」は、キリスト教の『七つの大罪』では、悪魔名が『ルシファー』、魔物が『グリフォン』だったような気がします。という事は、あと6回も戦うのですかね?可哀そうに。




