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第153話 南の森を踏破します。

森の中でも、とてもエッチなエーデルでした。

(4月17日の夕方です。)

  もう周辺に魔物の気配はない。周りには、僕達以外誰もいない。少し開けた場所で、野営の準備をする。エーデルは、さっきから、指鉄砲の練習をしている。親指と人差し指を伸ばして、相手に向けて、


    「ズドン。」


  と口に出して言う。すると、赤い炎が指先から迸り、約30m位先にファイア・ボンブが炸裂する。段々と距離を伸ばしていく。最終的には、100m先に二丁指鉄砲で炸裂させていた。


  「ズドン、ズドン!」


  しかも、全く威力に変化が無い。チート過ぎる。僕は、呆れながらも夕食の準備をする。簡易竈を作り、大鍋に水を張って温める。今日は、煮込みパスタにする。スープと具が一遍に作れるので、簡単だし、味もそこそこ美味しい。具は、大根とキャベツそれにキノコの盛り合わせにする。コンソメ味に、少しバジリコを入れて香りをだす。大根を煮込むのに、暫く時間がかかるので、その間に、お風呂を作ることにした。周りに誰もいないので、気兼ねなく作れる。


  まず、四角いマスのバスタブを作る。二人用だが、ゆっくり足を延ばせるタイプの底の浅い細長い形にした。内面をツルツルにする。それから、地面より1段高くして洗い場を作る。


  表面に傾斜を持たせ、お湯が低い方に流れて行くようにする。後、適当な木の枝を持って来て、シャワー石をぶら下げられるようにした。シャワー石から、適温のお湯をだしてお風呂を張る。


  お湯が貼り終わるまでの間に、パスタを茹でておく。茹で具合は少し硬めのアルデンテだ。スープもいい感じに出来て来た。準備完了だ。後は、お茶用にお湯を沸かしておしまいだ。食器をテーブルに並べて、指鉄砲で遊んでいるエーデルに声を掛けた。


  「お風呂が先、それとも夕食が先?」


  うーん、少し役割が違うような気がするが、気にするのはやめよう。パスタが伸びるので、夕食を先にした。うん、賢明な判断です。パスタは、普通に美味しかった。デザートはリンゴと桃のコンポートにした。食事が終わって、洗い物をしている間にエーデルにお風呂に入るように言うと、一緒に入ると言う。まあ、そうだろうな。


  お風呂は、ちょうどよい湯加減だった。簡単に身体を洗う。僕が先にお風呂に入って足を延ばす。次にエーデルが入って来る。こちらを向いたまま、何とも言えないウフフ顔だ。


  エーデルは、お風呂から上がったら、バスタオルで、身体を良く拭いてから、そのままの恰好でテントに入って行く。パジャマ位着たらどうですか?僕は、エーデルが脱ぎ散らかした服を纏めて畳み、それを持ってテントに入って行く。


  翌日から、森の中を踏破していく。どれくらい日数がかかるか分からない。方向は、イフちゃんが森の上から教えてくれるので、迷う事は無い。必要ならば、イフちゃんと意識を共通化してイフちゃんの視界で下界を見ることもできるし。深い森だが、歩けないことは無い。ハッシュ村の森と同じ程度だ。ツタなどが邪魔しているところは、ウインド・カッターで切り開いていく。途中、珍しい薬草があったので、採取しておいた。エーデルは、後ろから暇そうにしてついて来る。面白くないみたいだ。


  しょうがないので、オンブすることにした。途端にニコニコし始めた。オンブして歩いても、大して苦にならないが、オッパイが背中に当たってモニュモニュしている。絶対、わざと動かしている動きだ。しかたがないので、放っておくことにした。さすがに、森の中を走る訳にはいかないので、ゆっくり警戒しながら進む。エーデルは、降りたがったが、絶対に降ろさない。狙いは、分かっている。時間が勿体なかった。これに懲りて、オンブも気を付けようと思った僕だった。


  昼食休憩と夕食休憩は、適当な場所が無かったので、森の動物には申し訳ないが、少しだけ、森を切り開いてスペースを作らせてもらった。木の切り株は土魔法で根ごと取り出し、火魔法で灰にしてしまった。これなら新しい芽も直ぐに生えてくるだろう。


  エーデルが、こんな森の中でも絶対にお風呂に入りたいと言うのだ。しかも昨日のタイプのお風呂を。目的は分かり過ぎる位分かっているが、別にお風呂が嫌ではないので、要望通りのお風呂を作ってあげた。ただ、樹の上から虫などが落ちてこないようにシールドを張ってからお風呂に入った。


  森の中を進むこと、1週間、漸く森を出ることが出来た。途中、遭遇したガルムを3匹、討伐して回収している。あと、鹿と猪を少し狩っておいた。森の先は、大渓谷になっていた。とりあえず、渓谷への降り口を探すが、見つけられない。イフちゃんにお願いして周囲を上空から見て貰う。僕も一緒に見ていると、降りられそうな場所が、ここから東へ1キロ位のところにあった。エーデルと共に、その地点まで移動した。そこだけ、なだらかな傾斜が下まで続いているのだった。エーデルにオンブが良いか、ザイルでつないで降りる方が良いか聞くと、珍しく自分の足で降りると言った。オンブは、きっと疲れるのだろう。ザイルをしっかりした岩に括り付け、エーデルの腰に巻く。なだらかな傾斜と思ったが、ところどころ急坂もあり、エーデルは苦労しながら降りて行った。僕は、滑落しないように、上からエーデルのザイルをしっかりと保持しながらゆっくりと降りて行った。


