第149話 入学試験が大変です。
別荘を建てるなんて、贅沢すぎます。
(3月8日です。)
今日は、ハッシュ村の別荘建築の地鎮祭だ。朝から、皆で、ハッシュ村に行く。グレーテル市の屋敷は、シールドを掛けて、誰も入れないようにしたので、誰も居なくても安心だ。セバスさん達使用人やイチローさん達警備の人もすべてハッシュ村に行く。ハッシュ村から、村長やシスターそれに衛士のおじさんも招待する。村長さんは、内々で、僕が領主になるという事を聞いているらしく、しきりに挨拶してきたが、シェルにいつものようにしてくださいとお願いして貰った。村長さん達に対しては、セバスさん達に対するのと同じ位には、会話できるようになった僕だった。
フランシスカさんが神官服を着ている。フミさんもレミイさんもシスター服だ。フミさんが綺麗に見えるのは、シスター服のせいだろう。地鎮祭のやり方は宗派によって違うのだろうが、どの宗派でも行っている。結婚式、お葬式、地鎮祭、安全祈願、子供の安産と成長の祈願、災厄除去といろんな理由を付けて、神事を執り行う。それが教会の収入になるのだから当然と言えば当然だ。
フランシスカさんは、宝杖を持って、四角く張った縄の四隅を掘り、そのたびにブツブツ何かを言っている。僕とシェルさんが、二人で鍬を持って、盛り上げていた土を崩す。その後、ワインを地面に垂らし、パンを投げ、最後にニワトリの首を落とした。実際にナイフでニワトリの首を落としたのは、イチローさんだった。その血を地面に撒いて終わりだ。奇跡も何も起きないが、これで工事の安全をお祈りしたわけだ。
それからは、皆で食事会になった。僕は、この日のために狩っておいた鹿と猪を金串に差して、バーベキューにした。お酒も樽で買っておいたのを開けた。いつの間にか、村の人達も集まり、物凄い人数になっていた。誰かが、ご領主様と叫んでいたが、無視することにした。その事を知らない人達がキョトンとしていた。本当に村長は、お喋りだった。
宴会も終わり、僕達は、家の中のゲートからバンブーさんの事務所に帰った。酔った村人が、そのまま王都に来ても嫌だったので、直ぐにゲートを閉めてしまった。
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3月10日、今日はフランシスカさんとシズさんの高校入学試験の日だ。フランシスカさんは、魔法学院、シズさんは騎士学校だ。二人は、朝から、落ち着かない。まあ、当然だろう。
フランシスカさんは、午前中、一般教養と魔法基礎概論の試験だった。7歳のころから、婆やに厳しく教え込まれていたので、全く問題なく解答できたようだ。学科は自信があったみたいだった。問題は、午後の実技だ。攻撃魔法は全く習得していない。『聖』魔法でアンデッドに攻撃できても試験課題には絶対に出ない。『光』魔法も適性があるが、一体どんな魔法なのか皆目見当もつかない。
試験課題は、魔力測定人形に攻撃魔法をぶつけることだった。『火』魔法や『風』魔法のグループに分かれていたが、フランシスカさんの『光』魔法のグループは当然に無かった。僕が、暗闇で『ライティング』という魔法を使っていたのを覚えていたみたいで、試しに『火』魔法グループで使ってみることにした。
やり方が良く分からないままに、フランシスカさんの番になった。光、光、光と頭の中で光をイメージした。もっと強力な光をイメージしなければ攻撃できない。光、光、光、フランシスカさんの頭の中は光だらけになった。ゆっくりと手を挙げて、
『ライティング』
ピカッ! ドガガガガ-ン!
