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第169話 シェルという女の子〜1

ゴロタは、一体、どこへ行ってしまったのでしょうか。

(はるか昔です。)

  僕は、気がついた。目を開けると、可愛らしい女の子がいた。耳の長いエルフだ。緑色と紫色のパートカラーの髪をオカッパにしている。周りを見ると、粗末な山小屋の床に敷かれたワラ布団の上に横たわっていた。 女の子は、どう見ても、6歳児くらいに小さくしたシェルだった。


  「え、シェル?」


  「お兄ちゃん、何で私の名前を知っているの?どこかであった?」


  「いや、よく似た女の子を知っていた。」


  「フーン、その人、お兄ちゃんの彼女さん?」


  「いや、妻だ。」


  「えーーー?お兄ちゃん、結婚しているの?まだ子供なのに?」


  え?子供?以前は良く間違えられていたが、流石に最近は無いので、この子は何を言っているのかと思ったが、からかっているようでも無い。僕は、自分の手を見た。子供の手だ。顔を触ってみる。確かに小さい顔だ。それよりも服だ。冒険者服を着ていたが、ブカブカだった。しょうがないので、ワイちゃんのシャツを着てみたらちょうど良かった。ズボンは、長かったので、腰を紐で縛り、裾を一杯に折り曲げて長さを調節した。靴は、履いてなかったので、ワイちゃんの赤い短靴を履いてみた。サイズがちょうどだった。


  外に出ようとしたら、シェルちゃんに止められた。シェルちゃんが、僕を小川の辺りで見つけた時は、傷だらけだったらしい。腕や脚も千切れかかっていたようだ。しかし 、不思議な事に血は流れていなかったそうだ。シェルちゃんは、一生懸命に僕を引きずって、この小屋まで連れて来たらしい。小屋に着いた頃には、腕や脚は繋がっていたということだ。『復元』スキルが発動したのだろう。


  はっと気がついて、背中に手を回す。何もない。シェルちゃんに、剣がなかったか聞いたら、何も無かったと言われた。きっと、あの戦場で無くしたのだろう。腰に下げているベルの剣があるだけだ。ここはどこで、今がいつなのかも分からない。シェルちゃんに聞いても、分からないという。シェルちゃんも、母親と一緒に魔物から逃げて来たそうだ。この山小屋も、誰も使っていなさそうだったので、黙って使わさせて貰っている。


  お水を一杯貰って飲んだ。美味かった。シェルちゃんの『郷」の事を聞いたら、ずっと南の森の中だと言われた。国の名前を聞いたら、『国ってなあに。』って、逆に聞かれた。まだ、人間と亜人と魔人が混在して生き延びようとしている時代なのかも知れない。


  夜になっても、シェルちゃんの母親は、帰って来なかった。段々、不安そうな顔になるシェルちゃん。僕が、夕飯の支度をする。イノシシのステーキにした。スープは、サッパリキャベツの塩茹でスープだ。シェルちゃんは、ビックリしていた。何も無いところから、食材や食器が次々に出て来たからだ。


  「お兄ちゃん、魔法使い?」


  「うん、そうかな。」


  「お母さんも、探せる。」


  「明日、探しに行こうね。」


  シェルちゃんの顔が、少し明るくなった。食器を洗ってから、洗濯石でシェルちゃんを綺麗にしてあげた。シェルちゃんは、半袖のワンピースというか、袋の上と横に穴を開けたものしか着ていなかった。この時代、パンツは無いのかも知れない。シェルちゃんは、恥ずかしがる事なく、僕に洗濯石で身体を流させていた。次に、僕が洗濯石を使っている時、興味深そうに、僕の股間を見ていた。きっと、近くに男の子が居なかったのだろう。


  その日は、粗末なベッドに2人で寝た。シェルちゃんが、裸で寝ようとしたので、ワイちゃんの寝間着を出してあげた。ベッドの中では、僕に抱きつき、泣きながら眠ってしまったようだ。朝になっても、シェルちゃんの母親は帰って来なかった。母親は、シェラと言うらしい。朝食は、パンケーキにしてあげた。シロップをかけてある甘いものだ。一口食べて、シェルちゃんの顔が変わったのが分かった。子供は、皆、パンケーキが好きなようだ。


  食事が終わってから、シェラさんを探しに行く。シェルちゃんが居ない方が探しやすいが、1人にしておく事も出来ない。まず、シェラさんの持ち物を聞く。匂いを嗅ぐためだ。シェラさんの上着を出してきた。まだ、洗濯していない。強烈な匂いがした。女性特有の匂いと汗と、知っている匂い。『血』の匂いだ。上着を点検すると、右肩に獣に噛まれた跡があり、黒く血がこびり付いていた。


  シェルちゃんに、ワイちゃんの夏服ワンピースを着せた。もちろん、パンツもだ。シェルちゃんの手を繋いで、森の中に入って行く。つまらない獣が近づこうとするが、僕から発している尋常ならざる気配で逃げて行く。シェルちゃんは、30分も歩くと、フラフラし始めた。6歳の女の子なら体力がないのも仕方がない。シェルちゃんは、僕の目の高さ位の身長だから100センチ位だろうか。シェルちゃんを背負って、シェラさんを探す事にした。


