第171話 ヘラと言うエルフの女性
旅の仲間が増えました。まあ、6歳の女の子2人で旅をするのは、何かと面倒なので、大人のヘラさんが加わることで、面倒な事をしなくても済みそうです。
ヘラさんと一緒に宿屋に泊まった。良かった。シェルちゃんと二人では絶対に無理だと思ったからだ。
一緒の部屋に泊まることになって、ツインの部屋をとって貰った。部屋代が思いの外、高かったようで、ヘラさんがしきりに値段交渉をしている。僕は、黙って銀貨3枚を出した。宿屋の人も、ヘラさんも吃驚していたが、意味を察したヘラさんが、顔を真っ赤にして、そこから部屋代を支払った。部屋に入ってから、自分の分は支払うと言っていたが、同行してくれるお礼だから、僕が旅の経費を支払うということを何とか分かって貰った。
「た、旅、い、一緒、お、お、お礼。」
この頃になると、ヘラさんも僕のコミュ障に気がついたのか、何も聞かなくなっていた。後、今まで使う機会の無かった、グレーテル金貨を1枚渡すことにした。1枚、150グラム位の重さなので、銀で20キロ位になるだろう。明日、両替屋で両替することになった。ヘラさんは、お湯を貰って、身体を洗おうとしたので、シャワー石を出してあげた。驚いたヘラさんが、僕に対し、
「あなた、何者?」
と聞いたが、シェルちゃんが、『ゴロタちゃん』と答えていた。そう言えば、最近、シェルちゃんは、僕のことを『ゴロタちゃん』と呼ぶようになっていた。諦めたヘラさんが、部屋のなかで服を脱いだ。当然、服の下には、何も履いていない。やっぱりツルツルだった。胸は、かなり大きく、ナイスバディだった。僕とシェルちゃんの身体も、ヘラさんに洗って貰った。それからヘラさんの背中を洗ってあげたら、すごく、くすぐったいようだった。僕とシェルちゃんが、一緒のベッドだったが、ヘラさんが素っ裸で寝たので、シェルちゃんも堂々と裸になって寝た。この時代、寝巻きを着て寝ると言う習慣はないようだ。
翌朝、ヘラさんは、馬車が出発する前に武器屋に行って、矢を30本買っていた。お金が無かったので、3本しか持っていなかったそうだ。荷物も大きな袋に一杯だ。野営セットも持ち歩くそうだ。まあ、そうだろう。何も荷物を持たない僕達がおかしいのだ。僕は、ヘラさんの荷物を持ってあげた。一瞬で消えた荷物に、ヘラさんは、何が起きたのか分からなかったようだ。
「ま、魔法。昔。使った。」
僕は、昔の魔法だと説明したが、今以上に昔と言えば、一体いつのことだろう。その点は深く、考えない事にした。駅馬車は、5台だった。
僕達は、真ん中の馬車だった。ヘラさんにとって、この旅は驚きの連続だったようだ。今まで、食べたことの無い食材。見たこともないキャンプセット。まあ、30世紀近い文明の差があるのだ。カルチャーショックを受けない方がおかしい。
ヘラさんの使っている弓を見た。白くて軽く、丈夫な木だ。木の名前を『クレイス』と言うらしい。僕の時代には、見たこともない木だ。いや、シェルの持っている弓が、そんな名前だったような気がする。あれ?ヘラさんが使っている『クレイスの弓』?
まさか、あの弓じゃあないよね。よく分からない僕だった。
なんの飾り気もない弓だったが、僕が『錬成』で、スロットを1個作ってあげた。火属性の魔石を嵌めたので魔法適性が無くても火属性の矢が打てるようになった。しかし、青銅の鏃では一度、射つと熱で溶けてしまう。鉄製の鏃は、売っていないため、錬成で作るしかない。
僕は、土魔法と『錬成』で鉄の鏃を30個作った。ヘラさんが買った矢の鏃と交換した。
試しに、ヘラさんに弓を射たせた。的は、30m先のクヌギの木だ。弓を引き絞る。鏃が赤く光る。矢を放つ。木の幹に当たると同時に爆発した。でも矢はビクともしなかった。
ヘラさんは、驚きを通り越して、恐れを感じてしまったようだ。こんな小さな子が、今まで見たこともない武器を作ってしまったのだ。この弓矢さえあれば、父や母を殺した、あの魔物さえ倒せるかも知れない。早く国へ帰りたい。両親の仇を取るんだ。僕達にはだまっていたが、そう思ったヘラさんだった。
ヘラさんは、フォレスト国で両親や兄と一緒に蜜の採集の仕事をしていた。南方の魔人の国と戦争になった時、兄達は兵士として戦いに参加したそうだ。ヘラさんが15歳の時だった。両親と共に、北の妹の家に疎開しようとしている途中、三つ首の魔物に襲われた。警護の兵士や父も戦ったが、勝負にならなかったようだ。その魔物は、男は殺すだけで、食うのは女子供だけだった。母は、自分を犠牲にしてヘラさんを逃がしてくれた。どこをどうやって逃げたか知れないが、北を目指して逃げた。
ヘラさんが、叔母さんの家に着いたのは3日後だった。叔母さんの顔を見て、ヘラさんは初めて泣いた。両親が死んだ事は、自分にとって悲しい事だったが、実感が湧かなかったのだ。
