第137話 モンド王国北の森のダンジョン
魔物が発生するための条件があります。魔界とこの世界を繋ぐ切れ目が必要です。その切れ目は、現れたり、消えたりします。ズーッ現れ続けると、スタンピードが起きます。
(11月20日です。)
この国は、モンド王国といい、三方を海に囲まれ、北はヒラマヤ山脈に閉ざされている。海路でしか北の国へ行くことができないが、年間を通じて、波が高いため、通常の交易が成立しない状況だった。当然、定期航路はない。
これから、あのヒラマヤ山脈を抜ける洞窟が開発・整備されれば、交易の道も開かれるであろう。そうすれば、義父のガーリック男爵が一元的に交易の窓口になる可能性もあり、場合によっては莫大な利益をもたらす事も考えられるのだ。はっきりは分からないが、モンド王国及びその周辺地域で、北の3国と同等の広さがあるかも知れない。そして、その殆どは未開のようだ。
麓の村は、ガーリック男爵領のヨーキ村の様に、魔物に蹂躙され、死の村となっており、王国軍の主力が駐屯している。村の外に、即席の墓地を作り埋葬しているのだが、死体の数が多く、埋葬が追いついていないようだ。
本隊の司令官は、ブッシュ大将閣下で、4個大隊を率いている。ブッシュ司令官と面談した結果、魔物の脅威が無くなったので、部隊を撤収する事になったが、この村の埋葬を終了するまでは動けないとのことだった。僕達は、部隊と共に王都に向かい、国王陛下に拝謁し、状況を説明する事になった。
今夜、僕達は部隊の近くに野営したが、ブッシュ司令官から夕食の招待が有った。夕食のメニューはカレーだった。僕は、一言も喋らずに、黙々とカレーを食べたが、クレスタが、司令官や参謀の質問に全て答えてくれた。あの斥候の兵士から話を聞いているのだろう。岩を両断した魔法についても聞かれたが、クレスタが先祖から伝わる秘法だと説明していた。
話のついでに、遺体の埋葬を手伝う事になった。部隊は、対魔物戦のために、火魔法や風魔法使いとヒーラーのみを連れてきたため、工科魔道士はいないそうだ。穴を掘る位はお手伝いできると言ったら、是非お願いしたいとのことだった。
翌朝、村の新墓地エリアに行き、土魔法の『アース・スクエア・ホール』で次々と墓穴を掘っていった。クレスタは、棺を安置した穴に、土をかぶせ、小さく四角い墓標を作り上げていった。兵士達は、遺体発見場所と名簿の番号を書いた木札を墓標の前に立てていった。遺族が、発見することを予想しての対策だろうが、こんな辺境の村では、殆どの親類縁者が同じ村内に住むことは普通であり、遺族もきっと土の中だろうと思う。
その日の内に、埋葬が終わり、翌朝、王都に部隊は撤退する事になった。僕は、司令官に気になったことを言った。あの魔物達がどこから湧いたのか。最初に襲われた町か村の近くにきっとダンジョンが有る筈なので、そのダンジョンをクリアしないと、また同じことが起こる可能性がある。早急に対処する必要があると。勿論、クレスタを通じてだ。
それを聞いた司令官は、主力部隊は王都に戻すが、精鋭1個中隊を残して、ダンジョン探索に当たらせる事にすると決定してくれた。僕達も、ダンジョン探索に当たる事にした。国王陛下への拝謁は、その後にする事にしたが、きっと大丈夫だろう。実はもう、イフちゃんから、ダンジョンの在り処を聞いていた。この村の北側の森の中だそうだ。
翌日、王国兵30人と共にダンジョン探索に出発した。中隊長は、ルーズ大尉だった。中隊の編成は、歩兵20名、攻撃魔道士8名、ヒーラー2名だ。それに中隊長と伝令、後、補給担当の輜重車が1台ついた。歩兵も、アーチャー6名、槍装兵10名、後は剣士だった。剣士達は、僕の背に吊るされている『ヒゼンの刀』に非常に興味を持っていたが、その威力は、直ぐに知る事になるのだった。女性兵士達は、クレスタのミニスカートに興味深々だった。興味と言えば、男性隊員からも、いろんな意味での視線を浴びたが、僕の妻だと知ってからは、僕に対する嫉妬の目線が強くなってしまった。
出発してから、2時間位でダンジョンに到着した。
モンド王国には、冒険者ギルドが無いため、ダンジョンの管理は、王国軍が行なっている。ダンジョン攻略は、専門の部隊があるので、一般部隊は、ダンジョンに潜った経験が無い者が殆どだ。今回、僕と一緒の中隊も同じだった。ルーズ大尉は、非常に緊張していた。未知のダンジョンだ。どの様な魔物がいるのか分からない。流石に、国家滅亡級は居ないだろうが、大隊全滅級は珍しく無い。リッチなどが、それに相当する。レブナントだって、単体でも小隊レベルでは対応は難しい。中隊対応レベルの魔物とは、中隊で対処して、隊員が1人でも生き残れる可能性があるという事であって、全くの無傷で魔物が殲滅出来ると言うことでは無い。
ダンジョン入り口で小休憩を取った。中隊の照明は、松明だという事だったので、魔光石をセットしたランタンを貸してあげた。後、石だけは、たくさんあるので、全て光らせてから貸してあげた。魔光石は、光っても熱くないので手で持つ事も可能なのだ。