屋外修練場の地面が半径50m程、無くなってしまった。大きな穴が開いている。中を覗くと、底の方にマグマがグツグツになっていた。この日の入学試験は、中止になった。まだ、実技をしていない受験生たちは、学科の成績発表後に、合格基準該当者のみに実施することになった。何て迷惑なフランシスカさんだ。
騎士学院を受験しているシズさんは、この学校は、アホしか受験しないのかと思っていた。受験生の殆どは男子で、しかも脳筋男ばかり。午前中の学科試験では、寝ている奴や弁当を食べている奴もいた。解答用紙を見ているだけで、眠ってしまうのは未だ可愛い方だ。試験官の先生に問題を読んで貰おうとしたアホ受験生には、呆れる以前に可哀そうになってしまった。
女性の受験生も自慢なのは胸の大きさなのか、周りの男どもに色目を使っているのがいる。そうかと思うと、男は眼中にないとばかりに、椅子に手を当てて腰を浮かせ、フルフルしている残念女子もいた。シズさんは、深いため息を付いてしまった。午後は、実技だ。剣道場で、木刀を使っての打ち合いだ。分厚い防具を付けているから、怪我はしないみたいだが、これでは実力が発揮できない。
試験は、1対1の勝ち抜き戦だ。何人勝ち抜くことが出来るかで、成績が決まるらしい。シズさんの番が来るまでに最高成績は3人抜きだ。さすがに4人目になるとスタミナが切れてしまうみたいだった。シズさんの番が来た。相手は、女子が出てきたので大喜びだ。もう勝った気でいる。
シズさんは、木刀を静かに構える。相手の様子を全体的に見ている。足さばき、腕の筋肉の動き、目線。全てを見ていると、いつどうやって攻撃してくるのかがはっきり分かる。少しの動きに応じて、打ち込みを返す。最初相手には面を決めてやった。相手は気を失ってしまう。次の相手には、小手だ。腕が折れたみたいだ。胴を打つと、防具が割れてしまった。あれ、この子たちはふざけているのかな。自分の方から、此処を打ってくれと隙を見せてくれるし、打ち込みに全く反応しないで、黙って撃たれている。女子だと思って、馬鹿にしているのかな?
あれ、これで何人目だったけ。まあ、いいや。この学校には入らない。こんなバカ学校に入ったら、こっちまで馬鹿になってしまう。あれ、相手がいなくなった。試験は終わってしまったみたい。シズさんは、騎士学校始まって以来の勝ち抜き記録を樹立したが、負傷者多数で、『疾風の殺人鬼』という不名誉な二つ名を入学前に貰ってしまった。
フランシスカさんは、婆やのフミさんに叱られていた。魔法学院には入学したくないと駄々をこねているのだ。理由は、これ以上あんな魔法を使ってしまったら、学校が無くなってしまう。『やっぱり、婆やからお勉強を習った方が良いと思う。』という訳の分からない理由だった。フミさんは、フランシスカさんが、毎朝、早く起きるのが嫌で、駄々をこねていることくらいお見通しだった。
シズさんも、騎士学校には行きたくなかった。武道は好きだし、楽しいから良いのだが、あのアホ共と一緒に勉強するのが嫌だった。あんなアホ共が王宮騎士になるんだったら、自分はならなくても良いと思っていた。
シェルさんは、シズさんの話を黙って聞いてから、『好きにしたら良い。』と言ってくれた。ああ、シェルさん、本当に優しいお姉さんだと思う。あの人なら、ゴロタさんを譲っても仕方ないと思っていたシズさんだった。
夜、魔法学院と騎士学院の校長先生が屋敷を訪れて来た。フランシスカさんとシズさんの事だった。2人とも、『当校の1年生入学は無理だ。』と言われた。え、無理? 何故? そう思う皆だったが、その後の言葉に、もっと驚いた。二人とも、高校3年生として転入して貰う。そして、それぞれに王宮魔導士団と王宮騎士団に在籍して貰いたいとの事だった。それって、職場研修のようなものなんですか。フランシスカさん達2人は、丁寧にお断りした。就職する気はさらさら無いからだ。2人とも、これで入学辞退の理由ができたと内心喜んでいた。
