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第166話 北の妖怪って?

新しい商売は、うまく行きそうです。シェルさんの心配の種が増えてしまいました。


    『全能の王にして世界を救う者よ。目覚めの時は来た。深き沼を目指せ。』


    『全能の王にして世界を救う者よ。目覚めの時は来た。北の沼を目指せ。』





(7月28日です。)

  今日は、シェルと一緒に北の大地の王都ミッド・ザイランド市に行った。宰相マロー閣下の依頼を果たすためだ。話を聞くと、北の湿地隊に、怪しい影が見えるそうだ。地震を起こすと言うが、魔法のアース・クエイクは、限定的な範囲の魔法であり、広範囲に渡る地震など聞いたこともない。


  昨年の討伐失敗を反省し、今回は、4万人と言う最大動員の部隊編成をしたが、敵の実態が良く分からないので、直ちに進軍を開始するのを控えているのが現状であった。僕とシェルは、とりあえず実態調査に行くことにした。マロー宰相の客間を借りて、飛行服に着替えてから、王都の郊外まで『空間転移』し、そこからはワイちゃんを呼んだ。


  ワイちゃんに騎乗して、北の湿地帯を目指した。湿地帯に近づくと、ウネウネと川が枝分かれして北に流れており、緑色の葦の葉が川を覆い被せんばかりに密集していた。湿原は、50キロばかり続いており、北の極海に接していた。今度は、東西に検索しても何も見つからなかった。イフちゃんにも検索をお願いして、広範囲に調べたが、何も見つからなかった。


  僕達は、一旦、湿地帯の手前の陸地に降下した。僕は、アース・ホールでかなりの深さの穴を掘り、穴に中に極大ファイア・ボンブを投げ込んだ。


    ズズーーーン!


  腹に響く鈍い音が聞こえてきた。同時に、小さな振動が足元に伝わってきた。その直後、大きな揺れが来た。立っていられない位の大きな地震だ。遥か彼方で、土煙が上がっている。直ぐにワイちゃんに騎乗し、その場所まで飛んで貰った。上空から見ると、小さな丘が盛り上がっているようだ。周囲の川が波立っていた。僕達は、丘の上に降下した。丘は周囲100m位で、地面はフカフカした土だった。シェルが異常に気が付いた。


  「ねえ、あなた。この丘、動いていない?」


  確かに、少し揺れている。僕達は、直ぐワイちゃんに飛び乗った。丘の北方の土が盛り上がって来たかと思うと、大きな蛇の頭が飛び出してきた。僕達に向けて、口から大量の水を吐き出してきた。物凄い水圧だ。僕達は、ワイちゃんごと、はるか彼方まで弾き飛ばされてしまう。


  落ちた先は、湿地帯の泥の沼。頭から足先まで泥だらけになる。シェルは、べそをかき始めた。折角の飛行服が、ベチョベチョの泥だらけだ。頭からも、泥のしずくが垂れている。僕は、超極大ウイング・カッターを飛ばした。蛇の頭を切り飛ばした。と、思ったら、今度は、丘の南側から亀の頭が泥の中から飛び出してきた。ギロリと僕達を見ると、鼻穴から、強力な水鉄砲を打ってきた。またまた、転がり続けながら遠くまで吹き飛ばされた。起こったシェルさんが、『ヘラクレイスの弓』で、風を纏わせた矢を10本連射した。しかし、全ての矢が、鼻からの水鉄砲で落とされた。


  その内、向こう側の蛇の頭がニョキニョキと復活してしまった。不味い、両面攻撃を受けたら、防ぎようがない。僕は、シールドを分厚く張った。そして、『紅の剣』の大剣バージョンを実体化させた。それを見た亀の頭が、急に地面の中に潜って行った。蛇の頭も一緒だった。僕達は、泥を落としたかったが、ワイちゃんも泥だらけで、うまく飛べなかった。しょうが無いから、ワイちゃんに女の子になって貰い、3人で丘の上に『空間転移』した。シャワー水で、泥を落としていると、地面がブヨブヨのベチャベチャになって、泥が下側の方に流れて行ってしまった。


  泥が流れた後には、固い敷石が見えていた。六角形の敷石だ。一つの敷石がバカでかい。まあ、泥の上で泥を落としても、非効率的だから、ちょうど良かった。僕は、水魔法で、敷石の上の泥を流し始めた。結構な広さを確保してから、全裸になって、泥を落とし始める。シェルも一緒だ。髪の毛の下まで泥がしみ込んでいるので、かなり丁寧に洗っている。僕は、シャワー石で強い水流を作り、ワイちゃんの泥を落としてあげる。ワイちゃんは、途中で黒龍に戻って、翼の襞々の中の泥を落として貰っている。


  ようやく、全身が綺麗になったので、新しい下着と冒険服を出して着替えた。今度は飛行服だ。折角の防寒のための毛皮が泥だらけだ。一体、あいつは何なんだ。大して攻撃力もない水鉄砲しか打てないくせに、人を泥だらけにしやがって。そう思っていたら、


