第168話 過去の悲劇をさかのぼっています。
いよいよ、170話、本編168話目です。書き始めてから、あっという間でした。
お話が、時空のかなたに飛んでいきそうで、難しくなってきます。タイムパラドックスを起こさないように気を付けていますが、まあ、SFではなくファンタジーですから。許してください。
(今と言う時。)
僕は、ブラックさんと一緒に居たはずなのに、今、たった一人だった。いや、イフちゃんがいるから一人ではない。しかし、他には誰もいない。周りは、白い世界だ。色が白いと言うよりも、白く輝く光の中という感覚だ。その光の中から、青い青空が見えた。あの空の下に行かなければならないと思った。僕の意識は、青空の下にいた。
紀元15世紀、そこは、戦争の真っただ中だった。銀色の甲冑を着ている人間族や亜人族の騎士と、黒い革鎧を着ている魔人族との闘いだった。
魔人族は、次々と魔法を撃ち始めている。吹き飛ばされていく人間族や亜人族の騎士達。このままでは、騎士達は全滅だ。あ、目の前に騎士の首が飛んできた。もう血も通わない筈の生首の目から涙が滲み出ている。
魔人族は、僕を見つけると『人間』と怒鳴りながら、大きなバトルアックスを振り下ろしてきた。僕は、腰のベルの剣を抜き打ちざま、魔人族の将校の胴体を真っ二つにした。返す剣で、その後ろの魔人族の首を跳ね飛ばす。何合が繰り返すうちにベルの剣が赤く光り始めた。と、次の瞬間、ベルの剣は力を開放した。大きな火球の後で、上空500m以上のところまで、キノコのような雲が上がって行った。もう、周囲には誰もいなかった。
僕が、騎士達の陣地を見ると、皆、恐怖に引きつったような顔をしていた。どうして、そんなに怖がるのだろう。僕は、不思議に思った。自分は、いつもと同じコミュ障のヒッキーなのに。僕は知らなかった。僕の目が、魔物の様に真っ赤に光っていることを。エルフの戦士の中に、一人の女戦士がいた。緑と紫の髪がパートカラーになっている。シェルだ。なぜ、シェルが、ここに。シェルも、驚いた顔だったが、目に涙を浮かべていた。
僕は、そのまま意識を失ってしまった。
紀元9世紀、僕の意識が戻ったのは、大きなお城の前だった。橋が上げられていて、誰も入れなかった。城の中は亜人族の守備隊だけみたいだった。攻城砲がドンドン打ち込まれていく。城壁の上から、弓矢が雨あられと降って来るが人間族の部隊には全く当たらない。城壁の中に、油が打ち込まれる。続いて火矢が打ち込まれた。大きな爆発音と共に黒煙が上がっていく。城が落ちるのも時間の問題のようだ。
城門前の橋が降りてくる。降伏するのだろうか?それとも、死を覚悟で攻めに転じるのか。城門が開けられた。武器を持たない亜人族の兵士達が手を挙げて城から出てきた。人間族は、大きく橋の前を開ける。城から続々と兵士が出てくる。500人位だろうか。人間族は、降伏した亜人族の皆を、堀の前に並ばせる。不安そうな亜人達。攻め手は、3000人はいるだろうか。その先頭に、アーチャーが並んだ。皆、弓をつがえて引き絞っている。一斉に放たれた。続いて魔導士達の炎攻撃だ。燃え上がる亜人の兵士達。苦しくて、堀に飛び込む。その上から、油を注いで、火矢を打ち込んでいる。
城の中に、抜刀したまま攻め混んでいく歩兵達。中から女性や子供達の悲鳴が聞こえる。煙の中を逃げ惑う市民達。殺戮だ。赤ん坊ごと母親を刺し殺す。老婆のか細い首をへし折っている。
「やめろ!」
僕は、『ヒゼンの刀』を抜き、虐殺を繰り返している兵士の首をはねていく。首無し死体から吹き出す血を浴びながら、次々と殲滅していく。それまで、狂気の目で市民を虐殺していた兵士が恐怖の目に変わる。市内に生存者は、殆ど居なかった。いや、1人いた。エルフの女の子だった。緑と紫のパートカラーの髪の毛の12歳位のエルフの女の子だ。シェルなはずがない。しかし、その子は、最後の力を振り絞って、微かな声で呼んだ。
「ゴロタ君。」
その子は、事切れた。僕は、城門の外に大火球を放つ。全ての物が存在をなくしてしまう。大きなキノコ雲が、上空3000mまで上がっていく。僕は、意識を失った。
紀元3世紀、僕が意識を取り戻した時、遠くの丘の上に多くの死体が括りつけられた十字架が立っていた。全て、亜人の子だった。犬、猫、兎、鼠ありとあらゆる獣人、そしてエルフ。全員が、木の柱に括りつけられ、骸をさらしている。今、丘の下から麻縄でつながれたエルフの子が16人連れてこられた。その後ろからは、数千人の人間がぞろぞろと付いて来る。エルフの子達は全て全裸だった。一番最後の女の子は、緑と紫のパートカラーの髪だった。まさか、そんな筈がない。僕は、丘の上に『空間転移』しようとしたが、何かが妨害していた。僕は、丘の上目指して走った。
