第164話 ビラの18歳の誕生日
ビラは、まだゴロタとは、形ばかりの婚約者です。二人っきりのデートもありませんでした。
(6月14日です。)
ビラは、大学に進学して失敗したかなと思い始めていた。決して勉強が嫌いな訳ではない。特に、魔獣の召喚のための魔方陣とか、通常の獣の慣らし方など、その原理と構造、呪文の構成など、知りたかった知識を知るのは、興味があるし、もっと勉強したいとさえ思っている。
召喚魔法の教授からは、是非研究室に入ってくれと言われているし、ずっと研究職として大学に残っても良いと思っていた。
しかし、最近のゴロタさんは、ハッシュ村に行ってばっかりで、朝と夜しか会えないし、最近は、北の大地に行くといって、全く帰ってこなくなった。約束では、1か月に1回は、ちゃんと王都の屋敷に会いに来てくれることになっているのに、来ても直ぐにいなくなってしまう。
ノエルちゃんは、ゴロタさんと、キチンと婚約者としての夜を過ごしているので、不満はないだろうが、まだ、何もしていない自分としては、きっかけが欲しかった。でも、今日も帰ってこない。
次の日、ビラは、召喚魔法の実習をすることになっていた。通常の獣を手懐けるのと魔獣を召喚するのは全然違う。ビラは、2年前、召喚に失敗してコマちゃんを召喚した時の事を思い出してしまう。
あの時は、低級魔物を召喚するつもりだったのに、魔法陣の絵文字を間違えてしまって、あの『デビルライオン』、本当は神獣の『狛犬』だったのだけれど、を召喚してしまった。そのため、同級生の多くにケガ人を出してしまった。
今は、魔法陣の仕組みも分かって来たし、色々と教わっているので、あのようなミスはないとは思うが、やはり不安な気持ちは拭いされない。
演習場で、慎重に魔法陣を描く。教授や他の学生に確認して貰う。もう、大丈夫となってから、何回も練習した呪文を確実に詠唱する。今日は、ファイティング・タイガーを召喚する。今は、ほぼ絶滅したのではないかと噂されているレア種だ。
虎の神獣はトラちゃんがいるが、ファイティング・タイガーは魔獣だ。目が赤く光っているし、口からアイス・ボイスを吐き出すそうだ。アイス・ボイスは、周囲の物を凍らせてしまう魔法で、咆哮とシンクロして、物質の温度を下げてしまうのだ。
魔物も特殊スキルを持っている方が上位レベルだし、ファイティング・タイガーは中級の上、冒険者レベルで言えば、『B』ランクパーティ以上でなければ、討伐不可能と言われている。
ビラは、召喚に成功した。体長3m以上で、サーベルタイガーのような牙は無いが、額の所にもう一つの赤い目が光っていた。ビラは、直ぐに隷従の呪文を唱えた。
「呼び出されし高貴な者よ。我は、四聖の精霊に誓いし者なり。我の言葉は、汝の思い。我の言葉は精霊に導かれし言の葉。隷従せよ。汝の名は『ファイ。』なり。」
ファイティング・タイガーが金色の光に包まれた。光は、スーッと消えて行く。召喚と隷従に成功した。召喚した魔獣は、ある言葉で自由に再召喚できるし、用が無い時には、元の世界に戻しておくこともできる。
ビラは、一旦、『ファイ』を元の空間に戻してから、再召喚の呪文を詠唱した。
「出でよ、ファイ。」
ファイが再召喚された。ファイは、魔法陣の上にチョコンと座って、ビラの次の命令を待っている。長い尻尾が左右に激しく揺れている。
他の学生達の殆どは、召喚に失敗した。召喚魔法は、卒業までに1匹、中位以上の魔物を召喚・隷従できれば卒業単位がもらえるほど、難しい魔法だ。
明日は、召喚した魔獣でのダンジョン攻略実習だ。今、ビラが使役できる魔獣は、コマちゃんと、ファイちゃん、それと白頭鷲のバルドだ。バルドは、ダンジョンに潜ることができないし、魔獣みたいに、消すこともできない。常に、ビラの真上を飛んでいるか、ビラのそばの樹に止まっているぐらいだ。
