第136話 南の森の魔物達
ゴロタとクレスタさんの新婚旅行は、どうなっちゃうのでしょうか?
(ガーリック男爵領です。)
僕達は、ヨーキ村の魔物を殲滅した後で、北回りで西のサタデ村に向かった。街道上には、レッサーウルフの群れに混じって、ダークホースに乗ったレブナントが見えた。
今度は、バイオレットさんが、炎のブレスを吹いた。街道沿いに北から南へ向かって一斉放射だ。サタデ村もヨーキ村と同様の状況だったので、レブナント以下を最初に殲滅した。残ったリッチを僕が1匹ずつ始末していく。
そしてトマト村も同様のやり方で、クリアした。南ヒラマヤ山脈の麓の森が怪しい。僕は、上空から森を見たが、木々が邪魔をして良く見えなかった。とりあえず、一旦、チェダー市に戻ることにした。
ガーリック男爵に、南の村を襲った魔物は、殲滅したことを報告するとともに、南の森の探索に行かなければならないことを提案した。
しかし、現状、南の森の実態が分からないままに、討伐部隊を編成・遠征させる訳には行かない。スタンピードが起きているのか、他の力が働いているのか。
僕は、クレスタと共に、南の森に向かうことにした。どのみち、南に行くつもりだった。あの声に従わなければ。南の谷に行かなければ。
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(11月10日です。)
今日、南の森に出発する。時空の切れ目で、サタデ村に『空間転移』した。サタデ村は、死の村だった。村内には、死体一つ無かった。しかし、所々にシミのようになっている所があり、きっと血が流れていた後だったのだろう。イフリートの『地獄の業火』と黒龍の『炎のブレス』で焼かれれば、骨さえ残らないだろう。
ここから、クレスタと森を目指して歩き始める。道らしい道はない。あるのは、獣道だけだった。イフちゃんに、この先の状況を聞くと、森は深く、歩いて行くのは難しいそうだ。一体、あの魔物達は、どこから来たのだろうか。仕方がないので、ワイちゃんを呼んだ。
飛行服に着替え、鞍を着けて、空から探索した。森の縁を探索すると、西のトマト村寄りの所に、森から北に道のようになっている場所を見つけた。ワイちゃんに降りて貰うと、明らかに最近、踏みつけられて出来た道のような所があった。その道は、森の中まで延びており、進んでみると、森の中の洞窟に繋がっていた。ワイちゃんの所まで戻り、鞍を外してワイちゃんに帰って貰った。間違いない。あの洞窟が、魔物達が湧いてきた洞窟だろう。
僕達は、飛行服から冒険者服に装備を換え、洞窟に向かった。洞窟の入り口は、かなり大きく、トロールのような大型の魔物も、出入りできる大きさだった。僕は、『暗視』のスキルがあるから必要無いが、クレスタはそうはいかないので、『ライティング』の魔法を使う。魔光石でも良いのだが、その石を持って歩かなくてはいけないので、『ライティング』を使って、光を宙に浮かせておく方が楽なのだ。
中も結構広く、急な下り坂になっていた。魔物の臭いがひどい。腐臭と獣の臭いだ。しかし、前方には魔物の気配が無い。通った後の臭いかも知れない。いるのは洞窟の昆虫類と、それを捕食するネズミのような小動物のみだ。
200m位下った所で、道は平坦になった。道はクネクネと曲がっており、暫く歩くと、方向感覚と距離間隔が狂ってくる。イフちゃんに、時々、地上での位置を確認して貰うが、間違いなく南へ進んでいるみたいだ。時間間隔も無くなってくるが、イフちゃんが、起床時間、朝食時間、昼食時間、夕食時間と教えてくれるので、歩き続けた時間がほぼ分かる。
洞窟の中で、夜になった。テントはいらないかも知れないが、一応、出しておいて、中で寝ることにした。クレスタとお互いの身体を洗濯石で綺麗にする。さすがに、お風呂を作って入る気はしない。天井から、気持ちの悪い虫が落ちて来るかも知れないからだ。テントの中は、シールドを這っているので安全だ。イフちゃんに警戒を頼んで、ゆっくり寝ることにした。
2日目からは、オンブ紐でクレスタを背負って、僕のペースで歩いた。ゆっくり足元を確認しながら歩いたが、それでもクレスタと一緒に歩くのより3倍位早い。クレスタは、背中でじっとしているが、オッパイが僕の背中に当たってムニュムニュしているのが、何故か気持ちが良い。
洞窟の中を7日程歩いて、漸く道が上りになってきた。それから1日、ずっと登り続けた。それほどの急坂でもないが、これだけ登ると、かなり標高が上がってきたのではないかと思う。次の日も、丸1日、登り続けて漸く洞窟の出口が見えて来た。ここまでの間に、魔物は見つからなかったことを考えると、ガーリック男爵領に現れた魔物が、魔物の全てで、後続の魔物は居なかったと考えるのが普通である。
しかし、魔物が、何も飲み食いせずに、あれだけの距離を走破できるのか、甚だ疑問である。しかし、疑問はイフちゃんが解いてくれた。
『あやつらは、何でも食うのじゃ。仲間でも何でも。』
洞窟を出て見ると、山の中腹だった。空気が、少し薄く感じられるので、標高は3000mを超えているようだった。辺りには、余り木は生えていない。足元を見ると、沢山の魔物の足跡が付いている。それも、全て穴の方へ向かっている。出て行く足跡は無かった。ということは、あの魔物達は、ここから洞窟に入っていき、1匹も戻ってこなかったということになる。
しかし、レブナントならまだしも、あの知能の高いリッチが共食いをしながら何日も洞窟を歩き続けるとは、一体、何があったのだろうか。
そう、考えている最中に、悪寒が走った。危ない。無意識に、シールドを張った。
ドギャーン!