エルフの子達が、十字架に縛り付けられる。足と手に鉄の杭が打ち込まれた。司祭のような者が、狼の被り物をして、群衆に大声で話しかけている。『罪深きエルフを生贄にすることにより、我々の罪は許される。』などと言っていた。
高く掲げられたエルフの子に、長い槍が刺されていく。シェルに似た子も、お腹から、刺し抜かれている。死の間際、その子は、走り寄る僕を認めて叫んだ。
「ゴロタ君。」
狼の頭を被った司祭が、滴り落ちる血を浴びながら、何か大きな声で唄をうたっている。意味は分からない。全てのエルフが殺された。群衆が、もっと殺せ、もっと殺せと声を揃えて叫び続けている。僕は、右手を挙げて、大きな火球を丘の上に落とした。丘そのものが消滅した。
丘の麓の街に行ってみた。亜人の男達は、皆、両足を鎖に繋がれ、首に縄が巻いてある。大きな荷車を引いている亜人を鞭で打っている人間。どこかで見た光景だ。しかし、決定的な差があった。亜人は、丸裸だった。男も女もだ。しかも、身体中、傷だらけだ。
街の至る所で亜人の遺体が転がっている。それを、ゴミでも拾うように集めているのも亜人だった。街の中心部は人間の街だった。亜人は居ない。大きな屋敷があった。領主の館だろう。中から、いい匂いがする。あの亜人達が発していた汗と人糞と血の混じった匂いはしない。
屋敷の中から、1人の貴族が出てきた。不安そうな目付きで僕を見た。大声で衛士を読んでいた。僕は、屋敷の中で、小さな火球を爆発させた。一瞬で、屋敷のあった場所は更地になった。僕は、また、意識を失ってしまった。
紀元前2世紀、荒地の中をエルフが追われていた。大勢の武装した人間の兵達により、谷の方に追い立てられていた。谷に面している崖の上で、エルフ達は降伏した。一人のエルフの子が崖の下に飛び降りた。
それを見たエルフの男達は、諦めたように、降伏した。足に鎖を繋がれ、馬車の後ろに数珠つなぎで結ばれていく。女と子供は、服を脱がされ、兵士達の屹立した武器の餌食になっていた。目を逸らすエルフの男達。
僕は、『ヒゼンの刀』を抜き、腰を振っている人間の男達の首を飛ばし続ける。首を飛ばされているのに、気がつかずに腰を振り続ける者もいた。全ての人間を殺した。逃げる事は許さなかった。『威嚇』で、行動不能にしていた。全てが終わってから、エルフの鎖を解いた。
崖の下に飛び降りた。20m位の高さだった。エルフの女の子が死にかかっていた。緑と紫のパートカラーの髪だった。僕を見て、涙を流しながら言った。
「待っていたわ。ゴロタ君。」
その女の子は息を引き取った。村の方から、大部隊が迫っていた。エルフ達を、谷の陰まで避難させ、中規模火球を部隊の上で破裂させた。全てが消滅した。地上500mまで、キノコ雲が上っていった。
僕は、心の中に燃え上がるものを感じた。敵の部隊だけでなく、全てを焼き尽くし、消滅させたいと欲している力を。僕は、また、意識を失ってしまった。
もう何時か分からないが、僕は、天上界にいた。天上界がどのようなところか分からないが、以前、一度死んだ時に来た世界だ。懐かしい匂いがした。シルの匂いだ。甘くて、凄くいい匂いだ。草花の甘い匂いとも違う。例えることが出来ない匂いだ。
2つの光が輝いていた。2つの光は、僕に気づかないのか、フワリと遠ざかっていった。僕は、呼び止めようとしたが、声が出なかった。
シルが、振り向いてくれた様な気がした。悲しそうな顔で僕を見ている気がした。光しか見えないが、何故かそういう気がした。僕は、ベルを呼びながら意識が遠くなった。
気が付いたとき、僕は空に浮かんでいた。下界には、魔物と魔人族がひしめいていた。人間と亜人が逃げ惑っている。魔物の後方に、巨大な力を感じる。あいつは何だ。神々しい白き力だ。その光により、魔物や魔人達は、青白く光っている。『神の御技』により、広範囲での体力強化がなされている。
突然、力の根元から、1本の光が撃たれてきた。光の速度だ。躱す事もできずに、僕の右腕が消滅した。すぐに『復元』したが、巨大な力の根源を『遠見』で見た。
神がいた。姿は、教会の壁画等に書かれている、『神』そのものだった。しかし、何かが違う。神の筈なのに、瘴気を纏っている。
『マタ、ジャマヲスルノカ。』
念話が飛んでくる。僕が答える前に、また光が飛んでくる。僕の身体のど真ん中に当たったと思った。自分の前に大きなシールドが張られていた。青いシールドだ。光を跳ね返す。虚空の彼方に光が消えて行く。
次に、空一杯に無数の白い魔法陣が浮かぶ。逆三角形をしている。その魔法陣の中心から白い光が、僕に向かって放たれる。世界が白くなる。青い盾が、無数に分かれて全方向からの光を全て跳ね返す。
しかし、青い盾が消えた瞬間、再度、光が僕を襲った。左腕と左足がちぎれ掛かり、僕の意識が飛んだ。
いよいよ、過去にさかのぼっています。でも、その過去は、現在に時空に繋がっている過去なのかが謎です。




