第139話 王都デル・モンド市への旅
この時代、冬の旅は命がけです。エサの無い季節、魔物も襲ってきます。だから、皆、夏の間に旅行をするようにしています。
(12月3日です。)
王都への出発が遅れた。警護の騎士達の準備が間に合わなかったのである。本当は警護など要らないのだが、伯爵の体面上、警護が居ないわけにはいかないようだ。
王国の決まりで、伯爵が移動する場合には、騎乗した騎士50騎が警護に当たらなければならない。50人分の人馬の糧食だけでも馬鹿にできない。街道沿いには、それなりの宿が準備されているが、夜営となると1泊で、その日の昼と夜、翌日の朝食と昼食と4食分の食料を携行しなければならない。
王都に着くのは、聖夜の頃だ。伯爵達は、そのまま王都の伯爵邸で秋になるまで滞在するそうだ。僕達は、まだ何も決めていない。王都から南がどうなっているのか、分からないからだ。伯爵専用馬車は、8頭立ての6人乗り馬車だった。婆やさんと執事さんが同乗して来た。婆やさんは、デジャヴさんと言って30歳位の髪の長い美人さんだった。執事さんは、デランさんと言う60歳位の白髪の人だった。
旅が始まった。クレスタさんは、なぜか黒の飛行服を着ていた。まあ、涼しいから良いですけど、飛行眼鏡は要らないと思うのですが。そういえば、昨日、物凄い量の洋服を買っていたみたいだった。まあ、ファッションとしての飛行服もカッコいいかも知れない。事実、デジャヴさんとデビちゃんが、色々飛行服について聞いていた。昼食休憩になって、僕が野営用セットを出したので伯爵達は吃驚していた。最近は、イフちゃんは外に出てこない。僕が、外から次元の狭間を切り開いて、イフちゃんに奥から取って来て貰う。殆どクロークだ。これから、『イフクローク』と呼ぼう。婆やさんが、何もない空間から物が出てくるのを見て、泡を吹いて気絶してしまった。
皆をテーブルに座らせてからシールドで覆い、冷却石を使って少し冷やした。極地に近いとは言え、陽射しが強いので、少し暑かったのだ。今日のメニューは、ホテルで準備してもらったお弁当を、オーブンで温めたものと、固形スープを戻したもの。それと、フワフワのカニの形のパンだ。クロワッサンと言うそうだ。グレーテル王国にはないパンだ。溶かしバターとラズベリージャムで食べると絶品だった。食後のお茶を入れて飲む段になって、漸く婆やさんが正気に戻って手伝ってくれた。執事さんは、生きていて良かったと泣いている。僕は、何に感動しているのか、分からなかった。
その日の夜は、野営だった。僕は、6人用のテント2つと僕達用のテントを出して、セッティングした。初夏とは言え、夜は、10度位まで冷え込む。やはり、極地に近いせいだろう。夕食には、警護隊長と将校の方達を招待したので、テーブルを2つ出した。今日のメニューは、ピリ辛ソイスープと鴨肉のロースト、グリーンサラダにブドウと梨をトッピング、サーモンのバター焼きにした。ワインも出してあげた。カーマン王国のワインは、こちらにはない風味と味わいがあるみたいで、是非輸入したいと伯爵が言っていたが、クレスタが、もっと上等のもあるので、向こうに行ってから決めれば良いと言っていた。
夜、寝る時には、当然、皆のテントにシールドを掛けてあげたので寒いことは無かったろう。テントの部屋割りだが、伯爵はデビちゃんと一緒に寝たがったが、デビちゃんが『絶対に嫌。』と言って、デジャヴさんと寝た。デジャヴさんは、ホッとした顔をしていた。
僕達は、一つの寝袋で一緒に寝た。クレスタが、名前を呼んで欲しいと言ってきた。僕は、クレスタの名前を呼んだ。
「クレスタ。」
「なあに、あなた。」
「クレスタ。」
「なあに、あなた。」
甘い新婚の夜だった。
