第152話 南の谷手前の森に到着です。
エーデルとの新婚旅行は続きます。エーデルは、とってもエッチです。
(4月13日です。)
エーデルと二人だけの旅が続く。相変わらず、駅馬車の同乗者はいない。僕は、もう面倒臭くなってきた。嫌がれば嫌がる程、エーデルはしつこく迫って来る。もう、エーデルの求めるままにしてあげよう。僕の隣に座って、いろいろ触ってくる。くすぐったいので、逃げようとするのだが、狭い馬車の中、逃げ場所が無い。もう、じっと我慢している僕だった。
それはそうとして、この前の村から、ずっと野営が続いている。もう、寒いので野営用のお風呂は無理だ。洗濯石で身体を綺麗にするしかない。テントの中で洗濯石を使うのだが、またまたエーデルが我儘を言い始めた。背中を綺麗にしてくれと言うのだ。洗濯石は、簡易的なもので、身体全てを綺麗にするための物ではない。しかし、しょうがないので、テントの中に入って、洗濯石に魔力を流しながら、背中をこする。特に汚れていないのだが、より綺麗になった気がする。エーデルが変な声を出している。
3日後、4月16日の午後、南の森の手前の村に到着した。本当に最果ての村だ。総戸数50戸位か。ここから先は、人間の領域ではないそうだ。馬車は、僕達を降ろしてから直ぐに引き返した。次の馬車は未定だ。北に帰りたければ、今のような馬車を待たなければならないそうだ。でも、僕達には関係ない話だった。今日は、この村の民宿に泊まることにした。食事は無いそうだ。いつ客が来るか分からないので、食事の準備はしないそうだ。当然、ここには注文を聞く食堂も無い。
僕達は、部屋に入ってから、簡単な作り置きの食事をイフクロークから取り出して食べた。簡易コンロでお茶だけは沸かす。シャワーがあったので、身体を流すことにした。ありがたいことにお湯が出た。エーデル姫も、さすがに疲れて来たのか、素直にシャワーを浴びていた。食事とシャワーが終わったら何もやることが無い。散歩でもしようという事になり、ブラブラ村を南に向かって歩いて行った。眼前には、6000m級の大南極山脈がそびえたっている。それぞれの山には、名前が付いているみたいだが、多すぎて覚えきれない。もう頂上付近は、真っ白だ。聞くと、1年中、雪を冠っているそうだ。
山の上をワイバーンが飛び回っている。時々、急降下しているのは、何か餌を見つけたのだろう。エーデル姫には遠すぎて見えないようだ。これからの冬場は餌が少なくなるので、村を襲ってくるそうだ。その時のために、レンガ作りの避難小屋があった。最近は、冬も少し温かくなってきたので、あまり襲ってこなくなったそうだ。あと、森の中には、6本脚の魔物がいるようだ。この村のしきたりでは、どうしても、魔物から逃げられない時には、年寄りが囮になるそうだ。道理で、村に老人が少ないわけだ。50人位の集落なら、10人位は老人がいるはずだが、3人しかいなかった。
宿の主の話では、森の入口まで、大人の足で3日位かかるそうだ。それから森の向こうにあると言われている谷まで、どれくらいかかるのか誰も知らないそうだ。この村で入手する物も特にないので、宿まで戻ることにした。小さな魔人の子が、珍しそうに僕達を見ていた。
僕達は宿で、まったりしていた。エーデルは、既に服を脱いでいた。あの、ネグリジェ着ませんか。もう、二人だけの時は、服を着ないのが標準になってしまったようだ。まあ、シールドを掛けているから、寒くは無いけど。エーデルとまったりしていると、急に、外から鐘の音がしてきた。僕は、直ぐに『ヒゼンの刀』を背中に背負う。エーデルもテキパキと冒険者服を着て、アダマンタイトの防具を装備する。腰には『百刺しの剣』を下げていた。
階下に降りると、宿の主人が、『魔物が襲ってきた。それも3匹も。』と言ってきた。早く、避難所に逃げなければと言っていたが、僕達の冒険者服姿を見て、息を飲み込んだ。宿の主人は、僕達に構わずに避難所に走り込もうとした。その瞬間、上から飛び降りて来た巨大な犬に頭を食いちぎられてしまった。首から吹き出す鮮血も一瞬で無くなってしまっていた。
その犬は5m以上あり、胸が燃えるような赤に光っている。一番、特徴的なのは、その前足て4本あり、後ろ脚を入れると計6本の足となる。
この魔物は、初めて見る魔物だ。死んだ主人が3匹いると言っていたが、あと2匹はどこにいるんだろうか。遠くで、子供の悲鳴が聞こえた。不味い。イフちゃんを飛ばす。遠くの民家の陰から、火柱が上がる。イフちゃんの『地獄の業火』だ。
『キャイ―――――ン』
犬の悲鳴が聞こえたが、断末魔ではなさそうだ。火魔法の耐性がありそうだ。僕は、『ヒゼンの刀』を抜き、気を込める。僕は、魔物に向かって走り出す。『瞬動』で、間合いに入った。ヒゼンの刀を横に払った。
ズバン!!
