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第161話 北からの使い

ハッシュ村の北の森、その先は大雪山脈がそびえ立っています。

(6月10日です。)

  フランちゃんは、今日も婆やのフミさんに、何回も起こされていた。学院は、8時半までに行かなければならない。学院までは、歩いて15分だから、8時15分には、屋敷を出なければならない。だから、7時に起こしているが、7時半まで起きてこない。メイドのレミイさんが、何回もスープを温め直している。


  起きてからも、今日は、行かなくて良い日だとか、もう学院はやめるとか、訳の分からないことをいい始める。そんな事では、僕様と結婚できませんよと言うと、渋々、学校に行く準備を始める。髪の毛のセットや制服を着せてもらって、ギリギリに出ていく。


  まだ、入学してから2か月だが、フミさんはもう2回も学院から呼び出されている。最初は、フランちゃんの授業態度だった。


  授業中によそ見くらいは良いが、教室を出て遊びに行くのはやめて貰いたい。特に、光魔法を使って、姿を隠すのは、絶対にやめて貰いたいとのことだった。


  先生が、いくら注意しても、エヘラエヘラ笑って誤魔化そうとするので、きつく叱ると本泣きしてしまう。一体、どんな育ちかたをしたのかとまで言われた。


  口が裂けても、元大司教様だったとは言えない。2回目は、学院の男の子に怪我をさせた時だった。理由を聞いても、絶対に言わないので、フミさんが呼び出された。相手の親御さんが、物凄く怒っていて、慰謝料がどうとか言っていたので、シェルが金銭的な解決をしてくれた。


  相手の男の子は、学院を辞めたそうだ。フミさんが、フランちゃんにじっくり諭して聞いたら、その男の子が、子猫をファイアで苛めていたので、聖魔法の『リマジック』で、その子を火だるまにしたそうだ。直ぐ、聖魔法で治癒したけれど、傷口が残ってしまったそうだ。


  それからフランちゃんは、午前中の座学が嫌いだった。じっとしているのが苦手なようだ。今日の授業は、マリンピア王立魔導師長の講義だったが内容は、複合魔法の掛け方だ。殆どの者は、魔法適性が一つしか無いため、単独で複合魔法は掛けられない。


  複合魔法には相性があって、魔法構造を熟知しなければ、その効果は、増幅どころか、反発して消滅さえしてしまう。とても、大切な授業だったが、フランちゃんは、窓の外に止まっているベニスズメになっているスーちゃんを見ていたそうだ。婆やに内緒で、スーちゃんを連れてきていたのだ。スーちゃんだって、1日、家の中では飽きてしまうだろう。


  午後、マリンピア王立魔導師長の立ち会いで、魔法実技だ。皆、二人で組んで火魔法と風魔法や、土魔法と氷魔法など無難な組み合わせだ。フランちゃんの番だ。生徒達は皆、校舎の中に避難している。フランちゃんが、頭の上でくるくる手を回していると、頭上に大きな光のリングが出来ていた。それを、『神の御技』で周囲に拡散させる。光のエネルギーが衝撃波となって、広がっていく。演習場に面した校舎には窓がない。衝撃波は、分厚い壁に当たって消滅した。


  マリンピア王立魔導師長は、開いた口がふさがらなかった。今の技は、何だ。見たこともない。もしかして、全ての魔物を殲滅したと言われる『神の御怒り』ではないだろうか。これは、検証しなければならない。ああ、この子は何処から来たのだろうかと思うマリンピア王立魔導師長だった。







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  ハッシュ村に、突然、竜騎士がやって来た。しかし騎乗しているのは、人間ではなかった。皮膚に鱗がびっしりと生えている。リザードマンだ。但し、手足に水掻きはない。陸棲のリザードマンだった。僕とシェルが対応した。リザードマンは、シューシュー、歯列から息を漏らしながら、僕達に話し掛けてきた。


  「私は、北の大地のザイランド王国から来た。メレンゲと言う者だ。この村の族長に会いたい。」


  この村の長は、村長だが、実権は、領主である僕が持っているので、僕が話を聞くことになった。メレンゲさんは、僕がまだ未成年に見えたので、吃驚していたが、メレンゲさんの騎乗しているワイバーンを見ても、恐れないところを見ると、只者ではないと判断した。


  メレンゲさんの話は、北の大地、大雪山脈の向こう側だが、その山の麓の森で大量の魔物が発生し、森から出て来て、村々を襲っているらしい。どうも、山の麓の洞窟から湧いてきているようで、もしかしたら、山の向こう、つまりハッシュ村の方に原因があるのではないかと調べに来たらしい。


  大雪山脈は、標高8000m級の連山だ。それを飛び越えるのは、ワイバーンと言えども、楽ではない。現に、3騎で向こうを出発したが、2騎は、寒さと疲労で墜落したそうだ。夏が近いとはいえ、1年中、冠雪している大雪山脈だ。飛び越えるのにも死を覚悟しなければならない。僕は、森のダンジョンの話をしたが、大雪山脈に通じる洞窟の事は知らないと言った。森の中の洞窟から大雪山脈の向こう側に行こうとしても、あの深い谷が邪魔をして、不可能だと思うと言った。メレンゲさんも、ここに来る途中、谷を確認しているみたいで、納得していた。僕は、現在の北の大地の状況を聞いたところ、魔物の進行は現在も続いており、国自体が壊滅するのも時間の問題かも知れないと言った。


