第145話 南の谷を目指します。
二人は南の谷を目指すのですが、なかなか行き着けません。
『全能の王にして世界を救う者よ。目覚めの時は来た。南の谷を目指せ。』
『全能の王にして世界を救う者よ。目覚めの時は来た。蘇りし雛を探せ。』
(1月10日です。)
僕達は、南の谷を目指すことにした。デビちゃんが一緒に行くと泣いていたが、それは絶対に無理なので、諦めて貰った。僕がギュッと肩を抱いていると、いつの間にか泣き止んでいた。
クレスタは、不思議だった。フランシスカの時もそうだった。シズの時もそうだった。僕のあの行為に、何か、特別のものがあるのだろうか。今度、やって貰おうっと。
駅馬車は、南の谷の手前の森までだった。途中、北側からデッセン伯爵領とデゴマ男爵領そしてデビタリア辺境伯領と3つの領都を経由する。辺境伯領の領都まで、1か月以上かかるし、夏の嵐のため欠便になることも多く、旅行予定が立たないらしい。それから、南の森に向かう駅馬車は、完全に不定期チャーター便だが、馬車の余裕があるときのみ運行するそうだ。
仕方が無いので、王都デル・モンド市の郊外に出てから、二人は飛行服に着替えた。僕は、茶色の市販の飛行服だ。クレスタは、黒色の特注飛行服だ。両脇に真っ赤なラインが入っているのがオシャレらしい。
『いでよ、ワイちゃん。』
念話で、ワイちゃんを呼びだす。ワイちゃんが人間の女の子の姿で出現する。勿論、素っ裸だ。この辺は、夏でも涼しいので、素っ裸では寒いと思うのだが、体内に炎を宿している黒龍族には、気温の差は感じないらしい。
まあ、6歳の幼児の身体には何も感じないが、黒龍の姿に変身して貰う。二人乗りの鞍を装備して。デビタリア辺境伯の領都を目指すことにする。高度3000m位で飛行すると、地上の人達には、ワイバーンか黒龍かの見分けは付かない。ただ、飛行機雲が伸びているのが見えるだけだった。
高度3000mの外気温は、極地が近いためマイナス20度位だろうか。ワイちゃんの翼に見る見る霜が付いて来る。しかし、頭の周りは平気そうだ。熱い息が、結霜を防いでいるのだ。翼にいくら結霜しても、翼幕さえ無事なら飛ぶのに支障はない。龍族は、翼で飛ぶのではなく、魔力もしくは秘めた力で飛ぶらしい。翼は、飛行中の機動と補助の役目らしい。
僕達は、周りをシールドしているので、平気だ。後ろに座っているクレスタが、僕にちょっかいを掛けて来るが、放っておいた。
街道に沿って飛行する。村々や町、そして都市が眼下に見えて来る。デッセン伯爵領とデゴマ男爵領を通過し、いよいよデビタリア辺境伯領の領都手前に到着した。
人目の付かないところで降下して貰い、ワイちゃんには帰って貰った。あ、イノシシ1匹をお土産に渡しておくのを忘れなかった。
暑くはないので、飛行服のまま、辺境伯領領都デビタリア市に入城した。僕達の所持している旅行時身分証明書にはデザイア伯爵の『添え書き』と、国王陛下の『勅書』があったので、無条件で入城できた。入城管理事務所の方が、辺境伯領にお会いなさる予定を聞かれたので、特に無いと答えたら、いつものように高級ホテルを紹介された。ホテルまで、馬車で30分位だったが、まだ陽が高かったので、ゆっくり歩いて行くことにした。街の中心までの道は、よく整備されていた。
途中、大広場の真ん中で、不思議なものを見た。地面に氷魔法で大きな氷が張られており、その上を金属の刃の付いた靴で滑っているのだ。面白そうだったので、クレスタと2人で遊ぶことにした。貸靴は、近くの靴屋さんで扱っており、1時間で大銅貨2枚だった。二人で、恐る恐る氷の上に乗る。クレスタが、僕にしがみついて来るが、僕だって、立っていられない。二人で派手に転んでしまった。
近くの男性が、滑り方のコツを教えてくれた。まず、靴の刃をハの字にして、ちょっとずつ歩く。慣れて来ると、片足を前に出すというか、反対の足を後ろに蹴って、前に出した足に体重を乗せる。スピードが落ちたら反対の足で同じようにする。
ちょっと、練習するので、クレスタには、端の止まり木に捕まってもらい、見ていて貰った。10分も練習したら、コツがつかめてきた。蹴りを強くする。1回の蹴りで10m以上進む。細かく蹴り続けると、恐ろしいほどのスピードが出る。重心を傾けて蹴ると、傾けた方に曲がる。
ドンドン周回していると、係の人に注意された。早すぎるので、もっとスピードを落とすようにだ。止る時は、刃を横にして氷を削ると止まれるらしい。僕もやってみると、派手に氷が削れて、前にいる人にかかってしまった。しきりに頭を下げて謝った。クレスタの所に戻って、クレスタの右手を取る。クレスタは、靴の刃を平行にそろえているだけだ。僕が引っ張ってあげる。ドンドン、引っ張る。速度が上がって行く。曲がり角だ。僕は、極端に身体を傾けて、高速で曲がる。クレスタが外に飛び出そうとするのを、片手で抑える。クレスタが泣き出した。怖いらしい。僕が、急停止で止り、クレスタも止めてあげる。クレスタが、僕の胸を叩きながら泣き続けた。