魔物の前足1本を切り飛ばした。しかし、あと残り5本があるので、体勢が崩れない。僕が、魔物から離れたと同時に、その顔の直前で小爆発が起きた。エーデルのファイア・ボンブだ。随分威力を抑えている。
全く効いていない。ファイア・ボンブの少しだけ強力版を眼前で破裂させる。魔物は、少しだけ嫌がっていたが、全く意に介さない様子だ。
口を大きく上げた。黒の霧のようなものが吹き出て来る。瘴気だ。あの大きさだ。下手をすると、村全体が全滅だ。
エーデルが、『百刺し』を放った。赤色のレイピアが、すさまじい数になって魔物を刺しつくす。刺した跡から、緑色の血が噴き出て来る。それを巧みにかわして、正面から『貫通』を放った。口から喉に掛けて、レイピアの光が差しぬいて行く。最後は、腰から外に出て行った。魔物は崩れ落ちてしまった。
僕は、悲鳴のあった方に走った。そこには、2匹の魔物がいた。1匹の口には、子供の下半身が加えられている。上半身は、腹の中か。
イフちゃんが女の子の姿で、壁際に立っている。その後ろには、6歳位の子供が2人、うずくまっていた。
イフちゃんの指先には炎が見える。おそらく、極大が使えないので、ピンポイントで『地獄の業火』を使ったのだろう。しかし、威力が弱かったのか、魔物にダメージはあまりなさそうだ。
僕は、剣を納め、指鉄砲を魔物に向けた。狙いは、頭蓋骨の中の脳だ。
「ズドン」
小さな声を出して、指先から力が飛び出すのをイメージする。目には見えない。その力が、魔物の脳内で小爆発を起こすのをイメージする。魔物が白眼を向いて膝を折った。外傷なしで、倒した。
追いついたエーデルが、レイピアを魔物に向けて、一言、
「ファイア・ボンブ」
魔物の肺の中で、小爆発が起きた。口と鼻から黒煙が噴き出す。全ての魔物を殲滅した。イフちゃんの最初の火柱は、魔物に向けたのではなく、魔物の注意をひくためにド派手にやらかしたらしい。
ナイスだ、イフちゃん。食べられた子供は可哀そうだがしょうがない。僕達がいなければ、全員、食べられていただろう。
村長が、避難小屋から出て来た。この魔物は、『ガルム』と言って、最近、森に住み着いているそうだ。いつもは、1頭だけなので、最悪1人の囮で被害を防止できるのだが、一度に3匹では、対処しようがなかったそうだ。
いや、囮を食わせるって、対処とは言わない。とりあえず、2人の子供と、残った下半身を渡して、僕達は魔物の処理に当たった。
綺麗な2匹は、そのままイフクロークに仕舞い、宿の近くの1匹は、魔石を回収した。毛皮の価値は分からないが、犬の仲間なら大した価値にならないだろうと放置することにした。
村長さんが、この魔物の死骸を貰っても良いかと言うので、どうするのか聞いたら、結構おいしいらしい。まあ、ずっと東には、犬を食べる種族もいると言うから、食べられるのだろうが、僕達はいらなかった。
僕達は主人の居なくなった宿屋に戻った。女将さんが、夫の首なし死体を前に泣き崩れている。この日、セレモニーは無かった。
翌朝、銀貨3枚を置いて宿を出た。少し多いが、葬い料だ。森まで、3日と言っていたが、エーデルをおんぶ紐で背負って走る事にした。剣は、イフクロークに仕舞う。ビュンビュン走る。しばらく走ったらエーデルが、『止めて。』と言った。振動が、身体を刺激するらしい。
しかし、それでは森の入り口まで、1日では着かない。我慢してもらうしかないが、とりあえず一休みする。僕は汗一つかいていない。
試しにお姫様抱っこで走ってみたが、前の足元が見えないので、どうしても速度は落ちてしまう。それに背中に回した手の先がオッパイに当たり、やはり感じてしまうようだ。お昼休憩の後は、オンブ紐で背負って走ることにした。最初は、振動をあまり与えないようにゆっくり歩いた。その内、昼食の満腹感と心地よい振動で、眠ってしまったようだ。僕は、速度を徐々に上げる。
エーデルが寝ている間に距離を稼ぎたい。午後3時、森が地平線の向こうに見えて来た。あと少しだ。僕は、休みなしに走り続けた。スキルの『持久力』を使う。エーデルの体重位では、『体力強化』は、必要無い。
午後4時、森の入り口に到着した。森からは、魔物特有の匂い、獣と血と腐臭の混じった匂いがしてくる。近い。イフちゃんに、探査をお願いする。エーデルを背中から降ろす。エーデルは、口の周りの涎を拭いながら、
「着いたの?」
「魔物がいる。今、イフちゃんが探索している。」
エーデルは、直ぐに装備を整えた。この森の魔物と言うと、昨日のガルムかも知れない。近づいて来るのが気配で分かる。イフちゃんから念話が飛んでくる。
『気を付けろ。昨日の奴だ。』
イフちゃんは、森の中で『地獄の業火』を使っては、不味いことになることを知っているので、情報提供だけに徹していた。僕は、昨日の脳を壊すやり方をやろうと身構えていた。森の奥から、赤く光る二つの目が見えた。奴だ。
「ズドン」
指鉄砲がさく裂した。ガルムを傷一つ無い状態で倒した。これは美味しい。もっと出ないかと期待してしまう僕だった。
新種の魔物、高く売れればいいですね。