  僕達には、関係ない事かも知れなかったが、黙って知らんぷりはできなかった。何かお手伝いすることは無いかと聞いてきたので、騎乗していたワイバーンに餌をくれないかと言ってきた。僕は、イフクロークから、取り置きしていた猪1頭を出してワイバーンに与え、メレンゲさんには、ホテルのレストランに案内した。温かい肉料理と、ちょっと辛いスープをご馳走したら、非常に感動していた。北の大地では、肉は、生か塩焼き位しかなく、こちらの肉料理は味わい深く、幾らでも食べられると言ってくれた。これは、お代わりかなと思って、もう一皿出したら、ペロリと食べてくれた。


  メレンゲさんは、落ち着いたようで、初めて店内のミニスカ・セーラー服姿のウエイトレスを、興味深く見ていた。それで、こちらの国では、人間族の女性は、皆、あのような短いスカートを履いているのかと、聞いてきた。シェルさんは、全部じゃないが、今、こちらの大陸ではプチブームになっていると言ってくれた。自分達が原因とは決して言わなかった。


  メレンゲさんは、食事代を払おうとしたが、これは歓迎の印なので、お金は要らないと言った。メレンゲさんは、物凄く感謝し、このお礼は、必ずするが、今日はもう、帰らなければいけないと言った。早く、こちらの状況を報告して、戦線に戻らなければいけないそうだ。僕は、シェルと目配せで合図して、メレンゲさんにお手伝いすることを伝えた。


  メレンゲさんは、僕とシェルみたいな子供達に手伝ってもらう事なんか無いと思い、丁寧にお断りしようとした。そこで、僕が、メレンゲさんに外に出るように言った。外に出ると同時にワイちゃんを呼んだ。メレンゲさんは、小さいとは言え、黒龍を見て気を失ってしまった。騎乗していたワイバーンが逃げ出そうとしていたが、ワイちゃんが、龍語でなにか喋っているらしく、おとなしくなった。可哀そうに、ワイバーンのお尻の下の所が大量に濡れて池になっていた。


  メレンゲさんは、すぐ気が付いた。僕がワイちゃんに2人乗り用の鞍を付けているのを見て、恐る恐る僕に、この黒龍は、貴殿の騎龍かと聞いてきた。僕は、友達だが、気持ちよく乗せてくれるとシェルに答えて貰った。


  僕達は、飛行服に着替えた。シェルは、真っ赤な飛行服だ。うん、とても目立っている。メレンゲさんが先に飛び上がり、僕達は、それに続く。まっすぐ北の大雪山脈に向かった。グングン高度を上げて行く。空気が薄くなってくる。僕は、シールドを張るとともに、風魔法で、空気を圧縮してシールド内を満たした。簡易の気密室だ。


  メレンゲさんは、見るからに苦しそうだ。同じ魔法を遠隔で掛けてあげた。100m位先を飛んでいるメレンゲさんが吃驚している様子が良く見えた。あと、騎乗しているワイバーンの頭の周囲の空気密度を上げてやった。これで、酸欠で墜落することは無いだろう。酸欠は、怖い。一瞬で意識を失ってしまう。本人に自覚症状が無いだけに、飛行中は常に酸素濃度に気を遣わなければならない。


  ワイちゃんは、全く平気だった。生物としての必要要素が、通常とは違うのかも知れない。本来なら、もっと速く飛行できるが、前を行くワイバーンにあわせて飛んでいるので、おおよそ半分の速度だった。漸く大雪山脈の最高標高地点を過ぎたようだ。徐々に降下していく。高度1000m位まで降下したら、下界の様子が良く見える。ズーッと北まで樹海が拡がっているが、ところどころで黒煙が上がっている。戦闘があったか、魔物が炎をブレスしたのだろう。


  樹海が切れたところから、田園地帯が広がっている。広大な田畑が正方形を連ねている。もう、間もなく麦の収穫が始まる頃だが、こちらの方は、寒いのか1か月遅れという所だ。しかし、良く見ると、1キロ位の幅で、北に真っ直ぐ踏み荒らされて跡があった。その先には集落があったが、家々から黒煙やが上がっている。魔物が数十体見える。恐らく、村人の死体を漁る低級魔物達だろう。


  ワイちゃんが、村のメインストリート沿いに炎のブレスを拭いて掃討していく。逃げ惑うゴブリンやオークなどの低級魔物達。そんな奴らは、ほっといて、さらに北を目指す。


  魔物の群れを見つけたのは、それから100キロ位だった。その間に襲われてしまった村が2つ程あった。もう、平原を行く魔物というよりも全てを喰らい尽す災厄状態だった。数にして1万近く、大きな魔物では、トロール、サイクロプスそれにアイアン・ゴーレムだ。レブナントも、半端ない数で、2個大隊位が整然と進軍している。空には、ワイバーンが飛んでいる。勿論、野生種の魔物だ。最後方には、黒い障壁に包まれた者がいる。リッチだ。10人位はいるだろうか。周辺を低級アンデッドが取り囲んでいる。


  この規模とレベルでは、きっと王都レベルを壊滅させることが可能であろう。


  魔物の先、50キロ位の地点に、大規模駐屯部隊がいた。恐らく北の大地の中心部から派遣されてきたのだろう。ただ、あの数の魔物に対しては、脆弱と思われた。

死の村を越したその先に、討伐部隊がいました。

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