第170話 シェルという女の子〜2
シェルちゃんは、シェルと、どのような関係があるのでしょうか。それは、もう少し後に明らかになるかもしれません。シェルちゃんとの旅は続きます。
翌朝、何事も無く村を出発することが出来た。村長に、銀貨1枚を渡すと驚いていた。銀は流通していたが、貨幣は無く、重さで価値を決めているようだった。
南を目指して、歩き始めた。途中、トロールが3匹出てきた。美味しそうな朝ご飯と思ったらしい。シェルちゃんが、背中で泣き叫んでいる。耳が痛い。
「フリーズ!」
3匹の肺の中を氷魔法で凍らせた。トロール達は動かなくなった。シェルちゃんは、僕が何をしたのか分からず、キョトンとしていた。僕の背中が、生暖かい。シェルちゃんは、漏らしてしまったらしい。簡易シャワー室を作って身体を洗い流した。汚れ物も洗濯して乾燥させた。シェルちゃんは、顔を真っ赤にしていたが、裸を見られることよりも、漏らした事の方が恥ずかしかったようだ。新しい服に着替えて、出発する。
大きな町に着いた。町の名前は知らないが、人間が多かった。町に入る前に、イフちゃんに具現化して貰う。久しぶりに、お兄さんの格好だ。まず洋服屋を探す。洋服屋の女性店員は、イフお兄さんの格好に吃驚したが、僕達2人のサイズに合う服を持って来た。シャツとかスカートなどは無く、シェルが着ているような、簡単な作りの服だ。2つとも女の子用だった。僕は、男の子用も持って来てくれと言ったら、変な顔をされたが、持って来てくれた。ズボンは、子供用の半ズボンがあった。靴も革製の靴を2足買った。パンツはどこに置いているか聞いたら、『それは何か。』と聞かれてしまった。どうやら、男はズボンをはくが、女は長い裾で隠すが、ノーパンが普通らしい。
値段は、新通貨で銀貨2枚といわれた。イフさんが、グレーテル王国の銀貨1枚を出したら、見たことのない銀貨だが、重さも十分なので、1枚で良いと言われた。
街の宿屋に入って行ったら、イフさんの現代風の服装に、変な顔をされてしまった。宿泊料金として銀貨2枚を出したら、ここでも新通貨と重さを比べていた。
銀貨の価値が分かったのか、2枚では多いと言い、新通貨の銅貨50枚を返してくれた。何も書かれていない銅貨だったが、真ん中に穴が空いていた。部屋は、ツインだったが、マットレスではなく、藁の布団だった。僕は、野営用のマットレスを出して藁布団の代わりに使うことにした。夕食は、宿屋の食堂で食べる事にした。イフさんも一緒で新銅貨30枚だった。シェルちゃん、こんなところで食べるのは初めてらしく、偉く感動していたが、料理そのものは大したことは無い気がした。
部屋に入ったら、イフさんは、時空の狭間に戻っていってしまった。まあ、その方がゆっくり休めるのだろう。僕達の部屋にシャワーはなく、洗い場だけだった。この世界では、まだ、シャワーと言うものが無いのかも知れない。木桶が置いてあるので、お湯を貰って身体を洗うのだろう。僕達は、シャワー石があるので、お湯を貰わなくても洗えるのだが、不思議がられても嫌なので、一応、お湯をもらう事にした。
フロントの人に頼んだら、犬人の女の人が運んできてくれた。空になった桶は、ドアの外に出しておいてくれと言われたので、僕が、大銅貨1枚を渡したら、吃驚したような顔をされてしまった。お湯は、サービスで無料だと言うのだ。親切で、正直な人だ。シェルちゃんが、一人でシャワーに入るのが怖いと言った。見ると、洗い場には明かりが無く、ドアの上に明かり取りの小さな穴が空いているだけだった。僕は、ライティングで明るくしてあげたが、それでも嫌だと言う。母親が死んで寂しいのだろうと思って一緒にシャワーを浴びる事にした。シェルちゃん、僕の背中を洗ってくれると言うので、石鹸を渡したら、小さな手で、一生懸命、洗っている。前の方も洗おうとしたので、そこは自分で洗うからと石鹸を取り上げた。
シェルちゃんの方が先に出なければならないので、シェルちゃんの背中を洗ってあげた。シェルちゃんが、自然に前を向いたので、首筋から、腕、胸、脇と洗ってやり、お腹から下は自分で洗うように言ったが、首を横に振ってイヤイヤをする。仕方がないので、しゃがみ込んで、お腹から下と脚を洗ってあげたが、何故か、脚を目一杯広げている。何を考えているか、分かったので無視してやったが、女の子って、幾つから女の子になるんだろう。やる事が全くシェルと一緒だ。まだ、6歳位の女の子が、シェルと同じなんて考えられない。
シェルちゃんを洗い終わったので、シャワー室の外に出して、僕はゆっくりシャワーを浴びた。さっぱりした僕が、シャワー室を出たら、シェルちゃんは、もうベッドの中だった。ライティングを小さくして、僕も、もうひとつのベッドに入って行く。シェルちゃんが、一緒に寝たいと言う。僕が、こっちのベッドにおいでと、呼んであげた。
あれ、おかしい。シェルちゃんの身体が、素肌だ。寝間着が有った筈だがと見ると、ベッドの脇に寄せられていた。着忘れた訳では無いようだ。本当に、女の子って。僕は、当然、パンツとシャツを着ている。もう、眠る事にした。シェルちゃんが、お休みのチュッをしてくれと言う。僕は、シェルちゃんの方を向いて、頬っぺたにチュッとしてやった。