次の日、ビラは、大学の4年生の先輩と、召喚魔法の教授の3人でダンジョンに潜っていた。自分たちの召喚した魔獣がどれくらいダンジョンで通用するかの実習だ。
一応、用心のために剣を持って行くが、使ったことの無い剣を持っていても役に立つとは思えない。まあ、ビラには、コマちゃんがいるから、最悪の事にはならないとは思うが、こんなことなら、もう一匹位、召喚しておいた方が良かったかも知れない。
ダンジョンの入り口で、コマちゃんとファイちゃんを再召喚する。コマちゃんは、屋敷では生後3か月の子犬だが、今日は、キチンと『デビルライオン』の恰好で召喚に応じてくれた。
それにしても、コマちゃんはでかい。ファイティング・タイガーだって3m以上あるのに、コマちゃんはフルサイズでは6m近い巨体だ。ファイちゃんが怯えている。コマちゃんが、『念話』で安心させている。ビラにも、『念話』が通じている。
4年生の先輩は、レッサー・ウルフを再召喚していた。シッポも入れて体長2m位のレッサーウルフは、今回のチームの中では一番小さいかもしれない。コマちゃんとファイちゃんを見て、召喚者の先輩の後ろで小さくなっている。
ビラは、昨日、屋敷でファイちゃんを再召喚していた。白虎のトラちゃんと合わせるためだ。トラちゃんを見たファイちゃんは、尻尾を足の間に丸め、その場で腹ばいになって、トラちゃんに服従の態度を取った。
トラちゃんが、『フン』という態度で、ファイちゃんを馬鹿にしていたが、その内、何かをファイちゃんに話しかけていた。直後、ファイちゃんの言葉が頭の中に聞こえて来た。たどたどしい『念話』である。このファイちゃん、もう少し齢を重ねれば、トラちゃんみたいに変身できるかも知れない。
ダンジョン1階は、ゴブリンの階層だ。3匹程、現れたが、レッサー・ウルフで殲滅していた。コマちゃんは黙って見ている。ファイちゃんは、見ているだけでは面白くないので、尻尾を振って、やらせてくれとアピールしている。
先に進むと、ゴブリンが5匹出て来た。また、レッサー・ウルフが前に出て行ったが、ゴブリンどもに囲まれて、いいようにやられている。キャイン、キャイン泣きながら帰って来た。ゴブリンが追い掛けてきたが、ビラのサンダーボルトで殲滅した。その先のゴブリン達は、ファイちゃんが殲滅していた。『咆哮』も使わず、単純に猫パンチで殴り飛ばしている。
ダンジョン2階層は、ゴブリン・ソルジャー達だった。ゴブリン・ジェネラルも混じっている。ファイちゃんが『咆哮』スキルを使って、ゴブリン共を釘付けにする。その後、ゆっくりと猫パンチで、頭を刈って行く。
ダンジョンボスは、トロールだった。ファイちゃんは、トロールの振る棍棒を交わしながら、アキレス腱に噛みつき、相手が倒れるまで決して離さなかった。それで相手が倒れたら、喉笛に噛みついて絶命させていた。ビラには魔石は要らなかったので、先輩に譲ることにした。
授業としては、初期の目的を達成したので、これ以上深く潜っても仕方が無いが、特別の準備もせずに潜れる第4階層を目指すことにした。
第3階層は、トロールとオークの巣窟だった。本当にワラワラ居て、その内の1匹は、何か汚らしいものを股間にはめている。女性の股間だ。恐らく殺された女性冒険者の物だろう。ビラは、吐き気を覚えながら、コマちゃんに殲滅をお願いした。
コマちゃんは、口から『殲滅の猛火』を吐き出した。横倒しの炎の柱が、ずっと先、階層ボスのいるエリアまで伸びて行く。後ろにいる、ビラ達も焼けそうに熱い。階層ボスはサイクロプスだった。ファイちゃんとコマちゃんが2頭がかりで、サイクロプスの両アキレス腱をかみ切る。
たまらず倒れ込むサイクロプス。コマちゃんが、喉に噛みつき、小さく『殲滅の猛火』をサイクロプスの体内に流し込む。サイクロプスは体中の穴から煙を吐き出しながら絶命した。ビラは、初めて、サイクロプスの体内から大きな魔石を取り出していた。