  『儂の攻撃力が大したことないって。失礼な奴だな。お主、何者だ。』


  『僕は、ゴロタだ。この辺の地震を調べにやって来た。』


  シェルには聞こえていないようだ。一生懸命、シャワー石と洗濯石で自分の赤い飛行服を洗っている。


  『先ほどの紅き剣は、お主が顕現させたのか?』


  『うん、そうです。僕の力の剣です。』


  『お主、もう一度、名前を言ってくれ。フルネームで頼む。』


  『ゴーレシア・ロード・オブ・タイタンと言います。』


  『何と、タイタンとな。そうすると、お主の父はベルゼブ・キング・オブ・タイタン王か?』


  『いいえ、父は『ベル』と言います。母の名は『シル』です。』


  『おお、母君は、あの風の精霊、シルフィー・ド・ゼフィルス殿か?』


  僕には、この『念話』の主の話はちっとも分からなかった。両親の名前も違うし、王とか精霊とか、訳の分からないことを言っているし。僕は、その話は無視をして、さっきの亀の頭と蛇の頭をやっつけなければと思っていた。シェルを見ると、大体、乾いたみたいだったので、とりあえず、丘の周囲に『力の熱球』をぶち込んでやろうと思った。


  『お主、何をやろうとしているのだ。その力の球をどうするつもりじゃ?』


  『丘の下にぶち込んでやるつもりです。』


  『なに、お主、言葉は優しいが、やることはえげつないぞ。そんな高エネルギー体をぶち込まれたら、この丘ごと吹き飛んでしまうぞ。やめるんじゃ。』


  『だって、泥だらけにされてしまったんです。一発位仕返ししないと。』


  僕は、念話では、全く遠慮のない子だった。


  『分かった。分かった。泥は落として進ぜよう。』


  急に、土砂降りの雨が降って来た。シェルの飛行服がまた、ずぶ濡れになってしまった。


  『やっぱり、ぶっ放す。』


  『待て待て、悪かった。儂が悪かった。お主ら、少し、この丘から離れてくれんか。』


  しょうが無いので、言うとおりにしてあげた。シェルと一緒にワイちゃんに乗って、飛び上がった。同時に丘全体が赤く光り始めた。赤から、紫、紫から青、青から緑と次々に光が変化し、パアーと光ったら、そこには、1m位の亀がいた。甲羅は、深い緑色。黒い頭には、角が生えていて、アオちゃんの頭に似ていた。それよりも、尻尾だ。白い尻尾の先が、さっきの蛇の頭になっている。という事は、さっきのは、あの丘も含めて、全部で1匹だったのだ。僕達は、丘のあった場所のそばの乾いた場所に降下した。


  『どうじゃ、これが儂の全体の姿じゃ。亀のように見えるが、本当は亀ではない。『玄武』と言う名じゃ。』


  『北の大地を守る守護神にして、四方を守る神獣の一人じゃ。名前はまだない。』


  僕は、本当は嫌だった。また、あのつまらない事を聞かなければならないのかと思うと憂鬱だった。でも、言わざるを得ない。


  『じゃあ、あなたは『ゲンちゃん』だ。』


  玄武の身体が、うっすらと黒く光った。光は、直ぐに消えて行った。


  『うむ、神獣を臣従させるとは、ゴロタよ、お主は大したものじゃ。』


  ああ、神様って、みんなこんなんですか?


  しかし、小さくなった玄武も体長1m以上ある。とても、持ち歩けない。もう少し小さくなって貰う事にした。頼んだら手の平サイズの黒い亀になってしまった。蛇の頭と竜の頭は無くなり、普通の亀の頭だった。尻尾も普通の尻尾だった。


  これで、東西南北全ての方位の神様がそろったことになる。


  『まあ、待て。儂は、冥界と現世を往来して、冥界にて死すべき者のリストを聞き、現世にその答えを持ち帰ることが出来るのじゃ。お主、白虎、青龍、朱雀の3神をすべて臣従させたか。』


  『うん、揃ったみたいです。』


  『では、青龍もおるのじゃな。』


  ゲンちゃんの言うには、玄武は水の神と守りの神だが、青龍だけは、別格で、全ての力に立ち向かえる盾の依り代なのだそうだ。


  『しかし、その盾の力を発揮すれば、古の天から落ちし神が復活してしまう。この世の最終戦争が始まってしまうのじゃ。』


  何を言っているのか良く分からなかった。すると、ゲンちゃんは、霧に包まれたかと思ったら、長い髭を生やした魔導士になってしまった。え、神獣って、人間にも化身できるの?と思った、僕だった。これでは、『ゲンちゃん』ではなく、『ゲンさん』だ。


  「何を、驚いているのじゃ。神獣も儂の様に3000年も続けていると、思ったものに化身できるのじゃ。フォッフォッフォッフォ。」


  「ところで、儂は、腹が減った。何か食い物は無いか?」


  僕は、亀の食べ物が何なのか知らなかったが、とりあえず、干し肉を上げたら、ベチャベチャと舐めながら、おいしそうに食べていた。僕達は、ゲンさんの食べ終わるのを待っていたが、いつまでも食べ終わらない。


  「あのう、早く食べて欲しいのですが。」


  「うむ、気にするなモグ、儂はモグ、齧ることがモグ、不得意でなモグ。何せ歯がモグ、無いもんじゃからモグモグ。」


  それを早く言って欲しかった。僕は、ああ、この神様もきっと残念な神なんだろうなと思うのであった。

ゴロタの両親の正式名が分かりました。

  ベルは、ベルゼブ・キング・オブ・タイタン王

  シルは、風の精霊、シルフィー・ド・ゼフィルス

だそうです。どちらも、凄いです。ベルゼブと言っても、あの『蠅の王』とは関係ありません。そう思います。


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