それから本当に、眠ってしまった。翌朝、シェルちゃんは、寝間着を着ていた。きっと寒くなったのだろう。
朝食後、イフさんが、旅館の人に南に行く方法を聞いてくれたら、馬車が有るそうだ。馬車の出発時間や停車場の場所を聞いてから、旅館を出た。それから武器屋に行ってみる。この時代は、青銅の武器が中心だ。製鉄技術が無いのだろう。通常の獣や人間相手では、十分だろうが、魔物相手では、きっと役に立たないだろう。鉄製の武器は、魔物のドロップ品に限られていて在庫は無いそうだ。色々見ていたが、欲しいものはなかった。
すぐに、店を出て停車場に向かう。駅馬車は、3台出るようだが、ほぼ荷馬車としか言えない馬車だった。荷馬車の両サイドに人が座る席があり、真ん中に荷物が置かれているという状況だ。もう、イフさんには、戻って貰い、僕達二人だけで乗ることにした。
僕達は、3台目の馬車だった。一緒に乗っているのは、お婆さんと、歳の若い兵士さんだった。兵士さんは、荷物も何も持っていない僕達に、興味を持ったのか色々話しかけてくる。この世界のことを何も知らない僕が、黙っていると、シェルちゃんに話しかけて来た。シェルちゃんは、怖がって、僕にピッタリくっ付いて来て、涙を浮かべている。昔の僕のようだ。兵士さんが、お婆さんに注意されていた。静かな馬車の旅が続いた。シェルちゃんは、僕に、もたれ掛かって眠っている。お昼近くになって、右手からオークの群れが現れた。手には、棍棒を持っている。御者さんが、馬を走らせたが、前方に倒木があって、進めなくなった。きっとオーク達の仕業だ。
兵士さんが、青銅の剣を抜いて、馬車を降りた。前の馬車からも、何人かの若い男が、剣や棒を持って降りて来ている。この時代、警護の衛士隊は無いみたいだ。運が良ければ、助かるのだろう。馬車を降りた男の人達が戦うのかと思ったら、一目散に逃げ出した。どうやら、馬車に残した女・子供つまり僕達を魔物が食って、満足して引き上げるのを狙っているみたいだ。オークに会った僕達が、運が悪いだけらしい。
シェルちゃんが、震えている。『大丈夫だよ。』と囁いて、肩を抱いたら、震えが止まったようだ。後ろを見ると、オークが迫っている。6匹だ。固まって、向かって来ていた。今だ。僕は、無詠唱・無動作で『ファイア・ボール』を爆発させた。オーク達は肉片や骨片になって消滅してしまった。誰も、僕の仕業とは思わない。一見すると、妹をかばって、震えていたお兄ちゃんだ。暫くすると男達が恐る恐る帰ってきた。場を白けた空気が覆う。誰も、口を聞かない。シェルちゃんは、安心したのか眠り始めていた。
その日は野営になった。皆は、焚き火を中心に、円状に簡単なテントを張った。僕達は、皆と離れたところで寝ると言ったら、誰も反対しなかった。魔物の危険が分散されれば、生き残る可能性が増えるだけだと思ったのだろう。『空間転移』で、なるべく遠くの、適当な場所に移動し、野営セットを出して、暖かい食事を作った。身体中埃だらけだったのでシャワーでさっぱりする。夜、魔物が近づいてきたが、イフちゃんが、ひっそりと始末していた。魔物もレッサーウルフ程度だった。
翌朝、皆のところに戻ると、魔物が襲ってきたらしく、他の馬車の女性が犠牲になっていた。男達が、普通にその女性の遺品を分けていた。そんな旅が、10日間も続いて大きな街に着いた。バルサの町と言うらしい。3人の長が治めているらしく、兵隊もいる町だった。レストランでシェルちゃんと二人で入ることにした。小さな子供二人で入ってきたので、店の人が吃驚というか怪訝そうな顔をしていたが、銀貨1枚を見せたら、席に案内してくれた。食事をしていると、若い女性のエルフが声を掛けてきた。エルフのシェルちゃんが、人間の子供と一緒にいるのを変に思ったのだろう。
その女性エルフは、ヘラさんと言う名前で、身長170センチ位、緑色の髪を長く伸ばしていた。背中に、弓矢を背負っている。シェルちゃんが、南の森に行くと言ったら、そこは『フォレスト国』と言い、エルフの国だが、この前、魔人の国と戦争をしていたらしい。魔人の国は、もっと南の最果ての海に面したところにあるとのことだった。きっとモンド王国あたりのことだろう。
ヘラさんも、叔母さんの安否が心配で、フォレスト国に行くのだが、良かったら一緒に行かないかと誘われた。僕は、話を聞いて、このまま、その国に行っても、シェルちゃんの親戚に会える気がしなくなったが、一緒に行ってくれるようにお願いした。まあ、単にうなずいただけだったが。
ヘラさんの話では、この町からフォレスト国までは、馬車で1か月、さらに、その先の森の中を1か月も掛けて歩いて行かなければいけないそうだ。当然のことながら森の中には宿屋はないが、エルフの集落が点在しているので、概ね3日分の食料や水を持てば十分だそうだ。そして、子供が二人だけでは、絶対に無理だと言ってくれた。
僕は、『空間転移』で、フォレスト国ってシェルの里の大公国ではないかと思い、それなら行けるのではないかと思ってしまった。レストランの裏に行って、グリーン・フォレスト連合公国に転移しようとしたが、ゲートが開かなかった。現在、存在しない国には行けないようだ。
あれ、新しいキャラが登場しました。この物語の展開上、絶対に必要かと言われると『?』ですが、面白いからいいかなと思います。