本日の最終目標である第4階層に来た。森林エリアで、シークレット・エイプが跋扈するエリアだった。シークレット・エイプは消える猿の事で、どうにも相性が悪い魔物だ。そっと近づいて、人間を攻撃し、姿を現すことなく去って行く。しかし、コマちゃんは神獣だ。いくら隠れても、すぐに発見して『殲滅の猛火』で焼き殺してしまう。森林エリアを類焼させるのではないかと心配するが、取り越し苦労だった。実にピンポイントでシークレット・エイプを打ち落としていくのだ。
今日のラスボスは、ウッド・ゴーレムだ。火耐性の極端に弱いゴーレムだ。コマちゃんの敵ではなかった。
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6月18日、今日はビラの18歳の誕生日だ。昨日から、ゴロタは屋敷にいて、市内をあちこち歩きまわっている。今日は、朝からビラと一緒に買い物だ。二人っきりで歩くのは、久しぶりだ。ビラは、ゴロタの左腕に絡みついて、胸を腕に密着させている。
二人は、まず、冒険者ギルドに行って、能力測定だ。
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【ユニーク情報】
名前:ビラサンカ
種族:人間族
生年月日:王国歴2005年6月18日(18歳)
性別:女
父の種族:人間族
母の種族:人間族
職業:無職 冒険者:Bランク
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【能力情報】
レベル 31( 21UP)
体力 120(40UP)
魔力 240(60UP)
スキル 70(35UP)
攻撃力 90(40UP)
防御力 80(30UP)
俊敏性 60(20UP)
魔法適性 『聖』 『雷』
固有スキル
【魔獣使い】【念話】
習得魔術 ヒール
サンダー・ボルト
習得武技 なし
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ビラもレベルアップが凄い。高校、大学と実習で素晴らしい実績を上げているせいだろう。それに『念話』スキルが追加されている。召喚獣限定だが。勿論、直ぐに冒険者証を更新した。
ギルドを出てから、スイーツ屋さんでフルーツの盛り合わせアイスを食べた。二人で、向かい合わせに座りながら、まったりとした時間を過ごした。
その後で、ビラとティファサンに行って、誕生日プレゼントを買って貰う。婚約指輪は買って貰っているので、可愛らしいダイヤのブローチを買ってもらう。仔犬のデザインのブローチだ。金貨3枚半だったが、ゴロタさんが平気な顔で買っていた。
それから、洋服屋さんを見て回って、ビラの気に入ったミニスカートを買って貰った。最近ビラは、セーラー服を着なくなった。まあ、もう大学生だし、僕を誘惑する必要が無くなったので、着なくなったのだが。
ビラは、気になっていることがあった。ビラはヒールのある靴を履いているのだが、僕が、ビラとあまり身長が変わらなくなっているのだ。ビラは、今、165センチ位だが、僕の頭の天辺が、ビラの目線の上にある。という事は、165センチはありそうだ。遂に、ビラと同じ身長になってしまった。そういえば、去年の測定では既にシェルさんより、ゴロタさんの方が大きかったような気がする。
誕生パーティは、屋敷の大食堂で開いた。大きなケーキに18本のローソクを立てて火をつけたとき、亡くなった両親の事が思い出され、つい涙が出てしまったビラだった。
『お父さん、お母さん。私、幸せになるね。』
ついに、初めてのセレモニーでした。内緒ですが、セレモニーで、ゴロタは指を使いませんでした。