3日目、魔物が出た。ヒグマのような魔物だ。前足が4本ある。グレーテル王国では、見たことが無い。立ち上がると、10m位ある。火炎とか雷撃のような特殊攻撃は無いみたいだ。騎士さん達が、弓矢で攻撃するが、全く刺さらない。剛毛と分厚い皮下脂肪で弾き返している。しかし、不用意に近づけない。あの4本の前足が、かすっただけでも大怪我だろう。
クレスタが、ミニスカ姿の上から毛皮のコートを着たまま、杖を振った。ウインド・カッターが前足1本を切り裂くが、ブラブラぶら下がっている。完全には、切り落とせないらしい。それを見たクレスタは、アース・ホールでヒグマを穴に埋める。上半身だけ地上部に出ている不格好な姿だ。完全無詠唱で、ウインド・カッターを10連発で撃った。次から次へとヒグマを切り裂く。頭が落ちた。腕4本が落ちた。胸も、原形を留めて居なかった。
騎士さん達は、無言だった。このような魔法は見たことが無い。今回の警護隊にも魔導士がいるが、魔法を撃つまでに10秒以上の呪文詠唱が必要だ。連発なんて信じられない。呆れて物が言えない。と言うか、言葉を失っている。執事さんが、また、泣き始めた。冥土の土産とか何とか言っていた。デジャブさんは、また気を失っていた。ああ。デビちゃんのクレスタに対する態度が変わった。それまでの『クレスタさん』から『クレスタ姉様』に変わった。馬車の中でも、クレスタの隣に座り続けた。
出発してから、2週間、街道は泥んこ道になっていた。この時期は、土の下の氷が溶けてこうなってしまうらしい。僕には、ある考えがあった。とりあえず、温かい食事が先だ。料理は、クレスタとデジャブさん、お皿などを並べるのと、お茶の準備は、デランさんだ。食事が終わったら、いつもは僕が片付けをするのだが、今日は、洗い物をクレスタに任せ、泥に埋まっている馬車と騎士さん達の馬の回りをゆっくり固めていく。
魔法のファイアではなく、『力』を熱のまま取り出したのだ。みるみる泥が乾燥して乾いた道になった。乾燥する際の湯気がもうもうと立ち込めていた。その後、キャンプセットを仕舞ってから、いよいよ出発だ。僕は、部隊の前に立ち、両手に熱エネルギーを流して、前方に炎熱を走らせる。魔法やスキルではないので、いつまでも継続が可能だ。
200m先までの道を乾燥させながら走り始めた。時速20キロで、2時間走り続ける。馬が付かれてきたので、1時間以上休むことになった。仕方がないので昼食休憩となった。クレスタが、馬車から降りてきた。銀色狐のロングコートに黒の編み上げブーツだ。帽子も、銀色狐でできている。
クレスタの服装を見て、デビちゃんの目がキラキラ光っている。デビちゃん、決して、真似しないように。お父さんが破産しちゃいます。
その後、今日の宿泊予定地まで、1回の休憩を挟んで、走り続けた。翌日、道は乾燥路に変わり、順調に旅は続いた。デビちゃんは、村の旅館よりも、野営の方が好きなようだ。ただ、お風呂に入れないのが唯一の不満だったようだ。しかし、いつもの簡易お風呂は作らなかった。夕方は、冷え込んでくるし、外で汗をかくことはないからだ。
一番困ったのは、夜、寝る時だ。デビちゃんは、僕達と一緒に寝たがった。夜、2人が何をしているのか、知りたがったのである。まあ、そう言うことに一番興味を持つ年頃なのだが、それだけは断固と拒否したクレスタだった。夜中、クレスタとセレモニー中に、デビがテントの側まで来ていた事は知っていたが、シールドを掛けていたので、中で何をしていたのか気づかれる事は無かった。本当に、お年頃のデビちゃんだった。