1階層は、きっとゴブリンだろうから、中隊に先に潜らせた。やはりゴブリンの階層だった。アーチャーが、先制攻撃をし、剣士がトドメを差していた。魔道士は魔力を温存していた。
2階層は、ゴブリンソルジャーがメインだった。向こうは、分隊編成程度だったので、中隊の敵では無かった。
3階層からは、オークやトロールなど攻撃力や防御力の高い魔物になり、隊員の中に怪我人も出て来た。ヒーラーが傷の治療に当たっていたが、直ぐに魔力切れを起こしそうだった。
階層ボスは、オーガだった。大剣をブンブン振り回して近づけない。アーチャーの弓矢は、全く通じなかった。中隊長は、一時撤退を命令していたが、僕が前に出て行った。『ヒゼンの刀』を抜く。ライティングの光で、赤く光っている。そのまま、『瞬動』で接近すると共に、両足を斬りとばす。後は、中隊に任せた。余りの早さに、剣士の誰もが、僕が何をしたのかを見ることが出来なかった。『ヒゼンの刀』には、血の一滴も付いていなかった。血が吹き出す前に、刃体が通過したためだ。
4階層は、オーガの群れとオーク・キングだった。僕は、『ヒゼンの刀』と『ベルの剣』の二刀流で、全てのオーガと階層ボスのオーク・キングを殲滅した。
もう、中隊は見ているだけになってきた。
5階層ボスは、レッサーフェンリルだった。デカい。体高が2mを超えている。通常の物理攻撃では、針金の様な毛皮が、全て跳ね返す。初級の魔法攻撃も跳ね返してしまった。今まで、何もしなかったクレスタが、前に出た。全くの無詠唱でウィング・カッターを5枚飛ばした。レッサーフェンリルの頭蓋骨は2枚目で切断された。3枚目で胸と腹部が分断された。4枚目と5枚目で、身体全体が眉間から尻尾まで上下に2分された。
6階層は、ゴーレムの群れだった。クレスタは、アイス・ランスを10本同時に撃ち込み、5体のゴーレムを行動不能にした。残り2体は、深さ10mの穴に沈め、埋めてしまった。
7階層は、ワイバーンの群れだった。クレスタは、トルネード・ストリームで、全てのワイバーンを飛行不能にして落とした。僕が、丁寧に急所を一突きで絶命させ、回収していった。かなりの収穫だった。ボスは、ワイバーンの特殊個体だった。同じように、落として、目立たぬ所から深々と急所を刺して直ぐ回収した。これで、シェルさんや皆にダイヤの指をもう1個ずつ買えるだろう。
8階層は、レブナントの群れだった。黒い瘴気を纏っている。瘴気のシールドだ。魔法も物理攻撃も跳ね返してしまう。身体が振れれば、触れたところから、呪いがかかってしまう。通常の人間の部隊では、絶対に対応できない。クレスタが、特大アイス・シャベリンを撃った。洞窟全体の天井から、鋭利な氷の刃が落ちて来た。レブナントは肩からズタズタになってしまった。階層ボスはリッチだったが、いつの間にか絶命していた。
9階層は、空中にレイスが漂い、地上にゾンビがひしめいていた。もう、本当に面倒臭い。クレスタが、トルネード・ストリーム特大版を見舞ってやった。これで終わりかと思ったら、一番奥にリッチが3体、息も絶え絶え座り込んでいた。僕が、凝縮したホーリー・ランスを撃ち込み、ボスは居なくなった。本当に消滅してしまったのだ。
ついに10階層だ。ここに帰還石があれば、最下層のはずだ。ボスは、スケルトン・ドラゴンだ。瘴気のブレスを吐き、翼幕がないのに宙を飛ぶ、特大サイズ全長30mの骨竜だ。クレスタが、アクア・シールドを部隊全体に掛けた。これで、瘴気ブレスを浴びても、部隊に危害が及ぶことは無いだろう。僕は、グラビティ3倍を相手に掛けた。相手は、高さ50mから落下して、地上部にはいつくばってしまった。僕はグラビティを5倍にした。骨がミシミシ言っている。7倍にした。骨にひびが入ってきた。過去の最高値10倍にしてみた。骨は、粉々に砕けてつぶれてしまった。
ダンジョンはクリアされた。僕達と中隊は、帰還石を使って地上に戻ることにした。
ルーズ中隊長は、今まで、この様な戦いを見たことが無かった。ゴロタ殿の持っている変わった形の片刃の剣。あれは、もしかすると伝説の『ヒヒイロカネ』の剣だろうか。王室の宝物室に、1振だけあると言われている。勿論、見たことはない。それに、ゴロタ殿の動き。瞬間で移動するなんて、噂に聞く『空間転移』だろうか。そして、超絶魔法。自分達の知っている攻撃魔法は、物理攻撃の補助に過ぎない。オーガなどの強力な魔物に対しては、皮膚を焦がしたり、切り傷を作る程度である。魔法で殲滅など、リッチなどの魔物が使って来るレベルさえ超えている。
それに、あの美人でナイスバディのクレスタさん。単に、ゴロタ殿の同行者で、土魔法の使い手だと思っていたら、とんでもない。無尽蔵に発動する魔法。中隊付きの魔道士に聞いたら、宮廷魔道士長さえ、あれだけの威力の魔法を使うことはできないそうだ。しかも多彩な攻撃だ。ゴーレムを土中に埋めるなど聞いた事もない。
でも、あの人、なんで、あんなに短いスカートを履いているんだろう。あれじゃあ、歩く度に、パンツが見えてしまうと思うのだが。あ、見えた。
クレスタさんは、とても色っぽいのですが、自分で、その魅力を発揮する力も持っています。




