第172話 現代のシェル達の1日
シェル達と言うワードがありますが、シェルとエーデルだけの話です。
(グレーテル市です。)
シェルは、忙しかった。ゴロタがいなくなってから2か月。ハッシュ村とグレーテル市の屋敷を行ったり来たりしている。
ハッシュ村からの売り上げは伸びる一方だった。まずダンジョンの経営だが、冒険者も300人位に増え、彼らから得られる魔石や素材それにドロップ品については、あえて他のギルドよりも安く買い取っている。他に売却できる所が無いこの村では、しょうがなく、ギルドに売るしかないからだ。
それを、シェルはグレーテル市のギルドで転売して、差額分を儲けているわけだ。次に、ギルドの隣に新設した武器・道具販売店では、ひっきり無しにお客が来ている。一番売れているのが、魔光石、その次は携行食糧だった。ガチンコさん作の剣なども置いており、結構いい値段をしているが、数はかなり出ている。
ガチンコさんは、エクレア市の自分の工房に戻っており、今は見習いの筋のいいドワーフが支店を任されている。売り物の魔道具は、シェルがグレーテル市から仕入れたもので、買い出し用にノエルとシズさんに手伝って貰っている。放課後、時間のある時に買い物に行って貰っているのだ。
ギルド併設のレストラン『ラビット亭』は、大盛況だ。開店してから男性客ばかりが続々と押しかけている。客単価が高いので、利益も大きく、毎日金貨1枚以上の売り上げがある。
旅館『エーデル』の経営も順調だ。特に、併設レストラン『シャトー・ワイス』は、遠くの村からも、噂を聞いた若者がやって来るようになって来た。最近では、エクレア市の若い子が来てくれるようだ。来たら数日連泊するようで、旅館の稼働率アップにも貢献して貰っている。こちらも、旅館とレストランの売り上げで1日に金貨1枚半くらいは儲かるようになっていた。
しかし、それと比較にならないのが、娼館『夕顔』だった。売り上げが半端ないのだ。全ての娼婦に常連客が付き、指名合戦をしている。人気があるので、娼婦のランクも上がり、当然に売り上げも当初予想の2~3倍に伸びている。
でも、これ以上娼婦を増やす計画はない。もともとの営業目的が、荒くれ冒険者の下半身の欲望を処理することにより、罪のない村の娘さん達を守ることにあったので、利益は度外視していたのだ。しかし、この店が一番の稼ぎ頭になってしまった。
村人達には、旅館や食堂・レストランの経営は自由にさせていたが、娼館の経営だけは許可を出さなかった。その理由は、娼婦の奴隷的労働の排除と、ハッシュ村全体を色街にはしたくなかったからだ。
今は、エクレア市からもツアーが組まれているようで、観光とセットで旅行客が多くなってきた。当然、村に落とすお金も半端ではない。
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北の森のそばのゴロタの別荘は、現在、内装工事に入っている。春から工事を始め、11月末にはすべての工事が終わる予定だ。その後、家具などの什器のセッティングをすると共に、周囲の庭園の整備だ。
最初は、別荘なので、周囲は自然のままにしようかとも思ったが、今後は領主の館としての機能も持たせなければいけないので、ある程度は手を入れた庭園にする必要がある。造園も、バンブーさんを通じて、専門の職人にお願いしている。
ハッシュ村からダンジョンに行くための南北に走る街道、通称ダンジョン街道と、別荘とは3キロ位離れているので、その間にも、クレスタが、土魔法を使って幅12mの東西に走る舗装道路を作ってくれた。この道は、シェル通りと名付けていた。
最近、そのダンジョン街道とシェル通り沿いにお店を作らせて欲しいと言う要望が多いので、バンブーさんから都市計画の専門家ビンチさんを紹介して貰った。
まず、シェル通りを、ダンジョン街道から東に1キロ程延伸した。これで東西2キロ、南北2キロの町の中心となる通りが出来た。交差地点には、直径100mの丸い広場を作った。後、都市計画エリアには、250mおきに、幅8mの通りを東西南北に12本作り、その間も6m幅の道路を碁盤の目のように配した。広場を中心に、北西エリアは、行政エリアとして、行政庁を建てることとした。その周囲には、官舎等を作る予定だ。また、領主直轄の衛士隊や騎士団のための区画も作っておく必要がある。
南西エリアは、商業エリアだ。ホテルやレストランを街道に面して配置する。南東エリアは職人街だ。鍛冶屋や、洋服、革細工、魔法道具、それに薬品を制作する工房を配置する。北東エリアは、食料品などを売る市場エリアだ。この都市の予想人口は1万人なので、その人達に十分な食料を供給しなければならない。この町の名前は、『タイタン』と名付けて、現在、1区画300平方メートル以上で、入居者を募集中だ。既に、バンブーさんとダッシュさんの工房は入居決定住みだ。