『ヘラ、逃げて。』と、魔物に食われながら叫んだ母の声が、頭から離れない。しかし、自分の命を犠牲にしてまで、生かそうとした私の命。絶対に生きてやるんだと思って今まで生きて来たのだった。叔母さんの家も安全ではなかった。魔人の侵攻が止まらない。戦火は北の森まで伸びて来ていた。ヘラさんは、叔母さんと一緒に、人間族の国まで避難することにした。しかし、途中ではぐれてしまい、ヘラさんは、一人で人間の村を転々として、薬草や獣の毛皮や肉を売って生活をしていた。ヘラさんは、スキルで弓矢を打てるようで、普通の人間では狩れない程の獲物を狩猟できた。冬場は、兎や狐の毛皮がいい値段で売れたので、生活には困らなかった。夏場は、薬草やキノコなど森の恵みを採集して売れば、それなりに収入があった。この時代、強い魔物に遭遇さえしなければ、森で生きていくことは、ヘラさんのようなスキル持ちには難しくなかったようだ。
僕達と一緒の旅の途中、レッサーウルフに襲われた。ヘラさんが、僕達の前に立ち、次々と矢を射って撃退していく。矢が放たれると同時に、鏃が赤く光り、狼の頭を爆破させていく。しかし、1本ずつ射ているので、多くの狼を撃ち漏らしていた。僕は、誰にも知られないように『威嚇』を放って、狼達が動かないようにした。それからは、ヘラさんの一人舞台だった。
ヘラさんと一緒に旅を始めて1か月近く経った。南の森の前の最後の村に到着した。ヘラさんは、その間、毎日弓矢の練習をしていた。最近は、1度に3連射が出来るようになった。3つの的に、3本の矢を同時に当てるのは、エルフ独自のスキルがなせる技であった。
最後の村の名前は、ノラ村と言って、ノラと言う女性村長が作った村らしい。村長は人間だったが、村民の殆どは、亜人とエルフだった。僕達が村に到着すると、村の人達が避難する準備中だった。南の森から、魔人部隊が攻めて来るそうだ。村も、なけなしの守備隊200名を、周辺の村々で編成した防衛最前線部隊に参加させたが、全滅したと言うことだった。村に残っているのは、老人と女子供だけだった。馬車も、満足にない中での脱出だ。僕達の乗ってきた駅馬車に足腰の弱い者を乗せて、北に向かうそうだ。
敵の襲来は、明後日後だそうだ。村の食糧備蓄には火を付けてから村を去ることになっている。少しでも、敵の進行を弱めるのが目的だ。しかし、食糧備蓄を焼いてしまっては、村人は二度と村に帰って来れなくなってしまう。というか、これから来年の秋まで、どうやって生き延びて行くつもりなのだろうか。
僕は、村の長に、『魔人の食い止めをするので、食糧備蓄に火を付けるのはやめたらどうか。』とヘラさんに言って貰った。女エルフと女の子2人に何ができるかと、馬鹿にされたが、ヘラさんが、3本連射の技を見せて、やっと納得して貰った。それでも、村人たちは、北にあるミラ村まで避難することにしたようで、その日の内に、ノラ村には僕達以外は誰もいなくなった。
その日の夜、僕達は、村長さんの自宅に泊まることにした。一番大きな家だったし、ベッドも藁をたっぷり使った布団だった。村長さんの自宅には、お風呂があったので、久しぶりにお風呂に入ってゆっくりした。シェルちゃんは、相変わらず僕と一緒に入っていたが、元の世界でもシェルと一緒に入っていたので、何も感ずることなく一緒に入っていた。
ヘラさんも一緒に入って来たが、どうやら僕とシェルちゃんの二人だけでお風呂に入ることに危険を感じていたようだ。6歳と7歳の子供に男女の関係などある訳ないと思っていた僕だったか、どうもシェルちゃんは男の子の身体に興味があるみたいで、事あるごとに触って来るのが少し怖い僕だった。
翌日、僕は、ヘラさんとシェルちゃんを村に残し、1人で南の森に向かった。武器は『ベルの剣』だけだが、この剣を使うつもりは無かった。
南の森の出口には、大規模な野営地が出来ていた。魔人の兵士が野営地内をウロウロしているが、進軍の様子が見られない。僕は、物陰から『遠見』スキルを使ってみてみると、エルフの女が数十人縛られていた。どうやら、このエルフ達を奴隷として南へ移送するつもりらしい。
僕は、まず、この女エルフさん達を救助することにした。最初は、広域魔法か力を解き放って、一瞬で殲滅しようと思ったが、人質がいるのでは、話は別だ。僕は、使うつもりのなかった『ベルの剣』を抜き、まっすぐ野営地に向かった。僕に気が付いた兵士達が、剣を抜いて襲い掛かって来るが、敵の剣は、青銅の剣だ。『ベルの剣』と打ち合うと、1合で青銅の剣が真っ二つに切れてしまう。
僕は、取り敢えず人質の所に到達すると、直ぐにシールドを張って、人質達の安全を確保した。次に、シールドの外に向かって力を開放した。大きな火球が上空に生じたと思った次の瞬間、周囲の樹々が炎と共に燃え上がり、魔人の兵士たちは、超高温に熱せられた空気に触れて灰になってしまった。大きなキノコ雲が上空2000mまで上がって行った。
敵部隊の殲滅は終わった。残ったのは、兵士たちの影だけだった。僕は、ノラ村とつながるゲートを開き、エルフさん達を非難させた。次に、生き残っている魔人を探したが、直径600m以内には、生存者はいなかった。
この一瞬で、魔人軍の殲滅は終わってしまった。
またまた、チートな殲滅をやっちまいました。これから、ゴロタは、この世界で何をするのでしょうか。