  僕達が、谷底に着いたのは、午後2時過ぎだった。谷底を流れる川は、急流で、ハッシュ村の谷川を思い出す。さて、これからどうしたら良いのだろうか。夢の中では、谷に行かなければと言っていたが、谷に来てからの事は、ちっとも夢に出て来なかった。


  僕が途方に暮れていると、エーデルは、河原で何かを探し始めた。暫くすると、何かを拾って、僕の方に走ってきた。何かと思ったら、綺麗な石を拾ったという。こぶし大位の石だ。ところどころに、ガラスのようなところがある。あれ、これって?僕は、一目見て分かった。金剛石つまりダイヤの原石だ。拾った周辺を探すと、有るわ有るわ、ゴロゴロしている。拾える分だけ拾っておいた。大きな岩をどかすともっと見つかるかも知れないのが、それは今度のお楽しみにしておく。それと、さっき河原の砂利場で、親指大の粒の砂金があるのを見つけていた。探せば、もっとあるはずだ。いや、この砂利を掬って攫うだけで、きっと大量の砂金が見つかるだろう。とりあえず、見える物だけ拾っておこう。二人で、一生懸命採掘していると、イフちゃんが警戒情報を念話で送ってきた。


  『ゴロタよ、何か来るぞ。』


  僕も気が付いた。凄い『気』だ。谷の向こうから近づいて来る。あ、不味い。空が燃え始めた。物凄い熱だ。


  エーデルを呼ぶ。僕とエーデルをスッポリとシールドして熱を遮断する。あたりの木々が燃え始めた。見上げると大きな鳥が近づいてくる。だが、普通の鳥では無い。燃えているのだ。その鳥は、僕の近くに舞い降りた。


  『そなたは、何者だ。ここで何をしておる。この谷は、死せる運命の者が来て良いところではないぞ。』


  念話だ。僕も念話で返事をする。念話ならコミュ障の症状はでないので安心だ。


  『僕は、ゴロタ。夢の中で来るように言われたので、ここまで来た。』


  『なに、夢とな。どのような夢だ。申して見よ。』


  僕は、夢の中で何度も聞いた呪文を述べた。


    『全能の王にして世界を救う者よ。目覚めの時は来た。南の谷を目指せ。』


    『全能の王にして世界を救う者よ。目覚めの時は来た。蘇りし雛を探せ。』


  『ふむ、それが誠なら、そちは紅の剣を持って居ろう。出して見よ。』


  僕は、エーデルをシールドの中に残したまま、シールドから出た。かなり熱いが我慢できないほどではない。冒険者服が発火しかけたが、水魔法で十分に湿らせて、発火を押さえている。ただ、もうもうと湯気が立ってきた。しかし、この鳥はでかい。高さ30m位はある。全体が炎で包まれているので、細かな所は分からないが、異国にいるという孔雀のような姿をしているようだ。頭には冠のようなものが見える。


  僕は、エーデルからかなり離れたことを確認して、紅の剣を出してみた。大剣の形にした。それを見ていた鳥は、少し、しゃがみ込んで紅の剣をジッと見ていた。そして、大きく羽を広げて、僕に恐ろしいことを言った。


  『僕よ。妾の首をその剣で切り落とすのだ。ためらってはならぬぞ。痛いから・・・・。』


  最後の『一言』は無視するとして、何故、何も攻撃をして来ないこの鳥を、殺さなければならないのか分からなかった。


  『そんなことはできない。あなたは、僕に何もしていない。』


  『ふむ、そうか。それなら、これでどうじゃ。』


  その鳥は、イフちゃんの『地獄の業火』や、黒龍の『炎のブレス』よりも高温の熱波を僕に浴びせかけた。これは熱い。たまらずにシールドを張る。しかし、シールド越しでも熱さを感じる。あ、不味い。シールドが破られた。このままでは、僕は一瞬で黒焦げの灰になってしまう。でも、まだ、この鳥を殺す気になれない。アイス・シールドを張る。すぐ溶けてしまった。アース・シールドを張る。ドロドロの溶岩になって溶けてしまった。ウインド・シールドを張る。熱波の上昇気流が強くて、ウインド・シールドは霧散してしまった。もう手が無い。


  諦めた僕は、無我の境地で、大剣に力を注ぐ。大剣が目も眩むほどに紅く光る。


  僕は、この鳥が何か理由があって、ああいうことを言ったのだろうと信じて、『斬撃』を飛ばした。炎を纏った鳥の首が、ポトリと落ちた。瞬間、轟炎が巻き上がり、大きな火柱となって鳥のいた場所の上空はるか彼方まで登って行った。その炎が消えた後、地面にチロチロと炎が燃え上がっていた。何と、その炎の中から、火に包まれた小さな鳥、いや雛が生まれてきたのだ。その雛は、僕を見ると、ヨチヨチと近づいて来た。これ以上近づくと、僕に火が燃え移るのではないかと思ったが、そんなことは無かった。ちっとも熱く無かった。その鳥は、僕にすり寄って、頭を僕の足に擦り付けている。可愛い。


  『私ねえ、朱雀なんだよ。南の守護神らしいんだ。生まれたばかりだから、名前は、まだ無いの。』


  『じゃあ、君は朱雀のスーちゃん。スーちゃんにしよう。」


  朱雀が、白く光ってすぐ消えた。僕は、予想がついたが、一応、彼女の言葉を聞くことにした。


  『わーい、ゴロタって、神獣を臣従させちゃうんだ。凄いねえ。』


  『ああ、『神獣』ってみんなこうなの』、と思う僕だった。

火の鳥、フェニックスは、火の中から生まれるそうです。そのためには一度、死ななければならないそうです。

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