  それから、1時間位、森の中を歩いて、強い匂いのするところに到着した。僕の予想している状況が見えないところで、シェルちゃんを下ろす。僕1人で確認するが、殆ど骨しか残っていない。辺りには、おびただしい血の跡だ。今は、大量のネズミが、骨に付いている僅かな肉を貪り食べている。僕は、ネズミを『威嚇』で追い払い、遺品を探した。手があったと思われる場所にナイフが落ちていた。きっと、このナイフで抵抗しようとしたのだろう。僕は、残っている髪の毛を束ねてイフクロークにしまい、残った骨とわずかに残っている肉片を燃やした。物陰からシェルちゃんが覗いているのは知っていたが、放っておいた。燃え残った遺骨を、遺髪と共に箱に入れ、イフクロークに閉まってから、シェルちゃんのところに戻った。


  「お母さん、死んだの?」


  死というものを知っているシェルちゃんだった。きっと、ここまで来るのにも、数多くの死を見て来たのだろう。死が日常になっている世界なのだ。黙って頷く僕だった。


  僕は、『空間転移』で、山小屋に戻った。


  シュルちゃんと二人、いつまでもこの山小屋いる訳には行かない。次の日、山小屋を出た。シェルちゃん達の荷物は殆ど無かったが、全てを持って行く事にした。


  ダメだと思ったが、ワイちゃんを呼んでみる。


    「出でよ。ワイ。」


  やはり何も、起こらない。まだ、ワイちゃんは生まれていないのだろう。太陽の位置と角度から、南の方角を目指して歩き始めた。シェルちゃんは背中だ。オンブ紐は、今の僕には長すぎたが、二重に巻いて、なんとかシェルちゃんを背負えた。最初は、面白がっていたが、飽きたのか、降りて歩くと言う。この辺の我儘ぶりはシェルにソックリだ。歩き始めてしばらくすると、やっぱりオンブがいいと言う。僕のヒエラルキーは、いつだって女の子の下に位置するらしい。


  夕方、森を出た。草原だが、様子がおかしい。所々、草が丸く燃やされている。これは、ファイア・ボールが爆発した後だ。匂いを嗅ぐと、随分古い。雑草の芽が出ているところを見ると1か月くらい前かも知れない。兵士の骸も散在している。こんな所では野営ができないので、暗くなるまで歩き続けた。


  野営に適した場所を見つけた。大きな岩と大木の下だ。すぐに、野営セットを出し、それから小さなお風呂を作った。シェルちゃんを石鹸で綺麗にしてあげる。最初、くすぐったがっていたが、その内、大人しく洗われるようになった。大事なところを洗ってあげると、目がトロンとなって来たので、すぐ辞めて、自分で洗うように言った。残念そうな目付きをしたが、そう言うところは本当にシェルにソックリだった。食事は、干し肉とキャベツとタマネギ、それにジャガイモの入ったトマトスープだ。固形スープの素を使っているので、美味かった。シェルちゃんは、お代わりをしていた。


  テントの中では、一つの寝袋で寝た。シェルちゃんが、素っ裸で寝ようとしたので、慌てて寝間着を出してあげた。そのことが嫌だったのか不満そうな顔まで、シェルにソックリだ。シェルちゃんは、今日も、泣きながら眠ってしまった。





  次の日の夕方、初めての人間の村に着いた。人間と亜人が、半分位ずつだった。僕達2人を見て、皆が集まって来た。7歳位の女の子と6歳位のエルフの女の子だ。僕は、また、見た目が女の子に戻ってしまったようだ。村長のような人が、僕に事情を聞いて来た。説明すると、


    「この子は、南のエルフの郷から逃げて来たのじゃろう。」


  と言った。何でも、獣人とエルフの大規模な戦争があり、エルフの郷が焼き払われてしまったとの事だった。この村には、宿屋も教会も無いので、村長の家に泊めて貰った。食事も粗末なものだったが、心のこもったものだった。村長の家には、風呂が無かった。客間に泊めて貰ったが、緊張していたのか、シェルちゃんは、今日は泣かないで寝ていた。広間で、村長達の話し声がした。集落の何人かが集まっているみたいだ。


  「村長、あの子達を匿って、不味く無いんですか。あの獣人達に差し出した方がいいと思うんですが。」


  「何を言うんじゃ。あの子達を、奴隷にしろと言うことか。」


  「可哀想ですが、どっちみち、あの子達2人では、エルフの郷に行くまでに、魔物や獣に食べられてしまいますよ。でも、警護について行くだけの余裕はここには無いし。」


  「聞けば、あの子達は、あの恐ろしい北の森の中から、来たそうじゃ無いか。きっと、儂等には分からない加護の力があるのじゃ。とにかく、あの子らを引き渡すのは反対じゃ。」


  話は、夜遅くまで続いたが、僕にはどうでも良かったので眠る事にした。

ゴロタがシェルちゃんとあった時代は、紀元前10世紀ころ、現在よりも3000年位前です。ゲンさんが生まれたころの時代かも知れません。

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