第154話 朱雀を仲間にしました。
とうとう南の旅が終わりました。でも、最後の旅は、まだ始まりません。
(4月17日の夕方です。)
スーちゃんが、ズーッと燃えているのも困るので、炎を消すことが出来るか聞いてみると、簡単な事らしい。すぐ消えてしまった。
火が消えたスーちゃんは、小さいだけで、見た目あまり綺麗では無かった。単なる小さな雀だ。他の色にして貰ったら、頭から胸にかけてが真っ赤で青っぽい翼のところどころに白い点々のある小鳥に変身した。ベニスズメという品種に似ているらしい。うん、可愛らしい。僕が手を差し出すと、チョンと飛び乗ってきた。それから、右肩の上に乗って綺麗な声でさえずってくれた。しかし、余りにも耳に近かったので、耳が痛いくらいうるさかった。
エーデルと一緒に、王国の屋敷に帰ろうとしたら、もう一晩、この谷の上の草原で泊まりたいという。本当に、困ったお姫様だが、新婚なんだし、シェルやクレスタの新婚旅行はもっと長かった気がするので、我儘を聞くことにした。崖の上に『空間転移』し、また、テントを張った。まだ陽は高かったが、エーデルがどうしてもと言うので、お風呂を沸かして二人で入ることにした。お風呂の途中、ガルムが現れたが、指鉄砲一発で倒したので、風呂から出る必要も無かった。これで、無傷のガルムが6体になった。夕日を見ながらのお風呂は最高だった。
夕食は、カレーライスにした。キャンプと言えばカレーが定番だ。スーちゃんも、一応ご飯だけをついばんでいる。あのう、エーデルさん、一応スーちゃんがいるので、エプロンだけってのはやめましょう。新婚旅行、最後の夜は物凄く長かった。
さあ、全て終わった。グレーテル市の屋敷に帰りましょう。
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グレーテル市の屋敷の転移部屋に来てから、ゆっくり1階の大広間に行った。フミさんとレミイさんが、シェルとお茶を飲んでいた。クレスタは、クルリさん達とダンジョンに潜っている。後は、皆、学校だった。
シェルが、僕を見つけて飛びついてきた。長いキスをしている。目には涙を浮かべている。ほんの17日間だったはずだが。エーデルもついでにキスをしてきた。一体、何のキスなのか分からない。
コマちゃんが、スーちゃんを見つけた。ワンワン吠えている。暖炉の上のアオちゃんも、気が付いたようだ。お互いに、念話で話し合っているようだ。シェルさんが、この鳥、どうしたのかと聞いてきた。この鳥は、火の鳥、いわゆるフェニックスだが、朱雀つまり南方の守護神でもある。名前は『スーちゃん』と付けたことを説明した。シェルが小鳥のカゴと餌を買って来なければと言ったら、『カゴはいらない。餌は、買ってきても良い。』と僕に念話で伝えて来た。餌が欲しいなら素直に『欲しい』と言えばいいのに。
それから、僕はシェルとエーデルの3人で、冒険者ギルドに行った。まず、ガルムの魔石を納品した。見たことの無い魔石だが、この大きさなら大銀貨5枚で買い取ると言われた。少し大きいが、ガルムの頭を納品したら、これも見たことが無いが、大銀貨4枚で買い取るそうだ。
最後に魔物解体場に行って、ガルム1匹を出した。傷1つ無い極上品だ。冒険者ギルドは、大騒ぎになった。新種の魔物を発見したのだ。名前を聞かれたので『ガルム』と教えてあげた。古い戦記には載っている魔物で、とっくに滅んだものと思われていたらしい。先ほどの魔石は10倍、頭の価格が大金貨1枚になってしまった。本体は、オークションに出す事にしたが、最低価格は大金貨20枚でも良いだろうとの事だった。あと、5頭もいるなどとは、口が裂けても言わないことにした。
この前のワイバーンは、大金貨7枚で落札されたそうだ。口座に入れておいてもらう。これで、口座残高97枚となった。
次に、3人でティファサンに行った。シェルに、何か欲しいものがないか聞いたら、エメラルドの指輪が欲しいと言う。店長が店の奥から、ミスリル製のトランクケースを出してきた。絶対に、足元と財布の中を見ているはずだ。シェルが選んだ物を買うことにした。誕生日プレゼントだ。
エーデルも何か欲しいという。無視しようとしたが、涙目を見たら可哀想に思ってしまい、エメラルドのイヤリングを買ってあげた。小さなエメラルドだったが、それでも金貨4枚だった。皆には内緒だと言ったのに、次の日、みんなの分を買いに来ることになってしまう事は、当然、未だ知らない僕だった。
その後、店長に、宝石の買取りをやっているかシェルに聞かせたところ、裏の店舗でやっているとのことだった。裏に行ってみると、貴金属、宝石買取りを専門にしている店舗だった。そこで、ダイヤの原石を8個、砂金40個位を出した。鑑定をしてもらうと、驚きの結果だった。