ファイアボールが目の前で炸裂した。シールドを張っていたから、怪我一つしていないが、少しでも遅れていたら、火だるまになっていた。続けて、ファイアボールが2発、撃たれて来た。いや、撃たれているのでは無い。空中に火球が突然現れ、爆発しているようだった。ノエルやエーデル姫が得意にしている遠隔発生のファイアボールだ。敵は、どこだ。いた。100mくらい先の潅木の陰に1人、そこから右に30mの岩の陰に2人、魔道士がいた。
リッチにしては、魔物の気配ではない。僕は『遠見』のスキルを使った。人だ。いや、少し違う。だが、攻撃して来ているのは間違いない。潅木の陰の者は、杖を光らせている。来る!
ドガン、ドガン、ドガン
3連発だ。いや、3人、同時だ。僕は、もう一枚シールドを張ってから、ベルの剣を抜いた。
最初に、岩の陰の2人を倒す事にした。白く光っているベルの剣を振った。赤い閃光が走る。岩が、大きく抉られ、陰の2人が消滅した。潅木の陰の者が逃げようとする。僕は、『威嚇』で、相手の行動を鈍らせて、『瞬動』で近づく。クレスタへのシールドと自分のシールドは掛けたままにしている。
相手は、子供?いや、小さい人間だ。いや、人間では無い。頭に山羊のような角が2本、生えている。身長は、130センチ位か。肌の色が、黒に近いが、ズングリした体型だ。僕は、初めて見るが、『魔人』のようだ。その魔人は、鎧と兜を付けていたので兵士かも知れない。腰には、短剣を下げている。
僕は、『威嚇』を強く掛けて、動きを封じた。魔人のズボンの前に、黒いシミが広がっている。クレスタが、近づいて来た。魔人に質問をしてもらう。
「あなたは一体誰?何故、急に攻撃して来たの?」
「俺達は、ここで魔物を見張っていたんだ。お前達が、出て来たから、魔物どもが帰って来たと思って、攻撃したんだ。人間だとは思わなかった。」
ふざけた話だ。間違いで、殺されてたまるかと思った僕だった。その魔人の武器を取り上げる。魔法詠唱を防ぐために、闇魔法の『ディス・スペル』を掛ける。これで、魔人の言葉を奪った。
その魔人に、道案内をさせる。彼らの駐屯地か、山岳の村があるはずだ。眼下には、大地が広がっている。遠くまで続く、緑の大地だ。下山道は、整備されているわけではなく、獣道のようだ。もしかして、魔物道かも知れない。あの洞窟に、普通の動物は用が無い。ということは、この道を踏み固めたのは、この前の魔物という事になる。
500m位、降りた所に駐屯地があった。下から、兵士達が、武器を構えて登ってくる。ここで戦闘になったら、また大勢の兵士を殺さなければならない。
僕は、捕虜にしていた兵士の拘束を解いた。『威嚇』と『ディス・スペル』の拘束を同時に解いたのだ。兵士に、部隊へ説明するように指示して解放した。兵士は、迎撃部隊の方へ走って向かった。
暫くすると、3人の兵士が僕達の方へ向かい登って来た。真ん中の将校のような人が話し掛けて来た。この人は、身長が物凄く高く、肌の色も白かった。
「あなた達は、あの洞窟から出て来たそうだが、魔物達と会わなかったのですか。」
礼儀正しい『物言い』だ。
「その前に、あなたの部下に殺されかかったのですよ。その事について、謝って頂けますの?」
「その事については、偶発的な事故で、謝ります。しかし、当方も2名の兵士を失ってしまいました。」
その将校さんは、悔しそうな顔をしていた。大切な部下を失ったのだ。気持ちは分かる。
「その事については、不可効力という事でお許しください。これは、亡くなったお二人のご家族へのお見舞い金です。」
クレスタは、金貨2枚を、その将校へ渡した。その将校は、吃驚すると共に僕達への警戒を解いた。話によると、麓の森でスタンピードが起き、村と街が壊滅した。王国軍が、到着してなんとか、押し返したが、魔物達はそのまま山脈を登って、あの洞窟に入って行ったそうだ。
いつ、引き返してくるかわからないまま、斥候を3名配置して、見張っていたそうだ。長い見張り勤務になってしまい、緊張の余り体調を崩す者も続出したそうだ。そのような状況のなか、洞窟から出てきた者を認めたので、先制攻撃をしてしまったようだ。
僕は、北側の麓から、洞窟を南下してきた事や、魔物は殲滅したので、もう見張りは必要ないと言った。勿論、クレスタさんの説明だが。僕達は、駐屯地の責任者に会い、同じ話をした。
僕達は、この魔人の国の王都に、駐屯していた王国軍と共に向かうこととなった。
さすが、魔人部隊の将校。良識人です。さあ、魔人国の王都に向かいます。