ビンチさんが言うには、都市計画でも、重要なのは、インフラの整備と景観の統一だそうだ。そのため、この街に入居する人は、ビンチさんが作成した図面をもとに、ビンチさんの建築許可を貰わなければならないようにした。全ての準備を整えてから、周囲の村とエクレア市に入居案内のお知らせを出した。入居許可は、領主の専権事項なので、屋敷からセバスさんを呼んで審査をお願いした。
こんなあんなをしていて、シェルとクレスタは、あまりにも忙しいのでノエルとビラにも仕事を手伝って貰う状況だった。
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エーデルは、毎日、朝起きたらゴロタの部屋を覗いていた。もしかすると帰って来ているかも知れないと思うからだ。それが済んでから、着替えをして1日が始まる。最近は、明鏡止水流道場の師範代を務めている。2日に1度は道場に顔を出している。エーデルの得意武器はレイピアだが、道場では、普通の木刀で指導している。
エーデルの剣風は、風に吹かれる葦のようだった。相手の剣が当たる寸前に、右に左に、時には後ろに下がってかわすのだ。人並み外れた動体視力と、高レベルの身体能力が為せる技だった。エーデルの構えは、右片手剣が基本だ。どうしてもレイピアの癖が抜けない。両手正眼の構えも出来るのだが、一番リラックスできる構えが片手剣だ。
今も、高段者を相手に、右正眼に構えている。ジリジリと、相手との間合いを詰めていく。我慢できなくなった相手が、素晴らしい打ち込みで、エーデルの面を狙ってくる。振りかぶった瞬間の僅かな時間、エーデルに胴を晒してしまう。エーデルは、軽く剣を前に突き出し、相手の胴をコツンと突いた。次の瞬間、相手の降り下ろす剣をかわして、小手と面を二段打ちで打ち、相手の背後に回っていた。
「参りました。」
相手は、諦めたように『参った。』をした。エーデルは、相手の剣の握り方や振るときの足裁きを丁寧に教えてあげる。相手の手を取ったり、足元の送り方を見せたりするのだが、その際、自分の豊かな胸が、相手の腕に触れてしまい、相手の股間がモッコリとなっていることには、全く気が付いていなかった。
エーデルの所にだけ行列が出来ているのを見て、ニンマリしている師範だった。最近、入門希望者が後を立たず、この調子では、もう一つ、道場を新築しなければならないかも知れないと一人ほくそ笑んでいるのだった。稽古が終わってから、門下生が、しきりにデートに誘ってくるが、夫のいるエーデルにとって、誘いに乗るわけもなく、ニコニコしながら屋敷に帰るのだった。屋敷に帰ってから、直ぐゴロタの部屋を確認するが、帰っていないことが分かると、そのままメイドのジェーンを相手にベソをかくのだった。
次の日は、ジェーンと一緒に王都近くのダンジョンに潜った。シェルのダンジョンに行っても良いが、あそこは他の冒険者達のために、行かないようにしている。ジェーンは、戦闘力が弱いが、ポーターがわりに連れている。荷物と言っても、お昼のサンドイッチとお茶セットだけだし、中級以下の魔物の場合には、魔石も回収しないので、殆ど何も持っていない状況だった。
1階層、2階層の魔物は、エーデルの『威嚇』スキルを発動して蹴散らしている。最近、使い方のコツを覚えてきた。相手を睨み付ける感じ。その時に、心の中に感じる気を発動すればよいのだ。王家の者は、多かれ少なかれ、このスキルを持っているのだが、エーデルは19歳になってこのスキルを使えるようになった。
3階層は、トロール達だった。背はそれほど大きくないが毛むくじゃらのずんぐりむっくりの魔物だ。とにかく数が多い。エーデルは、敢えて剣を抜き、全ての敵を『百刺し』で、殲滅していく。全く敵ではなかった。このダンジョンは、5階層からやっとまともな魔物が出てくる。スケルトン・ジェネラルが階層ボスだったが、エーデルは敢えてレイピアで戦う。鎧の隙間からは、細いアバラ骨しか見えない。エーデルは、素晴らしい剣さばきで、全ての骨を粉砕していった。ジェーンは、今日、初めての魔石回収をした。大きく黒っぽい魔石だった。携行しているショルダーバックに入れておく。エーデルは、ダンジョン攻略ではなく、ストレス解消が目的だったので、この階層は、十分に楽しめるものだった。
まもなく、自分の誕生日だったが、ゴロタさんがいないのでは、何も楽しくないので、両親には悪いが、宮廷でのお祝いのパーティーは中止して貰った。もしかすると、ゴロタさんが帰っているかも知れないが、それならそれで、朝から晩まで、ズーッと甘々をして貰うつもりなので、やはり誕生パーティーなんか、やってる暇なんか無い。シェルとクレスタとノエル、自分も入れて4日間はゴロタさんを逃がさない。
いろいろ考えていたら、パンツの中がグッショリになってしまった。早く、屋敷に帰って、シャワーを浴びなくっちゃ。あ、その前に、ゴロタさんの部屋を確認しなくっちゃ。
いつもと変わらないエーデルだった。
相変わらずの残念姫のエーデルでした。