諦めきれない校長先生達は、それでは就職しなくても良いから、3年生に飛び級入学して貰いたいと言ってきた。フランシスカさんは、婆やのフミさんに説得されて、入学することにした。シズさんは、女性を集めてクラスを作り、そのクラスになら入学しても良いと言った。あの股間モッコリのアホ男に比べれば、まだ女性騎士の方がまともに思えたからだ。
そういえば、ビラも高校卒業だそうだ。僕とシェルは、卒業式には、保護者として参加しなければいけないと思う。しかし、保護者が生徒より年下というのも気がひけるが、シェルは何も考えずにドレスを買いに行くそうだ。
卒業後の進路は、大学に入学することになっている。うん、それが良い。大卒の魔導士は引手数多だ。一流商店だって王立魔導士団だって、希望さえすれば、ほぼ就職出来る。でも、それ以外となると、よく分からなかった。後は、自分の気持ち次第だ。
シズさんの通ってる中学校の卒業式が20日にあった。大勢の保護者に囲まれて、僕が席に座っていた。隣には、勿論ダッシュさんだ。
周囲からは、どうして子供が保護者席にいるのかと思われていたが、最近、皆の目線を集めるのに慣れてしまったので平気だった。ダッシュさんは、ずっと泣きっぱなしだった。この街には、こんなに中学生がいたのかと思うほど、たくさんの生徒達がいた。女生徒達は、皆、ミニスカセーラー服だった。壇上に上がって、ペコリと校長先生に礼をするとき、パンツが見える生徒さん達が半分はいた。これって、何かのショーですか?
今日は、屋敷でシズさんの中学校卒業パーティーを計画している。もう、騎士学校の制服が届いているが、シズさんが言うには、ダサいそうだ。でも、ダッシュさんのために今日、皆に披露するそうだ。
僕は、シズさんに卒業及び入学祝いに、ガチンコさん作のミスリルソードをプレゼントするつもりだ。ダッシュさんのものでも良かったのだが、シズさんに父親の作刀の素晴らしさを知るためにも、当代1と言われるダッシュさんの師匠のガチンコさんの剣を使って貰おうと思っていた。そうすれば、匠として遜色ないダッシュさんの実力が分かるだろう。鞘にはワイバーンの革を巻き、柄には水竜の皮を使っている。刃体は長さ85センチの両刃で、シズさんには少し長いかも知れないが、使いこなせれば一流の剣士と言われるだろう。
僕が、シズさんのいないところで振って見たが、長さと重さを感じない素晴らしいバランスだった。通常のミスリルソードよりも、魔力や気力の耐性を強くしていると言っていたが、どこが違うのか良く分からなかった。柄には、1個の魔石を嵌め込むスロットがあった。お好みの石を嵌めれば良いが、自分の魔法適性と同じ属性の石を嵌めるのが一般的だ。
夜、パーティーが始まった。フランシスカさんは魔法学院の制服を着ていたが、以前、ノエルが着ていた、見慣れたブレザータイプの制服だ。スカートも膝までの長さなので、却って新鮮な感じがする。シズさんの制服を見て、皆、シーンとしてしまった。何というか、まあレトロな感じである。
色は紺色。上着は、衿なしの長袖ダブルで、まんま事務服である。その下に丸襟付きのブラウスを着て、水色の細いリボンを付けるそうだ。スカートは、3本の折り返しが付いたボックスで、膝下までのキュロットスカート。後、同色のズボンも有るそうだ。今から50年前のセンスだ。そのため、女子学生は、運動服で通学するのが一般的らしい。これは、絶対に校長先生とスターバ将軍に意見しなくてはならない。
シズさんが、涙目になっている。そこで僕が、ミスリルソードをプレゼントした。ダッシュさんが目の色を変えて、品定めをしている。すぐにガチンコ師匠の作刀だと分かったみたいだ。ダッシュさんも泣かないでください。シズさんへのプレゼントですから。
フランシスカさんが、いつものように泣き出した。本泣きだ。フランシスカさんのプレゼントがないからだ。最初はプレゼントしようと思っていたが、適当なプレゼントが思いつかなかったのだ。僕は、フランシスカの肩をそっと抱いて、『必ず買ってやるから、今は我慢して。』とお願いした。5分位そうしていたら、漸く泣き止んだ。今度は、エーデルが嘘泣きを始めた。
騎士学院、残念なのかも知れません。