「ごめん。クレスタ。やり過ぎた。」
「あなたのバカ、知らない。」
うん、新婚さんだった。僕は、この遊びがとても気に入った。あとは、二人でゆっくり滑った。クレスタの胸が左腕に当たって揺れている。止まり木で、休んでいると、ピタッとした上下服を着ている巨人族の男の人が声を掛けて来た。あまりにもピタッとしているので、股間のモッコリが目立っている。見ていて、少し恥ずかしい。僕の滑りを見ていて、勝負をしたいと言う。お金は掛けないが、勝負をすることにした。
スタートラインに立った時、氷上の人達は、皆、端に避けていた。どうやら僕の相手は、この競技では有名な人で、ブラックロックさんという名前だと聞いた。勝負は、3周。楕円のラインの内側に入ってはいけないそうだ。本来は、1周ごとに内側と外側のコースを入れ替えるらしいが、そこまでの厳格な勝負ではないので、自由に滑ることにした。
プッ、プッ、プッ、プー
スタートの合図だ。僕は、相手のスタートを見た。つま先立ちから、とにかく細かく足を出して加速していく。僕は出遅れたが、心配していない。大きく左足を前に出した。グンと加速する。3歩で最大速度だ。その速度のまま、左コーナーに入る。僕は、氷面に頭が付きそうな位まで傾けて、左手で氷面を滑らしながら曲がって行く。コーナー出口でフル加速だ。次のコーナーまでに相手を追い抜く。そのまま左コーナーに突入だ。コーナー途中、蹴りを入れて加速すると飛び出しそうになるので、頭を氷面にこすりながら曲がって行く。それでも、コーナー出口では、アウト一杯だ。途中、僕は飛行眼鏡をかけた。風が当たって目が痛くなるからだ。
僕が3周する間に、もう一度相手を抜いてしまった。見物の人達から大きな拍手が起きた。どうやら、この国の記録を大幅に破ったらしい。ブラックロック選手が、近づいてきて握手を求めて来た。うん、悪い人ではなさそうだ。でも、少し体力が足りないのかも知れない。
クレスタが呆れていた。あまりにもチートだと言っていたが、それが何のことか分からなかった。喉が渇いたので、温かいココアを飲んだ。美味い。この辺では、採れない北の方のカカオの実をふんだんに使っているので、濃厚だ。
それから、武器屋を覗いたが、大した武器は無かったので、ホテルにチェックインすることにした。ダブルの部屋を予約しようとしたら、同じ料金でキングサイズダブルがあるというので、それにして貰った。通常のダブルの1.5倍の広さだ。
部屋に入ると、クレスタがキスを求めて来た。そういえば、昨日まで、ずっとデビちゃんが一緒だったから、二人っきりは久しぶりだ。長いキスをしていると、ドアがノックされた。誰かと思って、僕がドアを開けると、さっきのブラックロック選手だ。今は、普通の恰好をしている。何か相談したいことがあるらしい。ホテルのロビーで、お茶を飲みながら話を聞く。彼は、ここデビタリア辺境伯領のスピードスケートチームの選手だそうだ。先ほど勝負した競技は、『スピードスケート』というらしい。
明日、南部3領の対抗試合があるらしいのだ。競技は5人の選手の勝敗数で決まるらしい。男3名、女2名のチーム戦だ。しかし、昨日、男子選手の1名が練習中怪我をしてしまい、現在、4名しか選手がいないので、参加して貰えないかという事だった。僕はこの国の人間ではないし、ましてやデビタリア市民でもないが、『それでもいいですか。』と聞いたら、優秀な選手を他国から招聘するのは普通の事らしい。要は勝てば良いらしいのだ。
僕は、特に断る理由も無いので、承諾すると、チームのメンバーと明日の必勝祈念パーティーをしているので、来てほしいとの事だった。クレスタと一緒に行ったら、食べ放題、飲み放題の焼肉屋さんだった。そういうところは、どこの国でも一緒なのだな、と思てしまう。メンバーは、全員巨人族だった。女性も、クレスタと同じ位か、もう少し大きいようだ。一人、超絶美女がいた。ブリッジブックさんという名前らしい。髪は黒いが、面影がクレスタの感じに似ている。目元や鼻の形がよく似ているのだ。身長は、クレスタと同じくらいなので、170センチを少し上回っているかも知れない。
皆で、乾杯した。男の選手達は、クレスタを取り囲んでいる。僕の両隣には、ブリッジブックさんともう一人の赤毛の子が座って、話しかけてきた。赤毛の女の子も可愛らしい顔をしている。その内、お酒が回って来たのか、2人でしきりに僕を触り始める。大きな女性に挟まれている子供という感じだ。クレスタさんが警戒の目を向けて来た。ブリッジブックさんの右手が、僕の股間を触り始めたとき、クレスタさんが立ち上がって、帰ることにした。良かった。無事、帰れる。
どこに行っても、触られまくるゴロタでした。