あの、こぶし大の原石、あの大きさの原石は、最近は全く採取できていないそうだ。最低価格でも大金貨100枚、その他の原石もかなりの大きさのため、全部で大金貨50枚で引き取るそうだ。え、そうすると合計大金貨150枚?砂金は、純度が高く、合計の重さも1キロちょっとあるので、金貨5枚と大銀貨9枚で引き取りたいとの事だった。大金貨150枚というと、重さが300キロだ。とても持ち運べない。ギルドの口座に振り込んでもらうことにした。
店を出てからもシェルは、まだ顔が赤かった。ドキドキしたらしい。これで、口座残高は大金貨247枚になった。もう口座残高を気にするのはやめよう。まあ、あの渓谷は誰も行けないから、非常時の金庫という事で放っておこう。下手に、ばれると、どこかの国とモンド王国が戦争になるかも知れない。さあ、今日は、屋敷に帰ることにしよう。
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クレスタは、驚きの連続だった。今日は、『クレスタ白薔薇会』メンバーの内、クルリら年長者5名を連れてダンジョンに潜っている。残りの5名は、自分達だけで、簡単なクエストに行くと言っていた。
『クレスタ白薔薇会』と言うのは、あの洞窟の仲間たちのパーティー名だ。最初は、『洞窟会』と付けようとしたら、大ヒンシュクを買ってしまい、この名前になったのだ。決して、クレスタが付けたわけではない。5名ずつ同時に入る時は、『クレスタ白薔薇会1』、『クレスタ白薔薇会2』とナンバーを付けて分けているそうだ。今日のクエストは、ダンジョンの攻略だ。パーティーランク『A』のクエストだ。今回、クレスタがいるから、受注できた。そんな事よりも、彼女達の実力だ。メンバー全員、『C』ランクだったはずなのに、戦い方が半端では無かった。全員が、魔法攻撃と物理攻撃の上級者並みの実力だ。
もともとは、冒険者パーティ-を追い出された魔導士やヒーラーが集まってできたチームの筈なのに、この剣技と魔法の実力、半端ではない。第8階層の階層ボスはサイクロプスだ。3人が、同時にファイア・ボールを打ち込む。しかも、頭を狙ってだ。
ドドドーーーン!
ほぼ、顔が無くなった。同時に2人が剣を下げて突っ込む。左右に分かれて、サイクロプスの脇を通り過ぎる時、アキレス腱を切断する。たまらず、前のめりに倒れるサイクロプス。首が、胴体と切り離されたのは、直ぐ後の事だった。いくら、ゴロタ君から買って貰ったミスリルソードが切れると言っても、切れすぎでしょ。聞けば『切断』スキルを持っている子が1人いて、いつもトドメはその子らしい。あ、そうですか。
第9階層のボスは、ワイバーン2匹だった。ウインド・カッターで、徹底して翼狙い。あれ、この子達、ファイア系を使ってたわよね、さっき。見ると、ミスリルソードの柄に嵌め込んだ魔石が光っている子がいる。成る程、自分の不得手魔法は魔石を利用しているのね。落ちて来たワイバーンにも、決して近づかない。毒攻撃があるからだ。今度は、ファイア攻撃。豪炎に包まれる。2匹を殲滅したのは10分後だった。もう、ほとんど炭だった。魔石を回収して最下層に向かう。
最下層、10階層ボスは、アイアン・ゴーレムだ。全員が剣を持って、左足首の関節だけを次々と攻撃している。
ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン
3回くらい繰り返したら、あのアイアン・ゴーレムの右足首が切断された。倒れたゴーレムなんて、くず鉄か石ころ並。でも、それからが凄い。1人がシールドを張って、残り4人で連続ファイア・ボール。真っ赤になって溶けてしまうまで続いた。見てて可哀想、ゴーレムが。その後、誰かがアクア・シャワーでゴーレムを冷やしていた。物凄い湯気。水蒸気爆発寸前だ。でもシールドで、皆、平気な顔。ドロップ品は、ミスリル・ランスだった。後は、魔石を回収して帰還石で帰ることにした。本日の売り上げは、金貨1枚半。もう、私は要らないわね。
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エーデルは、不満だった。あの石を見つけたのは私なのに、あの人ったら、お礼のキスをしてくれない。ああ、昨日までは、キスのし放題だったのに。あの草原のお風呂。あんな事した人って絶対に居ないわ。どんなに大声を上げたって、誰にも遠慮する事ないんだもん。
それに、満天の星を見ながらの二人だけの夜。なんて素敵だったんでしょう。もう一度、新婚旅行に行きたいな。あ、そうだ。父上に頼んで離婚させて貰うの。それで、直ぐに結婚すれば良いんだわ。それなら堂々と新婚旅行に行けるわ。
そうしよう。あ、いけない。新婚旅行の事を考えてたら。早く帰ってパンツ代えよっと。
とっても、とっても残念な新婚のお姫様でした。
とんでもない価値の原石です。大金貨150枚とは、日本円で15億円位です。