王都近くのデッキン男爵領の領都に泊まった時だ。何時もの様に、ダブル1つを取っていた。寝る前のいつものセレモニーを始めようとした際に、ドアをノックする音がした。2人は、ほぼ裸だったので、クレスタは、ガウンを羽織っただけでベッドに潜り込む。僕は、ズボンだけ履いて、ドアを開けた。ネグリジェ姿のデビちゃんとデジャヴさんが立っていた。
デジャブさんが、『お嬢様が、どうしてもお二人とご一緒に寝たいと仰るので、今夜だけお願いしたい。』と、言って来た。デジャヴさんは、新婚間もない2人の邪魔をしてはいけないことは、十分に分かっていたが、デビちゃんは、言うことを聞かないそうだ。諦めた僕は、クレスタに了解を取ってから、デビちゃんを部屋に入れた。クレスタは、キチンとパンツを履いていた。
クレスタが、自分の隣で寝る様に言ったが、デビちゃんは、僕の隣に寝たがった。仕方がないので、僕が真ん中で川の字で寝た。デビちゃんは、体も小さく邪魔にはならなかったが、時々、僕の下半身に手を伸ばしては、クレスタさんに払いのけられていた。
朝、起きたら、デビちゃんはパンツ丸出しで寝ていた。胸は、殆ど無かった。中学1年生なんてそんなもんだろうと思う。デビちゃんの寝姿を見ていたら、クレスタさんが睨んできた。慌てて視線を逸らし、何時もの稽古に出かけた。
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(12月20日です。)
モンド王国王都デル・モンド市に到着した。僕が、先行して走っている間は、低級魔物も追い払っていたので、順調に進む事が出来た。王都の城門は、正門を大きく開いて馬車ごと入って行った。騎士達は、騎乗したまま、2列縦隊だ。さすが、伯爵一行だ。
市内に入ってから、伯爵邸に泊まる様に言われたが、固辞して、国王陛下の居城の脇のホテルに泊まることにした。1泊、大銀貨1枚半と言われて、吃驚したが、通過が半分の事を思い出して納得した。グレーテル王国では、銀貨7枚半である。ホテルの格から言っても、相場だろうと思う。
翌日は、市内観光だ。クレスタさんは、水辺に住むイタチ、一般的にはミンクというそうだが、そのロングコートを着ていたので、それほどでも無かったが、人間族が珍しいのだろう。皆の注目を浴びていた。それだけではなく、身長175センチにヒールのブーツで、180センチ近い赤毛の美女と、身長160センチ位の美少女、本当は美少年だが、そんな2人が並んで歩いていたら、普通に注目されるだろう。洋服店に入ってからが、大変だった。クレスタが、コートを脱ぐと、パープルのミニスカートワンピースに、腰には、太い金の鎖を巻いていた。クレスタさん、その鎖、いくらでした?
店の人は、クレスタの服について、色々聞いて来た。コートについては、こちらにはない品種らしく、手触りの良さに吃驚していた。中には、スケッチをする者も現れ、買い物どころでは無かったけれど、クレスタはニコニコしていた。その後、2人で美容院に行き、伸びて来た髪を切って貰った。クレスタは、髪の色を、明るい赤色にして貰っていた。
宝石店に行って、シェル達へのクリスマスプレゼントを買う事にした。クレスタには金のブレスレットに、ダイヤやエメラルドを散りばめたモノにし、シェル達4人の分は、クレスタが選んでくれた。シズさんにも、イヤリングを買って置いた。どうも、あのシズさんの目が気になってしょうがなかったからだ。ダッシュさんには、こちらの武器を買ってあげた。曲刀と行って、カーブの強い剣だ。振ってみるとバランスが難しい。素材は分からないが、金貨1枚だった。
後、セーターやコートなどを20人分買った。クレスタさんの仲間や、イチローさん達の分だ。その日は、買い物だけで終わってしまった。
デル・モンド市にミニスカートが大流行するのは、いつでしょうか?




